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プロダクトと第三者の目線を大切に。編集者を巻き込んだ出版社の広報PR活動|株式会社昭文社ホールディングス

都市地図、道路地図、登山用地図やバイク地図、そして旅行ガイドブック『まっぷる』『ことりっぷ』、各都道府県の魅力を伝える「トリセツシリーズ」などを出版する株式会社昭文社ホールディングス。コロナ禍では、会社の根幹である「社会公益性」を軸に、新たなジャンルの出版物のPRや電子書籍の無償公開などに取り組まれてきました。

本記事では、株式会社昭文社ホールディングスの広報PRを担当する竹内さんに、コロナ禍での取り組み、広報PR活動におけるこだわりをお話しいただきました。

株式会社昭文社ホールディングスの最新のプレスリリースはこちら:株式会社昭文社ホールディングスのプレスリリース

株式会社昭文社ホールディングス 広報・コミュニケーション担当

竹内 渉(Takeuchi Wataru)

地図、観光データベースの編集担当を経て、2014年より広報PRを担当。PRをメインにコーポレートサイトやSNSの運用、IRとの調整などに従事。その他にも大学・高校にて、生徒・学生へ地図作りやプレスリリースの書き方の指導なども担当している。

ひとりだけどひとりではない広報体制

──はじめに、広報体制と業務内容について教えてください。

現在の広報体制は、私が専属の広報PRとして、1名で担当しています。これまでも、外部のサポートを得ながらコーポレートサイトやSNSの運用を広報・コミュニケーション担当者として活動してきました。広報PR活動以外に少しIRの仕事も担っているので、IR担当者と連携しながら、PRとIRの内容に齟齬がないように調整もしています。

当社ではPRと販促は両輪であると考えており、広報はリリースや日常のコミュニケーションを通じてファンや潜在顧客への下地づくりを担当し、販促部門はプロモーションやSNSを通じて購入導線への流れを作る、という形で、それぞれ連携しながら進めています。

──他部署と協力してプレスリリースを作成するにあたり、どのように連携を取っていますか。

当社では、チャットスペースを商品あるいはシリーズごとに作成しており、担当者やその上長、私が参加。チャットスペースは、メディア露出の共有や進捗を含め、常に情報共有したり、意見を出し合えたりできる環境になっています。

このチャットスペースは書籍が発売されたらクローズ……ではなく、ずっと活用していくのが特徴です。特にシリーズものや続編企画が成立したコラボ商品などは長い年月チャットスペースが継続していくので、相談実績・アイデアが蓄積される形になっています。

──長く続いているチャットスペースは最長どれくらい続いているのでしょうか。

当社の人気シリーズ『ことりっぷコラボ商品』のチャットスペースは、現在3〜4年続いています(2023年7月時点)。

『ことりっぷ』は、各企業様とコラボレーション商品を出しているのですが、よく担当者から「あのコラボ、続編の発売が決まりました!」なんて連絡がくるのが嬉しいですね。

株式会社昭文社ホールディングスインタビュー01

根幹である「社会貢献」を軸に

──約60年の歴史を持つ株式会社昭文社ホールディングスにとって、広報PRとはどのような位置づけでしょうか。

株式会社昭文社(現株式会社昭文社ホールディングス)としては、1960年に『都市地図』を作り、1984年には道路地図『マップル』が生まれ、昭和から平成にかけて地図とりんご(マップルのトレードマーク)の会社というイメージで覚えていただきました。おかげさまで今でも多くの方から「頑張ってね」というお言葉をいただいています。

そのため私たちの広報PRは、常に社会とのかかわりを意識し、応援してくださる方々のご期待に沿うような発信をし続ける責任があると思っています。特に会社としては地図の発行など、公益性の高い事業が根幹として育ってきました。だからこそ、社会や地域の方に対して、お役に立てるものを出していきたいですね。

例えば、コロナ禍だったら旅に出られない中で少しでも日本や世界各地に思いを馳せることができる面白い読み物を中心に広報PRしていましたし、旅行ができるようになった今は皆様に幸せやワクワクをお届けしたい……そんな思いを持って今後も広報PR活動を行っていければと思っています。

コロナ禍を契機に変えた取り組み

──『まっぷる』や『ことりっぷ』など、旅行ガイドブックは、コロナ禍での広報PR活動が難しかったと思いますが……。

本当に難しかったです。会社としては、存在意義を問われた3年間だったと思います。

今までは行こうと思えばいつでも行けた旅が身近ではなくなってしまった中、家の中だけでも旅行気分を味わってほしいと思い、2020年のGWに登山地図『山と高原地図』の付録冊子、2020年7~8月にかけて『まっぷるマガジン』『ことりっぷ』の電子書籍版をそれぞれ無償公開していました。

いつか再び旅に出られる日が来ることを願って、この取り組みを行っていましたね。

──コロナ禍に旅行以外のコンテンツで工夫されたものを教えてください。

会社としては、出版する書籍のラインナップの大幅な再編をしました。なかなか遠出をしにくいコロナ禍でも楽しめる本を出そうとなり、各都道府県の魅力を伝える「トリセツシリーズ」を打ち出しました。もともと新型コロナウイルス感染症が流行る前の2019年に神奈川県版を発売していましたが、新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに実用書の出版を大幅に増やすこととなり、おかげさまでお客様のご支持をいただけたことから、2022年1月に全47都道府県分を出版することができました。

このトリセツシリーズでは、2022年に47都道府県コンプリートした段階で、メディア関係者や読者の方からいただいた質問に答えるコンテンツを発信。プレスリリースでは、これまで足掛け4年に渡って「トリセツシリーズ」を支えてきていただいたお礼を伝えました。

株式会社昭文社ホールディングスプレスリリース01

参考:ヒット作誕生の裏話や、シリーズの<トリセツ>等々 「トリセツ」シリーズを徹底解剖した特設コンテンツを公開

この時期、率直に言って苦しいことがたくさんありましたが、今までにないプレスリリースを生むきっかけになったなと感じています。

編集者の想いを込めたプレスリリース作成

こだわり1:担当者との打ち合わせを綿密に行う

──プレスリリースを作成する際に大切にしているこだわりを教えてください。

1つ目は、先ほどお話ししたチャットスペースを活用して、書籍を担当する編集者と平均約2週間かけ、密に打ち合わせしながら作成していることです。当社がプレスリリースを打ち出す際は、なるべく企画背景と社会情勢との関わりを入れるようにしているので、特にその部分を確認するようにしていますね。

正直なところ担当編集者はかなり忙しいので、資料を送ってもらい、僕がひとりでプレスリリースを作成することになります。けれども、書籍の制作に1番近くで携わった人の生の声を聞いて、想いを共有したうえでプレスリリースを作成することを大切にしたい、との思いから、普段もコミュニケーションをとり、プレスリリース作成タイミングの少し前から企画についてヒヤリングするなどしています。コロナ禍でも状況が許す限り編集部に足を運んで、対面での打ち合わせを行っていました。

このように現場との話し合いを基盤に、作り手の想いをリリースに表すようにしているのは、もともと私が編集部に居たことも大きいかもしれません。

こだわり2:プロダクト目線と第三者目線の接点を探す

2つ目のこだわりは、商品の特長を描き出す際に、プロダクト目線と第三者目線の接点を探すことです。

──書籍を制作する時点でペルソナの設定を行っていると思うのですが、プレスリリースの作成にあたって再度設定するということでしょうか。

おっしゃる通り、書籍を制作する時点でペルソナの設定を行っているので、打ち合わせの時点で編集者から具体的なペルソナ像を共有してもらえます。その際に、編集者の視点で考えたターゲットとしてのペルソナと、プレスリリースを受け取るメディアの方の視点で考えた想定ターゲットをすり合わせる作業をしています。

これは実体験に基づいています。担当者が語っていたペルソナとまったく違うペルソナ像を記者の方からお聞きしたことがあります。それを担当者に伝えると「そうか!」と思わず手を叩いて納得していました。

視点が変わるとおのずと見え方、捉え方も変わります。作り手の視座とは違うところから商品を眺められる、という広報の利点を活かして、結果的にニュース価値の高いプレスリリースへと作り上げていく、というのが仕事の醍醐味かもしれません。

こだわり3:画像を盛り込みリリース配信サービスや転載サイトのPVも獲得する

3つ目のこだわりは、拡大画像や加工画像を盛り込むことですね。特に地図は書籍に掲載されたままの画像を載せても見えにくいことがあり、自分たちでPhotoshopやInDesignを使用して、プレスリリース用の画像をつくっています。今はSNSのOGP画像やPRTIMESのサムネ(メイン)画像など、それぞれのメディアで最適なサイズが複数あるので、できるだけそれらに合ったバリエーションを作ることも心掛けています。

──実際に昭文社ホールディングスさまのプレスリリースを見ると、目次やページの見開き画像が多く掲載されているのが印象的でした。

地図もガイドも、会社の伝統としてデザインにこだわりがありますし、担当が誌面に込めている思いを表したい、という気持ちもあります。もともと編集部にいたので、こうした加工が苦にならない、ということも大きいですね。特にPR TIMESでは画像投稿ができるので、積極的に画像を入れています。

またコロナ禍を経て、プレスリリースにおける配信サービスの比重、ニーズが高まっているように思います。対面で記者にプレスリリースをお渡しする重要性は変わりませんが、一般の方もプレスリリースを直接見る機会が増え、Webメディアに転載されるケースも格段に多くなってきていると思うので、誌面や商品のイメージ画像をプレスリリースに入れ込むことは重要だと感じています。

印象に残るプレスリリース事例

──担当者の方の考えや想いを最大限に引き出しているんですね。竹内さんにとって印象に残っているプレスリリースを教えてください。

事例1.担当から喜びの声。PR TIMESのランキング入りからSNS5万インプレッションを記録した『茨城のトリセツ』

株式会社昭文社ホールディングスプレスリリース02

参考:魅力があり過ぎてアピール下手?な茨城を大特集!関東のトリは茨城!『茨城のトリセツ』を4月16日に発売

2021年の春に発売した各県の魅力を伝える「トリセツシリーズ」の『茨城のトリセツ』のプレスリリースは、とても印象に残っています。

「都道府県魅力度ランキング」で何度も最下位になっている茨城県。私自身が茨城在住であることから、日頃感じていた想いをぶつける形で「魅力があり過ぎてアピール下手」とキャッチコピーを入れたら、これがバズりまして。おかげさまでPR TIMESのトップページで人気のプレスリリースを紹介する「今日のランキング」の5位に入ったんです。

そこからPR TIMESの動画で紹介していただいて、Twitterでのインプレッションが5万を超えましたね。話題性が取れたことで初動がよかったようで、書店でのフェア台陳列も増えて嬉しかったです。現場担当からも喜びの声が挙がりました。

これはPR TIMESで行っているフィードバック会のアドバイスで、「キャッチーな言葉を入れてみましょう」と仰っていただき、反映したところ結果がついて来てくれたなと感じています。

事例2.社会貢献性を伝えた新たなプレスリリース

株式会社昭文社ホールディングスプレスリリース03

参考:麴町学園女子高の「みらい科製品開発体験学習」授業を描いた「<紙の地図を知らない>高校生が防災地図を作るまで」コラム公開

東京都の麹町学園女子高等学校よりご依頼をいただき、防災地図を作る授業を行ったのですが、それに関するプレスリリースを2023年3月に発信しました。これは、当社が大切にしている「地図」「防災」「地域貢献」を軸としたCSR活動を広く発信するプレスリリースになったと感じています。

当社では東日本大震災の際に無償で地図を配布したり、万が一に備えられる『帰宅支援マップ』を出版したりするなど、地震との関わりがある企業で、2021年3月には、東日本大震災10年に際して『あのとき、そして今、思うこと。』コラムを公開、プレスリリースも発信しました。だからこそ学校から授業の依頼がきたと感じていますし、プレスリリースを発信した際は、メディアの方、業界紙だけでなく、地図業界の方々や、お会いするさまざまな分野の方から多くの反響があり「やってよかった」と感じました

頻繁に発表できるプレスリリースの内容ではありませんが、新たな発信の軸として今後も継続的に活動し、情報発信もしたいと思っています。

人間だからこそできる「広聴機能」

──これまでさまざまなプレスリリースを発信してきた中で、竹内さん個人として大切にしてきたポイントはありますか。

「広聴機能」をどれだけ効率よく、充実させられるかだと思っています。

これからはChatGPTなど生成AIをフル活用することになると思いますが、情報の面においてはChatGPTには新しいデータが入っていません。プラグインを使えば新しいデータを取得することができますし、今後改善されていくとは思いますが、情報を臨機応変にフィルタリングして、有用なものを選別し社内外への発信にフィードバックしていく、という行為は、莫大なデータを取り込む生成AIにとっては得意な作業ではないと感じます。

そのため、AIが「書く」ということができても、「広聴」という部分こそまだまだ人間の力が必要な部分だと思っています。

──竹内さんの「広聴機能」は、具体的にどのようなことを行われていますか。

新聞や雑誌の見出し検索サービスを利用して、毎日キーワードに関連する記事の通知メールが届くように設定し、話題の業界や気になるサービスの単語が含まれたニュースをチェックするようにしていますね。

あとは、レコーダーのタイムシフト機能やラジオのタイムフリー・エリアフリーも積極的に活用。ジャンル問わず、ニュースとして絡めそうと思ったら必ず内容をチェックしています。

チェックしたニュースを取捨選択して、「こういうのあったよ」と、関係者に伝えるようにしています。実際に情報の共有がきっかけになり、サービス開発の元になったケースもあります。こうした活動はプレスリリースの充実だけでなく、社内のインターナルコミュニケーションとしても重要だと認識して、日々情報収集にあたっています。

株式会社昭文社ホールディングスインタビュー02

今回の事例のポイント

書籍の担当編集者との打ち合わせを密に行いながらも、広報PRとしての第三者目線を欠かさない竹内さん。コロナ禍も契機に変えて、新しいチャレンジもしてきた株式会社昭文社ホールディングスの広報PRには次のようなポイントがありました。

  • 書籍を1番近くで制作した編集者の想いを反映させる
  • 担当者とメディア、双方の視座でペルソナ像を検証する
  • 会社の根幹である社会貢献を軸に進化していく

「広報PR担当は仕事柄会社の歴史に精通しているからこそ、会社の目指す道と自分の想い、理想が重なってくるところがあります」と語っていた竹内さん。その強い想いが、社内外のさまざまな人々を巻き込み、会社の根幹を忘れずに進化していく原動力になっていると感じました。

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この記事のライター

笹まい

笹まい

専門商社などで営業職・営業アシスタントの経験を積んだ後、副業からライター活動をスタート。現在はフリーランスライターとして活動中です。広報・採用担当経験が浅い方にも伝わる、読みやすくてわかりやすい記事をお届けします。

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