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埼玉出身者だから見えたおもしろさを大切に。京都・和菓子業界の新参者としての「自社らしさ」|株式会社鼓月

地域の企業にとって、全国への認知拡大は大切な課題のひとつです。商品やサービスの魅力だけでなく、その企業「らしさ」を合わせて伝えるにはどうしたらよいのでしょうか。

PR TIMESでは、3月6日に初の大阪開催となるユーザー会を実施。京都を拠点に「千寿せんべい」をはじめとした銘菓を全国に届ける株式会社鼓月の鳥飼優介さんにご登壇いただき、BtoC企業の情報発信やメディア掲載について伺いました。

株式会社鼓月 総務部広報担当

鳥飼優介 (Torigai Yusuke)

1997年生まれ。撮影技術会社でさまざまな映像コンテンツの撮影を経験し、外食企業で映画とのコラボレーション企画などを担当。その後、株式会社鼓月に入社し、プレスリリースの作成やメディアリレーションなどの広報業務に加え、コラボレーション企画やSNS運用と動画制作も担う。多角的に「鼓月」の魅力を京都から全国に発信している。

京都・和菓子業界の新参者としての広報PR戦略

京都・和菓子屋の情報ニーズを客観視

──早速ですが、プレスリリースを作成する際に心がけていること、広報PRの戦略があれば教えていただけますでしょうか。

プレスリリースでは、その商品がなぜ生まれたのか、どのようなニーズや背景があったのかを伝えられるよう心がけています。

例えば、インバウンドが増加したことで企業としてどのようなアクションを起こしたのかなど、社会的な影響を企業姿勢と一緒に伝えることで、メディアや生活者にとってより価値のある情報になると思っています。

また、弊社の社員は関西出身が多いのですが、私自身は埼玉県の出身です。これまで「京都」を外から見てきたので、関西圏以外のメディアがおもしろいと感じる感覚はもっとも近いと思います。「外からの視点」を意識し、ただの情報ではなく、企業姿勢、そして「鼓月らしさ」と社会との関連性を持たせることを大切にしていますね。

広報PRの戦略としては、「京都×鼓月」と「新参者だからこそできる新しい挑戦」の両立を心がけています。創業78年ではあるものの、100年を超える老舗和菓子屋が多い京都ではまだまだ新参者です。そのような鼓月だからこそのコミュニケーションをしています。

──京都マラソンへの協賛も「企業姿勢を伝える」の事例のひとつかと思います。こちらについて、詳しく教えていただけますか。

株式会社鼓月プレスリリース01

はい。2020年から協賛し、コロナ禍で大会が中止になったこともありましたが、会場の特設ブースではスポーツ羊羹ブランド「anpower」を販売してきました。今年の2月に開催された大会でも同様に出店をしています。

今回の出店について、取り組み自体は新しい情報ではありませんでしたが、あえてプレスリリースを配信しました。コロナ禍以降初めて、特設ブース出店の制限がなくなり、「完全復活の京都マラソン」という話題性があったからです。

「スポーツ羊羹」の発売は2019年6月でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて認知拡大のチャンスを失ってしまったという過去があります。意外性のある「スポーツ羊羹」で、新参者ならではの姿勢を伝えることができると思いました。

また、和菓子の年間消費量は洋菓子の半分以下という「和菓子離れ」問題を抱えています。その中で、和菓子の可能性を広げる新しい取り組みには価値があると思い、このプレスリリースは絶対に配信したいと思っていました。

参考:【株式会社鼓月】2月18日開催の「京都マラソン2024」に協賛し、スポーツ羊羹「anpower」を特設ブースにて限定販売

──京都をはじめ、関西圏に多くのお店がある鼓月が全国に向けて積極的に情報を発信しているのはなぜでしょうか。

関西中心の企業ではあるものの、店舗としては札幌から博多まで全国展開しています。一方で、京都は京都の中だけでビジネスが回りやすい環境があり、京都の外に向けた情報発信があまり活発でありません。実際に、いろいろなメディアの方と話をする中で、「京都の情報は広報担当から聞く機会が少なく、京都を扱った雑誌や京都専門のライターが書いた記事を読んで情報収集をしている」という声を耳にすることも多いんです。

京都は日本を代表する観光地であり文化の発信地。メディアの注目度が高い反面、まだまだ全国に知られていない情報がたくさんあるので、情報を届けることが大切だと思います。

京都と新参者らしさを出した鼓月のプレスリリース事例

──「『京都×鼓月』と『新参者だからこそできる新しい挑戦』の両立」を広報戦略に掲げていると伺いましたが、これまでに反響が大きかったプレスリリースを教えてください。

風呂敷ギフトで「京都×鼓月」を表現

株式会社鼓月プレスリリース02

新年に向けた数量限定のギフト商品の販売開始を伝えるプレスリリースは、「京都×鼓月」を意識して、反響が大きかったプレスリリースのひとつです。

一番伝えたかったのは、「風呂敷で包んだギフト」だということ。若い世代や外国人観光客の中では「風呂敷で包んであるギフトがおしゃれだ」という認識が広がっていることを受けて、トレンドと日本文化の両方を伝えられると思ったんです。また、包装紙ではなくあえて風呂敷で包むことによって、より上品な和菓子屋というブランドイメージにもつながると考え、プレスリリースの配信を行いました。

「100箱限定」「オンラインショップのみでの販売」とかなり限定的な内容ではあるものの、風呂敷が若い世代や外国人観光客の間でトレンドであることを踏まえると価値は高いですし、風呂敷の文化を発信すること自体に意味があると思います。昔ながらの文化や固定概念を更新し、新しい和菓子屋としての企業姿勢を出すことが大切です。

参考:【100箱限定】風呂敷でお包みした縁起物にふさわしい上品なギフトの新商品「迎春八角箱」を京菓子處鼓月公式オンラインショップにて12月1日から販売開始!

「新参者」だからこそのユニークな企画のプレスリリース

株式会社鼓月プレスリリース03

こちらは映画『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』とコラボレーションしたことを伝えるために配信したプレスリリースです。

劇中に弊社の社旗が登場したことがきっかけになった、コラボレーション企画です。「千寿せんべい」の認知を拡大するためには、関東が舞台の映画だからこそコラボする価値が高いと考え、「映画『翔んで埼玉』プレミアム千寿せんべい」と映画オリジナルグッズをセットでプレゼントするキャンペーン企画を実施。このプレスリリース配信によって、京都新聞や日本食糧新聞に掲載されました。

京都新聞は京都・滋賀が発行エリアなので、「映画の中で滋賀がクローズアップされている」というアプローチが露出に。日本食糧新聞は、日頃からプレスリリースを送ったり、コミュニケーションを取ったりしながら築いてきたリレーションが露出につながったのかな、と思います。

参考:映画『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』と株式会社鼓月がコラボレーションを実施!映画『翔んで埼玉』プレミアム千寿せんべいと映画オリジナルグッズをセットにしてプレゼント

鼓月・鳥飼さん流、情報発信のネタづくり

──地域から全国へ、商品の魅力とともに企業姿勢を伝える発信を実現している鳥飼さんですが、情報発信のネタづくりにおいて心がけているポイントを教えてください。

社内に眠る意外性のある情報に着目

メディア視点でおもしろいと感じる情報は惜しみなく発信します。

例えば、弊社を代表する商品のひとつ「千寿せんべい」は、ナミナミのクッキー生地にクリームを挟んだ京菓子です。京都の人にとっては馴染みがあるお菓子という印象でストップしてしまうと思います。しかし、そこに踏み込んで、当時間違えてドイツ製の焼肉製造機を購入してしまったからという「なぜ、ナミナミなのか」エピソードを発信するのです。

60年という長きにわたって愛されているお菓子ですが、社外の人でこの話を知っている人はほとんどいません。そういうおもしろいエピソードを積極的に発信することによって、商品の魅力だけでなく、新しいことにチャレンジする鼓月の企業姿勢も伝えられると思います。

さまざまな角度からメディアフックを見つける

しっかりメディア露出につなげていくには、さまざまな角度から切り口、メディアフックを見つけることが大切です。

例えば、弊社の『摘み果』という果実饅頭は、過去にレモン、バナナ、りんご、ぶどうを販売し、昨年6月に新商品として白桃が発売されました。しかし、新商品とはいってもシリーズ5弾目ともなると、メディアに注目していただくのはなかなか大変です。そこで、「季節性」「独自性」「地域性」の3つのポイントを切り口にしてプレスリリースを作成しました。

  • 「季節性」から掘り下げる:発売日が6月1日ということで、まずは6月について幅広く情報収集。6月16日『和菓子の日』と、「6月から7月に旬を迎える果物」という突破口を見つける
  • 「独自性」に気づく:商品の独自性は何か考えたところ、桃の形をした饅頭や、ピンク色のあんこが入った饅頭はあるけれど、「桃を使った饅頭」は珍しいという結論に。見た目も桃の形で、「果汁:あん=5:5」でしっかり果実感がある饅頭は、鼓月ならではを見つける
  • 「地域性」でフックを作り出す:「桃」と聞いて連想する「桃太郎」は岡山県が発祥の地。岡山県民は桃に対する関心が他県と比べても高いのではと考え、桃をフックにして岡山県のメディアにアプローチする切り口を見つける
株式会社鼓月プレスリリース04

参考:6月1日(水)発売開始!“まるで摘みたて果実のような焼き饅頭”シリーズ第五弾の鼓月人気“摘み果シリーズ”より「摘み果 白桃」が新登場!

この3つのポイントを切り口にした結果、フジテレビの『めざましテレビ』で「旬の桃スイーツ」として取り上げられました。

過去の放送から、6月の上旬にいろいろな桃のスイーツを紹介する傾向があることを調べていたので、今年も同様の特集が組まれることを予想してアプローチできましたし、桃のタルトや桃のタピオカなどに並んで、桃の和菓子「桃饅頭」という独自性も大きなポイントだったと思います。

さらに、「地域性」という部分で、OHK岡山放送の『ミルンへカモン!なんしょん?』という番組でも取り上げていただきました。「和菓子の日特集」の中で、岡山で買える最新和菓子として紹介されましたが、これも情報番組で和菓子の日を取り上げる傾向が高いことがわかっていたので、間違いなくフックになると確信していました。

各メディアに合わせた切り口を探す

全体に向けてプレスリリースを配信しつつ、メディアに合わせて異なる切り口をプラスで提案することもあります。

例えば、OHK岡山放送の『ミルンへカモン!なんしょん?』は、出演しているゲストの2人が京都出身の芸人さんだったので、京都の関連性も非常にあると思い、「岡山のテレビが京都の和菓子店の商品を取り上げる理由」に紐付けました。また、実際に岡山で買えることもそうですし、藤井聡太さんが『摘み果シリーズ』のバナナを竜王戦で食べたことで「勝利のおやつ」と呼ばれていることなど、さまざまな切り口を選択肢として提案しました。

ひとつの商品をただ真正面から見るのではなく、今の時期に求められている内容やさまざまなユーザーの目線を持って考えることで、商品や自社の可能性を広げていくことが大切だと思います。

参加者から鳥飼さんへ質問|社内に思いを伝える活動

──商品開発や企画の段階からメディア目線を意識されているのでしょうか。

商品開発は商品企画部の主導でスタートすることが多いものの、最終的に商品が完成するタイミングでは、「なぜ今、新商品として出すのか」「この商品にはどんな特徴があって、どのような経緯で商品化が決まったのか」という部分を徹底して掘り下げます。また、広報やメディア、いろいろな目線で、似たような商品や事例、現象などがほかにないか注視することも意識していることのひとつです。

まとめ:商品の魅力とともに自社らしさを全国に発信

老舗の和菓子店がひしめく京都の中で、「新参者」として新しいことに挑戦する姿勢を大切にしている株式会社鼓月。今回、鳥飼さんが話された情報発信のポイントは以下の通りです。

  • 商品が生まれた背景や社会的ニーズなどに絡めながら一貫した企業姿勢を伝える
  • 外からの視点を意識し「自社らしさ」と「社会的関連性」を持たせる
  • メディア視点でおもしろい情報は惜しみなく発信
  • さまざまな角度からフックを見つけてメディア露出につなげる
  • メディアに合わせたさまざまな切り口を提案

上記のポイントは、和菓子業界だけでなくBtoC企業の広報PRにとっても参考になる内容です。情報発信やメディア掲載にお悩みの広報PR担当の方は、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。

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