1932年(昭和7年)に創業し、現在は紙袋用取っ手やPEテープなどの生産で高いシェアを誇る香川県の松浦産業株式会社。
2020年冬、取っ手の売り上げをコロナ禍前後で比較したプレスリリースを発表しました。
通常の紙袋用取っ手の売り上げが落ち込んでいるのに対し、ダンボール箱などに直接貼る取っ手だけの「タックハンドル」が売り上げ130%増という意外な結果。メディアから注目が集まりました。
そして同プレスリリースは、情報の平等と信頼を実現することに最も忠実なプレスリリースとして、プレスリリースアワード2021「パブリック賞」を受賞。
松浦産業のPRコンサルタントとして作成を担当した株式会社PRorder代表の平田貴子さんに、受賞プレスリリース作成時のポイントや受賞後の変化などを伺いました。
メディアニーズを元に設計されたプレスリリースに大きな反響
── 受賞されたプレスリリース作成時のポイントについて教えてください。
ニッチな取っ手の調査データに興味を持ってもらうため、業界の幅を広げ世の中ゴト化することと、発信のタイミングを工夫しました。
きっかけは定例ミーティングでの会話でした。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて紙袋の需要が下がり、紙袋用の取っ手をメインに製造している松浦産業さんの売り上げも落ち込んでいる中、「タックハンドルという、取っ手だけの商品がちょっとおもしろい動きをしている」という話題が出たんです。そこで、「対比の意外性があり、面白そう」と思い、調査リリースとして発信することを提案しました。
ただ、取っ手というニッチな商材なので一部専門媒体以外興味を持ってもらえない懸念があったんです。いろいろな業界のデータがあれば、より幅広いメディアに注目してもらえると考え、アパレルや化粧品などさまざまな「業界別」でデータを出してもらいました。
また、配信のタイミングも工夫しましたね。定例会でタックハンドルの話題が出たのは夏でしたが、内容的に「コロナ禍で変化した1年を振り返る」という文脈の年末の総括企画に合う情報だと思いました。あえてそういった情報を探すメディアが増えるであろう11月まで待って配信したんです。
参考:ニッチトップメーカーによる売上比較“紙袋用取っ手”44%減、一方需要が増加する“取っ手だけ”のタックハンドル
── プレスリリースの発表後、社外からの反響はいかがでしたか。
取材を受ける機会が増え、露出も予想以上に獲得できました。初めは「withnews」に記事にしていただき、それが「Yahoo!ニュース」に掲載されて、ヤフトピにもピックアップされて。そこからさらに何件かWeb記事になって、「ZIP!」、や「モーニングサテライト」といった情報番組でも取り上げられました。
こういった反響を受け、松浦産業ではプレスリリースや掲載実績を営業活動や関連企業へのコミュニケーションにも利用するようになりました。また、自社の取り組みの資料として銀行からの融資や、補助金や助成金申請のときにも使うことも。地元に根差したメディアとも関係性を築くきっかけになったと聞いています。
「パブリック賞」受賞は誰にでもわかりやすく
──「パブリック賞」の受賞理由についてはどのように捉えていますか。
まずこのリリースの発端は、長年事業に真摯に向き合ってきたからこそ感じる違和感、いわゆる「プロの肌感覚」。私はその感覚的なものを、データなどの客観的な指標に変換してわかりやすく外部に発信するのが役割でした。事実の提示と客観性を意識した分析、そこが評価につながったのではないかと思います。
また、多様な価値観がより大切にされるようになり、情報の正しさはもちろんですが、誤解のない発信にするということを日頃から強く意識しています。受賞したプレスリリースに関しても、業界別で算出したとはいえ、あくまでも参考データであるため注釈も細かく入れました。さまざまな読み手の方を想定し配慮した点も、一次情報としての公平な発信のあり方として評価していただけたのではと思っています。
──「プレスリリースアワード2021」の受賞を知ったときの心境を教えてください。
外部のPRパートナーとして活動している私としては、本当に「今までやってきてよかった」と思いましたね。
PRの重要性、PRの力が「賞」という形を持つことで伝えやすくなったことがとてもありがたかったです。
そして何より、コロナ禍で必死に事業に向き合う松浦産業という企業があるということを、この受賞を通じて多くの方に知っていただける機会になるということが嬉しかったです。
── プレスリリースアワードの授賞式に参加されていかがでしたか。
松浦副社長が、壇上で「プレスリリースを出してよかったです」と言ってくださったんですが、当初は「プレスリリースなんて意味あるの?」と言ってらしたことを思い出して……。すごく胸いっぱいになりました。
松浦産業は取っ手という部品をつくるメーカー、私はクライアントをPRで支える役割。どちらも「黒子」なんです。なかなか世の中の光を浴びるということがない存在なので、とてもうれしく、貴重な機会でした。
── 今回の受賞をきっかけに、広報担当者として心境の変化はありましたか。
タックハンドルの例がそうなんですが、今回の受賞を機に、toBの製造業が持っている情報というのは「toCが生むトレンドの上流となるデータ」で、社会にとっておもしろく、有用であると再認識しました。
発信するような情報がないとためらう企業も多いですが、toBのメーカーならではの視点から見える世界があり、それをぜひ広く発信をしてほしいです。
もちろん社内に広報担当の方がいればそれが一番ですが、リソースが足りなければ外部のパートナーを使うという手もあります。引き続きそういった企業のお手伝いに尽力していきたいという風に、気持ちを新たにしました。
商品づくりも変化、社内に生まれたPR視点
── 受賞後、社内外からの反響や、受賞を受けての変化はありましたか。
松浦産業さんの中でPRに対する意識が大きく変わりました。継続的な情報発信の重要性が社内で共通認識されるようになって、商品づくりへの姿勢にも変化があったんです。
昨年の3月に配信した、野生鳥獣による農作物被害防止のための「来るなら濃いピンクテープ」という新商品発売のプレスリリース。当初、単なる「識別テープ」という一般名称しかなかった商品なのですが、ECで一般発売も予定していると伺い、プレスリリース配信を検討するタイミングで「わかりやすい商品名をつけませんか」「明確な商品発売日をきめませんか」と提案しました。
こちらもとても反響があり、売れ行きも非常に好調。メディアの方や生活者の方など、さまざまなステークホルダーの立場に立ち、PR視点を持つことの重要性をあらためて感じているところです。
社内に変化をもたらしたのは、受け手のタイミングに合ったプレスリリース
高い技術を持つプロが集まるtoBメーカー。「取引先へ向けたカタログ・営業資料を制作するのも重要ですが、自社の事業活動やデータを社会へ発信することで想像以上に広がっていく可能性がある」と話す平田さんの姿が印象的でした。
プレスリリースアワード2021「パブリック賞」を受賞したプレスリリースは、取っ手という限定的な商品の売り上げデータが世の中の動きを示す意外性が話題を呼びました。社会を縁の下で支えるtoBメーカーにスポットが当たるきっかけにも。
当初は「プレスリリースなんて意味あるの?」という疑念があったところから、現在はプレスリリースを営業活動、銀行からの融資、補助金や助成金申請のときにも資料として利用。また、ネーミングに対する工夫など商品づくりにも変化があり、社内に対する影響も大きかったそうです。
初めてのプレスリリース配信を前に効果に不安を感じている企業にとっても、参考になるのではないでしょうか。
(取材は、質問に対する電話での回答を通じて行いました)
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