1955年創業の八重泉酒造は沖縄県石垣市にあります。⽯垣島に古来より伝わる直釜式蒸留などの伝統的な製法と、業界に先駆けて⾏った洋酒樽での⻑期貯蔵の組み合わせに代表される、伝統と⾰新が融合された酒造りが⼋重泉酒造の特⻑です。

2022年、デザイナーの原研哉氏とともに新たな泡盛づくりを始め、最高級泡盛・古酒ブランド「ZAKIMI」シリーズとして販売しました。ZAKIMIは「TWSC」2023焼酎部門で最高金賞も受賞しています。

八重泉酒造が原研哉氏とともに泡盛作りに取り組んだ経緯やデザイン＆泡盛開発の裏側について、代表の座喜味(ざきみ)より、弊社のブランディングを担当した株式会社Tanjun齋藤さんのお話を交えつつご説明します。

⽯垣島の泡盛メーカー「八重泉酒造」、リブランディングがきっかけで原研哉氏とタッグを組むことに

有限会社八重泉酒造は創業1955年、⽯垣島の泡盛メーカーです。⼋重⼭の島々の泉をイメージして⼋重泉と命名され、その島々が⾒渡せる⼩⾼い丘で酒造りを⾏っています。伝統と⾰新が融合された酒造りが⼋重泉の特⻑。石垣島で採れた米を原料とした泡盛や生息する赤ハブを使ったはぶ酒。発酵技術を活かしたワイン、お酢、リキュールなど、⽯垣島ならではの酒造り、新たな商品の開発に取り組んでいます。

リブランディングの背景として若者のアルコール離れがあり、新規顧客の獲得と海外展開が必須の状況でした。特に日本、焼酎・泡盛カテゴリーは低下率が大きく、業界全体でもブランド向上や新たなユーザー獲得の取り組みを進めている状況です。八重泉酒造も、リブランディングによるブランド力向上と海外展開による売上拡大を当初のゴールとしていました。

2020年6月頃、多くの企業サイトやお店のWebサイトをプロデュースしている株式会社Tanjunの齋藤さんに出会いました。プロジェクトは八重泉酒造の社員、お客様へのヒアリングからスタートし、弊社の良いところをたくさん見つけてもらいました。しかしそれらがアピールできていないことが課題となっていることも分かりました。

商品力と石垣島の風土、人々をベースとしたブランディングと戦略立案を、齋藤さんとともに作成しました。重視したのは国内外のコンペティションで受賞歴を作っていくこと、そして新たな顧客との接点を作ることのできるオリジナル商品の開発の2点です。2021年1月にWebサイトをリニューアルオープンし、本格的なブランディングを開始しました。

そんななか、2021年7月に八重泉酒造が世界最高峰の酒類品評会ISCで最高賞の「SHOCHU PRODUCER OF THE YEAR」を獲得しました。これをきっかけに、齋藤さんは八重泉酒造のクオリティに自信を深め、グラフィック・デザイナーの原研哉さんへお酒のデザインを打診してくれました。

原さんは日本を代表するデザイナーです。お酒の分野では「NIKKA」（ウィスキー）、「八海山」（日本酒）、「GRACE WINE」（ワイン）などのデザインで実績を持っているほか、2019 年よりウェブサイト「低空飛行」を立ち上げ、日本の風土を未来資源として活用すべく活動しています。原さんがご快諾くださり、プロジェクトがスタートしました。

世界の高級酒と肩を並べられるような泡盛に。お酒そのものからデザイン

原研哉さんとの共同開発プロジェクトは2021年の初夏に開始されました。泡盛の潜在的な価値を表現し「今までにない高付加価値の商品＝世界の高級酒と肩を並べられるような強いストーリーを持つ酒」をコンセプトにプロジェクトはスタートしました。原さんは今までも「日本の酒の顔」をつくり続けてきたデザイナーです。今回は新たなパッケージデザインの開発だけでなく、泡盛を生み出す「八重山諸島の風土」そのものを表現するプロジェクトとして当初から位置付けられました。

後に原さんは「泡盛については、美味しいにもかからず、それに見合った価格で売られていないと感じていました。デザイナーとしては、潜在する価値を、それにふさわしい姿として表現してみたい、つまり高い付加価値を持ちうるものづくりのお手伝いをしたいと思っていました」と語っています。

ZAKIMIという名称は、八重泉酒造にて行われたミーティングで出てきた名称案の1つです。座喜味社長の名前から取ったものです。「みんなで座って喜ぶ味ってお酒の名前としてすごく良いよね」、という話が出てきて、後日ブランド名となりました。

従来の泡盛とは全く異なるパッケージで高級感を演出。石垣島の風土を表現

原さんたちは、まず「八重山諸島の風土」を理解するために、八重泉酒造の酒造りはもちろん、周辺環境の取材から取り組みました。石垣島を含む八重山諸島は日本本土とは異なる亜熱帯地域に属しています。周囲が海に囲まれている環境から独自の生態系を形成しており、その風景を写真や動画に“生け捕り”的に納めました。これらは編集され、ZAKIMIの特設サイトやSNSで印象的に展開させています。

続いて、パッケージデザインに取り組みました。日本酒や焼酎はある程度顔つきのイメージが確立されています。原さんによれば、すでにある泡盛のボトルはカラフルさ故か明確化されていないという印象があったといいます。原色の色使いは南西諸島の文化であり、それが泡盛らしさとも言えますが、ZAKIMIブランドでは一度そういう方言的慣習を離れて、プレステージ感のある泡盛の姿を探っていきました。

ラベルには鎌村和貴さんという書家の書を大きくあしらいました。「荒々しくも自由奔放な筆致が魅力で、新しい書の才能として期待している人」（原さん）です。鎌村さんの作品のなかで「ゆく」「顔」という書に原さんの目が留まったといいます。その独特の筆蝕に、石垣島の陽光や風雨にさらされた石垣や民家の肌理に近いものが見え、また従来の酒のラベルとは違う「抜けのよさ」が生まれる可能性を感じ、そのままラベルに採用することになりました。

最上級の酒『台風』は石垣島の風土の源泉でもあります。鎌村さんに書を一から作ってもらい、そこには台風や石垣の情景を言葉にして書きなぐったダイナミックな書がコラージュされています。

こうして、ZAKIMIのラインナップは「ゆく」「顔」「台風」という3種に決定しました。

貯蔵された20種類以上の「秘蔵の古酒」の組み合わせに1年以上試行錯誤し、完成した「高級泡盛」

ZAKIMIは「高級泡盛」という、これまでのラインナップとは一線を画す位置付けの商品として、通常商品では取り扱っていない、秘蔵の古酒(クース)を使用することにしました。八重泉酒造は蒸留したての泡盛を新酒として出しながら、一部は長い年月をかけて石垣島という南国の環境で貯蔵し、熟成させる古酒(クース)泡盛造りにも取り組んできました。長期熟成させることで蒸留時の荒々しさが取れ、甘みと香味が備わったまろやかな酒へと変わっていきます。つまり古酒は土地の自然と、経過した時間の産物なのです。

古酒の量は少なく、一般流通は行えない状況ですが、泡盛メーカーとして、古酒を育てる取り組みは創業から続けており、これまでもイベント、店舗限定など数量限定の提供は行ってきました。

プロジェクト初期に3種の酒をリリースすること、希少な古酒を使用する、という方向性が決まり、ここからパッケージのクォリティに負けない酒を3種類生み出す作業が大変でした。

八重泉酒造では年数、素材、蒸留など違いで20種類以上の酒が貯蔵されており、「ゆく」はこの中から選定、「顔」は選定した古酒に樽貯蔵の酒をブレンドしています。「台風」は長期熟成となる30年貯蔵の酒を原さんや関係者にテイスティングしていただいて、最高級に位置づける泡盛となりました。

樽貯蔵の酒も原酒、樽材、年数で多くのバリエーションがあり、これらの組み合わせから選定していく作業は1年近く掛かっています。

世界の高級酒と並ぶ泡盛が完成

2022年8月、泡盛・古酒シリーズ「ZAKIMI」をリリースしました。

「ゆく」は地元石垣島産のお米を原料とした、8年熟成の古酒を100%使用しており、

深い味わいの奥に蒸留時の力強さを残している酒です。職人が手作業で染色した柿渋紙を用いた組み箱を使用しています。価格は700mlで20,000円(税込)。

「顔」は10 年古酒と10 年樽貯蔵のブレンドで、ほんのりと樽の色が滲み出した、微かに淡い琥珀色が特徴です。名称のとおり、まさに八重泉酒造の品質の極まりがここにあります。箱は淡黄色の米杉無垢材を使用しました。木塊を蓋と身に両断し、中身をくり抜くことでボトルを収めるシンプルな機構の木箱です。価格は700mlで60,000円(税込)に設定しました。

「台風」は30年の古酒を、その年に到来した台風の風雨に甕ごと晒して熟成の仕上げとし、その雨水を浄化して、仕上げの割り水として用いました。いわば、みそぎの儀式のようなものですが、海水を循環させ、海と島の生態系を保つうえで欠かせない台風を身中に取り込むというストーリーを内包させています。2022年は台風12号によって完成し、数量限定でラインナップに加わりました。箱は「顔」同様の機構で、黒紫色のウォルナット無垢材を使用しています。価格はシリーズ最高の200,000 円(税込)です。アジア最大級の蒸留酒のコンペティション「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション2023」にて最高金賞も受賞しました。

3種のZAKIMIはそれぞれ味わいが全く異なり、その違いをお客様に楽しんでいただけるはずです。

ZAKIMIは泡盛の頂点を目指す熟成古酒シリーズです。ZAKIMIを通して酒の持っている力、石垣島、八重山諸島の力が合わさることの相乗効果に期待しています。そして、世界の名だたるスピリッツの中に、南国八重山の泡盛古酒を加えてもらえたら、高級泡盛として、これからの泡盛業界を盛り上げる存在になれたらという想いを持っております。

■ZAKIMI ブランドサイト

URL：https://zakimi.yaesen.com/

■八重泉酒造公式サイト

URL：https://yaesen.com/