PR TIMES主催で11月16日に開催された、学びとつながりの広報・PR担当者向けコミュニティイベント「PR TIMESカレッジVol.8」。
第ニ部に登壇した高橋弘樹さんのレポート「企業における広報PRの価値と戦略、企画の立て方|PR TIMESカレッジ Vol.8~第ニ部前編〜」に続き、後編をお届けします。
株式会社tonari 代表取締役社長、ReHacQプロデューサー
2005年テレビ東京入社。『家、ついて行ってイイですか?』『ジョージ・ポットマンの平成史』『吉木りさに怒られたい』『AKB48、最近聞いた?』などを企画・演出。2021年よりYouTubeチャンネル「日経テレ東大学」の企画・制作統括を務める。2023年2月末でテレビ東京を退社。3月より株式会社tonari代表取締役CEO。スタートアップ、キャリア、経済学、金融、政治、地方創生、一般教養などを総合的に扱うビジネス動画メディア「ReHacQ」を開設。著書に『TVディレクターの演出術』(筑摩書房)、『敗者の読書術』(主婦の友社)、『都会の異界 東京23区の島に住む』(産業編集センター)、編著書に『天才たちの未来予測図』(マガジンハウス)、『なんで会社辞めたんですか?』(東京ニュース通信社)など。
「刺さる企画」のつくり方
当日、会場から以下の質問が寄せられました。
──ずばり、刺さる企画の考え方を教えてください。
ポイントは「演出」「創出」「送出」です。
「演出」は企画をものにしていくときに必要なもの。比較的うまくいく演出手法としては、根本価値の否定、狙う脳内物質の特定、自明へのアンチテーゼなどがありますが、その中でも僕が特に意識しているのが狙う脳内物質の特定です。
「創出」は企画の種。自分の欲求から出てきたものはヒットしやすいという感覚があります。あとは気になるワンシーン、未知の世界を興味のない人へ届ける工夫、バカげた無茶などですね。
「送出」は社内で通す技術のこと。自分のやりたいことと会社の強みとニーズが合わさる部分はうまくいきやすいと思います。
時間内にお答えいただいた内容ではまだまだ足りない方も多かったと思います。ここからは時間内に収まらなかった「刺さる企画」のつくり方についてレポートします。
刺さる企画の「演出」
1.根本価値の否定
既存の価値観や期待を逆手に取ることで、新鮮な驚きを提供できる、と高橋さんは言います。
ドキュメンタリーは基本的に長期密着が理想的で、名作といわれるドキュメンタリー作品の多くが、1年以上にわたる長期取材に基づいています。この根本的な価値観を否定して制作されたのが、短尺・即興性にこだわった『家、ついて行ってイイですか?』です。
また、『吉木りさに怒られたい』は、「アイドル=常に笑顔でニコニコしている」という根本価値を否定していった企画で、笑顔のイメージが強い吉木りささんが激怒する演出がヒットの源泉となりました。
2.狙う脳内物質の特定
演出をする際に想定する「視聴者にどのような感情を経験してもらうか」という部分を、「どのような脳内物質が出ると見たくなるのか」といった科学的なアプローチによって考えてみる。
『空から日本を見てみよう』は、視聴者にリラックスした気持ちや心地よさを感じてもらいたいと考え、幸福感や安心感をもたらす脳内物質「セロトニン」の分泌を狙い、『世界の果てにひろゆきを置いてきた』は、愛情や絆を深める「オキシトシン」の分泌を目指し、母性や父性にも関連する物質を促すことで、視聴者により深い結びつきや愛着を感じてもらうことを狙ったそうです。
3.自明へのアンチテーゼ
一般的に明らかとされていることや既成概念に対して、アンチテーゼを提示することも、「刺さる」企画の演出方法のひとつです。
例えば、ジャーナリズムにおける権力監視の役割はとても大切ですが、強くなりすぎたことで、政治家や官僚に対するネガティブな感情が増長し、政治不信や政治家・公務員の志望者の減少という問題につながっているのではないかと考えました。そこで、政治や行政の魅力を描くことに重点を置いたのがビジネス動画メディア『ReHacQ』とのことです。
刺さる企画の「創出」
①自分の欲求
まず、自分の欲求に忠実だということ。
多くの時間を要するコンテンツ制作において、自分自身の興味があるものではないと、そもそも熱を入れてつくれません。時代やマーケットにマッチして、軽やかにヒットが生み出される場合もありますが、ほとんどの場合、ヒットしているテレビ番組、映像や映画、いずれも誰かしらの異常ともいえる熱量が入っています。
②日常・読書・映像ワンシーンで心が動いた瞬間を切り取る
企画しようと左脳で考えて良い案が生まれてくることは少ないです。何気ない日常の中で「心が動いた瞬間」を切り取ること、メモしておくことが大切です。
街中に無人のカメラを置いて一言話してもらうという手法があります。コロナ禍を経験し、今でこそ見かけるようになった撮影スタイルですが、この手法から学べるのは、「おもしろいという瞬間」「心が動いた瞬間」を切り取っておくとよいということではないでしょうか。
③未知の世界→興味ない人へ届ける工夫
未知の世界を興味がない人に届ける工夫はコンテンツの定番といえます。テレビ番組であれば、見たことない世界、普段はなかなか見られない世界をお届けする。これはコンテンツの基本で、『世界の果てに、ひろゆき置いてきた』もこの観点からです。
④バカげた無茶
まったく不自由なく生きてる人はいない。みんな社会のルールや金銭面などの何かしらに縛られているのではないでしょうか。日々感じる疲れやストレスを刺しにいけるのがバラエティーなのではないか、と。
バラエティーに特化したポイントかもしれませんが、潜在的ニーズがあるところに刺しにいく手法だと思います。
刺さる企画の「送出」
「刺さる企画」のつくり方の最後にご紹介いいただいたのは、「送出」です。「①自分の欲求」で挙げた通り、自分のやりたいことが根本にあり、それをニーズ(マーケット)とどうすり合わせていくか。そのうえで会社の強みが大事になります。
自分のやりたいことだけでは実現できないし、ニーズだけでは本当につまらない。会社の強みだけ、つまり〇〇会社っぽいと思われてしまうものもよくないので、この3つがうまく組み合わさったときに最高の企画になる、と締めくくりました。
広報PR担当者からの質問に回答(第二弾)
講演当日は広報PR担当者から高橋さんへたくさんの質問が寄せられました。ここでは、当日お時間の関係でお話いただけなかったご参加者の方からの質問への回答をご紹介します。
──エンゲージメントを上げる目的で社内向け動画を発信していますが、徐々に視聴されなくなってきました。高橋さんだったら、どんな対策、工夫をしますか。
役立たないと思われているから多分見られないんだと思うんですよね。
例えば、アンケートを取ったりすると思いますが、本音が返ってくるとは限らないので難しいですよね。それよりも「自分がやりたいこと」と同じく、自分が本当に見たいものを突き詰めるのがいいと思います。自社の社員である以上、ずれないのではないでしょうか。
次の手段としては、本当に仲が良い人に本音を聞くのはいいかもしれないですね。隠されたインサイトみたいなものを踏まえて、もう一度自分自身を観察するのがいいのではないでしょうか。
──「企画を立てるのが楽しくなる、企画のキレが変わる」5ヵ条が、1.引き算力、2.根本的な価値否定、3.うざい魅力の引き出し方、4.圧倒的な企画量、5.徹底した客観視力だとしたら、「タイトルの5ヵ条」は何でしょうか。
そうですね。
- わかりやすさ
- リズム(読んでみて気持ちいいか)
- ざらつき
この3ヵ条ですかね。
3点目の「ざらつき」は、「わかりやすさ」「リズム」と反対に、ざらっとして引っかかるものがあるかです。何も違和感がないと、さらっと流れちゃうと思います。
「どういうこと?」と、心の中で一度は摩擦係数が生まれるようなタイトル付けがいいんじゃないですかね。
──どんな企画書だったら目を通したくなりますか。
短くて、端的な企画書はいいと思いますよ。本当に必要な情報だけで構成する。文字を削る努力をする人は少なくて、僕も文字を削る意識をしてますね。
──動画の話が出ていましたが、視聴完遂率を高くするポイントを教えていただきたいです。
始めのほうにちゃんと気になる点を振っておくこと。これを「引っ張る」というのですが、「これが大事になってくる」とテロップで端的に伝える場合もあれば、書き方で気になるようにすることもありますね。
まとめ:自社の強みを活かし、やりたいこととニーズ最大値をつくる
前編でお届けした「メディア視点から見た広報PRの価値と戦略」では、広報PR活動の「露出の量」と「内容の質」を両方考慮し、また「広さ」と「深さ」を見ていく必要があると語られました。広報PR担当者にとって、自分たちの活動がどれだけの価値を持っているかをより深く理解し、それに基づいて効果的な戦略を立てるためのヒントとなる内容だったのではないでしょうか。。
また、後編でレポートした『「刺さる企画」のつくり方』として、まず必要なのは広報PRの価値を認識したうえで、戦略を立て、企画をつくること。
刺さる企画の「演出」における3つのアプローチ
- 既存の価値観や期待に挑戦する「根本価値の否定」
- 視聴者の感情を脳内物質の分泌に結びつける「狙う脳内物質の特定」
- 一般的な概念に対する反論を提示する「自明へのアンチテーゼ」
刺さる企画の「創出」
- 自分の欲求
- 日常・読書・映像ワンシーンで心が動いた瞬間を切り取る
- 未知の世界→興味ない人へ届ける工夫
- バカげた無茶
刺さる企画の「送出」
- 自分のやりたいこと×ニーズ(マーケット)×会社の強み
既成概念にとらわれず新たな視点を提供することで、テレビやメディアのコンテンツをより魅力的で影響力のあるものに変えていく。高橋さんの『「刺さる企画」のつくり方』は、広報PRの施策を考える際にも参考になりそうです。
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