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広報紙は住民へのラブレター。町への愛と意思が「自治体広報日本一」にもつながったー自治体広報アドバイザー・佐久間智之

「この現状を変えたい」と強烈に思った先の行動が、その人や周りのヒト・モノにとっての分水嶺になることも少なくないでしょう。

今回インタビューをしたのは、広報経験ゼロから10年にわたり、埼玉県三芳町の広報担当を務めた佐久間智之さん。2015年、広報紙『広報みよし』が全国広報コンクールで内閣総理大臣賞を受賞し、2020年には行政広報アドバイザーとして独立。現在は日本各地の行政で年150回以上の研修や、伴走支援を行なっています。

「自治体広報日本一」に行きつくまでの裏側と、行政広報アドバイザーとして独立を選んだ理由。それらを紐解くために、佐久間さんの広報担当としての歩みと、今後の展望を伺いました。

PRDESIGN JAPAN株式会社 代表取締役

佐久間 智之(Sakuma Tomoyuki)

PRDESIGN JAPAN(株)代表取締役。埼玉県三芳町で公務員を18年務め税務・介護保険・広報担当を歴任。在職中に独学で広報やデザイン・写真・映像などを学び全国広報コンクールで自治体広報日本一に導く。2020年に退職し独立。現在はPR TIMESエバンジェリスト、総務省 地域力創造アドバイザー、早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員、自治体広報アドバイザーや研修講師として活動。「公務員のためのSNS活用の教科書」など著書多数。

「捨てられた広報紙」から、「読む価値のある広報紙」に

── 佐久間さんは、どのような経緯で広報担当になったのですか?

佐久間さん(以下、敬称略):広報担当になる前は、介護保険課で介護認定の窓口対応や介護保険料の賦課徴収など、介護に関連する全ての業務を担当していました。広報に興味を持ったのは、あるマンションを訪問した時に、ポスト脇の段ボールのゴミ箱に、広報紙が大量に捨てられていたのを目の当たりにしたのがきっかけです。

それを見て、「税金がもったいない」と悲しくなりました。重要な情報が載っていたとしても、住民の手に行き渡らなければ、伝わらなければ意味がないよなと。

「この状況を何とかしたい……」。そう思っていたタイミングで、広報の公募があったんです。経験はありませんでしたが、日本一の広報を実現するので広報に異動させてください」と町長に直談判をして、広報担当になりました

行政広報アドバイザーインタビュー01

「日本一」のイメージはありませんでしたが、とにかく広報に異動したい一心で(笑)。

戦略的なことは本当に何も考えていませんでした。紙面も作ったことがければ、一眼レフも触ったことがない。ソフトもWordしか使ったことがない。そんな“ないない尽くし”の自分でしたが、やってみなければわからないという気持ちだけはありましたね。

── 佐久間さんなら何か変えてくれそうという、パワーを感じます。最初はどんなことに取り組まれたのですか?

佐久間:広報紙の表紙デザインを変えることに取り組みました。まず手に取って、「リビングまで持ち帰ってみようかな」と思ってもらうには、ファーストインプレッションが大事だなと。

そこから、子育て支援センターや児童館に足を運んで、お母さん方に「どのタイトル・デザインの表紙だったら手に取りますか?」とヒアリングをしました。もともとの表紙は、親しみを込めてタイトルをひらがなにしていたのですが、調査の結果、オシャレなデザインの方が手に取ってもらいやすいことがわかりました。

リニューアル前の広報紙(左)と、リニューアル後の広報紙(右)
リニューアル前の広報紙(左)と、リニューアル後の広報紙(右)

表紙の写真も主役である住民に積極的に出ていただき、「読者と目が合うように」正面カットのものを採用するようこだわっています

周囲からは、高齢の方はスタイリッシュな表紙だと手に取らないんじゃないか、と言われたのですが、表紙を変えた後に住民意識調査をしてみると、『広報紙から行政情報を得ている』と答えた70歳代が86%から94%に、20代も73%から80%近くになったんです

2010年と2015年に行われた「住民意識調査」。広報みよしで町の情報を収集している人の年代別割合
2010年と2015年に行われた「住民意識調査」。広報みよしで町の情報を収集している人の年代別割合

高齢の方の多くは、時間があれば虫眼鏡を使ってでも読んでくださいます。なので、実は若年層に合うようなオシャレなデザインにすることで、今までつまらなさそう、と思って広報紙に手を伸ばさなかった高齢の方も興味を示してくれるんだと気づきました。

また、これまで広報紙は外注していましたが、2012年からは取材・紙面編集・写真撮影・デザイン・レイアウト・文章・画像の加工や構成など、印刷以外のすべてを内製化しました。その結果、年間600万円のコストカットもできました。

── 600万円のコストカット……!

佐久間:はい、いただいている税金を1円たりとも無駄にしないように。ただ予算を下げた分、質が下がってしまっては意味がありません。そこで町の魅力を鮮やかに表現するために、表紙をカラーにしました。

三芳町は自然豊かでホタル鑑賞ができたり、伝統芸能の里神桜や車人形が現存していたりするんです。このダイヤの原石とも言える町の魅力は、モノクロでは表現できないと思いました。どうしても濃い緑と黒のカラーで表現したかったんです。

三芳町に暮らしていても知らない、気がつかない魅力を広報紙で届けて、住民の皆さんがより町に関心を持ち、好きになってほしいと思ったんです。

佐久間さんが作成した広報紙の数々
佐久間さんが作成した広報紙の数々

実際に住民の方からは、「表紙が良いから捨てられない」「はじめて子どもが広報紙に載ったとき、カラーコピーをして親戚中に配った」「三芳町に転入してきた当初は孤独でしたが、それを解放してくれたのが『広報みよし』だった。広報紙がきっかけで絵本の読み聞かせなどの町のボランティアに関わるようになった」という声をいただいています。

広告収入も1.5倍になりました。消費税が5%から8%に上がるタイミングで広告費を上げたのですが、どの企業も継続してくださり、枠が空くのを待ってくださる企業もありました。これは広報紙に広告を入れるだけの価値があると思ってくださっていたからだと。広報紙に魅力があれば、自治体の収入が増え、広告を出稿する側は多くの住民に情報を届けられ、住民は楽しく情報を受け取れる。こうした三方よしが実現できます

    

広報紙全32ページを見てもらう自信がある

── いろいろとドラスティックに変えられていった当初、難しかったことはありましたか?

佐久間:前年のやり方を引き継いでいくことが当然の慣習の中で、何かを変えていくことへの反発はどうしてもありました。だけど僕は、ただただ前進したかった。前年と同じやり方でやれば、同じような結果になるけれど、前進も後退もしないし、やってみないとわからないから

行政広報アドバイザーインタビュー02

反発というのかな。覚えているのは、あるテキストの口調をですます調から体言止めに変えた時、ある職員から「上から目線に思われて、クレームになるかもしれない」と言われたことがありました。でも僕は、見やすくするために文字を減らしたかったんです。だから、「クレームがあったら全部僕に回してください」と伝えたこともありましたね。

実際にはクレームは1件もなく、むしろ「窓口対応で、『広報紙を見てきたよ』という住民が増えた」と言われるように。それからは文字やデザインの見せ方にはダメ出しはされなくなくなりました。やっぱり行動で示すことで、本気の姿勢が職員にも伝わったのだと思います

── とにかく行動で示されていたんですね。

佐久間:常に本気でした。例えば、県庁から届いた福祉や医療制度の変更点の通知文書を担当職員からもらった時には、担当職員の知識量と遜色ないくらい勉強するようにしました。それから、文書を読む住民の具体的なペルソナを設定して、文字を編集したり、レイアウトを整えたり。原稿ができたらコピーして、音読してみて、疑問があれば担当に聞いて、ブラッシュアップして戻すんです。

そうすると、周囲は「本気なんだな」と思うじゃないですか。一部の課からはすべて任せてもらえて、信頼されている証拠だと感じていました。信頼を得る特効薬はなくて、やっぱり誠心誠意を持って対応することに尽きると思います

それぞれの担当者がやっていることは素晴らしいことだし、その先にいる住民の皆さんにわかりやすく届いてほしい。その代弁者として僕は翻訳しているということを、全課に、全職員に浸透できたのはよかったと思います。

── 「住民に伝わるように」という言葉が出てくるのが印象的です。

佐久間:やっぱり情報は届いてなんぼです。広報紙の「お知らせ欄」は、よくつまらないと言われますが、命に関わる重要な情報が入っていることも少なくありません。もしお知らせ欄に載っていた「乳がん検診」の受診をして早期発見につながったとしたら、命を守る役割を広報紙が果たしたと言えると思います。

でも、ゴミ箱に捨てられたら、手に取ってみたけど開いてつまらなくて捨てられたら、その情報まで行き着きませんよね。

行政広報アドバイザーインタビュー03

伝わらない情報は、残念ながら「ない」に等しいです。だから全ページ見ていただきたい。そんな思いから三芳町の広報紙には目次を載せていません。32ページ全てが見てもらうべきページだと胸を張って言える自信があるので。

── 印刷以外の全ページを、ほぼ一人で作成されるのは、大変ではないですか?

佐久間:もちろん簡単ではないですが、僕自身が誰よりも楽しんでいました。僕は、言われてやるのは「作業」で、自発的に動くのが「仕事」だと思っています。自発的に動くわけですから、すべて自分の責任になりますし、相手のニーズを先回りして考え、周りに迷惑をかけずに結果を出すんだ、という自分自身のハードルも高めることができます。

結果的に住民の皆さんの手に渡って、「毎月ポストを開けるのが楽しみになった」という方が増えていくと、仕事が「たのしごと」に変化して、もっと楽しくなる。

「佐久間さんだからできるんでしょ?」と言われたこともありますが、そもそもやる前に「どうせやっても無理かな?」とか、やらないための言い訳をすることがないんです。

自治体広報「日本一」。ノウハウを広めることが使命

── リニューアルから4年後の2015年に、「広報みよし」は全国広報コンクールで内閣総理大臣賞を受賞されましたね。その時はどのように感じましたか?

佐久間:異動する時に「日本一の広報を実現する」と町長と約束したので、肩の荷がおりました。日本一をいただけたのは、三芳町が魅力的な町であることと、住民・職場の皆さんのご協力のおかげです。知らせがあった時には、「住民の皆さん、おめでとうございます!」と心の中で叫びました。

日本一になり、三芳町のことをより多くの方に知ってもらえることで、住民の皆さんに喜んでもらえることが本当に嬉しかったんです。内閣総理大臣賞を受賞すると「銀杯」を授与されるのですが、それを町に届けることができたこともよかったと思います。

それから忘れてはいけないのは家族の協力です。取材などで休日も出ずっぱり。当時はまだ子どもたちが小さかったので妻に本当に迷惑をかけていたので、頑張りが報われて安心しましたね。

行政広報アドバイザーインタビュー04

実際、埼玉新聞の一面に載ったり、NHKの特集で15分放映してもらえたり、多くのメディアに取材いただきました。住民の皆さんから、「うちの市の広報はすごい」と言ってもらえたり、高校時代の先生から「佐久間、がんばっているな」と手紙をいただいたりもしましたね。

この受賞がきっかけで、三芳町で築いた広報ノウハウを日本全国の地方自治体に広めていきたいなとも思うようになりました。各自治体の広報担当から「伝える」から「伝わる」までにはいけていないと、課題を教えてもらっていたこともあったので。目的が載せることになっている、“アリバイ広報”って多いんですよね。

── アリバイ広報……?

佐久間:僕の造語なのですが、住民の皆さんに知って理解してもらうことが目的ではなく、クレームを防ぐための免罪符のような広報活動のことです。アリバイ広報では、注釈ばかりで事細かく情報を掲載しすぎて、本質がわかりづらくなってしまうんですよ

そこで2016年には、「どうしたら住民に伝わる広報ができるのか」と、もがいている全国の自治体職員の力になりたいなと思い、三芳町の文化会館のホールを借り「全国広報会議」を開きました。

告知先は僕のFacebookだけでしたが、北は北海道、南は長崎まで、115人が集まりました。みんなモチベーションが高くて、自腹ですよ。コンテンツは、いろんな自治体の職員に、写真やレイアウト、文章などについてカテゴリ別で話をしてもらったり、グループにわかれて意見交換をしてもらうようなものです。

全国から自治体の職員の皆さんが集まった「全国広報会議」
全国から自治体の職員の皆さんが集まった「全国広報会議」

「あの会議がターニングポイントだった」と言ってくれた地方の職員さんもいて、2020年に独立するまで、年に1回の頻度で開催し続けました。それからいろんな自治体に直接お話するようになる回数が増えてきました。

同時に、出張が増えて自分がいなくなる分、同僚に迷惑をかけてしまうことの罪悪感と、自分が培った広報ノウハウを日本全国に広げていきたいという想いが交差していきました。

そこであらためて考えた時に、「公務員の広報力が上がれば、住民に大事な情報が届き、必要な制度が使えて、日本を変えられるのではないか」と思ったんです。それからは決意も固まり、迷うことなく辞表を出しました。

── 周りの人はどのような反応でしたか?

周りの人からは、「だよね、辞めるよね」と言われました(笑)。「行かないで」とは全く言われず、快く送り出してくれました。

公務員の広報力で日本を元気に

── 現在は、自治体広報アドバイザーとしてどのような活動をされているのですか?

佐久間:埼玉県北本市、神奈川県茅ヶ崎市、東京都中野区、清瀬市、岐阜県垂井市のアドバイザーとして、都度ミーティングをしたり、実地で一緒にチラシや企画書、広報紙を作ったりしています。

意識しているのは、住民が感じている課題は何かを丁寧にすり合わせることです。課題を吸い上げるために、アンケートを取ったり、インタビューして現状把握をして、正しく伝わっていないことを認識して、何を改善していったらいいかを決めています。

行政広報アドバイザーインタビュー05

例えば、75歳以上のワクチン接種の予約は、本人でなく、お子さんやお孫さんが代わりに対応するケースがほとんどです。高齢の方の免許返還手続きのお知らせも、本人ではなく、ご家族の方に「最近ご家族の運転気になりませんか?『免許返納』という制度がありますよ」と伝えると、「最近おじいちゃんの運転気になるな、声かけてみようかな」と具体的な行動につながりやすくなります。

若い人に届くことが、結果として全世代に届くというのは、僕の原点でもあります。課題を解決するためのプロセスの道筋と、広報のノウハウの両輪でのアドバイスを大事にしています。

── 佐久間さんイズムが他の市区町村にも広がっているんですね。

佐久間:北本市でも外注していた広報紙を印刷以外すべて内製化して、700万円ほどのコストカットに成功しています。今年の全国広報コンクール埼玉県代表に、「一枚写真部門」にて選出もされています。また、4年前まで数百万円だったふるさと納税の収入が、2022年は9億円ほどになる見込みも立っているんです。

北本市のふるさと納税担当の方は、もともと広報担当だったのですが、「全国広報会議」をきっかけに広報マインドを持ち、部署は変わっても広報イズムを伝承しています。税収が上がれば、道路整備や、子育て支援等の行政施策にも還元されますし、北本市は素晴らしいモデルケースだと思います。

── 今後の目標を教えてください。

佐久間:広報を通じて、日本を元気にしたいと思っています。悩んでいる公務員の力になりたいです。日本には約330万人の地方自治体の公務員がいるので、その1%、3万人の広報力が上がれば、日本が変わると思っています。全国には1,800ほどの自治体があるのですが、全自治体にノウハウを広げていきたいです。

── では、佐久間さんにとって、広報PRとは?

佐久間:僕にとって広報PRとは、ラブレターです。当たり前に思っているコトやモノが、実は宝物になることがあります。地域の自然や人、歴史、特産品など、ダイヤの原石を見つけ、磨き、伝わるように届けることが僕の使命です。

行政広報アドバイザーインタビュー06

町への愛と自分の意思をカタチした広報が、住民との橋渡しに

「捨てられた広報紙」へのやるせなさから未経験の広報担当に手を挙げ、従来の紙面を見直し、印刷以外のすべてを内製化した佐久間さん。「住民に町の魅力をもっと知ってほしい」「町の魅力をこんな風に表したい」という想いをカタチにし、広報紙が町と住民をつなぐ重要な橋渡しの役割を果たすようになっていました

「各地域にあるダイヤの原石を発見すること」「発見したダイヤの原石を、自分の意思を込めて磨き、住民にわかりやすく届けること」。町への愛と、自分の意思をカタチにしていく佐久間さんの姿勢は、あなたの一歩のお守りになるかもしれません。

(撮影:近澤幸司)

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この記事のライター

Asami Okada

大学時代に所属していた教育系NPOで広報・採用のコミュニケーション領域に出会う。新卒で福祉系ベンチャー企業にてPRとマーケティングを経験したのち、現在は女性向けのライフキャリア支援サービス運営会社にて、広報PRとプロダクトづくりを担当。あるストーリーの裏側をことばに乗せて伝えていきたい。銭湯でぼーっとする瞬間がすきです。

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