近年、少しずつ耳にするようになってきた「パーパス」や「オーセンティシティ」という言葉。聞いたことはあるけれど、結局どういうことなのかまだよくわからない、という方もいるのではないでしょうか。
今回はパーパスとは何か、制定したあと広報PR活動にどのように活用していけばいいのか、などを解説していきます。
パーパスとは
パーパス(purpose)は、企業の存在価値を指す言葉です。企業が社会にとって必要な存在である理由が言語化されたものです。なぜその企業が社会に存在するのかを、社会や生活者などさまざまな関係性から定義していきます。
パーパスは企業がとるべき行動を定義する概念でもあります。例えば、国内・海外の社会動向や経済動向などの環境変化が起きた場合でも、パーパスに基づいて企業としてとるべき行動が明確になり、一貫した企業態度をとることが可能になるのです。
また、従業員にとってもパーパスが設定されていることでやりがいが高まり、自社に対するエンゲージメントが向上します。企業の存在価値を社会に提供するために、自分自身が企業の一員として働いている、という自分の働く意義を見いだすことができるからです。
ハーチ株式会社が2019年5月に発表した、「企業のコーポレートサイト」に関するアンケート調査では、ミレニアル世代が企業サイトを見る際に重要視するポイントのひとつに「パーパス」が挙げられています。ミレニアル世代は、賃金だけでなく、企業のパーパスに共感できるかどうかによっても企業を選ぶ傾向があり、企業のパーパスを示すことが採用においても重要であることが示されています。
参考:ミレニアル世代が思わずシェアしたくなるコーポレートサイトとは?「IDEAS FOR GOOD」が読者100人アンケート調査結果を公表
パーパスとMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)との違い
パーパスとMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)は、企業の行動や姿勢を定義するという点で類似した概念ですが、それぞれ異なるものです。パーパスとMVVの大きな違いは、それぞれを定義するときの「視点」。パーパスは社会全体の視点で企業の存在を定義するのに対して、MVVは企業の視点で、自社の存在を定義しています。
企業の視点で定義されるMVVは、以下によって構成されています。
M(ミッション):企業が社会に対して「なすべきこと」
V(ビジョン):企業・組織が目指す「あるべき姿」
V(バリュー):企業・組織の構成員が具体的に「やるべきこと」
企業の視点から、社会をどのように変えたいのか、そのためにどうなりたいのか、あるべき姿になるために具体的にどのような行動をとるべきなのか、といった「企業としてどうしたいのか」、を定義しているのがMVVです。
パーパスとMVVの関係性では、社会の中での存在意義であるパーパスから、企業のあるべき姿を詳細化した行動指針がMVVとなっていることがほとんどです。パーパスを言語化していない場合でも、MVVの根元には企業の存在価値が必ずあるのです。
オーセンティシティとは
オーセンティシティ(authenticity)は、ありのままの姿という意味です。企業においては、その企業の“らしさ”を定義するものと考えてください。
近年の広報PRやブランディングでは、自社のことを「必要以上によく見せる」のではなく、「ありのままの姿を見せる」ことによって共感や信頼を得ることが主流になっています。掲げているメッセージと実際の行動が一致していることが重要視されているのです。例えば、パーパスによって定義された企業の存在意義が嘘ではなく真実であること、企業として存在意義通りの姿勢を貫いていること、これらがオーセンティシティのある状態と言えるでしょう。
広報PR活動においては、発信する情報と実際の企業活動の内容が一致しているかがオーセンティシティを示すためには重要なポイントです。
広報PR活動でパーパスが重要な3つの理由
企業の存在意義を定義するパーパスは、社会に対して価値提供するための行動や姿勢を決めるものです。企業全体としてパーパスが重要なことは明白ですが、広報PR活動においてもパーパスは重要な概念のひとつ。その理由を3つ解説します。
1.広報PR活動の方針が決定する
企業のパーパスは、広報PR活動の方針を決定するうえでも大切です。パーパスは企業の存在意義であるため、すべての企業活動の基点となります。企業活動としてとるべき行動はパーパスによって自ずと決定するのです。その中には、もちろん広報PR活動も含まれています。
広報PR活動は企業活動を情報発信していくことで、企業のパーパスが嘘ではないことを証明し続ける活動とも捉えることができます。パーパスを軸に、オーセンティシティを示し続けることが求められているのです。
例えば、企業活動の中にはさまざまな広報ネタやPRネタがありますが、どれを発信するのか、という採用基準をパーパスに置くことができます。ネタとしては良くても、企業のパーパスと乖離しているものは、パーパスの証明にはならないかもしれません。それどころか、「企業がやるべきことだろうか」と生活者に共感されないケースも考えられます。
このように、日々の広報PR活動の方針を決めるうえでも、パーパスはとても重要な役割を持っているのです。
2.従業員のロイヤリティ向上につながる
パーパスは企業で働く従業員にとっても重要なメッセージで、従業員のロイヤリティ向上につながります。
企業の存在意義やその提供価値が明確になっていると、従業員は企業で自分が働く意義を見いだすことができるようになります。日々の自分の役割やアウトプットに対して、社会とのつながりや関係性を理解することができ、コミットメントの向上も見込めます。従業員一人ひとりの自発性やコミットメントが向上すると、強いチーム作りにもつながります。
パーパスは採用広報への活用も可能です。特にミレニアル世代においては、企業のパーパスへの共感が就職先企業を選択するうえで重要な要素になってきています。採用広報においてパーパスに基づいた情報発信を行うことで、自社へのエンゲージメントが高い就職希望者を集めることができるようになるのです。
3.効果的なブランディングができる
パーパスを設定すると、それに基づいたブランディングができるようになります。パーパスに基づいたブランディングは「パーパスブランディング」と呼ばれています。パーパスを企業活動の基点と捉えて、企業のブランドを形成する手法です。
パーパスブランディングは、社会課題解決と相性が良い場合が多いのが特徴。エシカル消費、SDGs、ESGなど近年のメガトレンドと融合させることで、社会的インパクトの強いブランド作りが可能になります。
広報PR活動でオーセンティシティが重要な3つの理由
広報担当者にとって、オーセンティシティはとても重要です。企業の情報発信態度にも、広報PRとしてのコンテンツ企画においても、オーセンティシティの有無が判断基準となるためです。今回は、その重要性について理由を3つご紹介します。
1.環境変化における企業姿勢を決定する
広報PRとして情報発信をする場合、企業姿勢を決定するためにオーセンティシティは重要な役割を担います。これから発信しようとしている情報や伝え方は、パーパスに対してメッセージと行動が一致しているのか、オーセンティシティを示すことができているのか、という基準で広報活動の内容を精査することができるからです。
これは通常の広報PR活動の中でも重要な判断軸となりますが、特に力を発揮するのが環境変化への対応が求められたときです。例えば、不祥事や事件・事故などが発生した場合にどのような発信を行うべきなのかを判断する重要なポイントになります。誰でも、自分たちに都合の悪いことは隠したくなってしまうもの。しかし、都合の悪いことを隠す、という行為が「オーセンティシティを示すことにつながるのか?」という基準で考えることができるようになるのです。
コロナ禍のような急激な外部環境の変化によって、強制的に企業活動の変化が求められる場合でも、メッセージと行動の一致、というオーセンティシティの軸を持っていれば、限定された行動の中で一貫性を保つことが可能です。
2.施策の判断基準になる
オーセンティシティは、PR施策を実施するときの判断基準にもなります。さまざまな施策を検討する中で、その施策が本当に自社らしい、自社がやるべきものなのかどうかを判断できるのです。
先ほどの情報発信という側面では、企業の行動に対して広報PR担当者が発信しようとしている情報が一致しているかどうかの判断基準にオーセンティシティを用いました。ここでは、広報PR活動がパーパスに基づいた施策になっているのかどうかを検討するためにオーセンティシティを基準とします。
広報PR活動がパーパスに対してオーセンティシティを示せているのか、定期的に振り返りをするようにしましょう。
3.企業やブランドの資産になり、新たな広報PR活動へつなげられる
オーセンティシティは、企業やブランドの資産となります。行動と情報発信の積み重ねをしていくことで、社会の中で自社の認知や自社の存在に対する認識が確立されていくためです。
広報PR担当者として注目したいのは、この積み重ねが新たな広報PRに活かせるということ。行動と情報発信、どちらの観点からも、これまでの積み重ねを活かした新たな取り組みが可能になるのです。一つひとつは小さな活動や取り組みでも、やがて大きな時流を作ることにもつながるでしょう。
企業がパーパスを制定するときの3つのポイント
実際に企業がパーパスを制定するときには、どのような手順を踏むとよいのでしょうか。パーパス制定には、多くの関係者の協力が必要です。また、制定したあとも社会の環境変化によって柔軟に変更することも必要になります。ここでは、企業がパーパスを制定するときのポイントを3つご紹介します。
ポイント1.企業の暗黙知を可視化する
パーパスは新しく作り出すものではなく、どの企業にもすでに存在しているものです。パーパスとしてメッセージを設定していない場合は、言語化されておらず暗黙知になっている状態です。まずは、企業の暗黙知を可視化することから始めましょう。
暗黙知を可視化する段階では、なるべく多くの人から意見を聞き出すようにします。部署、ポジション、役割、勤務期間などによって、感じていることは人それぞれ異なるからです。従業員だけでなく、ステークホルダーや顧客に対してヒアリングすることを検討しても良いかもしれません。アンケートやインタビューなど、ヒアリングの方法はさまざまです。取得したい情報の粒度によって実施方法を変えるとよいでしょう。
ヒアリングした意見はグルーピングなどを行い、情報整理をしておきます。
ポイント2.制定のオーナーシップは限定する
ヒアリングして可視化した暗黙知を元に、パーパスの制定を行います。メッセージとして落とし込む作業は、プロジェクトチームなどを立ち上げて行うことが多いですが、その場合は必ず創業者や経営層が入るようにしてください。企業を立ち上げたタイミングでの企業のパーパスは、創業者個人の信念が起点になっている場合が多く、企業の現時点でのパーパスは経営層の想いが起点となっている場合が多いためです。
チームで可視化した暗黙知と経営層の考えを融合し、メッセージへと昇華させていきます。1回でパーパスを決定するのではなく、案ができたら説明やヒアリングを行い、違和感がないか、共感されるメッセージかどうかを確認して調整を行っていきます。
ただし、最終的なパーパスの決定は経営層のメンバーが行うようにしましょう。企業の存在意義をバックボーンとして今後経営を行っていくことになるため、経営層の納得感がもっとも重要となるからです。
ポイント3.企業のステージや外部環境変化によって変更する
パーパスは、企業のステージや外部環境の変化によって変更する必要があります。社会を取り巻く環境に変化があれば、社会の視点から見た企業の存在意義も必ず変化します。最初に制定したきりでいると、社会の変化に取り残されてしまい、社会と企業の関係性が不均衡になってしまう場合もあります。パーパスを軸として企業の行動や姿勢を決定することは重要ですが、それに固執するのではなく、社会の変化に応じてパーパスも変化させることが必要です。
外部環境の変化にアンテナを張り、柔軟な対応ができるようにしておきましょう。
企業がパーパスを伝えていくときの3つのポイント
企業がパーパスを伝えていくときにはどのようなポイントをおさえれば良いのでしょうか。パーパスを伝えて、自社の存在意義を認知してもらうための活動を担うのが広報担当者です。広報担当者がパーパスを外部に発信するときに気をつけたいポイントを3つピックアップしました。
ポイント1.ビジネスとの関連性を明確にする
パーパスを発信するときは、自社のビジネスとの関連性を明確にするようにしましょう。パーパスは社会課題解決との相性がよく、社会課題解決はメディアに取り上げられやすい文脈であるため、その部分が前面に出がちです。しかし、広報PR担当者の役割は、あくまで自社のビジネスの認知を高めることです。
パーパスの社会課題に関する側面だけでなく、自社のビジネスによってその課題がどのように解決するのか、どうして自社が社会にとって存在する意義があるのか、という社会課題と自社ビジネスの関係が伝わる広報PRを意識しましょう。
ポイント2.オーセンティシティを示す
オーセンティシティを示した広報PR活動を行いましょう。パーパスは、企業の行動が伴わないと意味がありません。メッセージと行動が一致している状態を表明することが重要です。広報PRでの企業活動の伝え方を考えるときも、広報PRネタとして新たな企画やコンテンツを検討するときも、メッセージと行動が一致し、外部に対してオーセンティシティを示すことができているかを検討することが重要です。
ポイント3.ありのままの姿を伝える
広報PR活動をするうえでは、企業のありのままの姿を伝えるようにすることも重要です。必要以上によく見せようとしたり、都合が悪いことを隠そうとすることはやめましょう。いいこと・悪いこと、どちらも含めて企業のありのままを見せることを意識します。企業の困難や障壁といった部分を包み隠さずに発信することで、生活者に共感を与える場合もあります。特に、有事の際などには強く意識することが必要です。
広報PR活動でパーパスを伝えているGOOD事例2選
近年耳にするようになったパーパスですが、国内でもさまざまな企業が取り入れるようになってきています。パーパスは、企業の経営やサービス運営など企業活動全体をとりまく概念です。広報PR活動の視点だけから考えることは難しい部分もありますが、今回は広報PR活動、主にブランディングや社内広報における事例を2つご紹介します。
事例1.ソニーグループ株式会社
ソニーグループは、国内でもパーパスをいち早く経営に取り入れた企業のひとつです。2019年、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスを掲げました。社員へのパーパスの浸透のために社内広報として取り組んだのが、社内メディアでの社員インタビューです。ソニーグループのパーパスをどのように日々の業務の中で表現しているのか、自分自身に置き換えるとどうなるのか、などをまとめた記事を公開しています。パーパスを制定しても、どのように取り組んでいけばわからないという課題を解決し、社員へ浸透させた事例です。
事例2.三井ホーム株式会社
ハウスメーカーの三井ホームでは、「高品質な木造建築の提供を通して、時を経るほどに美しい、持続可能なすまいとくらしを世界に広げていく」というパーパスを掲げています。社内へのパーパスやブランドコンセプトの浸透のために、社内用の特設サイトを設けて発信に取り組んでいます。このほかにも、ブランドを啓蒙するためにエバンジェリストを設定し、育成のための研修を行うブランドアカデミーも実施しています。
パーパスを制定して広報PR活動の指針にしよう
パーパスとオーセンティシティについて解説してきました。パーパスは、経営や企業活動全体をとりまく概念です。パーパスを制定してただ発信すればいいというものではありません。指針にすることで、一貫性のある情報発信やブランディングを行い、自社のブランドイメージを確立しましょう。
パーパスに関するQ&A
PR TIMESのご利用を希望される方は、以下より企業登録申請をお願いいたします。登録申請方法と料金プランをあわせてご確認ください。
PR TIMESの企業登録申請をするPR TIMESをご利用希望の方はこちら企業登録申請をする