PR TIMESは、広報PRに関する学びと交流の場「そこで、PRゼミ!」を2022年10月より全国で展開しています。「そこで、PRゼミ!さぁ大阪」は、2023年5月18日(木)に大阪市北区の梅田スカイビルで開催されました。
イベントの第一部では、朝日放送テレビ株式会社で「M-1グランプリ」の総合プロデューサーを務める桒山哲治さんが「広報PR思考」をテーマに登壇。第二部はパイン株式会社の上田豊会長と広報の井守真紀さんが登場し、2002年の商品自主回収を事例としたリスクマネジメントの心がけやSNSの活用について講演。第三部では、つっぱり棒メーカーとして独自の情報発信を手がける平安伸銅工業株式会社の竹内香予子代表が、ファンを増やす広報PRのポイントについて語りました。
朝日放送テレビ株式会社 コンテンツプロデュース局東京制作部
2005年朝日放送(現朝日放送テレビ)入社。スポーツ部で「熱闘甲子園」のディレクターなどを経て2008年、制作部へ異動。現在は「M-1グランプリ」「ポツンと一軒家」などのプロデューサーを担当。
パイン株式会社 会長
食品関係の商社に3年半ほど勤めた後、1975年(昭和50年)にパイン株式会社に入社。1991年、代表取締役社長に就任。全国飴菓子工業協同組合理事長。
パイン株式会社 開発部広報室
大阪樟蔭女子大学卒業後、パイン株式会社に入社。管理部業務課、開発部企画課を経て2018年に開発部広報室初代の室長として広報室の立ち上げに携わる。商品企画から広報・イベントまで幅広く担当。
平安伸銅工業株式会社 代表取締役
大学卒業後、新聞社に入社。27歳のときに新聞記者を退職し、父が経営する平安伸銅工業に入社。2015年、32歳で代表取締役に就任。つっぱり棒の正しい使い方などのノウハウを発信する「つっぱり棒研究所」を運営するほか、「つっぱり棒博士」としてメディアにも出演。
M-1グランプリの総合プロデューサー流「タッチポイントを増やす」広報PR(第一部)
第一部で登壇したのは、今や年末の風物詩となった、朝日放送テレビ「M-1グランプリ」の総合プロデューサーの桒山哲治さん。参加者に夢を、生活者にエンターテインメントを提供する番組制作の舞台裏やPRの極意について語ってくださりました。
芸人のガチンコ勝負に視聴者が沸く。心を動かすコンテンツの軸とは
桒山さん(以下、敬称略):芸人さん、とりわけ漫才師さんって本当にピュアな人たちが多いです。「面白いってなんなんだろう」「自分とは何者なのか」といったことに正面から向き合いながらネタを作っているのを見ていると、こちらも熱くなってくるし、かっこいいなと思いませんか?こういったさまざまな感情を、番組を通して伝えていきたいなと思っています。20年ぐらいブレていない企画の軸は、「漫才師ファースト」と「ガチンコ勝負」だと思っています。
企画の段階で大切にしていることとしては、毎年目標となるようなキャッチフレーズを作るようにしていますね。重要なコンセプトをフレーズという言葉に落とし込むことで、営業、美術、照明などさまざまな担当ごとに、「自分の担当・役割だったら何ができるか」ということをかみ砕いて考えて、工夫していってもらえる体制にしています。
ストーリー性も大きな魅力です。出演前は全然仕事がなかった漫才師さんが、優勝がきっかけで仕事に追われるようになったり、CMがどんどん決まったりする、人生がゴロッと変わってしまうドラマみたいなものも見どころとして伝えています。
年末の風物詩「紅白」に食い込みたいという思いで頑張ってきて、おかげさまで記録的な視聴率を叩き出した年もあります。年末に見てくださっている方は少なくないのではないでしょうか。
3時間半に収まりきらないストーリーを広報PRで伝える
桒山:超一流の美術・技術・営業・PRなど、幅広いプレーヤーがベストパフォーマンスを発揮するイベントで、スタッフだけで1,000人以上います。7,200組以上の芸人さんも含めたら、関係者はゆうに1万人を超えます。会場に響く笑い声でバリバリとセットが震える雰囲気、感動をどうやってオンエアで表現するか、音響、照明、演出、営業、あらゆるメンバーが工夫しています。だからこそ、3時間半の番組枠に収まりきらない創意工夫やタッチポイントを、全力で伝えるように心がけています。
年に1回限りの番組を見てもらうためには、事前の広報PRが欠かせません。YouTube、Twitterなど、SNSでとにかくさまざまな情報を発信するようにしています。年末に向けてタッチポイントを増やすと「あれ?あそこでも見たな」みたいな印象を生み出せる。その機会を増やすことで、運命みたいなつながりを感じてもらって、見てもらう流れを作り出すPRを心がけていますね。
桒山:番組公式YouTubeとTwitterでは、予選から情報をものすごくこまめに流すことを心がけています。これらのSNSで流して、一番反響が大きいのは漫才のネタなんですよね。いわゆる去年のウエストランドさんとか、さや香さんのネタとかも約800万回とか1,000万回とか、錦鯉さんのときは1,400万回とかネタ動画が再生されてます。「漫才師って、実はかっこよくておもしろい」といった価値向上のためのコンテンツを、YouTubeとかTwitterの2分の動画で新企画として試すっていうのはよくしてます。SNSで見てもらった内容が、評判が良かったり再生数が多かったりすると、番組にそのまま昇華していくケースも多いです。
広告営業の担当者もPRに全力投球です。コラボCMの間だって、むちゃくちゃ見て笑ってくださいというテンションで企画してます。芸人さんへのコラボ打診や営業の現場では、調整が大変なこともありますが。
ユーザーの表情が見える広報PRを
当日は特別イベントとして、厳正な抽選を通過した1社限定で桒山さんへの公開相談会を実施。広報PRにまつわるお悩みを、株式会社メモリストの森本さんにご相談いただきました。
森本さん:メモリストは2017年より、オンラインストアを中心にカスタム手帳を販売している手帳ブランドです。生活者が自分と向き合う時間を作れる「ライフスタイル文房具ブランド」としてプロデュースする方法やアドバイスをお願いします。
桒山:例えば、商品を手に取ったときの表情とかは、ビジュアル化できるかもしれませんね。使い方より、使った先にどうあるかというユーザーの姿。スケジュール帳より、それを使う人が前面に出た広報PRがいいなって僕は思います。なぜなら機能的な側面は絶対、売り出す時点で、考え尽くして作ってあると思うからです。それを使ってどうなってほしいかといった部分は、キャッチフレーズとビジュアルに落とし込むのが大切ではないでしょうか。
例えばですが、「テンパったあなたへ」みたいなフレーズはおもしろいかもしれません。手帳に予定がびっしり書かれていて、テンパったことがある人にはめちゃめちゃ響くと思う。そこから転じて、「今ちょっと上向き加減やね」「嫌なことあったけど、明日から新しく一歩踏み出そう」みたいなポジティブな展開が見たいと思いました。入口はネガティブでも、言葉遣い次第でストーリーの印象は変わるはずです。
パインアメ自主回収から学ぶ危機管理広報とSNS発信(第二部)
第二部は、パイン株式会社の上田豊会長と広報PR担当の井守真紀さんが登壇。2002年の商品自主回収を事例とした危機管理広報への心がけや、SNSの活用について講演いただきました。
2002年の自主回収、ひたすら「正しさ」を見つめなおして
上田さん(以下、敬称略):当社は今年で設立73年目になります。73年間現役で看板商品の「パインアメ」に加え、「あわだま」「どんぐりガム」「粉雪のど飴」などのさまざまなキャンディを製造しています。
上田:こちらにいらっしゃる皆さんも覚えがあるかもしれませんが、20年前は数々の食品で食中毒や偽装などの問題が起こり、世間の耳目を集めていました。そんななかで2002年6月、当社においては、食品衛生法に違反した材料を使って商品を製造していたことが明らかになり、リスクマネジメントの側面から、こちらに対応する必要がありました。
実は、前もってほかの企業の事例をもとに監査役、弁護士などの専門家に「もし自分たちに同じことが起こったらどう判断すればいいのか」という相談はしていました。そこで返ってきた答えは「あなたが正しいと信じたことをやりなさい」というシンプルなものでした。製造のミスを踏まえて商品回収という判断に至った流れです。
上田:こうしたミスは、あらゆる企業で起こりうることを覚悟しておくべきだと思います。当社の場合、回収までには2日間悩みました。6月に入って、関係者から「使ってはいけない原材料を使っているかもしれない」との情報が突然入りました。
「さあ、どうしようか」と思ったのですが、こうした場面で悩むというのは間違っていて、目をそらさずに考えればいいんです。私の場合、経緯や事実関係などを紙に書き出したら「ああ、間違ったことをしたんだ」「自分たちの子どもや家族、取引先にこの飴が美味しいと素直に言えるか……」という思いが湧き起こってきました。情報を文字で整理することで、この事案は間違ったことをしてしまった結果だ、と実感しました。そうであれば、世間にお出しするわけにいかないと自主回収に踏み切りました。私自身も消耗し、お金はかかりましたが、結果的には正解だったと思っています。
上田:トップの仕事は即断即決して方針を決めること。悪い報告ほど、即断即決が大切です。トップがその場に居なければ現場も方針が立てられないので、取引先とのコミュニケーションは社員に任せ、自身は現場からあまり動かないほうがよいでしょう。2ヵ月以上続くと心身ともにクタクタになりますので、なるべく1ヵ月目でトラブルシュートすることが大切だと思います。われわれの場合は取引先さまからも「頑張ってください」と声を掛けていただくこともありまして、本当に感謝しかありません。
リスク対応の方針を決めるときには、大事な家族と同じ立場にお客さまやステークホルダーを位置づけて、企業としての行動を見つめ直すことが大切です。それを軸に行動すれば間違いは起こりにくいでしょう。
Twitterは仕込みすぎないのがコツ
井守さん(以下、敬称略):パイン株式会社の広報PRは、もともと白黒テレビが普及していた頃の年代にCMを展開していたようなのですが、以降は年1回新聞広告に出稿する程度。そうしたなかで、無料でできるTwitterを始めたのがSNS活用のきっかけでした。
井守:誰かを傷つけるツイートをしないこと、事前に投稿を仕込まずにリアルタイムの空気感を大切にするように心がけています。例えば朝通勤してきて「今日暑いなぁ」と思ったことをツイートの内容に反映したり、今日の記念日になぞらえてその場でイラストを描いたり。投稿ごとに、会社に関連した内容から離れないようにしつつ、新鮮な今日のネタを仕込むようにしています。
リアルタイムで流れている情報や空気感を大切にしているのには、理由があります。2011年の忘年会シーズン、会社の忘年会についてのツイートをしたのがきっかけでした。当時は東日本大震災があったばかり。関西はほぼ揺れませんでしたが余震が続いている状況で、忘年会のツイートをしたら、ちょうどそのときに余震がありました。関東では慌ただしい状況だったようで、「どうして気持ちをわかってくれないんだ」といったリプライをいただいたことがありました。ちゃんと周りを見渡してからツイートしないと誰かを傷つけてしまうと感じました。このことから、内容ありきで仕込みすぎないようにしています。またSNSアイコンも、ほぼ毎月変えています。
SNS活用はTwitterにとどまらず、開発部と営業担当の部署でグループLINEを作って盛んに情報交換もしています。テレビ出演や「今こういうのがバズってます」という情報をリアルタイムで共有することで、営業担当者も取引先にアピールしやすくなったようです。じわじわとファンが増えてきたキャラクター「パインアメくん」のLINEスタンプも作りました。
認知度向上からファン育成へ。つっぱり棒メーカーの広報PR戦略(第三部)
第三部は、つっぱり棒メーカーとして独自の情報発信を手がける平安伸銅工業株式会社の竹内香予子代表が、ファンを増やす広報PRのポイントについて語りました。
新聞記者から企業代表に転身。ニュースを作る広報PR
竹内さん(以下、敬称略):「つっぱり棒」を作っている会社の3代目です。もともと新聞記者をしていたのですが、父から家業を継ぎました。私が入ったのは、会社全体の売り上げがピークの3分の1まで落ちていたとき。当時は主力の商品である「つっぱり棒」がコモディティ化し、価格競争が厳しくなっており、販売価格が従来の半分以下になっていました。売り上げを回復するためには私たちの会社の商品を選んでいただく状態を作りたいと考え、ブランド作りに着手したという経緯があります。
竹内:大手の消費財メーカーなら広告予算がたくさんあって、1つでもマス広告を打てば認知度が上がるというセオリーはあると思います。でも私たちのように、売上規模も利益率も低い会社では、そのような広告を買うことはほぼ不可能と言ってもいいです。自身がメディアで勤めていたことから、マスメディアでニュースとして載せてもらえたら無料で広告に載るのと似た効果を得られるんじゃないか、と考えています。
ちなみに、メディアが会社の信頼度を判断する基準のひとつが「他社媒体ですでに掲載しているかどうか」。メディアにとっても露出が少ない、よくわからない会社の情報を掲載するのはリスクということです。そのため、まずは小さな媒体や地方の行政が発行している季刊誌などから掲載を獲得していくように心がけています。他媒体で掲載してもらったことが信頼につながって次のニュースを呼び、それがまた次々に連鎖していきました。「サラメシ」や「カンブリア宮殿」に取り上げていただくことができたのは、大きな成果です。
竹内:「会社が提供できるニュースとは何か」を考えることも大切。NHKの「サラメシ」に申し込んでオファーをいただいたときは、新商品で斬新なものがなく、経済系やインテリア系の雑誌に売り込むのもインパクトがなかった時期でした。そんなとき、会社のおもしろい取り組みや中小企業ならではの「ほのぼのさ」が話題になるかもしれない、と手ごたえを感じましたね。
ニュース性の切り口において、私は「新しさ」「地域性」「社会性」が重要だと思っています。地域に役立つ活動をしているとか、今話題になっているニュースを反映した取り組みとか。経験上、全国なら埋もれるニュースでも「京阪神で初」だと注目されます。地域という小さい枠の中で最初の取り組みで、話題になるということがパブリシティにつながりやすいはずです。
時流を意識しつつ、経営者視点を忘れない
竹内:2019年頃に作ったつっぱり棒の啓発活動のためのポスターは、時流に即した新しさを意識したものです。私自身が「スケバン」の格好をして、つっぱり棒の正しい取り付け方、注意事項を記載したポスターを作りました。当時「今日から俺は!!」というドラマが放映されていて、昭和の「スケバン」が話題になっていたんです。商品に興味がない人にも興味を持っていただくために、この活動をプレスリリースでも配信して、結果的にSNSでもバズりました。
竹内:「会社を宣伝しない」というスタンスを取れているのは、結果的に良かったです。社長という肩書のほかに「つっぱり棒博士」としてメディアに出ることもあり、つっぱり棒の業界全体が盛り上がればいい、という視点で活動しています。正しい使い方をしてくださったり、活用事例が広がったりすることで、リピートして使ってくださる方が増えますので。
広報PRやマーケティングの担当者視点だと、やはり目先の売り上げを獲得する視点で行動を積み重ねてしまいがちでしょう。そのため、短期的な利益を度外視した経営視点だからこそできる発信もあるかもしれないと感じています。例えば、自社のつっぱり棒のファンやアンバサダーになる人たちを育てていく活動もそのひとつ。私たちがメディアのパブリシティを獲得するだけでなく、ファンの方が情報を広げてくださる現象が少しずつ、起きつつあります。
コモディティ化が進んだ商品だからこそ、技術や機能の差別化って難しいんです。他社は簡単に真似できるし、安いものならアマゾンで海外から直輸入された商品が山ほどあります。それらの商品と差別化するには、「私たちはこんな思いで作ってて、こういう方たちの暮らしを豊かにしたい」という情緒的な部分を伝えていくことが大切ではないでしょうか。ファンやユーザーとの関係性をしっかり誠実に作っていくことで、「価格と機能」以外にもアピールできるようにしています。
商品・企画の魅力を誠実に伝えつづける発信を
「ライトなファンを振り向かせ、コアファンを唸らせる」企画の発想や、危機管理広報の留意点、ニッチな商品がファンを獲得する戦略に至るまで、幅広いノウハウが共有された大阪のPRゼミ。情報発信のポイントは以下の通りです。
- 魅力的なコンテンツだからこそ、タッチポイントは細かく設定
- リスクマネジメントは「ステークホルダー=家族」の視点で正しさを考える
- 経営視点で、ファンやユーザーとの関係性を誠実に作りあげていく
SNSを活用した伝え方や、企業が誠実に情報を発信する心がけなども、よりよい情報発信のヒントとなるでしょう。
地方自治体の広報PRのポイントや、メディアフックについての記事も参考にしてみてくださいね。
PR TIMESのご利用を希望される方は、以下より企業登録申請をお願いいたします。登録申請方法と料金プランをあわせてご確認ください。
PR TIMESの企業登録申請をするPR TIMESをご利用希望の方はこちら企業登録申請をする