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気象と経済学の視点で考える「食」。心に響く情報として発信する広報PRのポイント

株式会社PR TIMESは、7月9日に食品メーカーとメディア・SNSユーザーとの架け橋となるリアルイベント「おいしい博覧会」を開催。「リバイバルフード」「ビヨンドフード」「ひんやりグルメ」「クラフトグルメ」の旬の4つのテーマに合わせて、食品メーカーや自治体から約30ブランドが出店したほか、食に関わる企業に向けたセミナーも実施しました。

本記事は、日本気象協会の安野加寿子さんと小越久美さん、早稲田大学准教授の下川哲さんをお迎えした当日のセミナーの様子をレポート。「気象」と「食料経済学」の視点から、広報PRに活かせるポイントをご紹介します。

日本気象協会 メディア・コンシューマ事業部 メディア事業課 気象予報士

安野 加寿子 (Yasuno Kazuko)

食品や医薬品の分析会社に在籍中に気象予報士の資格を取得し、2014年から日本気象協会に所属。関西支社勤務時代にラジオで天気解説を経験。日本気象協会が運営する天気予報専門メディア「tenki.jp」の運営や記事執筆のほか、熱中症予防の啓発活動にも携わる。現在は、気象情報を用いたコンテンツマーケティングやインフォマーシャルのプラニングに従事。熱中症予防指導員研修講師。

日本気象協会 社会・防災事業部 気象デジタルサービス課 シニアアナリスト

小越 久美(Okoshi Kumi)

2024年から2013年まで日本テレビ「日テレNEWS24」にて気象キャスターを務める。現在は気象データを活用した商品の需要予測事業に携わり、アパレルや飲料メーカーなどへのコンサルティングを行う。健康気象アドバイザー、データ解析士。著書に『かき氷前線予報します~お天気お姉さんのマーケティング~』『低気圧女子の処方せん』『天気に負けないカラダ大全』。

早稲田大学 政治経済学術院 准教授

下川 哲(Shimokawa Satoru)

2000年、北海道大学農学部農業経済学科卒業。2007年、米コーネル大学で応用経済学の博士号を取得。香港科技大学社会科学部助教授、アジア経済研究所研究員を経て、2016年から現職。国際学術誌や国内学術誌の編集委員も務める。専門は農業経済学、開発経済学、食料政策。著書に『食べる経済学(未来のわたしにタネをまこう 1)』。

気象予報士に聞く!気象データを広報PRに活かすには

食品メーカーや飲食店など食に関わる企業の方々に、「食」の今と未来について、あらゆる視点から考えていただくための今回のセミナー。第一部では、日本気象協会の安野さんと小越さんにご登壇いただき、「天候と食品の関係性」をテーマに話を伺いました。

今夏の特徴は「猛暑」「大雨」「長い夏」

気象予報士の小越さんは、今夏は記録的な暑さとなった昨年の夏に匹敵する猛暑となると予測。大雨やゲリラ豪雨、台風が多発する可能性もあり、9月に入っても猛暑日が続く長い夏になる見通しだそうです。

また、小越さんと同じく気象予報士で熱中症予防などの啓発活動にも取り組む安野さんによると、セミナーが開催された7月から蒸し暑さや、冷房の効いた室内の涼しさと外気の温度差によって体調を崩す人も増えてくるのだとか。いわゆる「夏バテ」は、睡眠不足や栄養不足も一因となるため、十分な休息とバランスの取れた食事を心がけることが大切です。

(夏バテを予防する食事のポイント)

  • 炭水化物、タンパク質、ビタミン群などバランスの取れた食事を取る
  • 朝ごはんをしっかり食べる
  • 喉ごしがよく水分が多い食べ物を摂取する
  • 酸味やスパイスなどで食欲を増進させるよう工夫する

これらを押さえて広報PR活動を行うことで、商品をおすすめする切り口を増やすことができ、対象者に共感を得る情報に昇華できるのではないでしょうか。

第一部 日本気象協会01

商品の売れ行きに影響する「体感気温」

猛暑が続くと、つい冷たいものばかりを飲んだり食べたりしてしまうなど、消費行動は天気によって大きく影響を受けます。小越さんいわく、その中でも特に重要なのが「人がどう感じるか」という「体感気温」なのだそうです。

日本気象協会がインテージSRI+データ(全国の小売店販売データ)を用いて行った調査によると、冷やし中華は最高気温が20度、おでんは最高気温が29度の時に売れ始めるという結果になりました。冬の寒さを経て春に最高気温が20度に達すると、人は暖かさを感じて冷たいものを食べたくなり、連日の猛暑を経て夏の終わりに気温が29度まで下がると、人は涼しさを感じて温かいものが食べたくなるためだそうです。

  • 最高気温20度(4月):冬の寒さから開放され、冷やし中華など冷たいもののニーズが高まり、冷やし中華に必要なハムや生麺、茹で麺などの売り上げも同時に伸び始める
  • 最高気温23度(5月):炭酸飲料や果汁飲料などの需要が高まるため、これらの商品に合わせたキャンペーンなどを実施するのも効果的
  • 最高気温28度(6月中旬):湿度が増して蒸し暑さを感じる時期はもずくやめかぶ、豆腐類などの低カロリー食材が人気。夏バテ予防など健康を意識する生活者が増えるため、乳酸飲料や栄養ドリンクの販売を強化するとよい。また、かき氷のシロップや練乳など冷たいデザートに関連した商品もこの時期に人気が高まるため、SNSなどを活用した情報発信もおすすめ
  • 最高気温32度(7月):暑さが厳しくなると、アイスクリームよりもさらに冷たさを感じるかき氷などの氷菓の売れ行きが伸びる。また、夏バテ気味で朝食が食べられない生活者も増え、納豆やヨーグルト、パン類の売れ行きが減少する
  • 最高気温35度以上:猛暑が続くと外出を控える人が増えるため、屋内で簡単に食べられる食材の需要が高くなる。パン類、ヨーグルト、冷凍食品、カップ麺、せんべいやあられ、スナック、チーズ、納豆などの販売戦略を見直し、適切なタイミングでSNSなどを使った情報発信をするのが効果的

最高気温が何度になったらどのような食材が売れ始めるか、自社の商品との親和性を探ってみてください。

第一部 日本気象協会02

「食料経済学」の視点を「食」の広報PRに活かすには

第二部では、早稲田大学政治経済学術院・准教授の下川哲さんが登壇。「食料経済学の観点からみる食の未来」をテーマに、「食」が、世の中にどのような影響を与えているのか、持続可能な食を実現するにはどうすればよいのかを解説していただきました。

未来の食に影響を及ぼす、食を取り巻く現代の問題

食を取り巻く現代の問題は大きく以下の3つに分類されると言います。

1.食べることに関する問題

  • おいしさや健康、価格に関する個人の枠組みの問題

2.農業生産に関する問題

  • 農業従事者の減少と高齢化:農業従事者数は2000年から2022年にかけて半減し、残っている従事者の60%が70歳以上、80%が60歳以上。20年後には農業従事者数がさらに減少し、作る人がいなくなる可能性が高い
  • エネルギー自給率の低さ:農家の人手不足を解消するためには、機械も用いた農業の大規模化が必要だが、日本のエネルギー自給率は12%と低く問題は深刻
  • 飼料・肥料の自給率の低さ:日本の肥料の原材料の自給率はほぼ0%であり、飼料の自給率も26%と低い

3.自然資源に関する問題

  • 自然資源の不足:農業は太陽エネルギーを食べられるものに変える活動であり、水や土地などの自然資源がなければ成り立たないが、気候変動などの影響で不足している
  • 未来世代への影響:自然資源の破壊は回復に何百年もかかるため、現在の問題は未来の世代の食生活にまで影響を及ぼす

「食べることに関する問題」は生活者にとって身近で自分ごと化しやすい一方で、「農業生産に関する問題」「自然資源に関する問題」は生活者からの距離が遠くなるため、無関心になりがち。しかし、これらの影響を無視した食生活は、地球環境や将来世代の食に想像以上の悪影響を与えていると、下川さんは警鐘を鳴らします。

そこで注目されているのが「健康的で持続可能な食生活」ですが、「食生活の改善」「技術革新」「社会の仕組みの変化」の3つをひとつの流れと考えて取り組む必要があると、下川さんは続けます。例えば、牛肉を食べる回数を減らしたり、代替食品を取り入れたり、生活者が食生活を改善することによって社会全体への効果が期待できますが食生活の改善には限界があります。その限界を補うのが技術革新です。植物性の卵や養殖魚、生産過程で発生する二酸化炭素の排出量を削減する技術などによって、できるだけ小さな食生活の変化で持続可能な食を実現することができます。それでも不十分な場合には、法律や制度の変更など社会の仕組みを変える後押しも必要ですが、広報PR活動を行ううえでは「食生活の改善」「技術革新」の観点に着目したいところです。

大切なのは『生活者からの距離×生活者の必要度』

世界中でサステナブルな経営に注目が集まる中、食品メーカーや飲食店などでもフードロスや動物性食材の置換えなど「持続可能な食」に取り組む企業が増えています。その中で、商品をどのように社会に発信すべきか、広報PRの方法に悩む担当者も多いのではないでしょうか。

下川さんは、「大切なのは『生活者からの距離×生活者の必要度』」だと説明します。例として、「おいしい」「健康に良い」など生活者にとって身近な問題は心に響きやすいが、生活者からもっとも遠い距離にある「環境」は響きにくい。「生活者の必要度」は、その商品が「あるとベター」なものなのか「ないと困るもの」なのかということです。

下川さんいわく「ないと困るものはおいしくなくても売れるけれど、あるとベターなものはおいしくなくては売れない」とのこと。例えば「環境にいいおやつ」もそのひとつで、環境という生活者からもっとも遠い距離にある価値と、おやつという生活に不可欠ではないものとの組み合わせは、おそらくあまり売れないとの見解です。それでも、どのように世の中に伝えていけばよいか。広報PRに参考になる3つのポイントを挙げています。

  1. おいしさと健康を重視:持続可能な食品をPRする際には、生活者にとって身近な「おいしい」「健康」という価値を強調することが効果的。おいしいと感じられる商品や健康効果の高い商品は、環境に配慮したものであっても生活者に受け入れられやすい
  2. 「ないと困る」の創出:学校給食など日常的に「ないと困る」ものに使用する食品に持続可能な要素を組み込む
  3. ストーリーテリングの活用:はじめから環境価値を直接訴求すると響きにくいが、中間地点として生産者の努力や持続可能な取り組みの背景などのストーリーを伝えることで、生活者の共感を得る

このように、生活者からの距離があるものに対する購買行動は促しにくい。これは多くの方が実体験として感じているのではないでしょうか。これらを少しでも近づけることとしてできるひとつが広報PR活動かもしれません。

第二部 早稲田大学政治経済学術院・准教授の下川哲さん

まとめ:変えられない状況の把握、その上での価値の創出を

日本気象協会の安野加寿子と小越久美さん、早稲田大学准教授の下川哲さんをお迎えした今回のセミナー。「気象」と「食料経済学」を、身近な話題を取り入れながらわかりやすく解説していただきました。

商品の売れ行きに影響する「体感温度」や購買につながる「生活者に近い価値と生活者の必要度」の軸は商品展開、広報PR活動のタイミングの参考になり、新たに知見を広める機会となったのではないでしょうか。

今回のセミナーは、「食」に関する企業に向けての開催でしたが、そのほかの業界の広報PR担当者にも役立つポイントがありました。ぜひ参考にしてみてください。

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