2023年12月に開催されたマーケティングイベント「宣伝会議リージョナルサミット2023」。大阪講演の第二部では、Webメディア『ツギノジダイ』の編集長を務める杉本崇さんが登壇しました。
本記事では、大阪会場の第一部「マーケティング×広報で神戸から全国へ。バリューを意識したケンミン食品の戦略広報」に続き、杉本さんによるメディア視点から見る取り上げたくなる情報やメディア視点で「刺さる」プレスリリースについてのお話いただいた内容をレポートします。
朝日インタラクティブ株式会社 『ツギノジダイ』編集長
1980年、大阪府東大阪市生まれ。2004年朝日新聞社に記者として入社。事件のほか、医療と科学技術分野を中心に取材を続けてきた。町工場の工場長を父に持ち、ライフワークとして数々の中小企業も取材を続けてきた。2023年4月から朝日インタラクティブへ出向中。
株式会社PR TIMES 営業本部
神戸大学卒業後、2022年4月に新卒でPR TIMESに入社。幅広い業種のクライアントに対し、プレスリリース配信サービスの枠を超えマーケティングやPR手法、効果測定などさまざまなサービスをクライアントの課題に合わせご提案。直近では地域に根づいて活躍されている企業様に対して、地元企業やメディアに広報PRについてお話しいただき地元企業同士の交流のきっかけを生むイベントを企画・運営。地元・関西地方でのPR TIMES活用拡大に向けて邁進中。
地方ライターのネットワークを活かした情報収集
中井:まず、『ツギノジダイ』がどのようなメディアなのか教えていただけますか。
杉本さん(以下、敬称略):『ツギノジダイ』は、「後継者の決意醸成と生産性改革の両輪で中小企業の新たな挑戦を応援する」をミッションに掲げ、「中小企業の後継者不足」という社会問題解決の一助となるさまざまな情報を発信しているメディアです。
DXや生産性向上の事例、補助金・助成金情報、人材育成など、中小企業の若手経営者や後継者に役立つ情報を取り上げています。
中井:全国のさまざまな企業が取り上げられている印象ですが、普段はどのように情報収集をされているのでしょうか。
杉本:地方の中小企業も含めて取り上げるために、地方に住むライターさんたちのネットワークを活かし、各ライターさんの人脈から企業を探し、取材まで対応してもらっています。
また、中小企業の後継者の方とX(旧 Twitter)でやり取りをしながらネットワークを広げ、おもしろそうな企業をピックアップして取材することもあるんですよ。
中井:地方に住むライターさんは、どのようにして地元企業と接点をつくっているのでしょうか。
杉本:地元のタウン誌や企業のPRに関するものなど、地元で仕事を受けている方が多いんです。その中で接点はできますし、「この会社はおもしろそう」「この会社なら大丈夫そう」と感じた会社を選んでいただいています。地方の中小企業は、こちらからは取材が可能かどうか情報が見えにくいため、ライターさんを介することで最初のハードルが下がるのは大きなメリットですね。
メディアが取り上げたくなる2つのポイント
ポイント1.成功事例ではなく「失敗をどう乗り越えたか」
中井:プレスリリースなども多く届いていると思いますが、普段目を通していますか。
杉本:『ツギノジダイ』は、経営者のインタビューや、中小企業の後継者が知りたいテーマが中心で、新商品の紹介記事は扱っていないんです。自社の経営課題と、それをどのように乗り越えたのかを取り上げることが多いため、商品やサービスのプレスリリースは対象となりにくいのですが、「うちの経営者はこんなことに挑戦して頑張っています」というストーリーを持った会社を見かけたときは、取材リストをつくってライターさんに情報共有することはあります。
あくまで『ツギノジダイ』の場合なのですが、新商品や新規事業を発表するまでの過程でうまくいかないことは多くの会社でありますよね。そのときにどんな壁にぶつかって、それをどのようにして乗り越えてきたのかが明確になっていると取材の参考になるでしょう。
これまでのヒアリングの結果からすると、経営者の多くは成功事例よりも失敗事例に興味があると思っています。ぶつかった壁を克服したところまでをひとつのストーリーとして紹介することで失敗事例から学びを得ることができる。そのため、成功事例の裏にある100の失敗を取り上げていきたいんです。
ポイント2.社会貢献や地域貢献に関する取り組み
中井:社会課題を解決するための取り組みなども『ツギノジダイ』で取り上げていますか。
杉本:われわれは、経営課題をどう解決するのかを大切にしているため、社会課題の解決のみを扱うことはありません。もちろん、地域貢献や社会貢献されている企業を応援したいという気持ちもあるので、そういう取り組みをされている企業は取材先の候補としてプラスにはなると思います。他の企業が記事を読んで「うちも取り組んでみよう」と思えるような社会貢献に関する取り組みであれば、取り上げやすいですね。
一般的な話として、メディアとしては、企業の広報PRに協力するためにニュースを作っているのではないので、「読者のためになっているか」が重要です。
例えば、新商品の発売だけではニュースにはなりませんが、「売り上げの〇パーセントを地元の社会活動に寄付」という文脈が付随していると、メディアの取り上げ方が変わってくると思います。
メディア視点で「刺さる」プレスリリースとは
中井:広報体制がない企業が、能動的に情報発信をしていくための第一歩として、どのようなことから始めたらよいと思いますか。
杉本:まずは、社長を含めた経営陣がやる気になること。これは絶対に必要なことだと思います。その次に、自分たちが取り上げてほしいメディアに情報を届けるにはどうしたらよいのかを探るのが大切なポイントです。
中井:ありがとうございます。では、メディアにとってどのようなプレスリリースが「刺さる」と思いますか。
杉本:メディアにはそれぞれ自分たちの読者や視聴者がいます。それは一様ではなくて、業界誌であれば同じ業界の人たちでしょうし、夕方のテレビニュースであれば主婦層やその時間帯に家にいる高齢者が想定されます。
プレスリリースを書く際には、まず取り上げてほしいメディアの読者層を明確にし、その方々の課題や困りごとに対する「こうしてほしい(Want)」の部分に刺さる内容にすること。書き方のテクニックの前に、その大前提を理解することが重要だと思います。
中井:PR TIMESでもプレスリリースの書き方を学ぶ勉強会を開催させていただいていますが、そこでは主に以下の3つのポイントが大切だとお伝えしています。
- タイトル:読まれるかどうかはタイトルが9割。タイトルで内容がわかるように
- なぜ?を書く:なぜ?の部分を語ることが大切。詳細を書く際には相手の立場に立つ
- 画像や写真:画像や写真にこだわり、枚数が豊富であるほうがよい
杉本:画像や写真について言うと企業の広報担当者から画像を個別で送っていただくこともできますが、それぞれの企業担当者も大変でしょう。PR TIMESのプレスリリースに画像を載せておけば、そこから必要な画像素材をダウンロードができてとても便利ですよね。僕自身も取材時の写真だけでは足りない場合に、PR TIMESに掲載されている画像を利用することがあります。
PR TIMESのプレスリリース事例から読み解く地域の広報PR
中井:ここからは、地域に根付いた広報事例として、PR TIMESに掲載いただいた実際のプレスリリースをご紹介。杉本さんには、メディア側としての見解をお尋ねいたします。
事例1.株式会社土田科学(兵庫県/プラスチック製造メーカー)
中井:プラスチックを製造する際に出る廃材を再利用した遊び道具を、地域の子どもたちに無償提供するという取り組み。社会性や地域性共に高く、何がきっかけになったのか、発表までの経緯が書かれています。『ツギノジダイ』でも土田科学の取材記事を掲載されていましたね。
杉本:以前、土田化学の創業家4代目の土田さんが、SNSで外観基準から外れた製品を活かすためのアイデア募集を投稿したことをきっかけに取材しました。その際に「地元の保育園や幼稚園の子どもたちに届けたい」とも伺い、地元の新聞社に情報を届けるようアドバイス。幼稚園の園長先生や保育園の先生は、地域とのつながりを大切にしていて、地元紙を取っていることが多いからです。
地元の新聞に取り上げられ、そのつながりで神戸新聞からの取材にも広がっていきましたね。「廃材の活用」という多くの中小企業が抱えている課題をどのようにして社会に還元していくのか、というプロセスが魅力的な事例でした。
参考:土田化学、廃材をこどもの遊び道具に再利用し保育施設へ無償提供
事例2.株式会社ナリス化粧品(大阪/化粧品製造メーカー)
中井:こちらは、大阪市で女性の活躍関連の受賞歴を持つ株式会社ナリス化粧品のプレスリリースです。今回は、ほぼ全員の男性従業員が1ヵ月以上の育休を取得したという人事データを開示しています。実際に育休を取られた方のコメントもあり、リクルーティングにも寄与する内容でした。メディア側から見て「男性の育児休暇」は取材したくなるテーマでしょうか。
杉本:はい。確かに「男性の育児休暇」はメディアが取り上げたくなるテーマのひとつですが、制度だけでは中身がないニュースになりがちで、ニュースのなかでは事例を紹介したくなります。とはいえ、育休の取得状況を一社ずつ確認するのは大変な作業ですから、プレスリリースで情報が開示されていると取材につながりやすいでしょう。育休に限らず、新しい制度を始めたときには、できるだけ早くプレスリリースを配信することが大切だと思います。
このプレスリリースのように「父の日」間近の配信など、記念日や男性に関するニュースが取り上げられやすいタイミングに合わせることも有効ですね。
まとめ:社会と自社の結び目として情報を発信
メディアの視点から、取り上げたくなる情報発信のポイントが語られた今回のセミナー。終盤で杉本さんが話された「広報やマーケティングは社会と自社の結び目。自社の特徴をきちんと理解したうえで、社会が何を求めているのか、アンテナを高くして情報収集をして会社にフィードバックできる貴重な存在」という言葉が特に印象的でした。
新商品発売のプレスリリースだけでなく、失敗事例やそれを乗り越えたプロセスなど成功の影にある失敗のストーリーも積極的に発信すること、取り上げてほしいメディアの読者層を明確にして、そのニーズに合った内容を提供することなど、業界を問わずさまざまな企業の広報PR活動に役立つポイントが詰まったセミナーだったのではないでしょうか。
第一部で登壇したケンミン食品株式会社・田中国男さんのレポートはこちら:マーケティング×広報で神戸から全国へ。バリューを意識したケンミン食品の戦略広報
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