従業員の業務管理や業績評価に活用できるMBO(目標管理制度)。労務行政研究所の調査によれば、2000年代中ごろには7割を超える企業で導入されています(※)。営業などの定量的な目標設定をしやすい職種はもちろん、適切な目標設計や評価が難しいとされることの多い広報PR職においても、MBOによる目標管理は可能です。
しかし実際にMBOを導入している企業でも、効果的な進め方がよくわからないと感じたり、目標管理における評価をうまく活用できていないと感じたりしている人も少なくないようです。
本記事ではMBOがどのようなものかをおさらいするとともに、混同しやすいOKRとの違いや、効果的に進めることで得られるメリット、具体的な目標設定例などを紹介します。
(※)労務行政研究所資料「「旧姓使用を認めている企業は67.5% 民間企業440社にみる人事労務諸制度の実施状況」」より
MBOとは
MBOは1950年代にアメリカの経営学者ピーター・ドラッカーが、著書『現代の経営』の中で提唱した概念です。「Management by Objectives(目標による管理)」の頭文字を取り、「MBO」と略しています。組織の理念や目標、価値観などをベースにし、従業員自らが定量的・定性的な目標設定を行います。設定した目標を可視化・把握しながら業務を進め、その達成度合いに応じて日々の業務管理や評価に活用するマネジメント手法です。MBOはあくまでも従業員個人が自主的に目標を設定し、その実行・進捗も自ら管理することが前提です。上司はそれをサポートすることで、個人の目標を達成させ、ゆくゆくは組織目標の達成も実現させることを目的としています。
MBOは従業員の報酬や昇進に関する決定要素としても活用できるため、人事評価の指標として導入するケースも少なくありません。そのほかにも、従業員の成長、業務効率化、生産性や従業員エンゲージメントの向上といったさまざまな副次的効果も期待できます。今では日本の企業の約7割がMBOを導入しているといわれています。
MBOとOKRの違い
MBOとよく混同されがちなマネジメント手法に「OKR」があります。MBOとOKRのどちらも目標を設定し、進捗指標をもとに達成度合いを管理、評価する手法ですが、両者には違いがあります。
MBOでは企業の目標に沿った個人目標を上司との間で共有し、スキルアップ・生産性向上などにつなげながら100%の達成を目指して行動します。そして、その達成度合いを人事評価に活用します。
それに対しOKRでは、組織の目標と個人の目標をリンクさせ、組織全体で達成に向けて行動します。個人よりも、組織が一丸となって成果を出すことに重きをおいたフレームワークといえます。OKRはMBOと比べて評価頻度が多かったり、目標達成の度合いが70%程度でよかったりといった違いがあります。MBOとOKRの主な違いは、以下の表のとおりです。
MBO | OKR | |
主な運用目的 | 従業員主体の管理による業績評価・生産性向上・人事評価 | 企業と従業員の目標をリンクさせることによる生産性の向上 |
個人目標の共有の範囲 | 従業員と上司などの限られたメンバー | 組織全体 |
目標の特徴 | 定量的 ・定性的またはその両方を用いた目標 | シンプルかつ定性的な目標 |
評価頻度 | 半年~1年に1回の評価と定期的なフィードバック | 1ヵ月~四4半期ごとの評価と定期的なフィードバック |
評価基準 | 数値で測れない目標についても評価 | 目標を数値化した定量的な評価 |
理想の目標達成度 | 100% | 60~70% |
MBOとOKRのどちらを運用すべきか迷った場合は、どうすればよいでしょうか。もしかしたら、「MBOがうまく運用できなかったからOKRの導入に切り替えよう」と考える人もいるかもしれません。どちらの制度もそれぞれに利点がありますが、上の表にもあるとおり、MBOとOKRは目的が異なります。
自社の業績を向上させて従業員の評価も上げることを検討するのであれば、そのままMBOの運用を続けたほうがよいでしょう。個人よりも組織全体にベクトルを合わせ、一丸となって目標達成を目指す方針であるのなら、OKRの運用に切り替えることを検討してもよいかもしれません。
自社が制度を利用して何を解決したいのか、どのような状態を目指したいのかを考えたうえで、MBOとOKRのどちらを運用するかを決めることをおすすめします。
MBOを導入する5つのメリット
MBOは目標を管理し、進捗を追いながら達成に向けて行動しやすくしたり、人事評価に活用したりといった目的があります。そのうえ、MBOを導入することには、企業・従業員双方にとってさまざまなメリットも存在します。ここでは、広報PR職を例にMBOで得られるメリットを紹介します。また、次に挙げるメリットを感じられていない企業は、運用方法に課題があるかもしれません。改めてMBOを導入することで得られる効果を把握し、自社での運用状況の改善につなげてみてください。
メリット1.既存の従業員の中から優秀な人材を見つけられる
MBOでは目標を達成させるために、自分の状況を俯瞰的に把握し、進捗状況が芳しくない理由や改善すべき点などを理解しながら行動するため「情報収集力」「課題発見力」「自己統制力」「判断力」といったスキルが自然に身についていきます。また上司と密な連携を図りながら、従業員自らが設定した目標に対し行動するプロセスでは「コミュニケーション力」が培われます。
人材不足が懸念される現代においては、トップダウンで管理されながら働く人よりも、自律して業務を遂行できる人材が重宝されます。上記のようなビジネスに必要とされるスキルを身につけることで、新しいビジネスモデルを創出できたり、リーダーとしてほかのメンバーを統率できたりといった個人の成長が期待できます。従業員はスキルを身につけながらステップアップでき、企業側は既存の従業員の中から優秀な人材を見つけられる可能性が高まります。
例えば広報PR職でいえば、自社の商品・サービスを社会に浸透させるために必要なアクションは何か、どのような広報PR活動が適切か、ステークホルダーとどういったコミュニケーションを図ればよいかなどを主体的に考えられる人材がMBOの導入によって現れるかもしれません。
メリット2.組織への貢献を伴った行動が期待できる
MBOでは、自らの目標を可視化・把握しながら業務を進めます。目標に対する具体的な行動指針が明確になっているため、効率的に業務を進めることが可能です。従業員は、自身の行動によって業務全体がうまく進んでいることを実感できるでしょう。こうした状況は、従業員のモチベーションを高めます。
組織におけるモチベーションとは、従業員が企業やチームのミッション達成に向けて積極的に行動し、貢献しようという気持ちを表します。広報PR職でいえば、商品・サービスの情報だけに留まらず、「自社や開発に携わった関係者の想いをもっと多くの人に伝えたい」という感情も組織におけるモチベーションでしょう。また、組織の活性化・発展に向けやりがいを感じながら行動できる環境は、従業員の定着率向上にもつながっていきます。
メリット3.チーム全体の業務効率化を促せる
MBOでは従業員個々の目標と達成に向けたプロセスが明確化されるため、上司は部下の進捗を管理しやすくなります。また上司と部下の密なコミュニケーションが必要となるため、部下が目標達成に向けた行動ができていない場合や、業務に遅延が生じている場合など、適宜アドバイスを行うことができます。
広報PR職の事例でいうと、プレスリリースの作成が期日までに間に合いそうもないといった状況が発生していた場合、ひとつのプレスリリースを作成する際に生じる業務をほかのメンバーと分担するように助言できるかもしれません。本人のスキルに見合っていない業務が発生しているようなら、メンバーのサポートを打診することもできるでしょう。進捗を把握できるMBOでは、個人レベルの業務改善からチーム全体の業務効率化を促すことが可能です。組織全体が効率的に業務を推進できる状態になれば、生産性の向上も期待できます。
メリット4.リーダー層などへのキャリアアップの意欲を高められる
MBOでは、目標に対する結果を評価します。一つひとつの目標に対する達成度合いが明確化されることでスムーズな評価が行えるだけでなく、評価者の主観に頼らない公平かつ透明性の高い評価が実行でき、人事評価にそのまま活用することが可能です。また、客観的な評価は従業員の納得感や満足感にもつながります。適切に評価されていることを実感できれば、次のステップへのモチベーションにもつながります。今回達成できたことで得られた評価をもとに、難度を上げたりキャリアアップを念頭においたりした目標設定を行う意欲にもつながるでしょう。
トップダウンの管理方法の場合、本人に意思がなければリーダー層の育成は難しいといえます。しかしMBOによって個人が意欲的・積極的に業務に関わるようになれば、自らリーダー・マネージャー層へのキャリアアップを意識する従業員も現れるはずです。
メリット5.事業の成長につなげられる
MBOで設定する個人目標は、企業の目標と関連していることが前提です。つまり、従業員が個人の目標を達成するということは、企業の目標達成にも寄与するということです。企業の目標>部門の目標>個人の目標といった図式をイメージすると、従業員が目標を達成すれば、上位層の目標達成にもつながることがよりわかりやすいかもしれません。目標を達成することで、安定した事業を展開できるようになれば、新たなビジネスを創出する機会も生まれ、より事業を成長させることができるでしょう。
なおMBOを導入しているにもかかわらず、なかなか組織目標を達成できない場合は、従業員のレベルが見合っていないケースもあるかもしれません。そのような場合は、設定している目標を見直すことも大切です。
MBOの導入に向いている企業の特徴
一般的にMBOの導入に向いている企業の特徴としては、以下のような課題・問題点を抱えていることが挙げられます。
- 離職率が改善されない
- 従業員の育成ができていない
- 公平な人事評価ができていない
- 事業目標に対してなかなか成果が表れていない
MBOを導入することでこれらの解決とともに、前項で紹介したメリットが期待できます。すでにMBOを実施している企業も、こういった点の改善に向けて導入を検討したのではないでしょうか。
適切なMBO運用ができていない企業の特徴 | 適切なMBO運用ができていない原因の例 | MBOにおける適切な運用方法 |
従業員のモチベーションが上がりにくい | 目標設定が低すぎるため、簡単に目標達成できてしまっている目標設定が高すぎるため、達成することが困難上司が部下の目標を強要/否定している | 少し頑張ることで達成できそうな目標を設定し、達成感やモチベーション向上につなげる従業員自ら目標を設定し、自発的に行動できるように、上司はアドバイザーに徹する |
目標達成できなかった場合の従業員の不満度が高い | ・目標と結果だけを重視した評価になっている ・評価の内容が不明瞭になっている | ・ひとつの目標を細分化、プロセスについても目標化して評価する ・5段階評価などを設け、評価基準を明確にする ・評価に関するフィードバックを行う |
企業目標の達成が一向に実現できていない | 企業の目標が高すぎる個人目標が組織の目標に沿っていない目標を設定した後に何のフォローもない | ・企業の目標設定を見直すとともに、全従業員に周知する企業の理念 ・価値観なども周知し、全従業員が同じ方向を向いて目標設定できるように促す ・MBO実施期間中は定期的にフィードバックの機会を設け、目標から逸れた行動となっていないかを確認する |
MBOで目標設定する方法・5つの要素
MBOがうまく運用できていない原因のひとつに、目標設定の仕方が曖昧になってしまっているケースがあります。目標設定には「SMARTの法則」を活用すると便利です。
「SMARTの法則」とは、5つの要素の頭文字を取ったフレームワークのことです。主にOKRを実施する際に使われますが、MBOの目標設定にも活かすことは可能です。全従業員が同じ流れで目標を設定できれば、評価指標も設定しやすくなるでしょう。なお、上司は部下が設定した目標が次の5つの要素を盛り込んでいるかをチェックすることが大切です。ここでは、主に広報PR職の目標設定の例を紹介します。
要素1.「具体的」な目標を設定する(Specific)
誰が読んでもわかる、明確で具体的な表現・言葉を用いて目標設定をします。目標が抽象的だと、目標達成に向けた行動も抽象的になってしまいます。
広報PR職の例でいうと、「認知を拡大させる」「より多くのメディアに取り上げられる」などの目標は非常に抽象的です。「プレスリリースを半期で〇件配信する」「Aという商品について、プレスリリースからの問い合わせ件数を2から4に上げる」など、数字や商品名を盛り込んだ目標を立てることが大切です。
要素2.「計測可能」な目標を設定する(Measurable)
目標の達成度合いを本人・上司ともに判断できるよう、計測可能な目標にすることを意識しましょう。例えば「ミスを少なくする」「部下とより多くのコミュニケーションを図る」といった目標で考えてみます。「少ない」「多い」は人それぞれの感覚に左右されるため、達成進捗の把握、評価が行えません。また、改善策を考案しにくくなってしまいます。「ミスの発生件数を10%削減して1クォーター5件に留める」「部下と週1回、最低15分の1on1ミーティングを実施し、コミュニケーションを図る」といった目標にすれば、目標達成度合いも明確になり、評価もしやすくなります。
要素3.「達成可能」な目標を設定する(Achievable)
MBOでは達成可能な目標を設定することも重要です。例えば広報PR活動の一環で運用しているSNSのフォロワーが、現状は500名程度であるにもかかわらず、「フォロワーを半期で1万人にする」といった目標は、現実的ではありません。あまりにも無謀な目標にしてしまうと、目標達成に向けたモチベーションや業務効率の低下につながってしまいます。とはいえ、「フォロワーを半期で550人にする」など、難易度を下げて簡単に達成できそうな目標にするのも好ましくありません。
ここでいう「達成可能」な目標とは、努力や工夫をすることで達成が見込める程度の目標を指します。現実的かつチャレンジ可能な目標設定を意識しましょう。
要素4.企業の理念や目標に「関連した」目標を設定する(Related)
MBOで設定する目標は、組織の理念や目標と連動している必要があります。簡単に表すと、「企業の理念・ビジョン>企業の目標>部門の目標>個人の目標」といった具合です。目標を設定する際は、上位目標から順にブレイクダウンしながら内容を決めることが大切です。
組織全体の目標が「売上アップ」のケースにおける、広報PR職の目標例で考えてみましょう。広報PR部門では自社やサービスの認知度を向上させ、より多くの生活者が購入を検討する機会を創出することを目標にするのではないでしょうか。そしてチーム内でそれを実現するための広報PR施策を検討し、具体的な目標を設定するでしょう。個人は、その施策に対して実行できるアクションプランを設定します。
もしも企業の理念やビジョン、目標などが曖昧だと適切な個人目標を立てることができなくなってしまいます。仮に自社の目標がなかなか達成できないという課題を抱えている場合は、企業の理念・ビジョン、目標などを今一度明確化し、さらにそれを従業員に共有したうえで理解してもらう必要があります。
要素5.目標の「達成期限」を設定する(Time-bound)
目標には達成期限を設定することも大切です。「2023年〇月までに〜を達成する」など、具体的な期限を設けましょう。MBOはおおむね半期〜1年のペースで実施しますが、必ずしもすべての目標期限をMBO実施期間に設定しなければならないというわけではありません。短期的な目標のほうが、具体的な計画を立てやすかったり、モチベーション維持や向上につながったりすることもあります。
例えば個人目標が「1年後までに商品Aについて、売上を〇%向上させる」といった内容である場合、「商品Aに関するプレスリリースを〇月までに配信する」「〇月~〇月の期間中にメディアに〇件掲載される」「関連するツイートを1日〇件/月〇件投稿する」などの短期間で達成が見込める小目標を設定してもよいでしょう。
MBOでの目標設定例
「SMARTの法則」に沿った目標設定の方法を理解したら、次は具体的なMBOの目標設定例を見てみましょう。ここでは、営業・マーケティング・人事・広報PR職を例に挙げ、それぞれの職種でどのような目標を達成すれば、自社の経営目標の達成につながるのかを考えていきます。
営業
さまざまな職種の中でも、特に営業職は定量的な目標を立てやすいといわれています。一般的には売上や受注件数などを目標に設定することが多いでしょう。具体的なアクションプランには、それら数値目標を達成するための手段を設定します。
目標例:
「2023年3月までにリピート契約を〇件、総額1,500万円を受注する」
アクションプラン例:
- 見込み顧客を月〇件訪問し、新規顧客を〇件増やす
- 月に1回自社で相談会を開催し、週3件の商談につなげる
- 顧客リストから半年以上コンタクトを取っていない顧客をピックアップし、テレアポを実施。〇件の商談につなげる
など
マーケティング
マーケティング職では売上高や利益率などのほか、市場占有率や商品の認知度の向上などを目標に設定することもあるでしょう。営業職と同じように、定量的な目標を立てやすく、具体的なアクションプランにも数値を盛り込んだ内容を設定しやすいといえます。
目標例:
「今期の最終月までに商品Aの認知度を上げ、Webからの収益を〇%アップする」
アクションプラン例:
- 〇月までにLPをリニューアルし、〇月までにLPからのCV率を〇%向上させる
- 昨対比1.5倍のメディア露出度を実現し、商品Aの検索数を月平均〇件以上にする
など
人事(採用)
採用に関する人事業務では、採用人数を目標に設定することが多いはずです。しかし、単に応募者数を増やすだけでは質の高い採用活動を行えるとは限りません。自社が求める人物像を明確にするなどし、的確にアプローチできるような施策を考えながら目標設定を行いましょう。
目標例:
「2023年10月までに、〇〇部門に応用情報技術者資格を保有しているインフラエンジニアを〇名採用する」
アクションプラン例:
- ダイレクトリクルーティングを実施し週〇名の書類選考、月〇名の面接を実施する
- 〇月に中途向けの採用イベントを実施し、〇名とのカジュアル面談を実現する
など
広報PR
広報PR職では、商品を直接販売するようなことがないため、数値化した目標は立てにくいと感じるかもしれません。しかし、広報PR職にはさまざまな活動を通して自社の事業をバックアップする役割があります。行動の先にどのようなことが起こるかを想定することを意識すると、目標を立てやすくなります。
目標例①
「1年後までに商品Aについて、現在〇%の商品リピート率を〇%に向上させる」
アクションプラン例:
- 四半期に1回ユーザー招待イベントを開催し、平均〇人の動員を目指す
- コーポレートサイトをリニューアルし、Web経由の問い合わせ率を〇%向上させる
目標例②
「6ヵ月後までにメディア掲載数を〇%アップさせ、商品Aに関する問い合わせ件数月〇件を実現する」
アクションプラン例:
- プレスリリースのノウハウを学習し、取材の申し込み件数を月間〇%増やす
- 分析とメディアリストの整理を行い、アプローチしたい層とマッチ度の高いメディア〇件にコンタクトをとる
など
MBOで目標設定・評価するときの9つのポイント
MBOの運用が円滑に進んでいない場合、MBOに対する理解や準備が不足していたり、目標設定や評価の仕方に課題があったりすることが原因になっているかもしれません。効果的かつ円滑にMBOを実施するためには、どのようなことに気を付ければよいのでしょうか。ここでは、MBOにおける目標設定や評価の際に上司が意識したいポイント・注意すべきポイントを紹介します。
ポイント1.MBO運用の事前準備を行う
準備不足の状態でMBOを運用してしまうと、ただ従業員に目標設定を促すだけになってしまい、適切な進捗管理や評価につなげることが難しくなってしまいます。まずはMBOの運用開始前に、しっかりと準備をすることが大切です。
第一に組織の現状を把握するとともに、自チームにとってどのような目標設定が好ましいかを理解します。例えば、企業目標が「売上の向上」の場合、それぞれの部署・個人がどのように行動すれば企業目標に寄与できるのかをマネージャー層は知っておく必要があります。これを把握していないと、個々が設定した目標が適切かどうかの判断がつきにくくなってしまいます。
また、客観的かつ納得感のある評価を実施できるように、基準の整備も行っておきましょう。「A~E」「5~1」のように、評価基準を5段階程度に分けた評価を例に挙げてみます。「メディア掲載件数を増やす(前年比120%以上)」という広報PR職の目標の場合、「150%以上ならA評価」「130~149%ならB評価」「120~129%ならC評価」「100~119%ならD評価」「99%以下ならE評価」といった具合です。なお、B、Cなど中間がボリュームゾーンになりがちなため、そのゾーンのみBa、Bb、Bcと傾斜をつけることも併せて検討するとよいでしょう。
ポイント2.MBO運用の年間スケジュールを設定・周知する
MBOは人事評価と連動させるケースが多いため、目標設定期間を人事評価期間と合わせる必要があります。例えば、評価面談を翌年3月末で設定している場合は、4月1日あたりにMBOの目的や年間スケジュールに関する説明の場を設けます。MBOは人事評価(報酬や処遇)の判断材料となるため、従業員の合意が必要です。全従業員の合意があり、共通認識を持った状態でMBOを実施しましょう。
先に説明したように、MBOは年に1回(または半期に1回)の面談を実施しますが、定期的にフィードバックの機会も設ける必要があります。フィードバックのタイミングは、メンバーの目標難易度やレベルに合わせて設定するとよいかもしれません。
ポイント3.目標の設定が上司からの押しつけにならないように注意する
MBOは、従業員のモチベーションを向上させながらスキルアップすることを目的のひとつとしています。しかしそのことを忘れ、いつの間にかMBOをノルマ達成の管理方法として運用してしまうケースもあります。そのような運用は、目標設定や目標達成が、組織や上司からの押しつけとなり、従業員のモチベーション低下の原因となってしまいます。MBOの本来の目的を今一度理解し、従業員自らが主体的に目標設定を行い、行動できるような環境づくりを目指しましょう。
ポイント4.できるだけ具体的な目標となるようにアドバイスする
MBOに慣れるまでは、目標設定に悩む従業員も少なくないはずです。そのため、曖昧な目標設定とならないようにアドバイスをすることも上司の大切な務めです。「数字を使ったわかりやすい目標になっているか」「期日から逆算して無理のないスケジュールを組めているか」などをチェックし、改善すべき点が見られる場合は適切な助言を行いましょう。このときに、上司は部下の目標を否定したり、自らの意見を押しつけたりしないことが大切です。
ポイント5.目標の難易度の妥当性をチェックする
MBOでは、従業員本人が目標設定を行います。そのため、なかには簡単に達成できそうな目標を設定する従業員も出てくるかもしれません。人によって目標達成の難易度にばらつきがあると、同じ達成度であっても不公平が生じてしまいます。上司は部下の目標をチェックし、設定した目標の難易度に妥当性があるかを必ず確認することが重要です。達成できる確率が40~50%くらいの難易度であれば、モチベーションアップにつながり、意欲的に業務に取り組むことができるでしょう。
ポイント6.組織の目標とリンクしているかを確認する
個人目標が組織目標とリンクしているかも確認します。もしリンクしていない場合は、企業目標が従業員に浸透していないことが考えられます。改めて会社のビジョンや企業目標などを明確化し、全従業員に共有する場を設けましょう。このときに、企業の代表など経営層が自らの想いや信念も共に伝えることができれば、企業全体が同じ価値観・方向性を持つきっかけを創出できるはずです。また、スタートアップ企業や変革期にある企業など、個人目標と同時進行で組織目標を立てなければならない場合は、組織に合わせた目標になるよう個人の目標も適宜調整するようにします。
ポイント7.結果だけを見ないように注意する
評価を行う際、結果だけでなく、プロセスも評価することを意識しましょう。例えば日々努力を重ねたにもかかわらず、目標達成は実現できなかったという従業員に対して結果だけを評価してしまうと、評価された側は「あんなに頑張ったのに」と不満を覚えます。納得のいかない評価制度は、チームワークの悪化を招いたり、上司が部下の人材育成をおざなりにしたりといった悪い影響を生み、従業員エンゲージメントを下げてしまいます。成果につながる「行動」を評価する「コンピテンシー評価」なども導入し、プロセスについても評価することが重要です。
ポイント8.個人主義にならないような目標になっているかを見る
MBOでは従業員がそれぞれ目標を設定するため、自分の成果だけを追求してしまう可能性があります。それぞれが個人主義になってしまうと、チームワークが崩れ、組織力の低下につながってしまいます。MBOは本来、個人が目標達成に向けて努力することで、より組織力を強め、企業目標の達成を実現していくもの。従業員が設定した目標をチェックする際は、ほかのメンバーと関わらなければ達成できない内容なども盛り込まれているかを見ることが大切です。
ポイント9.コミュニケーションの機会を設ける
MBO運用中は、定期的に部下とのコミュニケーションの場を設けるようにしましょう。リモートワークの場合も顔を合わせたオンラインMTG(1on1)を実施するなどし、進捗状況の確認やメンタル面の確認、疑問や不安を解消する場を設けることが大切です。このときも、従業員の主体性を尊重するように心がけ、「こうすべき」と決めつけるのではなく、あくまでも「こうしたらどうか」といったアドバイスに留めるようにしましょう。
改めてMBOが持つ本来の目的を理解し、効果的な運用ができる環境を整えましょう
MBOは企業のビジョンや目標を軸にした個人目標を立て、従業員それぞれが主体的に行動することを目的としています。うまく運用することで、従業員一人ひとりが高いモチベーションで行動でき、目標達成・スキルアップ・公平な評価が期待できます。
しかし理解不足や準備不足、運用方法に問題があると、反対に従業員のモチベーションを下げてしまったり、適切な評価ができなかったりと逆効果になってしまう可能性があります。自社がすでにMBOによるマネジメントを実施しているにもかかわらず、うまく運用できていないと感じる場合は、どこかに課題が潜んでいるのかもしれません。
まずは自社のMBO運用のどこに課題があるのかを洗い出し、どのように改善すべきかを探ることが必要です。事前準備も入念に行い、全従業員が同じ方向を向きながら目標達成を目指せるようにします。目標を設定する際はどの職種においても、「具体的」「計測可能」「達成可能」「関連性がある」「期限がある」の5つの要素を盛り込むことも意識し、本来のMBOが持つ効果的なマネジメントへつなげましょう。
組織力の強化・公平な評価、従業員・企業双方の成長などさまざまなメリットが得られるMBO。上司は適宜アドバイスをし、従業員自らが意欲的に目標達成に向けた行動に取り組める環境を構築しましょう。
MBOに関するQ&A
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