トレンドが目まぐるしく変わる外食産業。多様な情報発信が進む中、メディアや顧客との関係性で必要なことはなんでしょうか。
PR TIMESが2024年1月19日に開催したユーザー会「テーマ:繁盛店の企画の裏側と目を引く発信術」には、外食産業のための経営誌『月刊食堂』編集長を務める通山茂之さんが登壇。登壇前の通山さんに、外食産業を20年以上追い続けてきて感じる広報PRの変化、メディアの介在価値について伺いました。
株式会社柴田書店 雑誌編集部部長 兼 月刊食堂 編集長
1998年株式会社柴田書店入社、広告部(現:企画部)配属。同社発行の外食産業のための経営誌「月刊食堂」副編集長、売れるメニューと繁盛店の秘訣を提供する「居酒屋」編集長を歴任し、2011年7月より「月刊食堂」編集長。2017年2月からは雑誌編集部部長も兼任し、現職。柴田書店入社以降、日本全国はもちろんアジアなどの海外へも繁盛レストランの取材を数多く重ね、その豊富なデータと経験をもとにした情報発信・セミナー登壇を行う。
広報PRがうまい飲食店に共通する5ヵ条
──本日はよろしくお願いします。早速ですが通山さんから見て、広報PR活動がうまくいっていると思う企業(飲食店)に共通点はありますか。
はい、よろしくお願いします。共通点を5つ考えてきましたよ。
- 広報室が社長直轄になっている
- 部内の情報共有ができている
- 自社の都合ばかりを押し付けない
- 同業他社のことをよく知っている
- レスポンスが早い
|会社への利益を長い目で考える
マスコミはやはり時間がありません。できる限りよい情報を、高い精度で報道したいとメディアはみんな思っていますが、常に時間との戦いです。広報PRがうまい飲食店の共通点として、先ほど紹介した5ヵ条は、われわれの効率化を考えているわけではなくて。社長直轄なので結論が早い、部内の情報が集約されていてアウトプットが早い、だからレスポンス早い……この部分を短縮できたことによって、よりよい情報を発信しようとしてるんです。
飲食店の広報PR担当者には、会社のことを広く知っていてほしいですね。例えば、人材をテーマにした取材のとき、社長や人事部長など複数の選択肢がある中で誰に取材を受けてもらうか判断する必要があります。メディアが期待する内容と、自社が伝えたい内容を加味して差配する必要があるので、どれくらい会社や社内の人のことをわかっているか、という点は重要です。
あと、あくまで広報PRとメディアの関係性って、「利益が一緒の方向の部分」と「利益が相反する部分」とはっきり分かれてるじゃないすか。
広報PRは「自社を広く発信したい」、メディアは「面白い活動を発信したい」。両者ともよい情報を世の中に発信したいという点は同じで、お互いにメリットは一致しているはずなんですよね。一方、広報PRが「自社の都合のいい情報を流してほしい」と思っているとすると、メディアは「都合のいい話だけでは困る」ので、ここでは相反しているわけですよ。
ここが、自社の都合ばかりを押し付けないことに関連してくるわけです。広報としてはあまり知られたくない情報であったとしても、メディアが知りたい場合、社内で調整して、妥協点を見つけ、メディアと交渉をすることが求められてきますね。企業として長い目で見たときに、自社の情報をどう取り扱うのか、先々まで考えられるかが大切になってくる気がします。
|メディアへの価値を相手の視点で考える
──メディアの利益とするところ=メリットを考えれば、広報PR担当者としての提案も変わりますよね。
そうですね。本来、メディアはよりよい社会を創るために運営していますし、企業もよりよい社会を創るために事業をしているはずです。これは、メディアの人に共通する性質だと思うんですけど、好奇心旺盛で研究熱心なので、実際に映像にしたり書いたりしない情報でも知りたいんですよね。
一つは自分だけが知っているという「特別」感。もう一つはメディアとして情報発信するときに、できるだけ多くの判断材料が得られるというもの。この二つの意味で、情報を知りたいんですよ。
──メディアが出す際、ちょっとした表現に関わりますよね。
そうですね。メディア関係者も広報PR担当者も人間なので、100人いたら100通りの解釈をしますし、100人の価値観が混ざっているものなんです。できるだけ多方面、多様な角度からの情報が入ってきたほうが、情報の精度が上がります。
ある会社の取り組みについて伝える際、「こういう取り組みをやっている」と書くか、「こういう取り組みもやっている」と書くかでは、まったく意味が変わります。後者の場合、ほかの取り組みについて書かれていなくても複数の取り組みをしていることがわかりますよね。正確性を担保するといった意味でも大事なんですよ。
|情報価値を高める状況をつくる
──「同業他社のことをよく知っている」についてはいかがでしょうか。
メディアの人たちが何でも知っているわけじゃなくて、例えば、「自社の離職率は5%です」という情報をもらってもそれが低いのか高いのかすぐに判断できません。「業界平均30%の中、自社の離職率は5%です」と言われれば、低い離職率ということがわかりますし、「業界で人気の〇〇社の離職率が10%の中、自社の離職率は5%です」と言われれば、実際に原稿に書かないとしても、自社の数字が際立つわけです。
飲食業って見えない部分が少ないので、観察し放題なんですよ。オープンキッチンであれば、機器機材や調味料までわかるわけです。業務外のことであっても関心があったほうがいいでしょうね。1回の取材でも話の幅の広がりがでますし、別の機会に何か知ってそう、教えてくれそうと思い出すこともあります。広報PRに限った話ではありませんが、接触回数が増えれば増えるほど、その企業の引き出しが増し、取り上げる機会につながりますしね。
脳を刺激するファストフード戦術
──まさにサービス業とされる業態は飲食店に限らず、見える部分が多いですね。今教えていただいた、広報PR活動がうまくいっている企業(飲食店)の共通点ですが、業態ごとに異なるのでしょうか。
異なる点は多くはないのですが、ファストフードだけは違う気がしますね。広報のあり方が違うほうがいいと思っています。
基本的に小さい頃から食べていない料理は、胃袋が自然に欲するものではないと言われるんですよ。一方で海外に行ったときに、お米を食べたい、味噌汁を飲みたいという状態になるのは胃袋が欲しているんですよね。
「客数」は来店回数のことを指すわけですが、日本人が月1回しか外食しないとすると月1億2000万人、1日3食外食だとしても最大1日3億6000人なんです。
ファーストフードのように脳を刺激して来店を促す業態と、胃袋を刺激したほうがよい業態では、広報PR活動は大きく分かれると思います。
「体験型」「信頼型」に迫る広報PR
新しい料理こそ「信頼」を得る広報PR活動
──接触回数同様、人の記憶に残る必要があるわけですね。
そうそう。人間はできる限りいらない情報を頭から排除します。だからこそ、外食も最初にどこが浮かぶかが大事です。「焼き肉を食べたい」って思ったとすると、おそらく行きたい店舗の上位3つくらいを思い出している。きっと、ストレスなく意思決定するのにちょうどよい数なんですよね。
あと、料理って特殊なものを除いて取扱説明書が必要ないでしょ。だけど、胃袋の中に入れるものなので、知らない料理はあんまり食べたくならない。本能的にこわいし、保守的になるんですよね。コロナ禍でデリバリーが流行りましたが、売れるのはやっぱり大手でした。
だから、新しい料理ほど、広報PR活動が必要になるわけです。
広報PRの変化とメディアの介在価値
──最後に。20年以上外食産業のことを見てきた通山さんから見て、広報PR活動はどう変化してきていると感じますか。
結局、企業の広報PRは消費者との信頼関係をどう結ぶかなんだと思うんです。
「メディアとの付き合い方」に終始してしまうことが多いですが、本当は顧客とのリレーションシップ、信頼関係を築くことが一番の目的なんだと思うんですよね。
顧客に直接情報が届けられなかったので、メディアが代行してきましたが、InstagramをはじめとするSNSが出てきたことで、顧客と直接コミュニケーションができるようになったわけです。すごく信頼関係を結びやすくなっていると思います。
では、メディアの価値の価値は何かというと、顧客にとって客観的な情報を得られることです。
──企業は客観的な評価として情報を届けられるわけですね。
メディアという第三者を挟んだ情報と、直接InstagramなどのSNSで得られる情報は意味合いが異なります。
今、ものがあふれている時代で、購買意欲は「体験型」か「信頼型」いずれかになっている。「私たちの料理を食べることでこういう体験ができます」と伝えることや、「私たちの料理はこれだけ食材に気をつけてます」とお客さまに向き合う姿勢を示すことが購買意欲に影響しているのではないでしょうか。
最終目的は、顧客と信頼関係を結ぶことだとだからこそ、いろんなものを併用して広報PR活動していくことが必要になってきていると感じます。
まとめ:広報PRの本質を忘れず、メディアとよい関係を築こう
『月刊食堂』の編集長・通山さんによる広報PRがうまい飲食店の共通点、メディアの介在価値への見解をお届けしました。
情勢やトレンドによって目まぐるしく変わる外食産業の広報PRの在り方。生活者にダイレクトに情報を届けられるようになりましたが、広報PRの本質である「顧客とのリレーションシップ、信頼関係を築くこと」は変わりありません。
この本質を忘れず、客観的に情報を届けるメディアとの関係を構築してくださいね。
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