昨年12月に開催されたマーケティングイベント「宣伝会議リージョナルサミット2023」。本記事では、「地域から全国への広報術(企業・メディア両者の視点)」をテーマにした福岡会場での講演会の様子をレポートします。
第一部では、福岡県大川市にある株式会社関家具でひとり広報として奮闘する高山茜子さんが、「創業以来55年の黒字成長の原動力。オーナーシップを持つ社員のストーリーが企業の広報力を高める。」をテーマに登壇。
第二部では、九州7県と沖縄、山口県を発行エリアとする読売新聞西部本社経済部の山根浩二さんを迎え、メディア側の視点から取り上げる内容の判断基準について話を伺いました。
PR TIMES営業本部の柏木が聞き手となり、展開された講演の内容をお伝えします。
株式会社関家具 経理総務部 広報課 課長
福岡生まれの福岡育ち。同志社大学卒業後、働くならやりがいを持てる会社を選びたいと2014年新卒にて関家具へ入社。 入社後は、営業部へ配属となり、7年間 全国の家具量販店やインテリアショップ等を担当。女性チームリーダーとして活躍。 キャリアアップとして、直営ECストアの店長を1年経験した後、広報課の立ち上げにともない、2023年2月より現職。
株式会社読売新聞西部本社 経済部部長
1995年、九州大学法学部卒業、読売新聞社(現・読売新聞西部本社)入社。山口総局、西部本社経済部で運輸業界、東京本社経済部では東京証券取引所など証券業界や自動車業界を担当した。西部本社経済部に戻り、金融、エネルギー、財界などを取材した。その後、役員室や企画共創部などを経て、5月から西部本社経済部長。福岡市出身。52歳。
株式会社PR TIMES 営業本部
慶應義塾大学卒業後、2020年4月に新卒でPR TIMESに入社。幅広い業界・企業規模の企業のPR支援を実施。ご利用開始後のカスタマーサクセスの役割まで担う。PR TIMESご利用企業やメディアの編集者に登壇いただき、広報PRに関して話していただく「PR TIMES ユーザー会」を運営し、効果的な情報発信の支援も実施。現在、福岡エリアでのPR TIMES活用拡大に向けて邁進中。
第一部:福岡から全国へ。関家具に学ぶ認知度を高める広報PR
福岡県大川市に本社を構える家具総合商社「関家具」。「世界に新しいライフシーンを創造し、人々に幸せと感動を提供する」という理念のもと、創業から55年間黒字経営を続け、家具卸売業界でのシェアは10年連続No.1を誇ります。
同社経理総務部広報課の高山さんに福岡から全国へ発信する広報PR活動についてお話を伺いました。
広報の立ち上げ、「攻めの広報」をスタート
柏木:まず、関家具の広報体制について教えてください。
高山さん(以下、敬称略):2023年2月に広報課が立ち上がりました。入社10年で会社のことをたくさん知っているのと、営業出身で会社の売りや強みを理解していることから選んでいただき、現在は「ひとり広報」を担っていますが、社内に「広報委員会」を立ち上げて他部署の人にも手伝ってもらえる体制を築いています。
広報のノウハウが蓄積されておらず、「この方法があっているのか」「もっとよい方法があるのでは」と悩むこともありますが、会社は風通しがよくアットホームな雰囲気。何か情報を発信する際もすぐに社長に判断を仰いでスピード感を持って進められますし、もともと広報の窓口をされていた方や、営業出身の専務も近くにいるので、相談しながら広報PR活動に取り組んでいます。
柏木:なぜ、昨年2月というタイミングで広報課を立ち上げることになったのでしょうか。
高山:2年ほど前に、テレビ東京の番組『カンブリア宮殿』に取り上げていただいたのをきっかけに、「関家具」という名前を広く知っていただけました。
全国からお問い合わせをいただいたり、番組を見てうちの会社で働きたいと言ってくださる学生さんもいたり、そろそろ社外に向けた攻めの広報というものが必要なのではという話になったんです。
ひとり広報のコツは「社内を巻き込む」こと
柏木:ひとり広報ということで、具体的にどのような広報PR活動をされているのでしょうか。
高山:プレスリリースの作成と配信、メディアの取材対応など、皆さんがされていることと変わらないと思います。あとは、社内コミュニケーション活動の一環で社内報を作成し、社外の情報を社内に発信したり。また、X(旧 Twitter)のほかに、今後はオウンドメディアも運営していく予定です。
会社の認知度が上がるにつれて、全国からの採用エントリー数も増えています。ありがたいことに、東北や沖縄から来てくださる方もいて、広報PR活動をするうえでは採用という側面も意識するようになりました。
柏木:ひとり広報は「時間がない」という部分で苦労されている方も多いと思いますが、ポイントなどあれば伺いたいです。
高山:ひとり広報で回せているのは、たくさんある仕事をいろいろな人に割り振っているからだと思います。社歴が長くなると、ほとんどの社員の特徴や特技、良いところをたくさん知れるので、私よりも適任がいる場合にはその方に仕事をお願いするんです。
あとは、うちの会社はワンフロアで、もともと社員同士の意見が活発に交わされていますが、より拍車をかけてみんなでコミュニケーションを取るようには意識しています。広報委員会をはじめ、社内を巻き込んで広報PR活動に取り組んでいる感じです。
また、最近は直営店の広報PRにも力を入れていて、各店舗の販促担当とやりとりをすることが多く、各ブランドの販促担当者と私とで30〜40人のグループラインを作って、その中で情報などをもらうようにしています。
「これはネタになりますか?」「これを社内外にPRしてください」と従業員が積極的に売り込んでくれて、ネタが多くなりすぎることもあるほどです。
社内外にファンを増やす関家具の広報PR戦略
柏木:関家具の具体的な広報PR活動についてもお聞きしたいです。プレスリリースの配信数やメディアとのコミュニケーションについて教えてください。
高山:月に2、3本を目標に、多いときもあれば少ないときもあるという感じです。新商品の発売だけでなく、官民連携のプロジェクトのようにコラボや協賛のプレスリリースも随時配信しています。
誰にどのように刺さるのかわからないので、今はできるだけ数を多く出したいと思っているんです。全国の皆さんに、いろいろな角度から少しでも関家具を知っていただくチャンスが生まれればいいなと考えながら取り組んでいます。
メディアとのコミュニケーションは、広告代理店にプレゼンしたり、テレビ局やそのほかのメディア関係者に直談判したりすることはあります。「こういう新商品があります」だけでは取り上げていただくのは難しいと思うので、家具のプレゼントや商品の割引サービスを提供して、ネタと抱き合わせで使っていただくなど工夫しています。
柏木:印象に残っている取り組みはありますか。
高山:関家具はもともと福岡ソフトバンクホークスのスポンサーで、PayPayドームのホームベース後方に看板を出させていただいています。それを、昨年5月に大関友久投手の登板に合わせて「大関家具」と表記したところ、SNSでとても話題になったんです。
取り組みに対するSNSの反応も好評で、「グッズがほしい」という声があったので、すぐにソフトバンクさんにお願いして進め、プレゼントキャンペーンも実施しました。SNSをはじめ、エンドユーザーのニーズや希望に応えることができた取り組みだったと思います。
参考:PayPayドームの看板と同じデザイン!【大関家具】オリジナルタオルを限定製作
高山:大きな反響があった取り組みでもうひとつ、関家具にとって8つ目のECサイトとなる『SEKIKAGU ORDER』オープンのプレスリリース配信も印象に残っています。
『SEKIKAGU ORDER』は、全国から注文できる新しいオーダーサイトで、28,000通りの中からテーブルを選ぶことができます。この数字のインパクトと刺さりやすいワードを使ってプレスリリースを作成したところ反響がとても大きく、実際に取材もいくつかいただきました。マイナビニュースなどをはじめ、関家具の名前を全国で見ていただける機会になったと思います。
参考:初のオーダーに特化した自社ECサイト「SEKIKAGU ORDER(セキカグオーダー)」が10/17(火) OPENします。
柏木:最後の質問になります。今後、広報PR活動を通して、会社や事業にどういった貢献をしていきたいと思いますか。
高山:最終的な目標は、関家具の認知度を上げていくことです。社内にも社外にもファンをより増やしていくことを意識して日々取り組んでいます。
その一方で、会社の認知度を上げていくだけでなく、福岡県大川市に本社を置く企業として関家具が有名になることで大川市という地域の活性化が実現するといいなと思います。
「人々の幸せを豊かにしたり、暮らしを楽しくするものであればなんでも取り扱ってよい」というのが関家具の創業者で代表取締役会長である関文彦の口癖でもあって、地域や世界の皆さんに楽しい生活を送っていただけるような会社を目指しています。
第二部:読売新聞に聞く全国へ情報を展開するヒント
広報PR担当者にとって、メディアがどのような視点で情報収集をしニュースを発信しているのかは気になる部分ではないでしょうか。
福岡市に本社を置き、九州・山口で読売新聞を発行する読売新聞西部本社の経済部の山根さんに、新聞の特徴やメディア視点でみた情報発信のポイントを伺いました。
九州・山口のローカルなニュースを特集
柏木:まず、経済部がどのような記事を扱っているのか教えていただけますか。
山根:私が担当している経済面は主に2つ。全国の経済ニュースについて書かれている「A経面」と、地元のニュースも掲載する「B経面」です。それとは別に、九州・山口のローカルなニュースを特集する『ウィークリーけいざい』という紙面が毎週金曜日にあります。
柏木:『ウィークリーけいざい』の特集で、全国でも反響が大きかったものがあったそうですね。
山根:昨年4月から『ウィークリーけいざい』の中で、「会社のカタチ」というひとつの企業を深掘りする特集ができました。1回目は、西日本鉄道の国際物流を取り上げた特集だったのですが、紙面、Webともに手応えを感じた記事でした。
この記事が掲載されたのは5月12日の紙面で、偶然その前日が西日本鉄道さんの決算発表の日。林田社長は会見で過去最高利益を報告し、利益に貢献した部分として国際物流を挙げたんです。
翌日のB経面で記事を出しましたが、国際物流について触れているのは数行でした。しかし、ページをめくると『ウィークリーけいざい』で国際物流が特集されている。まるで予定していたかのように深掘りしていて、それを読めば国際物流がどのように好調だったのかがわかるようになっていたんです。
Webニュースへの転載によって九州地方・山口県の記事が全国へ
柏木:読売新聞は全国紙ですが、西部本社の記事を全国で取り扱ってもらうような動きもされているのでしょうか。また、全国の紙面に載らなかったとしても、ネット記事に載せることは多いのでしょうか。
山根:東京経済部と大阪経済部とはやりとりをしていますので、先ほどのページでいうとB経面に、西部本社の記事が載ることは昔よりも増えてきています。
また、「読売新聞オンライン」という自社のサイトに載せることも多いです。その後、外部配信でもっとも見られているYahoo!ニュースに載ることもあります。西部本社の経済部が書いた記事は、特に「経済」「地域」というカテゴリーでの掲載が多いですね。先ほどお話した特集「会社のカタチ」の西日本鉄道さんの記事もYahoo!ニュースで配信されてトータルで15万PVほどを獲得しました。
柏木:ニュースサイト側としても、新聞社の記事は安心できるのでしょうか。
山根:出どころが不明な記事よりも、やはり新聞記者がきちんと取材をしたという裏付けがあると、ニュースサイト側も扱いやすいのではないでしょうか。
企業のニュースにはテレビ向きのものもあれば新聞向きのものもあります。ネットの記事はリアクションも多く、掲載されることで全国に情報を拡散することが可能です。広報PR担当者の皆さんがメディアを選ぶときには、新聞記者が取材をして、新聞紙面だけでなくWebにも掲載されるということも前提で考えていただければと思います。
柏木:テレビ向きと新聞向きの情報との差はどういう部分ですか。
山根:新店舗オープンのニュースは、テレビで生中継をすると集客につながり、目に見えた成果が出るため、どうしても新聞は分が悪いところがあります。
一方、少し難しい内容や説明が必要な内容、特にトップが登場して語るときは新聞メディアが向いていると思います。例えば、経営戦略を伝えるときなどもそのひとつです。決算発表が終わったあとなど、タイミングを見てぜひ企業の社長さんや経営企画担当の役員さんなどを、広報の皆さんで担ぎ出して、新聞などのインタビューに応じていただきたいですね。
柏木:広報PR担当者がメディアとコミュニケーションを取るうえで、どのような点がポイントになると思いますか。
山根:記者に相談できるようなよい関係をつくっておくことが大切で、そういう記者をどれだけ抱えられるのかが、広報PR活動ではポイントになってくるのではないでしょうか。
今はファンマーケティングが流行っていますが、いかに記者をその企業のファンにしていくのか、その企業の考えがわかる人にしていくのかは、広報やマーケティングの皆さんの腕の見せ所だと思います。
情報収集で重視するのは読者目線での「ニュース性」
柏木:ここからは、山根さんが普段どのように情報収集をされているのか伺っていきたいと思います。
山根:経済系のテレビ番組や、地元のテレビ局が地元企業を取り上げている番組は必ず録画して見るようにしていますし、部員にもそのように勧めています。また、企業がメールや郵送などで送ってくださる社報やニュースなども、必ず目を通して部内でも共有しています。
柏木:記者クラブのプレスリリースなどに関しては、基本的に目を通しているのでしょうか。
山根:毎日多くの資料提供がありますが、地元の上場企業の場合は東京証券取引所が運営している適時開示情報伝達システム「TDネット」にニュースがアップされると見るようにしています。うちでは記者が「今日はこういう記事を出します」という出稿予定を提出しますが、その中に私が見たプレスリリースなどが入っていない場合には、「これを書いたほうがいいよ」とアドバイスしています。
柏木:「ニュース性」にもつながると思いますが、ある特定の企業を取り上げるのは記者として抵抗があったりしますか。
山根:難しいところで、広報PR担当者にも「どうしてこの会社は記事になっているのに、うちはならないのだろう」と疑問に思っている方もいらっしゃると思います。
簡単にいうと、ひとつの企業だけを取り上げるとどうしても宣伝だと思われてしまうことがあるからです。社内でも「これは企業の宣伝で、何のニュースなんだ」と投げかけられることもあります。ですから、ひとつの企業を載せるときには、やはり「ニュース性」が重要になるんです。
これは、企業側にとっての「ニュース」ではなく、私たちとしてはやはり「読者にとってどんなニュースなのか」に尽きます。読者目線を大切にして、ニュース性があるかないかということです。
また企業を取り上げるときには、1つの企業の記事ではなく、2つ、3つと複数の企業を束ねることで宣伝ではなく「トレンド」のニュースになることもあります。
柏木:トレンドを探すときには、ネット検索やPR TIMESのプレスリリースをご活用いただくのでしょうか。
山根:トレンドの記事にするには複数の似た事例や横串のようなものが必要で、それを探す際にはネット検索に頼りがちです。やはり、きちんとした出どころのプレスリリースを出されているということでPR TIMESさんに行き着くことは多々あります。
柏木:最後に、山根さんが今注目している話題やニュースなどがあればお聞きしたいです。
山根:人手不足の話は地元企業からもよく耳にしますし、それに伴ってDX(デジタルトランスフォーメーション)やIoT(モノのインターネット)を進めている話はいろいろなところで出ているので興味はありますね。
それから生成AI。2023年のトレンドでも1位になっていますが、いろいろと規制の動きがある中で、地元企業がどのように対峙しているのか、どのように活用されているのかは関心がある部分です。
メディアの特性を活かし福岡から全国へ
企業とメディア、双方の視点から広報PR活動のノウハウを学ぶことができる講演でした。情報発信のポイントは以下の通りです。
- 社内を巻き込んだ広報PR活動で社内外にファンを増やす
- 広報PRが採用にもつながることを意識する
- メディアとの良好な関係を構築し、相談できる記者を増やす
- 自社を知ってもらう機会を増やすためプレスリリースを積極的に配信
- メディアが重視するのは読者にとってのニュース性
- 新聞の特性を理解してメディアを選択する
- 新聞からWebニュースへの転載で情報が全国へ
地方から全国への認知拡大を目指す際の企業や、これから広報PR活動を強化したい企業にとって、業界問わず参考になるのではないでしょうか。
PR TIMESのご利用を希望される方は、以下より企業登録申請をお願いいたします。登録申請方法と料金プランをあわせてご確認ください。
PR TIMESの企業登録申請をするPR TIMESをご利用希望の方はこちら企業登録申請をする