データを使ったものづくりを意味する「デジタルファブリケーション」の力で、社会課題の解決を目指す広島県安芸高田市の「ファブラボ広島安芸高田」。
2016年の施設立ち上げ以来、地域と連携してものづくりの魅力を広めてきました。
2022年、ファブラボ広島安芸高田はZホールディングス株式会社が運営するオープンコラボレーションハブ「LODGE」と協業し、「プラスチックゴミのアップサイクル(新たな価値を与えて再生すること)」を楽しく体感できるガチャガチャを制作。制作過程や設計図をオープンソースとして広く公開しました。
この取り組みを伝えたプレスリリースは、「プレスリリースアワード2022」で「パブリック賞」を受賞。さらに、ガチャガチャが横浜や大阪でも制作・設置されるなど、全国各地へ広がりを見せています。
公共性の高い取り組みを、「思わず真似したくなる」ように楽しく表現したプレスリリースが生まれた過程について、ファブラボ広島安芸高田オーナーの渡辺洋一郎さんに聞きました。
ファブラボ広島安芸高田(広島県安芸高田市):最新のプレスリリースはこちら
ファブラボ広島安芸高田 代表
鳥取県出身。2006年マツダ(株)入社。
ものづくりに携わる者として「ものづくりで社会好転を!」と一念発起し、2016年に広島初デジタルファブリケーション施設「ファブラボ広島安芸高田」を創設。
ものづくりで社会に貢献したい。きっかけはリーマンショック
──まず、ファブラボについて教えてください。
ものづくりを身近にすることを目的として、デジタルやアナログの多様な工作機械を備えた、誰でも気軽に立ち寄れる工房を運営する世界的なネットワークです。スタートは2002年ですが、2005年にマサチューセッツ工科大学の教授が著書で紹介して以来、世界的に広まりました。
日本では、慶應義塾大学の教授が2011年に鎌倉に設立したのが最初で、2016年に私が広島県安芸高田市で新たに立ち上げました。
──安芸高田市での立ち上げの経緯、背景を教えてください。
私はもともと自動車エンジニアとして働いており、「ものづくり」で社会をよくしていきたいという想いがありました。大きなきっかけとなったのが2008年のリーマンショックです。世界全体が大きく変化していく中で、自分は社会のために何ができるか考えるようになったんです。本を読んだり、講演会に行ったりする中で出会ったのが「デジタルファブリケーション」という技術、ファブラボの存在でした。日本初のファブラボを設立された大学教授に鎌倉まで会いに行って、「こんなことを広島でやりたい」という話をして許可をもらい、2014年に設立のための準備を始めました。
そこから設立までの2年間は、機材をそろえ、機材の使い方を学び……。家族で広島市から安芸高田市に引っ越しし、農機具やトラクターを入れていたような倉庫を譲り受けて大工さんと二人三脚で改修しました。
設立当時から現在まで、平日は広島の自動車会社でエンジニアをしていて、ファブラボの活動は土日でコツコツと続けています。基本的には私ひとりで活動していますが、必要に応じて知人に声をかけてスタッフとして協力してもらっています。
──普段はファブラボでどのようなお仕事をされているのですか。
ガチャガチャの製作依頼(物販)や新製品の研究開発、ワークショップが多いですね。あとは市の教育委員会と連携して地域の小中学校でICT教育に携わったり、中学生に進路セミナーを行ったりすることもあります。もちろん、ものづくりをしたいとファブラボに来訪される方々のサポートも行っています。
地域おこし協力隊の方と交流があり、その方に市の関係者とつないでいただいたことをきっかけに、いろいろな取り組みで声をかけていただくようになりました。
「プレイフル」「真似したい」を軸に生まれたガチャガチャのアイデア
──ガチャガチャの企画が生まれた経緯を教えてください。
安芸高田市から協力依頼があったんです。安芸高田市とLODGEが共同で、「地域×SDGsの取り組みの事例をつくり、日本各地に広げていきたい」という考えのもとプロジェクトを企画していたところに、「ものづくり」という観点で私のところに声がかかりました。
2021年12月にキックオフのオンライン会議がありました。ペットボトルキャップをアップサイクルしたものづくりにLODGEがすでに取り組んでいて、「廃プラスチックの課題に関する取り組みがいいんじゃないか」という企画の方向性は決まっていたんです。具体的なアイデアを練るため、LODGE、安芸高田市、リサイクル業者のマルシン株式会社、ファブラボ広島安芸高田の4団体でディスカッションを重ねながら進めていきました。
「楽しそう!やってみたい!」と直感的に思ってもらえる「プレイフル」な体験づくり、「自分にもできそう!」と思ってもらえる「軒先アップサイクル」というコンセプトが最初に決まりました。さまざまなアイデアを出し合った中のひとつが、「ガチャガチャ」。子どもはみんなガチャガチャが好きで、やるなと言ってもやりたがるじゃないですか。もっともコンセプトを体現する機能を有しているのではないか?とメンバーと盛り上がりました。
そのあと、ガチャガチャの景品として廃プラで何をつくるかという議論では、何度も回して集めたくなるものがいいという話になりました。ボタン、ジェンガといったアイデアも出たのですが、安芸高田らしさを取り入れたいということで、ジビエ料理として地域でなじみがある「鹿」をモチーフにデザインできるコマに決まったんです。
──自治体や民間企業などさまざまな関係者を巻き込んだ企画ですが、どのようなスケジュールで進んでいったのですか。
12月のキックオフから4月ぐらいまではずっと、週に1回程度オンライン会議でディスカッションが続きましたね。
5月ごろに具体的につくるものが決まってから、設計図などのデータづくりはLODGEと共同で行って、設計図を参考にしながら、ファブラボ安芸高田側でのガチャガチャ制作に取り組んでいきました。試行錯誤の末に完成したのが7月なので、だいたい2~3ヵ月かかったという感じですね。
企画コンセプトを忠実に伝えるプレスリリース
──プレスリリースはいつごろから準備をされていたのですか。
ガチャガチャ本体の制作と並行してプレスリリース発信の準備も進めていました。今回は「地域×SDGsのお手本になる事例をつくって、他の地域に広げていく」ことを目的にしていたので、日本中でこの動きを広めていくためには、各地域で共感してもらえる内容を発信することが重要だと初めから共通認識があったんです。
私はプレスリリースを書くのが初めてだったので、LODGEがプレスリリースのたたき台をつくってくれました。それが4月末ぐらいのことで、ガチャガチャの制作期間と同じぐらいプレスリリース作成にも時間がかかっています。プレスリリース以外の情報発信は特に予定していなかったので、その分すごく力を入れたという形です。
プレスリリースの作成にあたっては、PR TIMESで何十件も他社のプレスリリースを調べて参考にさせてもらいました。「だいたいこういう構成で、こういうところに画像を入れるんだな」ということを学び、この要素も追加したほうがいいのではないか、と提案やディスカッションをしながら作成していきました。
──社会課題などの背景をわかりやすく伝えながらも、画像や動画などビジュアル要素が豊富で見ていて楽しいプレスリリースですよね。その分準備に時間がかかったと思いますが、なぜこれほどビジュアルにこだわったのですか。
企画全体のコンセプトでもありますが、プレスリリースを発信する目的の1つ目は「楽しそう!やってみたい!」と思ってもらうこと、2つ目が「自分にもできそう!」と思ってもらうことでした。
まず1つ目の、「楽しそう!」というプレイフルなイメージを持ってもらうためにはやはりビジュアルが重要だと想い、GIF画像や子どもたちが遊んでいる写真を掲載したいということは初めから考えていました。
それで、ガチャガチャの完成後に地元の子どもたちを集めてワークショップを開催したんです。2日間にわたって実施したんですが、チラシを配ったり小学校に置かせてもらったりして告知をしたおかげもあり、全回満席でした。子どもたちもすごく面白がってくれて、その様子を知人に撮影してもらった結果、とてもいい写真が撮れたんです。
そして2つ目の、プレスリリースを見た人に「自分にもできそう!」と思ってもらうこと。
これは、まず作り方の動画が必要だと思ったので、LODGEと組み立て動画を作成しました。さらに設計図の画像を載せて、部品リストも公開して。途中に入っている図には、ファブラボの「軒先」をイメージしたイラストを入れてもらっています。
「軒先アップサイクル」というコンセプト通り、本格的な機材やスペースがなくても、本当にどこでも、誰でもできることなんだよ、というのを視覚的に伝えたかったんです。ガチャガチャを通じた小さなアップサイクルの輪が、ごく普通の場所でも完結するんだということをわかってもらいたくて。そのためにイラストというビジュアルの力を活用しました。
この2つはすごくこだわったポイントでした。プレスリリースについても毎週のようにメールやオンライン会議でディスカッションを重ねていましたが、最初からこの2点にこだわって書くということは決まっていたので、大幅な手戻りはありませんでした。
──実際にプレスリリースを発信されてみて、反響はいかがでしたか。
Webメディアに取材していただいたり、実際に「つくってみたいんですけどいいですか」「つくってみました」というお声を5件ほどいただいたりしました。事業者さんがイベント会場にガチャガチャを設置したいというケースや、卒論でこの取り組みを扱いたいという学生さんからのメッセージもありました。
日本のいろいろな場所でガチャガチャに興味を持ってくださる方がいて、各地で実際に制作・使用してもらえて……目的がうまく達成されていることを嬉しく思っています。
ものづくりと情報発信を並行する重要性。そして新たな取り組みへ
──初めてのプレスリリースにもかかわらず、そのような反響やプレスリリースアワード2022での受賞につながった理由についてどのようにお考えですか。
プレスリリースアワード2022の、「パブリック賞」受賞についての審査員の方からのコメントで、「公共性の高い取り組みを楽しい体験として提供している」というところを評価いただいたと思うんですが、まさしくその通りで。やっぱり、私たちはものづくりを生業としている「クリエイター」なんです。学校の先生でも研究者でもない。だから、知識やデータを通じて社会に呼びかけるんじゃなく、まず「やってみたい!」と直感的に思ってもらえるモノをつくる。そしてその体験を通して、興味を持ってもらう、学びたいと思ってもらうという流れを起こすことが役割なんです。
そのようなコンセプト、ビジョン、目的をはじめにきちっと固めて、そこからものづくりと情報発信を並行して進めていけたので、「モノづくり」が「価値づくり」となって、プレスリリースだけでも情報がしっかり広がっていったのだと思います。その意味で、プレスリリースを非常にうまく活用できましたね。
結果的に画像や動画などビジュアルにすごくこだわりましたが、「読み手に何を感じてほしいか」ということが明確になっていれば、プレスリリースにどのような工夫をすればいいかは、おのずと見えてくるんじゃないかと思います。
──今後、ファブラボ広島安芸高田としてどのような取り組みを行っていく予定ですか。
今回の企画を通じて、私自身がサーキュラーエコノミーやSDGsに強い興味を持つようになりました。
今、地元のプラスチック処理施設と連携を進めていて、収集されたペットボトルキャップを安定的に供給してもらえるようになったんです。それだけ供給があれば、廃プラから板材を製造して、いずれ椅子などの家具もつくれるようになるのではないかと考えており、研究・開発を続けていく予定です。
これからも環境問題の関心提起につながるようなものづくりを続けていきたいと思っています。新たな取り組みが発表できるようになったら、プレスリリースを通じて情報を発信していきます!
今回の事例ポイント
- 画像や動画、イラストなど、ビジュアルの力を活用することで「楽しそう」というイメージを伝え、「やってみたい」という気持ちを喚起する
- 明確なコンセプト・目的のもと、ものづくりと情報発信を並行して進めていけば、プレスリリースだけでも情報は全国へ広がっていく
広島県安芸高田市で単身ファブラボを立ち上げ、「地域×ものづくり」を起点にサステナブルな社会の実現を目指す渡辺さん。初のプレスリリースにもかかわらず、目的から逆算しさまざまな要素を盛り込むことで、公共性の高い取り組みを楽しく魅力的に伝えることに成功しています。
精力的な情報発信を通じてものづくりの輪を広げていくファブラボ広島安芸高田の取り組みに、今後も注目です。
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