私たちの生活になくてはならない「紙」。長い歴史を経て、本や名刺、商品パッケージなどの「コミュニケーションツールの重要な素材」として、紙は企業や文化活動に利用されています。そんな紙の歴史や特性を尊重し、新しい価値を生み出しながら後世につないでいきたいという想いをもつ「Paper Parade（ペーパーパレード）」は、紙を由来にしてブランディングを展開する「ブランドペーパー」という手法を生み出しました。

「ブランドペーパー」とは、ブランドの理念を体現する紙を選定し''ブランドペーパー”と定め、その紙が持つ色や風合いを軸にブランドカラーの設定やツール制作等を展開する、ペーパーパレード独自のブランディング手法のこと。既にいくつかのブランドでこの手法を活用しており、いずれもブランドイメージの確立や紙を通したコミュニケーションを生み出しています。また、紙というと名刺やパッケージといった手に取れるリアルなブランディング活動にしか活用できないとイメージしがちですが、紙を軸にデジタルでのブランディング展開も可能なのがこの手法の興味深いところです。

今回は、そんな可能性に満ちた「ブランドペーパー」という手法は一体何がスゴいのか、ペーパーパレードのオフィスにお邪魔して、アートディレクター・守田氏に詳しくお話を聞いてきました。

ペーパーパレードのアートディレクター・守田氏（オフィスにて）

デジタル時代に移行する今だからこそ、「紙」にこだわる

ー　「ブランドペーパー」をはじめて聞いた時、デジタル化が進む今、なぜ「紙」なのか興味をそそられました。

（守田）

そうですよね。デジタルへの移行が進んで資料や名刺をデジタル化したり、本や雑誌はデジタルで読むことが普及しているので、どんどん「紙離れ」しているのは事実ですね。とはいえ、本の質感を求める人が実は今増えていて、装丁にこだわった出版が伸びているという事実もあります。手触りや温かみといったリアルさを伝えれるのが紙、紙は”人の感覚”に響く素材なんですよね。その紙の大きな可能性に気付いたきっかけは、これまでのキャリアが関係しています。

ー　どんなキャリアを歩まれてきたのですか？

（守田）

大学でグラフィックデザインを専攻して、卒業後すぐにコーヒーロースターの道に進んだのですが、東京都墨田区のオープンファクトリー「スミファ」のブランディングプロジェクトのアートディレクションをきっかけにデザインのキャリアに戻りました。その時に、下町の印刷・紙加工工場との協働でプリンティングとプロセッシング技術を深く学ぶことになり、紙の知識や印刷の知見を深めたんです。そこで学べば学ぶほど紙に秘められた可能性を実感して、紙がどんどん好きになって、どうやったらデザインやブランディングに活用できるのかを考え始めました。

ー　コーヒーロースターのキャリアも気になりますが（笑）、なるほど、これまでのご経験から紙の魅力に気付かれたのですね。

（守田）

そうですね。日本には9,000種類を超える紙があるってご存じですか？色、柄、風合い、厚み、機能、製作工程が少しずつ異なるので、紙を見たり触ったりするだけで人の“感覚”に響くものがある。そういったリアルさを通して人と人を繋いでくれるのが紙だと思っています。デジタルを否定はしませんが、デジタルだと表現しきれない部分もあります。ハイブランドなどがお金をかけて紙を特注しブランディングツールを作る背景には、そういったリアルなコミュニケーションが生み出せるからなんですよね。

色、柄、風合い、厚み、機能、製作工程が少しずつ異なる紙が日本には9,000種類以上ある

ー　だから「紙」にこだわるのですね。

（守田）

はい。企業・個人の「強いブランドをつくりたい」という想いに寄り添い、紙の可能性を信じ続けて生まれたのがブランドペーパー。ブランドを何十年、何百年と持続させたいという想いに寄り添いたいという気持ちで日々取り組んでいますね。

ブランディング戦略の軸となる「ブランドペーパー」の役割

ー　私も段々と紙の可能性を実感してきました。実際にブランドペーパーをお願いすることになった場合、どのように進めていくのですか？

（守田）

ブランドペーパーはブランディング構築の手法の一つ。ブランドが何十年、何百年と続いていくために価値を上げたり、良いイメージをつくっていくことを目的に、まずはそのブランドのことを知るところから始めます。ブランドの理念、目標、こだわり、ターゲット、そして予算。全てのお話が聞けたら、VI（ビジュアルアイデンティティ）の設計、コンセプト設計に入ります。このあたりからブランドペーパーの候補となる紙を選定し、候補を絞っていきます。選定時に大事なのが紙自体も持続可能なものであること。廃盤にならないかなどの情報を紙の専門商社の方とやり取りしながら選り分けていきます。その候補を元にブランドイメージをつくっていき、リアルに紙を観たり触ったりしてもらいながらクライアントとブランドペーパーを決めていきます。

ブランドペーパーの進め方

ー　ただブランドに合う紙を選んでデザインに落とし込むのではなく、ブランドの未来をつくるコンサルティングのような動きをされていますね。

（守田）

そうかもしれないですね。ブランドの理念を体現するのがブランドペーパー。ブランドペーパーを軸に、定着させたいイメージやコンセプトに合わせてプロダクトの周辺環境（パッケージなどのツール）を演出するなど、売上や認知獲得のためのマーケティング観点だけではなく、ブランドの未来をつくることを意識しています。

オフィスにずらりと並ぶ紙の見本帖からブランドペーパーになる紙をピックアップ

ー　ブランドペーパーが決まったらその次はどうするのですか？

（守田）

ブランドペーパーを元にブランドカラーを決めていきます。それも決まったら、ツールのデザイン設計に入るのですが、ブランドペーパーを軸にしているので、ツール展開の幅が広がったり時間的な効率が良かったりするのがメリットです。それに印刷や加工などの工夫やアイデアをふくらますのも楽しいですよ。長期的なVI設計ができるので、クライアント側としても可視化されて安心感があると思います。そういった効率性を追求できるのもブランドペーパーの凄いところかなと。

想いや物語があるブランドは、ブランドペーパーで強い世界観を創り出せる

ー　例えば、ブランディングを手掛けられた「HERALBONY」はどのようにブランドペーパーを活用されたのですか？

（守田）

HERALBONYは「日本全国の福祉施設に在籍する作家と共に新たな文化の創造を目指すアートライフブランドにする」という強い理念があります。それに顧客が手に取れるリアルなプロダクトを展開していくということもあり、ブランドペーパーが最大限に活きるだろうなと思っていました。

HERALBONYと相談した上で、「世界自閉症啓発デー」が定めた「癒やし」や「希望」などを表す自閉症のシンボルカラーであるブルーを参考にブランドペーパーを選びを始めました。ブルーを基軸に手触り感などの質感を意識しながら上質さを兼ね備えた紙をいくつかピックアップし、候補の紙を関係者に触ったり比べたりしてもらうことで、最終的に《ビオトープGA-FS　マゼランブルー》がブランドペーパーに決まりました。色も質感もブランド理念を体現するブランドペーパーを軸に、パッケージやショッパー等のツールに展開し、HERALBONYの世界観をつくっていきました。

HERALBONYのパッケージなど

《ビオトープGA-FS　マゼランブルー》の色をブランドカラーに設定したのですが、それがやがて“ヘラルボニーブルー”と呼ばれるようになり、HERALBONYの商品を購入した方からも「あの青はヘラルボニーブルーだよね！」「ヘラルボニーのパッケージって質感がいい」という声をいただくようになりました。ブランドペーパーがブランドコミュニケーションをつくっていると実感した瞬間で、とても嬉しかったですね。

ー　色や質感を通してブランド認知されるって凄いことだと思います。他にも事例があれば是非教えてください。

（守田）

プラスチックに代わる新しい素材で環境に配慮したプロダクトを展開する「PAPLUS」もいい事例のひとつです。環境配慮というブランドの理念や物語を体現するブランディングをしっかりしていきたいとの要望を聞き、再生紙をメインに紙を絞っていきました。度重なる打ち合わせを経て、最終的に新聞や雑誌の古紙からできた100％再生紙をブランドペーパーに定め、再生紙独特のニュートラルなグレーをブランドカラーにしました。パッケージにおいては、厚手が特徴的な再生紙のブランドペーパーで展開し、オフセット印刷でなく印刷時の紙のロスがより少ない活版印刷にすることで環境に配慮したり（*1）、印刷に使う活版インキは植物性のものを使うなど、環境配慮というブランドの理念に沿ったVI設計を徹底しました。これにより、世界観のある強いブランドイメージを構築できたと思います。

環境配慮という「PAPLUS」の理念を体現するパッケージデザイン。中にはタンブラーが入っている

展示会ではブランドペーパーを軸にディスプレイを創り上げた

ー　どちらもブランドの想いや物語が強いからこそ、ブランドペーパーの特性がすごく活きたという感じがしますね。

（守田）

そうだと思います。想いや物語を人に伝えることができるのがブランドペーパーの強みですからね。

あとは、スタートアップ、ベンチャーなどスタートしたばかりのブランド、中小や大企業の新規事業といったゼロイチのフェーズにある人たちのブランドづくりもうまく後押ししていける手法だと思います。

（*1）オフセット印刷をする際に、試し刷りの紙が何百枚、時には何千枚と必要となるため紙が無駄に消費されてしまい、環境に負荷がかかると言われている。

時間効率とコスパを追求できる

ー　紙、印刷、加工といった一連の作業にはお金と手間がかかるイメージが強いのですが、その辺はどうなんでしょうか？

（守田）

物理的な素材を扱うので時間とコストはもちろんかかります。しかし、ブランドペーパーであれば通常かかる無駄をなくし、余剰の時間とコストを生み出せる可能性が高いですね。なぜかというと、ツールに使う素材は基本的にブランドペーパーとなるので毎回紙のサンプル取り寄せの必要がなかったり、紙加工の型を1回作れば何度でも使用できたり、印刷加工屋とのコミュニケーション回数を減らすことができます。それに印刷から加工までをペーパーパレードがディレクションするので、手数料や無駄のない印刷加工を設計し、通常の印刷加工より30～50%のコストを削減することも可能です。それで浮いたお金を箔押しなどの特殊加工に回したりすれば、実は想定よりもこだわったツール展開ができたりします。

ー　箔押ししたくても高くてできないなんてことはよくあるので、夢のようなお話ですね！

（守田）

そうですよね（笑）9,000種類以上の紙の最新情報を日頃から取り入れていたり、印刷加工の知識と実践経験があるからこそできることで、紙選びから印刷、加工までを一貫して手掛けられるのはペーパーパレードならではです。ブランドペーパーで遊んでみたり挑戦してみたり、ブランドに合わせて僕たちから色んな提案をさせていただけると思います。

紙からデジタルへ色を移行する「印象値」のおもしろさ

ー　紙というリアルの凄さはここまでで良く分かりました。最後に、紙を軸に構築した世界観をどうやってデジタルに反映させるのか教えてください。

（守田）

ブランドペーパーからブランドカラーを決める段階で紙の色をデジタルに移行し、紙とデジタル同時並行で世界観をつくるようにしています。この時、紙の色の数値をそのままデジタルに反映させるのでなく、紙の持つ印象や雰囲気を参考にするのを意識しています。印刷の色はCMYK値、デジタルはRGB値と言われる色域でそれぞれ表現されるので、そもそもの色の概念が違うんです。これ以上は長くなるので割愛しますが、数値をそのままデジタルに移行しても目で見えてる色はデジタルでつくれません。だから僕は自分の目で紙の色や風合いといった多角的な情報を「印象値」として抽出し、デジタルへ移行（色をつくる）しています。ほら、数値は同じなのに、デジタル上の色は紙の色と全然違うでしょ（笑）

 ”数値”だけでは紙とデジタルの色は一致しない

ー　本当ですね！人間の目の処理能力はすごいんですね・・・

 （守田）

そうなんです。「印象値」を頼りにしながらRGB値、CMYK値のブランドカラーを設定します。設定したブランドカラーを軸に世界観を構築していくので、紙由来でありながらリアルとデジタル両方においてブランディングが展開できるというわけです。紙の可能性は無限大だと思いませんか？

ー　紙からはじまって、リアルとデジタル両方を行き来しながらブランディング展開ができるというわけですね！ブランドペーパーという手法、スゴすぎます。

“人の感覚”に響く紙を軸にしたブランディング手法「ブランドペーパー」。守田さんのお話を聞いて、想いや物語を体現して持続可能なブランドをつくるこの手法が多くの人に活用されてほしいなと思いました。ブランドペーパーについて気になる方は、ペーパーパレードに問合せしてみてくださいね。守田さん、本日は貴重なお話ありがとうございました！

インタビュー・文／木村真奈美

※ブランドペーパーの前回の取材記事はこちら：https://prtimes.jp/story/detail/jbAlX3hkE4r