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自治体が今やっておきたい広報活動|住民に伝わる広報誌とメディアにひびくプレスリリース

「これから広報PR活動を強化したい」「現在、情報発信に取り組んでいるものの、うまく伝わっていない」と感じている自治体も多いのではないでしょうか。

プレスリリース配信サービスなどを運営するPR TIMESでは、そんな希望を叶えるため、課題を解消するために自治体向けのセミナーを開催。

本レポートでは、福岡県庁、神奈川県横浜市など7つの自治体に対する広報アドバイザーとして活躍する佐久間さんの自治体広報担当者向けセミナーをレポートします。

PRDESIGN JAPAN株式会社 代表取締役

佐久間 智之 (Sakuma Tomoyuki)

PRDESIGN JAPAN(株)代表取締役。埼玉県三芳町で公務員を18年務め税務・介護保険・広報担当を歴任。在職中に独学で広報やデザイン・写真・映像などを学び全国広報コンクールで自治体広報日本一に導く。2020年に退職し独立。現在はPR TIMESエバンジェリスト、総務省 地域力創造アドバイザー、早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員、自治体広報アドバイザーや研修講師として活動。「公務員のためのSNS活用の教科書」など著書多数。

住民の行動につながる広報誌

自治体広報として、もっとも大切なことは「伝える」ことではなく、「伝わる」ように工夫すること。そのことに気づいたきっかけは、集合住宅のポスト下に手つかずのまま山積みにされた広報誌の光景だったそうです。

手に取ってもらえず、読まれなかった広報誌は、のちに内閣総理大臣賞を受賞するまでに変化。どのように取り組んでいったのか、埼玉県三芳町の職員だった当時を振り返りながらお話しいただきました。

つくることが目的だった広報誌、本当の目的は何か

当時の広報誌は読み手のことを考えないまま、すべて外注で制作。自治体側が伝えたい情報をただ一方的に書き、空いたスペースには内容に関係ないイラストが挿入されている、悪い意味で適当につくられた広報誌でした。このときは、「広報誌をつくる」ということ自体が目的になっている状態。

では、広報誌の本当の目的とは何か……。

自治体広報の役割のひとつ、住民の命を守ることを考えた際に、一方的に情報を「伝える」のではなく、情報が「伝わる」ようにして、住民の行動につなげる必要があります。

広報誌が住民の行動を促し、命を守る

例として挙げられたのは乳がん検診のお知らせです。広報誌のお知らせを見て、住民が情報を理解し、検診を受け、早期発見につながり、命が救えたとします。

【住民の行動】【広報誌に必要なことは……?】
広報誌のお知らせを見る手に取ってもらう必要がある
情報を認知・理解する情報を認知・理解してもらう必要がある
検診を受ける行動に移してもらう必要がある

このように、広報誌の情報を目にすることで病気などの早期発見ができ、命を守ることにつながっていることがわかります。広報誌は、手に取ってもらうこと、認知・理解してもらえる情報であること、行動を促し、行動に移してもらえるような内容であることが必要です。

広報誌をつくるポイント

前述の通り、行動に移してもらう広報誌になるためには、まず手に取ってもらう必要があります。では、どのような点を意識し制作したらよいのでしょうか。

全世代を取りこぼさない構成

全30ページほどの広報誌の構成だとします。冒頭は若年層向け、間にはご年配の方向け、子育て世代の方向けなど一冊を通して、すべての住民を取りこぼさないということが重要です。

たまたま読んだ広報誌が自身に興味のない情報のみであれば、次回から手に取ってもらえない可能性が高まります。そうならないために、全世代を取りこぼさない構成にすることは、住民の命を守るという役割にもつながるのです。

ストーリーを大切にした特集

広報誌にはストーリーが読み取れる特集を入れることもポイントです。宣伝文句や事実だけではなく、ストーリーがあるからこそ人は行動に移せる。そんなストーリーを展開したときの事例を紹介していただきました。

観光地スポットになったほたるが見られる三芳町

2020年のコロナウイルス感染症拡大前、一日に千人が訪れる観光スポットになっていた三芳町のほたるには広報が展開したストーリーがありました。

「三芳町に観光に来てね」 ×
「ほたるが見らえる三芳町に観光に来てね」 △
「水や山を保全に取り組む人がいるから、ほたるが見られる三芳町に観光に来てね」 〇

保全に取り組む「ほたる育成会」の想いは、「子どもたちにほたるがいたときの光景を見せたい」というものだったのです。

登壇者佐久間氏投影資料より
登壇者佐久間氏投影資料より

あの人に会いたい、あの人のつくるものが食べたいという世界観

自治体の広報誌という立場上、公平性がひとつの壁になります。特定の企業や店舗のみを取り上げることで不満に感じる人をゼロに近づける対策が必要。それは、企業や店舗ではなく人にフォーカスするというものでした。人の紹介なので、商品の金額なども掲載していないそうです。

ここで紹介されたパン屋さんは、単においしいパンをつくっているのではなく、三芳町の野菜を使い、街のすばらしさを伝えたい、と営んでいるパン屋さんです。地域を盛り上げたい、パンを通じてコミュニケーションを取ってほしいという想いから店を開いたというストーリーを伝えています。

登壇者佐久間氏投影資料より
登壇者佐久間氏投影資料より

これは、地域のことを思ってがんばっている人を紹介する特集であり、甲子園に行った学生を取り上げることと変わらない、と佐久間さんは言います。

企業や商品にフォーカスせずとも「あの人に会いたい」「あの人のつくるものが食べたい」という世界観をつくっているのでしょう。

行動に移してもらえるお知らせ

伝えたいことだけだった広報誌の本来のメインコンテンツは、お知らせ欄。どうすれば、行動に移してもらえるのでしょうか。

日常的に使う表現で理解を早める

まず大切なのは、役所で使う表現ではなく、住民が日常使う表現でわかりやすくすることで理解を促すことです。

65歳になったときの介護保険料の説明例
「最初は普通徴収で、半年後に特別徴収に切り替わります」 ×
「最初は納付書で支払い、半年後に年金天引きに切り替わります」 〇

知りたい情報が伝わるように工夫する

コロナ禍、給付金の案内が多数自治体から発表されましたが、わかりづらいと感じた方も多いのではないでしょうか。伝える順番や表現を変えるなどほんの少しの工夫で、伝えたい相手に、その相手が知りたい情報が伝わります。

給付金の案内例
「休業保険や傷病手当について:対象者の方はこちらからご覧ください」 ×
「通勤を含む就業時に発症した方:〇〇制度が受けられます」 〇
「感染・感染の疑いで無給になった方:〇〇制度が受けられます」 〇

また、広報誌以外の案内にも同じことが言えます。

左図と右図では見やすさはもちろん、具体的に変更される点がわかりやすくなっています。

登壇者佐久間氏投影資料より
登壇者佐久間氏投影資料より

こちらは、「理解できない」ことから起こる問い合わせ対応の軽減に。実はこのひと手間が、全体を通しての効率化へとつながっているのです。

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情報を広く届ける地域プロモーション

自治体広報という予算が限られた中で、有効な広報PR施策はどのようなものが挙げられるのでしょうか。ここからは、SNS運用とプレスリリース配信のポイントです。

効果を最大化するために必要な考え方

メディアミックスの活用

現在、数あるメディアの中から、何かひとつだけを選び、取り組めばいいというものではありません。

  • オウンドメディア(自治体発信):広報誌、Webサイト、掲示板、回覧板
  • アーンドメディア(無償):マスメディア、SNS、YouTube、LINE
  • ペイドメディア(有償):Webメディア、チラシ、CM、看板、SNS広告、交通広告

この3つのメディアをクロスし、ミックスして発信する必要があります。

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情報を広める5つのS

インターネットやSNSの普及により、得られる情報が多くなっています。その中で多くの方に知ってもらうために大切な5つが含まれているか、確認してみましょう。






※一部、翻訳時に変更しています

SNS運用の目的とステークホルダーを整理

自治体が訴求しなければならない層は一般企業よりも幅広く、老若男女問わず住民すべてが対象です。全庁通して発信をしなければいけない情報量が増え、SNSの活用は必須。しかし、SNSの活用が目的となっている自治体も多くあります。広報PRにおける目標、目的を明確にし、SNSは手段ということを念頭に活用をしましょう。

ステークホルダーごとに目標を定めることも必要です。ステークホルダーごとに訴求する手段の選定とあわせて以下の記事を参考にしてみてください。

参考:地方自治体の年間広報計画・プランの立て方とは?必要な項目とステップ・ポイントを紹介(STEP4.メッセージを伝える手段を選定する)

メディアに取り上げられるプレスリリース5つのルール

では、プレスリリースの配信のポイントはどのようなところにあるのでしょうか。

メディア関係者が毎日100以上のプレスリリースを受け取る中で、「取り上げたい」ではなく「取り上げなければもったいない」という気持ちになってもらえるプレスリリースにする必要があると佐久間さんは言います。

佐久間流「メディアに取り上げられる5つのルール」に沿って解説します。

タイトルと見出しは客観的事実で伝える

メディアが取り上げるために必要な要素を入れ、受け手によって解釈が変わらない伝え方をします。

りんごの収穫に関するプレスリリースを配信する場合
「とってもおいしいりんごを今年初収穫」 ×
「今年初のりんご収穫|〇月〇に△△農園で実施」 〇

このポイントは、形容詞など主観的な言葉は使用せず、客観的事実で伝えることです。「とっても」は受け取り手により程度が異なりますし、「おいしい」も受け手の好みにより異なるため、避けたほうがよい表現です。

また、5W2HのWho(だれが)、When(いつ)、Where(どこで)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように)、How much(いくら/いくつ)の数値を入れ、タイトルと見出しでプレスリリースの内容を把握できるとよいでしょう。

有効的に写真を活用する

写真がないと掲載を検討しないメディアは多数あります。タイトルや見出しと同様、一目でプレスリリースの内容を想起できる画像を用意しましょう。関係者など人が映っている写真があるとより良いです。

また、FAX送付する際には、印刷しても判別できるかという点も配信前に確認が必要です。イベント開催のプレスリリースを発表する際、開催当日に現地に来れないメディアの方のためにも「当日の画像提供可能」などの注釈を加えると可能性がより広がります。

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社会的背景を加える

社会的背景を加えることで、何かの売り上げや自治体目線の目標のためではなく、「地域を盛り上げるため」を伝えることができます。

そのほか、メディア視点の「9つのメディアフック」も参考にしてみてください。

9つのメディアフック

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概要はA4サイズ一枚にまとめる

A4サイズ一枚にすべての情報をまとめることがポイントと話す佐久間さん。一枚にまとまりきらないときも、せめて詳細は二枚目以降にするなど、いかに一枚目でメディアの人に伝えるか工夫が必要です。

PR TIMESのFAX配信でも2~3枚を推奨。要点を絞り、簡潔にすることが大切です。

また、タイトルや見出しと同様に5W2Hを意識し、メディアが取り上げやすい要素を意識しましょう。

配信タイミングに考慮する

プレスリリースを配信するおすすめのタイミングは、平日の中3日間「火曜・水曜・木曜」。PR TIMESでも同様に日程を推奨しています。また、PR TIMESが推奨している時間帯は、10時〜15時です。

そして、もっとも気をつける点は配信後は問い合わせ対応をできる状態にしておくことです。終業時間直前に配信し、メディアからの連絡を受けることができないという状態は避けるべきだと重要性を強調されていました。

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もちろん、これらがすべて正しいということではなく、戦略的に配信タイミングをずらしている場合もあります。

火曜日~金曜日の日中以外に配信している例
・深夜のアニメ放映で検索数が伸びることを加味し、深夜帯に配信
・土日対応を前提に他社の配信が少ない金曜日に配信
・イベントや試合、授賞式など催し実施直後に配信
・国や地方自治体の大きな発表と合わせて配信

そのほか、ネガティブな内容については迅速に配信する必要があります。発表を待ったことで、メディアが先に知ってしまうと対応が後手に見えるなど、印象がよくありません。

イベントの告知や案内など開催日程が変更できないものは、メディア側がスケジュールを調整する必要があるため、一週間以上前には発表しておきましょう。

自治体の広報PR強化に必要な心得

「これから広報PR活動を強化したい」「現在、情報発信に取り組んでいるものの、うまく伝わっていない」と感じている自治体の方が今日から実践できるノウハウがつまったセミナーでした。

<セミナーのポイント>

  • 大切なことは「伝える」ことではなく、「伝わる」ように工夫すること
  • 自治体広報の役割のひとつは、住民の命を守ること
  • 広報誌は、命を守る行動を住民に促すことが大切
  • 地域プロモーションに必要なのは、メディアミックスの活用と情報を広げる5つのS
  • プレスリリースは、5W2Hと客観性・写真・社会性・簡潔さ・タイミングを意識

「転入者増の奈良市・人口日本一の横浜市の現役広報に学ぶ|地域の活性化とプロモーション活動」では、奈良市、横浜市で現在広報として活躍するおふたりの話をレポートします。元全国紙の新聞記者による自治体が今やるべき広報についてもまとめていますのであわせてご覧ください。

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この記事のライター

丸花 由加里

丸花 由加里

PR TIMES MAGAZINE編集長。2021年、PR TIMESに入社し、「PR TIMES MAGAZINE」、ご利用企業向けのコミュニティイベント「PR TIMESカレッジ」の企画・運営を行う。2009年に新卒入社した大手インターネットサービス運営会社では法人営業、営業マネージャーとして9年半、その後オウンドメディアの立ち上げに参画。Webコンテンツの企画や調査設計に携わる。メディアリレーションズを主とした広報を経て、現職。

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