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千鳥「相席食堂」プロデューサー登壇。コアなファンを引きつける秘訣は逆張りにあった|朝日放送テレビ

身近な地元企業やメディアから広報PRに関する成功談や失敗談を聞き、明日からの実践のヒントを得られるイベント「そこで、PRゼミ!」。さまざまな地域で広報PR活動への関心が高まるように、学び合い交流することを目的としています。2024年9月12日には、大阪で「事業の未来を切り拓くPR」をテーマに開催。

第一部では、朝日放送テレビ株式会社プロデューサーの髙木伸也さんをゲストに迎え、人気番組「相席食堂」を例に、いかにしてコアなファンを獲得しているのか、またそのためにどんな信念を大切にしているのかについてお話いただきました。

本レポートは、当日のお話を元にまとめています。

第二部:課題を解決したいという一心から大きな成果へつなげた3社の広報PR戦略。|BABY JOB・錦城護謨・江崎グリコ

朝日放送テレビ株式会社 コンテンツプロデュース局 制作部 プロデューサー

髙木 伸也(Takagi Shinya)

2007年入社。ラジオ営業部やテレビ営業部を経て、制作部へ。「雨上がりのやまとナゼ?しこ」「今ちゃんの実は…」「上沼恵美子のおしゃべりクッキング」などの番組を担当し、2018年に「相席食堂」を演出として立ち上げる。

千鳥の単独ライブから生まれた「相席食堂」

──まずは「相席食堂」のご紹介をお願いします。

お笑いコンビ千鳥がMCを務める「相席食堂」は、タレントが全国の食堂に出向き、地元の方々に相席をお願いするバラエティー番組です。番組の特徴は、タレントと地元の方々とのやり取りをVTRで振り返り、千鳥がツッコミを入れていくというスタイル。2018年の正月特番の担当を任されたことから始まり、今年で7年目を迎えています。

当時渡された企画書はたった3枚で「相席食堂」というタイトルと、田舎の食堂で「相席いいですか」と話しかけるという概要、そしてゲストの名前が記載されているだけ。衝撃を受けましたね。

2ヵ月後に放送が決まっていたのですごく焦りましたが、逆にここまで何も決まっていないということは自由にできる、自分にとっては大きなチャンスと捉えることにしました。というのも、2017年頃は情報バラエティー番組の最盛期で、自分がやりたいことは少し違うなと感じていて。視聴率が取れる情報ありきの番組ではなく、タレントありきの番組をつくりたいという思いがずっとあったので、この番組で実現したいと考えたんです。

どんな企画にしようかと考えているとき、たまたま千鳥の単独ライブを見に行くことに。ライブは大衆演劇がベースで、大悟さんが演劇の役者として演じていて、その演劇を客席側から見ているノブさんがツッコミを入れるというものでした。二人の掛け合いが面白くて、これを活かして何か特別な企画ができないかと考えたのが、「相席食堂」です。VTRを使い、千鳥の壮大な漫才を見せる番組を目指してスタートしました。

朝日放送テレビ01

「腹を抱えて笑ってもらう」が信念であり判断軸

── 一躍人気番組になった「相席食堂」ですが、どんなところがファンの獲得につながったのでしょうか。

「相席食堂」が支持されたポイントは、4つあると思っています。それぞれ順にご説明します。

ポイント1.最後まで見たくなる切れ目のないシームレスな構成

従来のテレビ番組の構成は、複数のコーナーを設けてそれをつなぎ合わせるのが主流でした。この構成だとどれかひとつでも興味があれば見てもらえるので、幅広い層にアプローチできる一方で、関心のないテーマに移ったタイミングで離脱してしまうという傾向があります。視聴率というのは番組を最後まで見てもらわないと取れないものなので、なんとかして最後まで見てもらうためにそれぞれの番組が工夫しているわけです。

しかし「相席食堂」の場合はこれとは逆の構成で、複数のコーナーはありません。ひとつのVTRをベースに、スタジオの千鳥の目線と交代しながら進めます。千鳥の掛け合いの面白さを最大限に活かそうと、このような切れ目のないシームレスな形になったわけですが、それが結果的に60分ずっと見てもらえることにつながりました。

このつくり方は面白ければ最後まで見てもらえますが、リスキーな面も多々あります。例えば、従来の視聴率が取れるとされる番組は、途中から見ても内容がわかり、なんらかのゴールを目指していることが一般的でした。一方「相席食堂」は最初から見ないと内容がわからないですし、明確なゴールや目的はありません。通常とは真逆のスタイルになったものの、それが功を奏して多くの方に最後まで見てもらえる番組になったんです。

ポイント2.こだわった「ながら見」できない物語性・作品性

番組を開始した当時は「ながら見」ができるような情報番組が主流でしたが、今は配信で見る人も増えたので、わざわざ自ら見に来てもらえるようなコンテンツをつくらないと太刀打ちできない時代になりました。その点、「相席食堂」は千鳥の単独ライブから着想を得たこともあり、「千鳥の漫才」という作品をつくるイメージを大切にしてきたので、この作品性が多くの方に見てもらえる要因のひとつになったと思っています。ただ、VTRに毎回ドラマが生まれるとは限らないのが難しいところで、ディレクターが面白いと思ったところだけ切り貼りしていると、なかなか面白い作品にはなりにくいんですね。そのため、編集されたVTRを最後にチェックするときには、物語に起承転結ができているかを重視するようにしています。

ここでも一般的なつくり方とは逆のことをしていて、基本的には番組のテンポは速いほうが視聴率が取れるとされていますが、「相席食堂」はスタジオの千鳥のテンポに合わせているので、結構ゆっくりなんです。また、企画に依存した番組が主流の中、「相席食堂」は千鳥の漫才を見せるというMCありきの番組なので、MCが苦手なら見てもらえないというリスクもあります。従来とは逆のことをしていても、二人の面白さをMAXまで引き上げようとした結果なので、それが作品性や深みにつながったのだと考えています。

ポイント3.コンプライアンスとやりたいこととの両立

ご存じのとおり、テレビは年々コンプライアンスが厳しくなっていますが、そんな中で「相席食堂」は攻めた番組だと言われることがあります。しかし、自分としては攻めているつもりはなく、万人が不快に思うことの線引きは明確にあるつもりです。コンプライアンスの観点でチェックするときは、いろいろな人の目線で見ることを意識していて、例えば自分の親だったらどう見えるかなとか、子どもや女性だったらどうかな、とか。テレビの先にいる人のことを考えながら、日々番組をつくっています。

コンプライアンスを守ることは、もちろんとても大切なことですが、気にしだすとどんどん窮屈になって、何も発信できなくなってしまいます。人に言われたから発信することをあきらめてしまうと、後々自分の首を絞めることになりかねません。そういうときに、よりどころとなるのが番組の制作における「信念」です。「相席食堂」は「1時間のうち2回は腹を抱えて笑ってもらう」ことを目指しているのですが、これは生きているとしんどいことが多いけれど、腹を抱えて笑っている瞬間だけはそれを忘れてもらえるから。視聴率を取れる番組ではなく、世の中のためになる番組を私たちはつくっている。これを信念として持っていれば、迷ったときの指針になります。それに、コンプライアンスの疑問が湧くのは冷静なときなので、疑問を抱く余地がないほど腹を抱えて笑ってもらえれば、炎上も回避できるのではないか、とも思っています。

ポイント4.共感を生む視聴者の「半歩先」のコメント

「相席食堂」の大きな強みとして、共感、親近感があります。千鳥は高校生の頃、二人でバラエティー番組を見ながらツッコミを入れるというのをやっていたらしく、それをそのまま「相席食堂」でやっているんです。二人のコメントは世の中の人が思っていることに近いので、代弁者になっているんですが、実はこれが一番すごいところ。

タレントさんには頭の回転が速くて一歩先を行くコメントをする人がいる一方で、千鳥のコメントは「半歩先」なんです。これが視聴者から親近感や共感を得る最大のポイントになっていて、そういう意味でも二人は稀有な存在だと感じています。この共感を削がないために、収録中にこちらからコメントを指示したり、軌道修正したりすることはしていません。二人のモチベーションが下がってしまうのと、軌道修正することで視聴者とのずれが生じてしまう恐れがあるから。この番組は、共感されなくなったら一瞬でなくなってしまう番組だと思っています。

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共通の話題を語り合うことで、コア層の獲得を目指す

──「相席食堂」は番組だけにとどまらず、オリジナルアプリや飲食店の展開もしています。これにはどんな意図があるのでしょうか。

確かに「相席食堂」は人気番組になりましたが、今は「昔のほうが面白かった」と思われるマンネリの時期に差し掛かっています。そこで、もう一度この番組の面白さを確認してもらう「場」が必要だと考えました。昔はお茶の間で、家族でテレビを囲んで見たり、学校で友達と番組の話をしたりするなどといったテレビの楽しみ方がありましたよね。今はそれが減ってしまったので、番組のファン同士がつながれるアプリやリアルな場で番組のことを話せるお店を開いたというわけです。100%PRのためにやっているものなので、売り上げはこちらには入ってきません。特にアプリはお金がかかるので継続するのが大変なのですが、コアファンが宣伝隊長となって熱量を広げてくれることを期待しています。

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まとめ:番組も広報PRもコアファンに響くことがキモ

人気番組「相席食堂」がどのようにして生まれ、ファンを獲得していったのかがよくわかるお話でした。最後に髙木さんから、「PRってついついいろんな人に届けたくなるけれど、『広く深く』届けるのはとても難しいです。『広く』をねらうと、言葉がどんどん薄くなるから。だからまずは『深く』を目指すのがいい。『深く』なれば、そこから広がっていくと信じています」というメッセージをいただきました。

今回の学びのポイントは、以下の5つです。

  • 視聴率を取れる番組を目指すのではなく、世の中のためになる番組を目指した結果、たくさんのファンを獲得できた
  • ファン化のポイントは「共感と親近感」があること
  • 信念があれば、迷ったときの判断軸になる
  • 発信者として、コンプライアンスの問題と真摯に向き合い、あきらめない
  • 広報PRでファンの獲得を目指すなら、まずは「深く」を目指す

メディア側としての信念や企画づくりの観点において、広報PR活動にも役立つお話でした。自社のファンづくりやブランディングを考える際に、ぜひ参考にしてみてください。

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『PR TIMES MAGAZINE』は、プレスリリース配信サービス「PR TIMES」等を運営する株式会社 PR TIMESのオウンドメディアです。日々多数のプレスリリースを目にし、広報・PR担当者と密に関わっている編集部メンバーが監修、編集、執筆を担当しています。

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