海外では、ビジネスの面でも生活の面でも当たり前の概念として浸透している「ダイバーシティ」。日本ではまだまだ浸透しているとは言い難い状況ですが、経済産業省が企業のダイバーシティ推進のための行動ガイドライン(※1)を定めるなど、日本国内での関心が高まっています。
ダイバーシティの意味・語源とは?
「ダイバーシティ(Diversity)」とは、日本語で「多様性」と訳されます。ビジネスの場では、人種・年齢・性別・国籍・宗教など、異なる属性を持つ人材を指すことが一般的です。
企業におけるダイバーシティとは、上記以外にも学歴・職歴のほか、シニア、障がい者、LGBTQ(性的少数者)などといったそれぞれの違いを受け入れ、人材の多様性を理解することだといえます。
ダイバーシティとインクルージョンの違い
ダイバーシティと並び、よく使われる言葉に「インクルージョン(Inclusion)」があります。日本語では「包括・包含」と訳され、全体をまとめる、全体の一部に含むなどの意味を持ちます。
ダイバーシティとの違いは、言葉を使用する際の意図が異なる点にあります。企業におけるダイバーシティが「多様な人材が自社に存在する状態」を示すのに対し、インクルージョンは互いの多様性を受容し合いながら、一体感のある活動を行う組織のあり方を示しています。
つまり、企業はダイバーシティのみを推進するのでは中途半端で、インクルージョンにも取り組む必要があるのです。
近年、ダイバーシティを推進する組織には主に2つのあり方が求められています。ひとつは「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」、もうひとつは「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)」です。それぞれの詳細を以下で紹介します。
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)
ダイバーシティ&インクルージョンとは、互いの個性や価値観を互いに認め合ったうえで、それぞれが活躍できている状態です。企業においてのダイバーシティ&インクルージョンは、多様な従業員が活躍できる環境を生み出すことを指します。
日本でもさまざまな企業がダイバーシティ&インクルージョンの推進に積極的に取り組んでいます。
例えば以下の事例では、グループ企業の従業員にダイバーシティ&インクルージョンの推進を働きかける社内イベントを実施。障がいのある従業員の作品を使用したブックカバーを配布し、従業員の個性や才能を強化しています。従業員は作品づくりを通じて充実感や手応えを感じることで、従来業務へのモチベーション向上などにつなげています。
ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)
ダイバーシティ&インクルージョンは、多様な従業員が活躍できる環境づくりの取り組みですが、そこには「機会が与えられる平等」はあっても、公平ではありません。
個々の可能性を最大限に発揮するには、成功への障壁を取り除くエクイティ(公平性)による環境づくりが必要です。それがダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンです。
ダイバーシティの推進に加えて、多様な働き方を支えるための柔軟な勤務形態や、制度を整備することも、企業は求められています。社会的構造による不平等を解消するためにも、今後はDEIの概念が重要になるので、ダイバーシティを推進させる際には、実際に多様性を認めた勤務ができる制度が整っているのかまで重視するようにしましょう。
例えば以下の事例では、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの推進を目指し、ウェルビーイング室を新設。多様性を受容する企業文化をつくり、従業員のモチベーション向上や生産性の高い組織づくりなどに努めています。
参考:コインチェック、ウェルビーイング経営の実践およびDEI推進を目指し、ウェルビーイング室を新設
以下の記事では、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンをより詳しく解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
ダイバーシティの種類
一般的にダイバーシティという言葉からイメージされる、性別・年齢や人種などの属性は、多様性の一面にすぎません。ダイバーシティは大きく「デモグラフィー型(表層的ダイバーシティ)」「タスク型(深層的ダイバーシティ)」「オピニオン型」の3つに分けられます。ここではその3つを詳しく解説します。
デモグラフィー型(表層的ダイバーシティ)
性別・年齢・人種・国籍など生まれもった外面的な多様性のことを「デモグラフィー型」といい、「表層的ダイバーシティ」と呼ばれることもあります。ダイバーシティというとデモグラフィー型ダイバーシティを指す企業が多いかもしれません。
取り組み例としては、男女の雇用機会を均等にしたり、外国人の採用を積極的に行ったりなどが挙げられます。年功序列の廃止や、シニア層の雇用を増やすことも、デモグラフィー型ダイバーシティです。
デモグラフィー型ダイバーシティは、企業として取り組みやすい一方で、従業員の多様化自体が目的になってしまうことが多いのには注意が必要です。個性を活かした働き方ができなかったり、組織になじめなかったりして、離職してしまうケースは少なくないため、制度や環境を整えることが重要です。
タスク型(深層的ダイバーシティ)
デモグラフィー型が外面的な多様性を意味するのに対し、タスク型ダイバーシティは内面的な多様性を指し、「深層的ダイバーシティ」と呼ばれることもあります。タスク型では、能力・経験・知識・宗教・パーソナリティなど、後天的な個性を重要視します。
企業がダイバーシティを推進するうえで、タスク型ダイバーシティに関する取り組みは非常に重要な意味を持ちます。企業に新たな価値を生み出すには、個々の内面を受容し、個性を活かすための深層的ダイバーシティへの取り組みが欠かせないからです。
内面的な多様性を理解し合い、互いのよさを活かしながら業務に取り組める環境はイノベーションを起こしやすく、企業経営にもメリットをもたらします。多様なアイデアに触発されることは、従業員のモチベーション維持にもつながるでしょう。
オピニオン型
デモグラフィー型・タスク型が人の多様性を指すのに対し、オピニオン型ダイバーシティは、組織の多様性を推進する取り組みや環境を意味します。
社内に多様な意見を持つ人が存在していても、主張しにくい雰囲気や、発言が尊重されない環境では、多様性を受容しているとはいえません。オピニオン型ダイバーシティは、外面的多様性や内面的多様性に意味を持たせるため、まず整えるべき環境だと考えるとよいでしょう。
ダイバーシティが重要視されている背景
ダイバーシティの概念は、1960年代にアメリカで誕生したといわれています。その後、日本では、2000年に当時の日経連(現・日本経済団体連合会)の30名で発足されたダイバーシティ・ワーク・ルール研究会による「原点回帰―ダイバーシティ・マネジメントの方向性―」(※2)と題された報告書が発表されました。
多様な人材を積極的に採用することにより、働き方の多様化を実現する「ダイバーシティマネジメント」の重要性や具体的な展開を示したことから、日本でもダイバーシティという言葉がビジネスの世界でも使用されるようになっていきました。
ビジネスの場面においてダイバーシティが重要視されている背景には、以下のような要因があります。
経済のグローバル化
近年では経済のグローバル化が進展し、海外企業が日本に進出したり日本企業が海外に進出したりしています。このような環境下では、国籍・人種に関係なく多様な価値観や経験を持つ人材を採用する必要が出てきました。
労働市場の変化
少子高齢化が進む日本では、労働人口の減少による人材不足が深刻化しており、サービスや商品の供給が需要に追い付かなくなることが懸念されています。こうした状況下では、外国人やシニア層、障がい者、LGBTQなど多様な人材の雇用が求められるようになっています。
労働者の意識の変化
人材の多様化にともない、労働者の雇用意識や仕事に対する価値観も多様化しています。例えば、仕事のやりがいや達成感、個性・スキル・ワークライフバランスの重視、帰属意識の希薄化など、労働者の意識もさまざまです。企業はそれらを理解し、個々が活躍できる環境を整備する必要があります。
生活者ニーズの多様化
近年では生活者のニーズも多様化しています。「モノへの消費」から「コトへの消費」へと生活者の消費志向が変化している現代において、企業は戦略の転換を求められています。生活者の消費行動に合った企業戦略を実現するためにも、多様な人材を雇用し柔軟に対応していかなければなりません。
社会的要請の増加
近年では、「同性カップルでも、異性カップルと同様のサービスを受けたい」など、多様性やインクルージョンに対する社会的な要請が高まっていることも、ダイバーシティが重要視されている背景に挙げられます。世の中の声に耳を傾けダイバーシティを推進することは、企業や組織にとって重要なCSR(企業の社会的責任)活動となっています。
例えば東京・渋谷区では、「性的少数者の人権を尊重する社会」の形成を推進する取り組みとして「渋谷区パートナーシップ証明書」を発行する条例を制定しています。法的拘束力こそないものの、本取り組みに対し複数の企業では、サービスの適用範囲の見直しを図るなどの動きを見せています。パートナーシップ証明を受けたカップルが、異性カップルと同様のサービスを受けられるケースも増えてきました。
上記のほか、経済産業省がガイドライン(※1)を取りまとめたことも、ダイバーシティの推進が重要視されている背景のひとつです。個人に直接関係する事柄から間接的な事柄まで、多くの人々がダイバーシティに関心を持っています。
ダイバーシティの歴史や捉え方
日本では、近年になって急速にダイバーシティが取り上げられるようになり、多様性に目を向ける機会が増えています。しかし、海外では古くから積極的にダイバーシティへの取り組みが行われてきました。
特にアメリカは、ダイバーシティに関する長い歴史があります。1863年の「奴隷解放宣言」により奴隷制度が廃止されたり、1970年代にはウーマンリブと呼ばれる「女性の独立宣言」により女性が参政権を勝ち取ったりと、個性を尊重し、差別を撤廃するための公民権運動が数多く行われてきたのです。
こうした背景もあり、移民大国であるアメリカは、多様なバックグラウンドを持つ人々が自然に共存しています。一人ひとりに個性があり、当たり前に尊重されるべきだという考え方が根付いているのです。
アメリカ以外の国においても、ダイバーシティの重要性は同様です。特に企業におけるダイバーシティ制度の推進が積極的に行われており、子どもを持つ従業員に対する国の経済的支援制度の定着や、女性管理職比率の向上など成果が表れてきています。
一方、日本におけるダイバーシティは、欧米諸国に比べると歴史が浅く、ダイバーシティの考え方が認識されたのは、1985年に制定された「男女雇用機会均等法」がきっかけです。その後「男女共同参画社会基本法」が施行され、性別という属性における平等が義務化されていきました。
しかし、ダイバーシティ2.0行動ガイドライン(※1)が策定されたのは2017年。男女の平等以外の面において、長らく多様性に関する問題は先送りにされてきました。
日本ではこれまで「多様性」を意識するシーンは、諸外国よりも少なかったかもしれません。今後、すべての人への機会を均等にするため、そしてグローバル化に対応するためにも、多様な価値観を受容する環境を整え、一人ひとりの意識改革を早急に進めることが求められています。
企業がダイバーシティを推進する3つのメリット
企業がダイバーシティ推進を求められる中で、もしかしたら「従業員の働きやすさを尊重することで企業に不利益が生じる」という誤った考えを持っている人もいるかもしれません。しかしダイバーシティの推進は、多様な個人を受容し、新たな価値観を形成するだけにとどまらず、より広範囲にわたってメリットを得ることができるのです。
ここでは、企業がダイバーシティを推進することで得られる3つのメリットについて理解を深めていきましょう。
メリット1.組織力の強化につながる
ダイバーシティを推進することで得られる1つ目のメリットは、組織力の強化につながることです。多様な属性を認めることで、これまで検討していなかった属性に該当する、優秀な人材が確保できることになります。
具体的には次のような例が見込めます。
グローバル展開の促進
多様な人材を抱えることで、海外展開においても適応力が高まり、グローバル展開の促進につながります。また、海外からの評価や競合優位性の向上も期待できます。
創造性とイノベーションの促進
多様な人材が集まることで、異なる視点やアイデアが生まれ、創造性やイノベーションの促進につながります。
人材確保と離職率の低下
さまざまなライフスタイルを考慮した、働きやすい環境を整備することで、多様な人材を採用することができます。また、従業員に配慮した職場環境は従業員エンゲージメントを高めるため、離職率の低下も見込めます。
人材育成にかかるコストの削減
シニア層など、豊富な経験や知識がある従業員を採用することで、人材育成にかかるコストの削減が可能となります。さらに、長年培った経験や知識は業務以外の面でもよい影響を与える可能性があります。
企業に対する評価の向上
多様な働き方を推進し、多様な価値観に理解を示すことで、企業に対する社会的評価を高めることができます。
メリット2.ステークホルダーとの良好な関係を構築できる
ダイバーシティを推進することで得られる2つ目のメリットは、人材や働き方の多様化を進めることで、ステークホルダーと良好な関係を築けることです。
具体的には次のような例が挙げられます。
多様なニーズへの対応
ダイバーシティを推進することで、多様な人材が集まり、異なる視点やアイデアが生まれます。これにより、世間の多様なニーズに応えたサービスを展開でき、ステークホルダーとの関係を強化することができます。
コミュニケーションの改善
ダイバーシティの推進により、働きやすい職場環境になれば、企業内でのコミュニケーションも改善されるでしょう。従業員同士で円滑なやり取りができれば、ステークホルダーとのコミュニケーションもスムーズに行えるようになり、良好な関係を築けるようになります。
マーケティングの強化
ダイバーシティを推進することで、企業はマーケティングの改善を図ることができます。例えば、特定の地域や文化に詳しい人材がいることで、現地のニーズを把握し、それに合った商品やサービスを提供することが可能となります。
CSR活動の促進
ダイバーシティの推進はCSR活動の一環として位置付けられます。企業が社会的責任を果たすことで、ステークホルダーからの信頼を得ることができ、より良い関係につなげていくことができます。
メリット3.法令遵守とリスク回避につながる
ダイバーシティを推進することで得られる3つ目のメリットは、法令遵守やリスク回避につながることです。
以下に列挙する内容を意識することで、企業は法令を遵守することや、さまざまなリスクを軽減・回避することができるようになります。
法令の遵守
企業におけるダイバーシティの推進では、性別や年齢、障がい、人種・民族・宗教などに対する差別禁止の法律に基づいて雇用機会の均等を確保しなければなりません。また、広報PR活動やマーケティング活動などにおいて、差別や偏見を助長する表現を避けることにも注力する必要があります。
ダイバーシティを推進するうえでさまざまな点に注意を払うことは、企業としても、従業員個としても、法令を遵守することにつながります。
リスクの軽減・回避
日頃から従業員にダイバーシティ推進への理解を深めておけば、差別やハラスメントにつながる言動を抑制することができます。
万が一差別やハラスメントが発生した場合も、迅速に適切な対応をとることができるでしょう。これにより、企業の評判や信頼性を損なうリスクを軽減・回避することができます。
企業がダイバーシティ推進のために行いたい施策
企業におけるダイバーシティ推進にはさまざまな方法があります。自社でダイバーシティを推進していく場合、できることから少しずつ始めていくとよいでしょう。自社でできることを検討するには、ほかの企業でどのような取り組みを行っているかを知ることも大切です。
ここでは、5つの施策と、6社のダイバーシティ推進に関するプレスリリースを紹介します。自社でもダイバーシティを推進する施策を導入した際は、ぜひプレスリリースを配信し、多くの人に周知しましょう。
施策1.海外の学校と連携し優秀な若手を採用する
1つ目の施策は、海外の学校と連携し、優秀な若手の採用を進めることです。
ダイバーシティ推進のため、海外の新卒社員を積極的に雇用する体制を整えることは、重要なステップのひとつ。海外から人材を採用するにあたって大切なのは、単発ではなく継続的な学生採用を行うことです。
毎年一定数の学生を受け入れる企業として、学校の信頼を得ることができれば、より優秀な若手を採用しやすくなります。取り組みが周知されるようになれば、ひとつの国だけでなく、複数の国の学校と連携して雇用も行えるようになるでしょう。
<プレスリリースの例>
IT人材不足の課題に対する取り組みとして、ベトナムの大学と「人材の育成・採用における協力に関する協定の覚書」を締結。産学連携で優秀なベトナム人エンジニアの採用を強化し、未来のIT人材の育成に努めています。
参考:ハイブリッドテクノロジーズ ベトナム国家大学(ホーチミン校)・工科大学と「人材の育成・採用における協力に関する協定の覚書」を締結
施策2.ライフスタイルや性別にとらわれない環境づくりを促進する
2つ目の施策は、ライフスタイルや性別にとらわれず活躍できるよう多様な働き方が可能な環境をづくりを促進することです。
性別に関係なく機会が平等に与えられることはもちろんですが、能力を最大限に発揮するための障害を取り除くのも企業の努めです。特に女性は、出産や子育てのタイミングで離職する可能性が高く、女性の社会的活躍を推進するには、新しい働き方を認める風土だけでなく具体的な制度を整えることが求められます。また、男性従業員の育児休暇を取得しやすくする、家族の介護と仕事を両立できるようリモートワーク制度を導入するなども、多様な働き方ができる環境整備のひとつです。
<プレスリリースの例>
グループ全体のダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンを深化させていく取り組みの一環についてのプレスリリースです。男女が育児を分担しながら、多様な働き方を選択できる環境・風土づくりを進める中で、取得を必須とした有給育児休暇制度を新設するほか、育児期における短時間勤務制度の拡充を図っています。
参考:花王、育児両立支援制度の新設・拡充で女性活躍推進を加速
施策3.シニア層や障がい者の雇用を創出する
3つ目の施策は、シニア層や障がい者の雇用の創出です。
ダイバーシティの推進は、多様な年齢層の活躍を叶える意味だけでなく、超高齢化社会・人材不足に対応する施策としても、シニア層や障がい者の雇用は社会から注目を集めています。
こうした取り組みのメリットは人材不足の解消だけにとどまりません。特にシニア層は、長年培った経験やスキルを持っていることが多く、企業にとって貴重な人材となります。また、専門的なスキルや才能を持っている人材を採用することで、企業は優秀な人材を確保することができます。
<プレスリリースの例>
定年退職制度を撤廃しシニア採用を導入した事例です。年齢に制限を設けず、個々のライフスタイルや価値観を尊重した就業環境や活躍機会を創出し、個々の能力や可能性の最大化を促進しています。
参考:【株式会社シロ】多様性を尊重し、自由なキャリアを選択できる環境づくりとして、定年退職制度の撤廃と新たな採用方法「シニア採用」を導入
また、以下の事例ではパーパスに基づいたSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みのひとつとしてダイバーシティの推進を掲げ、「障がい者雇用の促進」「定年後の従業員継続雇用」「ロールモデルとなる女性管理職を増やす」の3つで多様な人材の雇用を推進しています。
参考:持続可能な地域社会の実現に向けたフレスコの取り組み/4つの重要課題(マテリアリティ)を特定
施策4.個性やアイデンティティの違いを活かし、新たな企業価値を創造する
4つ目の施策は、個性やアイデンティティの違いを活かした新たな企業価値の創造です。
ダイバーシティを推進する取り組みでは、多くの企業が多様性の尊重にとどまっています。その現状から時代の一歩先をいく企業になるために必要なのが、個性やアイデンティティの違いを活かした企業価値の創造です。
例えば、マイノリティ市場を新たに開拓するのであれば、マイノリティに属する従業員や外部協力者がプロジェクトに関わるのがもっとも適切です。それぞれが持つ個性をより活かせる機会をつくることで、新たな企業価値が生まれやすくなります。
<プレスリリースの例>
5つのテーマに沿った商品を提案するショールーミングストアに関するプレスリリースです。それぞれのテーマに精通したキュレーターが商品をセレクトしているのが特徴。テーマのひとつである「ジェンダーレスなライフスタイル」に関しては、トランスジェンダーの建築デザイナーを起用し、性別、年齢、ハンディキャップなどのボーダーを乗り越える勇気を与えるアイテムをセレクトしています。
参考:“新たな出会い”がテーマのショールーム型店舗「Meetz STORE」が髙島屋新宿店に4月29日(金・祝)オープン
施策5.他業種出身者の積極的採用で知識のアップデートを図る
5つ目の施策は、他業種出身者を積極的に採用し、知識のアップデートを図ることです。
これは目に見える多様性ではなく、内面的な多様性に焦点をあてた施策といえます。既存の分野ではなく、他業種・他職種からの採用を積極的に行うことで、新しい知識を取り入れる機会を意図的につくり出せます。また、他業種・他職種でキャリアアップを重ねた元従業員を再雇用することでも、同じように新たな知識を吸収することができます。
なお、これまでも他業種・他職種からの転職を積極的に受け入れてきた企業は、さまざまな経験やスキル、能力を持った従業員がすでに在籍していることも考えられます。新規で採用する前に、社内にいる従業員同士で互いに知識を共有する機会をつくってみるのも一案です。
<プレスリリースの例>
かつての従業員を再雇用したりビジネス協業などの人材交流をしたりすることを目的とした「アルムナイ制度」を導入した事例です。他業種でのキャリアアップを求めて他社に転職した退職者を積極雇用し、それぞれの強みや価値観を活かしながら事業拡大を計画しています。
参考:〈創業80周年の老舗「八芳園」が「アルムナイ制度」を導入〉八芳園のホスピタリティマインドをもつ貴重な人材との再交流の場を
企業がダイバーシティを実現するときの5つのポイント
企業におけるダイバーシティ推進において意識したいのは、多様性の受容=ダイバーシティの実現、ではないということです。受容はあくまでも、ダイバーシティ推進のスタートであり、ゴールではありません。
最後に、企業がダイバーシティを実現するために、特に気をつけるべきポイントと取り組み方を解説します。
ポイント1.達成したい目的の明確化
ダイバーシティを実現するための1つ目のポイントは、なぜダイバーシティを推進するのか、その目的を明確化することです。
ダイバーシティ推進の取り組みは比較的容易に行えます。特に、外国人採用やシニア層の雇用などは実施しやすいため、さまざまな企業で行われています。ただ中には、ダイバーシティ推進そのものが目的となってしまっているケースが多く、そのような場合は人材が定着しません。
ダイバーシティ推進により、どのような社内変化をもたらしたいのか、企業経営への影響として何を望んでいるのかなど、経営層と話し合いを重ね、ダイバーシティを推進する目的を明らかにしましょう。
ポイント2.従業員からのフィードバックを受け取れる体制づくり
ダイバーシティを実現するための2つ目のポイントは、従業員からフィードバックを受け取れる体制を整えることです。
ダイバーシティに関する取り組みは、実際に働く従業員の意見を大切にしながら行うことが重要です。制度や施策は活用されなければ意味がありません。制度や施策を活用した人に意見を聞き、より多くの従業員が活用できるよう改善していきましょう。
なお、一度定めた制度をそのまま運用するのではなく、時代の感覚に寄り添った制度にアップデートし続けることが大切です。
ポイント3.多様性を理解した評価制度の導入
ダイバーシティを実現するための3つ目のポイントは、個々の多様性を理解した評価制度の導入です。
多様なバックグラウンドを持つということは、そもそも仕事への考え方や、評価されると認識している点が異なることもあります。また、企業や組織自体がそれぞれの人に求める内容が異なることもあるでしょう。
全従業員に同じ評価制度を適用するのではなく、多様性を理解したうえでの評価制度を設けることが求められます。
ポイント4.多様な人材を受け入れるため環境・制度の整備
ダイバーシティを実現するための4つ目のポイントは、多様な人材を受け入れることのできる環境・制度の整備です。
ダイバーシティの推進は、社内の協力なしではなしえません。多様な人材を受け入れ、実際に一緒に働くのは、現場の従業員だからです。そのため、全社の理解と受け入れるための準備が必要です。
例えば、海外から人材を受け入れる場合は、その国への理解を深める勉強会などの機会を設けるのもよいでしょう。多様な働き方をしている従業員がいる場合は、誰に対してもその可能性が開かれていることを周知する取り組みも重要です。
既存の従業員とのコミュニケーションがうまくいかず、多様性を持つ従業員が退職・転職してしまうリスクも軽減できます。
また、環境や風土を整えるだけでなく、実際に制度として整備することが、ダイバーシティの実現のために重要なポイントです。
ポイント5.コミュニケーション活性化の仕組みづくり
ダイバーシティを実現するための5つ目のポイントは、コミュニケーション活性化の仕組みづくりです。
ダイバーシティを推進する際には、より強固なチームワークの構築を行えるかどうかがカギとなります。そのためにはコミュニケーションの量と質の向上が必要です。
情報共有をスムーズに行えたり、仕事に関係のないコミュニケーションも取りやすかったりと、相互に関わりやすい環境づくりを行いましょう。新しいメンバーを全社に紹介する機会をつくったり、部署を超えたランチ会を開催したりするなども一案です。
多様性を持つ従業員にとっても、既存の従業員にとっても、最初は半ば強制的な仕組みがあることで、互いへの理解をスムーズに深めることができます。
ダイバーシティ推進が求められる背景、多様性の種類を理解し、自社に合った施策を検討していきましょう
ダイバーシティの推進は、多様性の受容が目的となってしまい、形骸化してしまうケースも多々あります。ダイバーシティを実現するためには、企業におけるダイバーシティ実現のメリットを明確に把握し、風土だけでなく制度として整えることが重要です。
また、未来のメンバーを受け入れる体制だけでなく、現メンバーがさまざまな働き方をできるような制度づくりや、多様性を受け入れられるよう従業員の教育を行うことも大切です。
本記事で紹介したダイバーシティを実現するためのポイントや他社の事例を参考に、自社でも具体的な施策を検討しダイバーシティの推進を実行してみてください。
※1 ダイバーシティ 2.0 行動ガイドライン 平成 29 年 3 月 平成 30 年 6 月改訂|経済産業省
※2 資料2「日経連ダイバーシティ・ワーク・ルール研究会」報告書の概要 原点回帰―ダイバーシティ・マネジメントの方向性―|文部科学省
<編集:PR TIMES MAGAZINE編集部>
ダイバーシティの種類とは?
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