今年創業63年を迎える、日本の経営コンサルティングファームのパイオニアであるタナベ経営。全国10拠点で約420名のプロフェッショナルを有し、「経営を止めない、経済を止めない」ために日々、全国の経営者や地域のリーダーと共に奮闘しています。本記事では、代表取締役社長：若松 孝彦にインタビューを実施。「コロナ禍の企業の現状」「ニューノーマル時代に求められる経営」、そして「タナベ経営の想い」をお伝えします。

タナベ経営 代表取締役社長 若松孝彦

タナベ経営グループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は業種や規模を問わず1000社以上に及ぶ。独自の経営理論で全国の企業経営者や地域のリーダー、金融機関からも多くの支持を得ている。

1989年にタナベ経営に入社。2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て2014年より代表取締役社長。2016年には同社の東証一部上場を果たす。

『甦る経営』『戦略をつくる力』『100年経営』『ファーストコールカンパニー宣言』（共にダイヤモンド社）ほか著書多数。

関西学院大学大学院（経営学修士）修了。

コロナショックによって、95％ の企業が業績面でのマイナスインパクトのリスクを抱えている

タナベ経営「新型コロナウイルスの企業経営に与える影響に関する調査」より

アンケート結果によると、「全面的かつ直接的にマイナス影響を受けている（32%）」、「部分的かつ直接的にマイナス影響を受けている（37%）」と、全体の約7割がマイナスの影響を直接受けていると回答。「直接的な影響はないが、今後マイナス影響が出るリスクを孕んでいる（26%）」までを含めると、全体の95% が業績面でのマイナスインパクトのリスクを抱えていることがわかりました。

タナベ経営の臨床経験としては、ショック後6ヶ月（今年9月～11月頃）を目途に、資金繰りはさらに厳しくなると予想しています。手元資金の確保、キャッシュフロー経営、企業再建の課題はより加速していくでしょう。

― 特に厳しい影響を受けている業種を教えてください。

若松：交通関連、ホテル・観光、アパレル、エンタメ、外食などのサービス業です。ただ、現実を直視すると、単純な業種という括りでなく、個々の企業によって状況は異なります。損益分岐点操業度が高い（悪い）、自己資本が薄く借入金が多い、取引先が特定業種や企業に偏る、海外依存度が極端に高いなど、「リスク分散」ができていない企業は業種を問わず厳しい。私たちがビジネスドクターとして創業以来、提言し続けてきた「卵は1つの籠に盛らない」「重心（分岐点）の低い安定体質」「無借金―Cash is King」など、長期的な視点で会社を「強く、しなやかにする経営」に以前からどのように向き合ってきたのか、そのためにどのような投資をしてきたのかが本質であると考えています。

― コンサルティング現場における企業のリアル（実態）を教えてください。

若松：私たちは、ミッションとして「『ファーストコールカンパニー 100年先も一番に選ばれる会社（FCC）』を共に創る」を掲げ、以前から長期的視点、サステナブルな経営を目指してコンサルティングを実施してきました。上記のアンケート結果の通り、何らかの業績インパクトを受けているケースも多いのですが、コロナショックに直面した際、私たちの指導を実践されているクライアント企業から、「経常利益率10％ にこだわっていて良かった」「実質無借金経営にしていて助かった」「事業を多角化（分散化）していて良かった」「デジタル投資をしていて助かった」と多くのお声をいただきました。そればかりか、100年経営を目標に「チャンスに変えたい」「スピードアップで変革を進めたい」と前向きに取り組んでいる企業、経営者が多くいらっしゃいます。

コロナ禍で求められる「DX（デジタルトランスフォーメーション）」「広義のインナーブランディング」「新しいM＆A」

― コロナ禍でDX（デジタルトランスフォーメーション）のニーズは増えていますか？

若松：8割経済（ピーク時の8割の水準になる経済）に突入し、営業活動そのものに制約が起きている今、攻めのDXであるデジタルマーケティングの重要度が増しています。特にBtoB企業における営業のデジタルシフトはますます注目を集めています。当社も、グループ会社である㈱リーディング・ソリューションと「営業のデジタルシフトコンサルティング」を共同開発しました。先の損益分岐点操業度の改善対策でもあり、DX組織への転換をご支援しています。

― 2点目として、なぜ今、「広義のインナーブランディング」が必要なのでしょうか？

若松：私自身、約300社を企業再建してきた経験から言えることは、再建が必要な企業ほど「チームワークが悪い」。危機の時にこそ、組織の一体感やチームワークが試されます。有事の際、経営者リーダーシップで求められるのは、①スピード（賛否より速さ）、②丁寧な説明責任、③現場への権限移譲です。そのために必要なことが「インナーブランディング」（組織における正しいコミュニケーション）なのです。

― M＆Aにも新しいニーズがあるのでしょうか？

若松：コロナ禍のような有事では、事業承継に加えて、本業のトランスフォーメーションや事業領域のポートフォリオ再構築をM&A戦略で実現するニーズが拡大しており、私たちが提供している「ターゲットM&A」のニーズも増えています。あらゆる業界で再編が加速していく中、新しいM&Aモデルは、企業規模に関係なく戦略オプションに組み込まれるフェーズに入っています。

ニューノーマル時代に求められるもの

― ニューノーマル時代の企業・社員に求められることを教えてください。

若松：1点目は、今一度、自社の「経営理念」に立脚することです。今回のコロナショックで、直接的ではないにしろ、国民は「生きるか、死ぬか」を経験しました。その中で、各種メディアなどから今まで一方的に与えられてきた情報に対しても、立ち止まって自分の頭で考え直す機会があったのではないでしょうか。危機的な経験をすると、人の価値観は揺らぎます。価値観が揺らいだ時、企業が社員に示すことができる「拠り所」となり得るものが「経営理念」です。目の前の会社や仕事が消滅する時代、企業の貢献価値を示す「経営理念」が、いっそう明確に求められる時代になるのです。

2点目は、「しなやかな適応力」です。今後、人材の新規採用は減少し、失業率は上昇すると予想されます。企業は現有の戦力で未来に向かって新しい組織や仕事をデザインする必要がありますし、同時に、社員側にも新しい組織下での職務や転換に挑戦する「しなやかさ」や「適応力」が求められます。新しく貢献できる仕事の再定義であり、先の戦略的リスク分散にも通じます。会社の生産性と組織の生産性を両立する「しなやかな適応力」から日本らしいジョブ型（職務給）が生まれてくるのではないでしょうか。

3点目は、「新しいコミュニケーションのデザイン」です。Zoomなどのテレビ会議やSNSの活用も新しいコミュニケーションデザインの1つですが、これらは平時の延長線に過ぎません。世界的なマスク着用やソーシャルディスタンスの常態化であらゆるコミュニケーションが崩壊しています。マスク生活は、「目は口ほどに物を言う」という格言すら間違えたものにしました。（やはり目だけでは物を言わないのです）。あるべき質のコミュニケーションレベルをどう取り戻すのか、組織の生産性に直結します。企業はもちろん、社員個々人のDXも重要です。

― ニューノーマル時代の新たなコンサルティングスタイルを教えてください。

若松：オンラインコンサルティングですね。一方で、当社グループでは「チームコンサルティングの7つの約束」の1つとして、「事実追求―Fact-based Approach」を掲げています。コンサルティングが現場主義であることに変わりはありません。タナベ経営は日本で唯一、北海道から沖縄までの全国10都市の拠点（北海道、東北、東京、新潟、中部、北陸、大阪、中四国、九州、沖縄）にコンサルタントを地域密着で配置する戦略を50年以上も続けています。距離を越えたオンラインコンサルティングと地域密着という現場主義が適正に融合した新しいスタイルを追究できれば、今まで以上に多くの企業へ高度な経営判断やコンサルティングを提供できると確信しています。新型コロナウイルス終息後も、リアルのコンサルティングとデジタルでのコンサルティングが併用されるでしょう。

「企業を愛する」という経営理念を持つ私たちだからこそ、企業の「ビジネスドクター」でありたい

― タナベ経営グループの強みは何であると思いますか？

若松：業種や人事・財務・マーケティング・システムなどの経営機能における専門的見地だけでなく、「CEO＝経営者の視点―Top Management View」で課題を把握し、経営全体を良い方向へ導くチームコンサルティングです。そして、全国10都市に拠点展開していること。いつの時代も「医者は近くにいた方が良い」のです。新型コロナウイルス感染対策の影響で県を跨ぐ移動が制限された際も、全国10拠点に地域密着でコンサルタントが駐在していることで、全国の企業に対して、経営を止めることなく持続的に寄り添うことができました。

― ビジネスドクターとはどんな存在だと思いますか？

若松：「企業の命を救う」存在です。ご承知のとおり、患者は命にかかわる病気にかかった際、近くの専門クリニックではなく、「命を救えるか」という基準で病院を選びます。同様に、企業がコンサルティングを求めた際、「命を救えるか」という基準で一番に選ばれる会社でありたい。それが、私たちの考える「ビジネスドクター」です。タナベ経営には60年を超える臨床実績があり、コンサルティングメニューも多角化しています。財務・組織人事・マーケティング・人材開発・M&Aなどの経営機能の専門家や業種別の専門家が、企業の命を救うために”チームコンサルティング”という総合化されたメソッドで企業経営にアプローチできることを大切にしています。患者が自覚症状から診療科目を選んでも、ただの風邪なのか、大きな病気なのか、正しく症状を見極めなければ手遅れになり、命にかかわります。だからこそ、私たちはビジネスドクターとして「All for Our Clients―すべてはクライアントのために」というクライアント中心主義の行動指針を掲げているのです。

― なぜタナベ経営はビジネスドクターにこだわるのでしょうか？

若松：私たちの経営理念は、「企業を愛する」という一文から始まり、「企業とともに歩み、企業繁栄に奉仕する」と続きます。これは日本の経営コンサルティングのパイオニアとして創業した時から大切にしてきた価値観です。「企業とともに歩み」は、クライアント企業の「パートナー」としての長い信頼関係を意味します。時には、相手にとって厳しいことや一時的な痛みを伴う治療も実施する責任ある存在なのです。自身の組織を優先し、患者を後回しにするような病院に命を預けることはできませんよね。患者にとって医者とは、命を預けられる「中立的なパートナー」でなければならないのです。さらには、企業を救った後も持続的に成長できる価値を提供すること、それが「企業繁栄への奉仕」です。私たちが「ビジネスドクター」にこだわるのは、「企業を愛し、企業とともに歩み、企業繁栄に奉仕する」という創業時からの理念がその使命や役割を定義してきたからです。「ビジネスドクター」という考え方は、日本の経営コンサルティングファームのパイオニアと呼ばれるタナベ経営グループの創業の原点から続く物語と繋がっているのです。

■ タナベ経営について

タナベ経営は、1957年（昭和32年）に京都で創業し、今年で創業63年を迎える日本の経営コンサルティングのパイオニアです。「企業を愛し、企業とともに歩み、企業繁栄に奉仕する」という経営理念のもと、「ファーストコールカンパニー 100年先も一番に選ばれる会社」の創造をミッションとしています。グループで400名を超えるプロフェッショナル人材を擁し、「経営者の戦略パートナー」として中堅企業を中心に約7,000社の支援実績があり、その中には上場企業、業界ナンバーワン企業、地域の優良企業が多数含まれます。

「C&C（コンサルティング&コングロマリット）戦略」（コンサルティング領域の多角化）および「コンサルティングプラットフォーム戦略」（全国において高付加価値のコンサルティングを均質に提供）を推進しており、住まいと暮らし・食品&フードサービス・ヘルスケア・物流・ライフ&サービス等のドメイン（業種・事業領域）、中期ビジョン・組織人事・財務・マーケティング・DX・M&A・事業承継等のファンクション（経営機能）、そして業界で唯一北海道から沖縄までの全国主要10都市に密着するリージョン（地域）の3つの観点でコンサルティングメニューを拡大しています。

コンサルティングスタイルとしてはクライアント企業の課題に合わせ、この「ドメイン×ファンクション×リージョン」の3つの観点から複数名のコンサルタントを選定してチームを組成する「チームコンサルティング」を推進しています。

「All for Our Clients すべてはクラアイアントのために」という徹底したクライアント中心主義であり、60年以上の歴史で培ってきた実証済みの戦略メソッドを駆使し、的確な判断で最適な解決策を導き出しています。

https://www.tanabekeiei.co.jp/

■ We are Business Doctors

――日本で、経営コンサルティングがはじまった。

「私が勤めていた会社が倒産した」これは創業者、田辺昇一の原体験。

会社がつぶれるということは、働く社員が路頭に迷い、取引先にも大きな迷惑をかける。

どんなに規模が小さくとも、すべての企業には「命」がある。田辺昇一は、企業を救う医師「Business Doctor」として、企業とともにその命を守っていこうと決心しました。

「会社はつぶれるようにできている」「この国には企業を救う仕事が必要だ」

この思いから、1957年10月16日に「田辺経営相談所」を創業。

日本の経営コンサルティングのパイオニアとして60年以上、その精神と使命は脈々と受け継がれ、「ファーストコールカンパニー 100年先も一番に選ばれる会社」を創造する活動へと続いています。