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日経クロストレンドの記事制作プロセスから学ぶ。メディアと双方向性のつくりかた

企業の広報PR活動において、情報発信が一方通行になってしまうことは解決すべき課題のひとつです。

プレスリリース配信サービスを運営するPR TIMESでは、7月12日にユーザー会を開催。日経クロストレンド副編集長の森岡大地氏をゲストに迎え、「企画立ち上げの裏側」をテーマに情報収集の方法や記事の制作プロセスについて語っていただきました。

商品開発や新規事業、マーケティング戦略などの最先端の動向を伝えるデジタル・メディア『日経クロストレンド』制作の裏側から、メディアとの双方向性をつくるための大切なヒントを探ります。

日経クロストレンド 副編集長

森岡 大地(Morioka Taichi)

2006年東北大学大学院理学研究科天文学専攻修了。同年、日経ホーム出版(2008年に日経BPと合併)に入社。日経トレンディ編集部にて、記者・編集業務に携わる。2013年に日経ビジネス記者。2014年より再び日経トレンディに。19年より日経クロストレンドを兼務し、20年より専任。22年より現職。スイーツ好きが高じ、トレンディではスイーツ・手土産を担当。クロストレンドでは、大手企業からベンチャー・スタートアップ、個店まで、多様な取材を行う。私生活では、2児の父として育児と仕事の両立に奮闘中。

日経クロストレンドを解説

──まず、日経クロストレンドについて、どのような媒体か簡単に教えていただけますか。

主要コンテンツは主に「特集」「インサイド」「連載」の3つです。

  • 特集:1週間に渡り、1テーマ6〜8本の記事で構成。デスク1人と記者2人で担当し、主に月、水、金に公開。
  • インサイド:記者自らが好きな切り口で出す単発記事。テーマ設定も取材も記者自らが行い、特集の間を埋める形で主に火・木に公開。
  • 連載:1テーマ続きものの記事。不定期で出しながら数年続くものや数ヵ月で完結する短期連載、書籍化を見越したものもあり。

媒体の方向性を明確にした新キャッチコピー

日経クロストレンドは、媒体の方向性をより明確にするために、創刊時から掲げていたショルダーと呼ぶ、ロゴの上にあるキャッチコピーを刷新しています。創刊当初は「新市場を創る人のデジタル戦略メディア」というキャッチコピーがついていたのですが、方向性をより明確にするために、「マーケティングがわかる」「消費が見える」という2つのテーマに分けました。

日経クロストレンド資料01

「マーケティングがわかる」
マーケターの方にとって参考になるマーケティング活動の企業事例や、「マーケティングとは?」というようなHow To記事など、BtoCだけでなく、BtoBの要素も入っているコンテンツが属します。

「消費が見える」
日経トレンディが選んだヒット商品や、生活者側の動向や心理を追うコンテンツなどが属します。

上記の2つに加えて、デジタル領域やテクノロジー、今後の未来予測などを掛け合わせるイメージで記事を作っています。

──キャッチコピーが変わったことで、どのような変化がありましたか。

今までも「クロストレンドはこういう媒体」というイメージは漠然とありましたが、それがより明確になったと思います。一人ひとりが「これはどちらに該当するのか」ということを考えるようになったことで、記事が総花にならずに、エッジが立つようになったと思います。

5媒体の人材が集結することで広い領域をカバー

──テーマは大きく2つに分かれていますが、扱う領域はとても広そうですね。

クロストレンドは、「日経デジタルマーケティング」「日経デザイン」「日経トレンディ」「日経トレンディネット」「日経ビッグデータ」という5媒体の人材が集結してできているので、広い領域をカバーすることが可能になっています。誰がどの業界を担当するのかということも決めず、記者の一人ひとりが面白いと思うものを追いかけている組織。もともと強みを持った領域は意識しつつも、周りの人材に影響されて違う分野の記事を作るということもあります。

メディアが行う情報収集の方法

広報PR担当者としては、メディア側がどのように情報を集めているのかは気になるところではないでしょうか。森岡さんが普段行っている情報収集の方法について、詳しく伺いました。

実務者が直接情報を発信する内容に注目

──普段はどのタイミングで、どのように情報収集をされていますか。

基本的にはどの時間帯でも情報にアンテナを張って収集しているイメージですね。方法としては、私の場合は人づてが多いと思います。「今こんな話題が盛り上がっていますよ」「うちの業界に面白いことをやっている人がいるから紹介します」というように、もともとつながりのある方から情報をいただくことが多いですね。

もちろん、SNSも積極的に活用していて、面白い情報を発信している方がいれば、その方の投稿を遡って情報を引っ張ってくることもあります。

また、どこかの企業へ取材にいく場合、広報PRを担当する方を経由して中の人につながるというのが一般的な流路ですが、実務者が直接発信している投稿では、本来なら取材に行かなくては得られない情報も書かれています。もちろんそのまま記事にすることはありませんが、そうした「中の人」が発信している情報は積極的に見るようにしています。

──確かにそうですね。今までは広報PR担当者が発信するのが一般的でしたが、ほかの方と直接つながることができれば、企業の解像度も変わってきそうですね。

今は多くの企業が自社で情報発信をしたり、オウンドメディアを活発に使ったりしています。プレスリリースもオウンドメディア的に情報を盛り込んだものが最近は増えていますし、単なるニュースを発信するだけでなく、裏側の人の思いを紹介するなど、情報量の厚いプレスリリースも見受けられます。そういうものに関しては、情報収集の一環としてストックするケースもあります。

日経クロストレンド02

注目している業界に関連するプレスリリース

──情報収集する際、プレスリリースのどの部分を重視しますか。

メールでプレスリリースを受け取る場合、メールアプリのリストでは基本的に差出人とタイトルしか見ることができません。膨大な量のプレスリリースを受け取る場合には、そこに頼らざるを得ない部分はありますが、ただ、私個人としては「こういう言葉だから、このような書き方をしているから興味を引かれる」というのはあまりないんです。今自分が追いかけていること、今注目している業界がやはり興味を引かれる部分なので、そこに引っかかるキーワードが目につくというイメージですね。

──では、記者の方が興味を持っていることはどのように知ることができますか。

例えば、日経クロストレンドの場合でいうと、先ほど紹介した「インサイド」というコンテンツはヒントになるのではないでしょうか。インサイドは、担当記者が興味のあることや気になることについて自ら取材して書いているので、それを読むことでこの記者が今どの領域に興味を持っているかは、ある程度類推することができると思います。

自社のことに詳しい広報PR担当者からヒアリング

──森岡さんが考える、「信頼できる広報PR担当者」とはどのような人でしょうか。

「信頼できる」という言葉とイコールかはわかりませんが、私が仕事をしていて「やりやすいな」と感じるのは、自社のことを詳しく知っていて、社内の人とのコネクションがしっかりしている人です。

ネタによっては取材対象者をこちらから指名することもありますが、例えば「こういう課題感を持っていて、こういうテーマの記事を書きたい」と相談したときに、「この人はどうですか?」と社内で該当する人のレスポンスがすぐに返ってくるかは重要な要素になります。広報PR担当者が普段から社内のいろいろな人とコミュニケーションを取っているかどうかは、気になる部分ですね。

特集企画立ち上げの裏側

メディアの記事がどのようにして作られるのかという制作のプロセスは、一見すると広報PRとは関係のない話のようにも思えます。しかし、記事の企画から公開までの流れを知ることで、メディアに情報を伝える最適なタイミングを理解するヒントになるかもしれません。

ここからは、日経クロストレンドの特集記事の制作プロセスをご紹介します。

特集が決定していく手順

日経クロストレンドの特集記事は、主に以下のスケジュール感で進められていきます。

①企画会議に特集案を持ち寄る
毎月中旬に行われる企画会議に、全員が特集案を持ち寄ります。テーマに合った取材先の検討や企画の切り口について、みんなで意見を出し合って内容を膨らませていきます。

②特集ラインアップと担当者の素案の検討
編集長が企画の方向性や特集のラインアップをざっくりと決めていきます。

③デスク会にて相談・フィックス
デスクを含めた打ち合わせで内容を決定していきます。

④デスクが担当記者とキックオフミーティング
ここからは比較的デスクに任される段階になります。

⑤総論・各論の取材先を検討し、デスクが記事のラインアップを決定
デスクと記者で相談をしながら取材先を検討。

⑥デスク会などで進捗確認・追加ネタの意見をもらう
毎週行われる編集長とデスクが参加するデスク会で、適宜進捗の確認をしたり追加ネタを募ったりします。ほかの人の知恵も借りながら進めていきます。

⑦公開順序の確定
特集の公開前週に、公開順序がほぼ確定します。

情報収集はゼロベースで進むことも

──特集に対する情報収集はどのようにされているのでしょうか。

これは特集によってもさまざまで、取材先のあたりがある程度ついた状態で企画会議に出すこともありますが、ゼロベースで話し合いながらネタを作っていくこともあります。

例えば、日経クロストレンドの中でも多くの人に読まれている『進む「消齢化」世代マーケの限界』という特集がありますが、これは取材先企業の候補がほぼない状態で進めた特集のひとつです。

日経クロストレンド資料02

企画段階で「消齢化」という現象自体はありそうだし、実際にそれをデータとして持っている企業もあるというところまでは見えていたのですが、具体的な企業事例などは一切ない状態からスタートしました。「ひょっとしてこの企業って消齢化の時代に合致しているんじゃない?」という具合にデスクと担当記者が話し合いながら進めていった感じです。

──実際にこの特集内では3社の事例を掲載していますが、どのようにして決定していったのですか。

消齢化の結果として何が起きているのかということを考えたときに、特定のブランドや企業に対して、特定の年齢層だけが買いに行っているわけではないということがわかりました。そのうえで、全世代に好かれている企業というのは、年齢によるセグメント分けみたいなものをせずにマーケティングしているのではないか、という仮説を立てて、身の回りの企業をさらっていったんです。

過去の取材や記事、プレスリリースなど、自分自身の頭の片隅にある何らかの事例と今の課題感がマッチングして取材先が決まるというのが、この特集では多かったと思います。

興味・関心に合わせ複数の記者へアプローチする

──ここまでお話を伺って、記者の方のアンテナに触れるような情報発信が重要だと感じました。では、実際に広報PR担当者から記者の方へアプローチする場合、どのようなことを意識すべきでしょうか。

「1人の記者にアプローチしただけで諦めない」ということだと思います。それぞれ興味や関心は異なるので、例えば私がまったく興味のないことであっても、すぐ隣にいるほかの記者にとってはとても面白く感じることもあります。日経クロストレンドは特にそういう部分を大切にしている媒体で、記者本人が面白いとか、これを今取り上げたいということに関しては、基本的にNOとは言われません。時期によっても興味関心は変わりますし、1人の記者に断られたとしても、諦めずにほかの記者にアプローチしていただきたいと思います。

媒体によっては、この業界はこの記者が担当というふうに決まっているところもありますが、日経クロストレンドはそういうものがまったくありません。ある記者がずっと追っている企業を、別の記者が異なる課題感を持って取材に行くことも日常茶飯事なので、どういう流路であってもどんどん声をかけていただきたいなと思います。

日経クロストレンド04

メディア視点を理解して双方向の情報発信を

今回のユーザー会では、日経クロストレンド副編集長の森岡さんに、情報収集や記事制作のプロセスについて語っていただきました。

記者がどのように情報収集をしているのか、どのように記事が作られているのか、メディア側の視点や媒体の特徴を意識した広報PR施策で、メディアとの双方向性を築いていきましょう。

情報発信のポイントは以下の通りです。

  • 媒体の方向性を理解したうえで情報発信を行う
  • ストーリーなどが紹介された情報量の厚いプレスリリースを配信する
  • 記事から担当記者の興味を探る
  • メディアのニーズに素早く対応できるよう社内のコミュニケーションを深める
  • 同じメディア内で複数の記者にアプローチする

広報PR活動を行ううえで、新たなアプローチのヒントとなれば幸いです。

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