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【自治体職員向け】削減と拡大をどう進めたのか。北本市に学ぶ、地域を動かす「伝わる」広報PR

新年度の人事異動で広報PRを担当することになり、「何から始めればよいのかわからない」と戸惑いや不安を抱えながら、日々の発信業務に取り組んでいる職員の方も多いのではないでしょうか。

そんなお悩みを抱える方に向けて、プレスリリース配信サービス「PR TIMES」を運営する株式会社PR TIMESは、2025年4月28日に「伝わる自治体広報で地域を動かす」をテーマに、新年度職員向け研修会を開催。PRDESIGN JAPAN代表の佐久間智之さんと、北本市広報担当の秋葉恵実さんをお招きしました。

第1部では、「伝わる自治体広報」をテーマに、佐久間さんが自治体広報の基礎について講演。第2部では、埼玉県中央部に位置し、人口約6万5千人の北本市で広報を担う秋葉さんと佐久間さんによるトークセッションが行われました。

本レポートでは、第2部のトークセッションをピックアップ。北本市が広報紙を発行するうえでの「関係者との関係構築力」「企画力」「限られたリソースの活用」の3つの視点をご紹介します。若手職員を中心に、市の魅力発信や市民との関係づくりを少人数体制で推進し、着実に成果を上げてきた北本市の自治体広報の実務とは。戸惑いや不安を抱えながらも一歩ずつ前進しようとする自治体の広報PR担当者に向けて、役立つ実践的なヒントをお届けします。

PRDESIGN JAPAN株式会社 代表取締役

佐久間 智之(Sakuma Tomoyuki)

元市役所職員として、広報・シティプロモーション・議会対応などを担当。民間移行後は、全国の自治体・企業のPR支援や職員研修、講演活動を行う。「発信力強化」「広報組織づくり」をテーマにしたセミナー登壇も多数。著書に『自分の仕事をつくる技術』『発信力を高める広報戦略』などがある。

埼玉県北本市役所 市長公室シティプロモーション・広報担当

秋葉 恵実(Akiba Megumi)

北本市役所に入庁以来、観光施策や情報発信を中心に北本市広報に従事。2025年度で広報担当として8年目を迎える。現在は中心的な広報担当者として、プレスリリースやSNS運用、庁内連携などを担い、“伝わる広報”の実現に向けて試行錯誤を重ねている。全国広報コンクールでの受賞実績や、他自治体職員向けの研修登壇もあり、実務者としての発信力が高く評価されている。

シティプロモーションに取り組むまで

佐久間さん(以下、敬称略):初めに、北本市の広報PR活動における秋葉さんの役割などを教えてもらえますか。

秋葉さん(以下、敬称略):はい。私は現在、埼玉県北本市役所市長公室でシティプロモーションを担当しています。2025年で広報歴8年目になりますが、当初は広報の経験がまったくないところからのスタートでした。今は広報紙の企画をはじめ、取材や編集、各種SNSの投稿、報道機関に向けたプレスリリースなどを行っています。

佐久間:活動している中で、実感している効果などはありますか。

秋葉:北本市は2014年に、消滅可能性都市に指定されました。危機感を覚え、背景を調べてみると、出生と死亡による自然減に加え、転入数と転出数の差が大きかったんです。これを受け、まずは市民の皆さんに「これからも住み続けたい」と思ってもらえるよう、市民の愛着醸成を目的としたシティプロモーションに力を入れ始めました。

市民の皆さんと職員で一緒にワークショップを行った際、「北本は身近に緑があるところがいい」という声が挙がり、「&green」というコンセプトが生まれました。その後は市民とともにイベントの企画・実施をしたり、市民自らが魅力を発信できる仕組みをつくったり、それらを広報紙で紹介したり。長年続いていた転出超過が転入超過に転じたことは、ひとつの成果だと感じています。

時間を重ね、同じ方向性を向き育まれる関係

市民に気づかされた「信頼」とは

佐久間:北本市の魅力を伝えるにあたり、ステークホルダーとの関係構築はどのように取り組んできたのでしょうか。

秋葉:私は県外出身で現在も市外在住のため、北本市には知り合いやコミュニティもまったくない状態からのスタートでした。記事になるかはひとまず考えず、カメラを持ってさまざまな現場に足を運び続けるうちに、社会福祉協議会の方や福祉従事者、まちづくり会社を立ち上げた若者たち、伝統あるお囃子を守る笛の名人、北本市を応援してくれる地元新聞社の記者など、多くの人たちとつながることができました。また、そうした方々が意外なところでつながっていることも見えてきたんです。

また以前、ある市民の方から「信頼は役割で築くのではなく、人と人として話す中で生まれる。同じ時間を重ね、同じ価値観を大事に思うことで育まれる。」とお話いただいたことがあります。それまで、心を開いてもらえない、距離が縮まらないと思っていたのは、自分が「北本市役所の広報担当の役割」という立場から話していたことに気がつきましたね。

それぞれの属性に合わせた関係構築

庁内との関係構築

佐久間:市役所内の職員との関係性で、意識していることはありますか。

秋葉:以前は「職員の広報意識を高めたい」と動いていた時期もありましたが、今は「どうすれば職員の業務が楽になるか」を考えるようになりました。業務に役立つ研修を実施したり、日々の相談に応じたりと、今は伴走役のような存在を目指しています。

佐久間:「伝わるチラシ作り」も、そうした庁内を巻き込んだ取り組みですね。

秋葉:そうですね。実は1年ほど前に広報意識を啓発することを目的とした研修を実施したのですが、参加してくれた職員は10人ほどでした。そこで、どの部署でも作らなくてはいけない局面がある「チラシ作り」に絞り、添削特典付きの研修を実施したところ、依頼が殺到したんです。

少しずつですが、相談に来てくれたり、主体的に関わってくれる職員が増えたりと広報に前向きな雰囲気に変わってきている気がします。

取材先/市内の協力者との関係構築

佐久間:庁内を巻き込むことは大事ですよね。市役所全体の広報力向上は、自治体としての重要なミッションだと思います。市民や取材先との関係作りについても伺えますか。

秋葉 :取材対象の方には、その方の魅力や共感している点など、「あなたを取材したい理由」を、自分の言葉で伝えるようにしています。また、その分野に詳しい信頼できる人との関係性を築いておくことも大切です。もちろん、紹介してもらいたいという下心を持って活動はしていませんが、「この人の紹介だから取材受けよう」「相談にのろう」と思ってもらえることはあります。

取材に慣れていない方に依頼する場合は、取材の主旨、企画の意図、媒体の特性をまとめ、誌面のレイアウトイメージを一緒に共有します。そうすることで、不安を少しでも和らげ、心の準備をしていただけるようにしているんです。

佐久間:「みどりとまつり-&greenfes-」のときのエピソードを教えていただけますか。

秋葉:「みどりとまつり-&greenfes-」は、市民の皆さんと一緒に運営方針やブースを企画・実施する「ひこばえ隊」というグループがあるのですが、私も取材者としてだけでなく、「ひこばえ隊」の1メンバーとして参加していたことで、みなさんと心理的な距離を縮められたと思います。

また、北本市では2016年から「市民リポーター制度」を導入し、市民の皆さんにボランティアで市の魅力を発信してもらっています。職員だけではなく、地域の皆さんと一緒に取り組む「まちづくり」を大切にしていますね。

メディアとの関係構築

佐久間:最後に、メディアとの関係構築で意識していることはありますか。

秋葉:北本市では年4回の記者会見を開いていますが、記者さんにわざわざ足を運んでもらうからには、取材のお土産になる情報を用意したいと思っています。最近は、観光協会や社会福祉協議会、学生の取り組みなど、市内で展開されている多様な活動を直接紹介し、そこから取材につなげてもらえるようにしています。

佐久間:記者の方にとって写真や映像は重要。「画(え)になるシーン」が撮れるようにする、取材の橋渡しをするなどのコーディネートが大事ですね。僕は直接お会いできなかった記者の方へは名刺と一緒に手書きのメッセージを置いていくようにしています。あの人に聞こうと思い出してもらえる、あの人に聞けば町のことがわかると頼ってもらえるのは大きいと思います。

秋葉:私も時折、他の課のことであっても「とりあえず秋葉さんに聞いてみよう」と連絡をいただくことがあります。その際、担当の課にそのまま回すのではなく、自分で調べたり、必要に応じて丁寧につないだりする。そうした協力する姿勢をずっと大事にしてます。

新年度職員向け研修会01

「伝えたい」より「伝わるか」から始める企画

佐久間:ここからは広報紙について伺いたいと思います。広報紙を作るうえで、意識しているポイントを教えてください。

秋葉:広報紙の特集で重要なのは、やはり「テーマ設定」だと思っています。振り返ってみると次の3つの視点でテーマを決めていました。

1.地域における価値:地域の関心が高く、需要があり、切実なテーマであること

2.社会における価値:社会的に関心が高く、制度改正をはじめ国の方針に沿っていること

3.担当者の熱量・関わり:現場を理解している、現場の温度感などを把握していること

特に3つ目の「担当者の熱量・関わり」は、特集全体の伝わり方を大きく左右すると思っています。

佐久間:テーマは、担当課からの依頼、もしくは秋葉さん自らの意向、どちらが優先されることが多いですか。

秋葉:もちろんどちらもありますが、大きな特集ほど現場との関わりの中から自然に生まれることが多いと思います。例えば、障害のある方とその家族をテーマにした特集は、障がい福祉課の「自分たちだけでは広報まで手が回らない」という声に応えることも目的でしたが、現場で話を聞いたことで「特集しなければいけない」と強く感じました。

また、「共感から納得」につながる構成を意識しています。個人の思いやエピソードから始まり、関連する地域の事例、現場の取り組み、さらに俯瞰的に語る専門家の声へと広げていく。最終的に「これは町全体の話なんだ」と読者の納得につながる流れが理想です。

限られたリソースで多く・深く読まれる広報紙を実現

圧倒的な工数削減と個人のスキルアップ

佐久間:限られたリソースの中で、広報紙の内製化にも取り組まれましたよね。

秋葉:以前は、現場から届いた原稿を整えて印刷会社へ送り、毎月3回は出張校正に行っていました。手間はかけていたものの、主体性が持てていないことにもどかしさがあり、なんとか変えたいと考えていました。そこで、佐久間さんに広報アドバイザーとして協力をいただきながら、広報紙の内製化を進めたんです。

佐久間:内製化することで、進行の自由度が増すだけでなく、業務効率の改善にもつながりますよね。秋葉さんは内製化を進める中でどのようなメリットを感じましたか。

秋葉:一番のメリットは、圧倒的に工数が減ったことです。これまで外注とのやり取りなどで発生していた工程が、自分たちで完結できるようになったことで、空いた時間を取材や企画に使えるようになりました。自由度が上がったと同時に、写真の編集など何でも自分たちで行う必要がありますが、その分、見せ方のスキルも自然と磨かれたと思っています。

新年度職員向け研修会 北本市の広報紙

予算削減から発行部数の拡大へ

秋葉:加えて、以前は行政委員会から指摘を受けたこともあった費用を、4割以上削減することに成功しました。令和6年度は前ページフルカラー化と、発行部数を増やすためのポスティング実施によって費用は戻っていますが、一度予算を削減できたからこそ、こうした新しい施策に取り組めたと思っています。

佐久間:入札なしで進めている自治体も多い中、コストを適正に管理しつつ、多くの市民に情報を届ける工夫をしているのはすばらしいことですね。

お知らせ欄で精査された情報を

佐久間:ちなみに北本市は、「お知らせ欄」は固定ページ数ですよね。

秋葉:はい、基本的には固定で、年度当初にある程度の構成を計画しています。例えば北本市の場合、9月・10月号、2月号は余白が生まれやすいので、そこに少し大きな特集を組むことを事前に計画することができるんです。

佐久間:僕が担当した三芳町の広報紙でも、お知らせ欄は6ページで固定していました。「お知らせ欄は自分のもの」みたいな考えの課もありましたが、スペースが限られているからこそ、三芳町の情報、県の情報と優先をつけ、国の情報は余白があった場合には掲載という明確なルールづくりが重要ですね。

プレスリリースの活用と業務フローの最適化

秋葉:今後はプレスリリースの活用もさらに進めていきたいと考えています。プレスリリースの目的は、市民に対する情報通知という面もありますが、社会的信頼に寄与するような福祉、給食費無償化のような施策を社会に伝えることです。

【北本市のプレスリリースの基準】

1.社会的に関心や注目が高い話題に関連するもの(世界的イベント、ふるさと納税など)

2.北本市の社会的信頼に寄与するもの(福祉、給食費無償化、そのほか先進的な施策)

3.北本市ならではの季節感のある話題(田植えの開始、北本まつりなど)

北本市役所(埼玉県北本市):最新プレスリリースはこちら

佐久間:「取材したい」ではなく、「取材しなければいけない」と思う内容が大事ですよね。うまく活用していくにあたって、決裁の簡素化もカギになるのではないでしょうか。

秋葉:はい。PR TIMESを使用する際にも、起案用紙ではなく手書きの簡易決裁で対応しています。SNS投稿も同様で、これまでは紙での決裁をしていましたが、今はLINEの下書きスクショをチャットツールで共有して確認するフローです。

さらに、依頼の書式化も進め、各課からの依頼受付を一本化しました。例えば、佐久間さんが先ほどおっしゃっていた県・国の情報についても、優先事項や約束事もここに書いているんです。必要事項にチェックしてもらうことで掲載可否を判断したり、LINE配信希望も同時に依頼してもらったり。書式化することで、対応が煩雑にならないことはもちろん、担当者の考えを複数名で共有できるようになりました。

【一問一答】広報PR担当者からの質問に回答

ここでは、参加者のみなさまとの質疑応答の一部をご紹介します。

──プライベートと仕事の線引き難しそうですが、いかがでしょうか。

秋葉:私個人の考えですが、境目を自分が楽しめるかどうかだと思います。あえて線を引かないことで、うまくいった気がしますね。

佐久間:僕もそうですね。例えば、たまたま目に触れたポスターに惹かれて、その写真を撮ることがありますが、それが業務かというとそうではないです。仕事としてやってないけれどもそれが結果として仕事になったり、ただ自分の高い関心事がアップデートされることは多々あります。プライベートと仕事とのグラデーションは結構曖昧かもしれないですね。

──「町の魅力があまりなく、プロモーションに限界を感じる」というコメントをいただきました。魅力の発見のポイントがあれば教えていただけますか。

秋葉:結論から言うと「魅力がない町は絶対にない」と思っています。一生懸命な人がどの町にもいるんですよね。例えば、その人々がめんどうな市民となるのか、一緒に楽しく仕事ができる市民となるのか、正解があるわけではないですが、その人々を行政がどう受け止めるかだと思います。まずは、一生懸命やってる人たちの話を聞いて、その人たちと同じ目線に立ってみることで、町の新たな魅力に気づかされることがあると思います。

佐久間:コンビニのおばちゃんの笑顔がすてき。それだけでも、町の魅力だと思います。例えば、ないものも魅力だと思っていて。三芳町って駅がないんです。駅がないということは、放置自転車のストレスがないかもしれない。東京23区から見ると、そういうところも三芳町の魅力になるかもしれません。

また、灯台下暗しということもあります。僕も秋葉さんも地元じゃない自治体に勤めていることで、客観的に町の魅力を見つけられてるのかもしれないですね。

──担当課とキャッチボールを少なくする工夫などポイントはありますか。

秋葉:北本市ではキャッチボールを2回と決めていて、それ以外のタイミングでのやり取りが発生しないようにしています。

佐久間:他の課の原稿を見て、スペースがあるから追加で入れてみたい、というのは対応なし。掲載依頼の形式などを含め、しっかりとコントロールできる環境をつくっているということですよね。

──文字のゆらぎなどの補正をどれくらいのレベルでやってますか。

秋葉:記者ハンドブックも参考にしますが、北本市独自の掲載手引きみたいなのを作っているので、基本的にはそれに基づいて整えています。

佐久間:記者ハンドブックも大切ですが、今の時代、わかりやすさを追求する方が大切だと思いますね。

新年度職員向け研修会03

まとめ:地域に届ける・地域を動かす自治体広報

「伝えたい」ではなく「伝わるか」、そして「どう動いてもらうか」。北本市の広報PR活動には、その問いを軸にした日々の工夫と実践が表れていました。過去のやり方にとらわれず改善を図り、一つひとつ積み上げてきた取り組みは、広報自治体におけるシティプロモーションの可能性を感じたのではないでしょうか。

また、未経験から広報の仕事を始めた秋葉さんが、自ら行動を続けてきた姿は、広報PRの仕事に向き合いながらも模索を続けている方や、いま一歩を踏み出したいと感じている方にとって、大きな励みになったはずです。

特に印象的だったポイントは、次の3点です。

  • 関係者を一人ひとり挙げて書き出すことで広げた視点
  • 「共感から納得へ」導くストーリー設計
  • 成果を最大化するための個人のスキル向上、業務フローの最適化

さらに、北本市が取り組んだ「mGAP(エムギャップ・修正地域参画総量指標)」による市民の愛着の可視化という施策も、あらためて紹介します。「関係性を育む」という一貫した姿勢こそが、北本市広報PRの信頼を支えているのかもしれません。

市民と向き合う姿勢、ステークホルダーとの関係づくりに悩んだときは、秋葉さんが実践してきたことを参考にしてみてください。

さいごに。佐久間さんが手がけた「読む価値のある広報紙」と「住民に伝わるプレスリリースの作り方・届け方」についてもあわせてご覧ください。

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この記事のライター

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『PR TIMES MAGAZINE』は、プレスリリース配信サービス「PR TIMES」等を運営する株式会社 PR TIMESのオウンドメディアです。日々多数のプレスリリースを目にし、広報・PR担当者と密に関わっている編集部メンバーが監修、編集、執筆を担当しています。

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