ホテルや旅館などの宿泊業界において、施設の魅力をどのように伝えるかは重要なテーマです。情報発信が必要だと理解しつつも、人手不足でなかなか着手できないという方もいらっしゃるかもしれません。
プレスリリース配信サービス「PR TIMES」を運営する株式会社PR TIMESでは、2025年1月30日に「宿泊施設・人気番組プロデューサーそれぞれの視点で語る『ホテル旅館における広報PRの可能性』」をテーマにユーザー会を実施。
第一部では、人気番組「ヒルナンデス!」の全体プロデューサーである河野雄平さん(日本テレビ放送網株式会社)に、旅行特集における宿泊施設のリサーチの仕方や、ロケハンに行きたくなるのはどのような情報なのかを伺いました。第二部では、株式会社古屋旅館 代表取締役の内田宗一郎さん、株式会社温故知新でマーケティングを担当する小森さおりさんに、旅館・ホテルで実践している広報PRについて、それぞれご紹介いただいています。
本レポートは、当日のお話を元にまとめています。

日本テレビ放送網株式会社 ヒルナンデス!全体プロデューサー
1976年長崎県生まれ。東京大学を卒業後、2001年日本テレビ入社。制作現場や編成部などを経て、2022年から「ヒルナンデス!」の総合プロデューサーに就任。「行きたい!食べたい!やってみたい!」を新テーマに掲げ、日々、視聴者が幸せになる情報を発信している。

株式会社古屋旅館 代表取締役/株式会社モデストスマイル 代表取締役社長
静岡県生まれ。高校卒業まで地元で過ごしたのち、大学進学で上京。早稲田大学法学部を卒業し、株式会社三和銀行(現:株式会社三菱UFJ銀行)入行。平成14年に古屋旅館に入社し、平成27年より同社代表取締役に就任。地域活性化の活動にも尽力し、熱海市観光協会副会長、熱海温泉ホテル旅館協同組合理事、熱海商工会議所青年部相談役も務める。

株式会社温故知新 第一マーケティング部 PR / マーケティン
外資系ホテルのレストランサービスからキャリアをスタートし、複数のホテルやレストランでセールス、マーケティング、PR業務の経験を積む。その後、オーベルジュの開業準備室責任者として新規開業を主導。開業後は、オーベルジュを含め系列の旅館、レストランなど6施設のPR及びマーケティングの統括ディレクター として従事したのち、2024年に株式会社温故知新に入社。現在、5施設のPR業務を担当。
ヒルナンデス!(日本テレビ):視聴者に寄り添う番組作り
お昼の人気情報番組「ヒルナンデス!」。旅行やレジャーの情報も多く届けるこの番組は、どのように作られているのでしょうか。3年前から同番組のプロデューサーを務める河野雄平さんに、番組作りのこだわりや取材先を選ぶ際のポイントをお話いただきました。
旅行特集はSNSのリサーチから
「ヒルナンデス!」は日本テレビで月~金曜日のお昼に放送している情報番組です。視聴者が知りたい旬の情報をお伝えし、ハッピーな気持ちになってもらうことを目指しています。コロナ禍が明けてからは、新たに「行きたい!食べたい!やってみたい!」をテーマに掲げ、外出についての多様な特集を企画しているんです。
視聴者層である主婦や高齢者の方々と徹底的に向き合い、ニーズにしっかり応えていくことで、多くの方に見てもらえるようにと企画しています。安くておいしいもの、お得に楽しめるもの、といった潜在的な欲求に応えるような企画が増えてきていますね。祝日や長期の休みには視聴者層の幅が広がるため、その時期に合わせてアトラクションや映えスポットの特集を多くするなどしています。
当番組は旅行特集も人気企画のひとつ。特集を組むときは、まず時期に焦点を当てて考えることが多いです。秋だから紅葉のきれいな場所、冬だから温泉というように、その季節に興味を持ってもらえそうな地域やスポットを決めて、その場所でおすすめできる情報がないかを探していきます。リサーチ方法としては、旅行雑誌や宿泊サイトなどで調べることもありますが、どうしてもタイムラグがあるため、最近はInstagram、TikTok、YouTubeのタグ検索などSNSを活用することが多いです。画像や映像があるのでどんな画が撮れるのかがわかりやすいという点でも重宝しています。
ちなみに検索するキーワードは、視聴者の方が気になる言葉を選ぶようにしていており、特に当番組では価格設定の重要度が高いため、「コスパがよい」「1万円台」「リーズナブル」などを中心に探しています。さらに、「最近オープン」「リニューアル」「今だけ」といった旬の要素も視聴者にすごく喜んでいただけるので、このようなキーワードも重視しています。
施設側から提案があると充実した内容に
SNSでは口コミもチェックしています。その後、気になる施設は公式サイトでさらに詳しく調べるのですが、施設の写真やお客さまの楽しんでいる様子などがたくさん掲載されていると、取材に向けたイメージがしやすくなりますね。できるだけたくさんの場所に下見に行きたいのですが、実際に行ける場所は限られています。そのため、リサーチの段階である程度、その施設の魅力が公式サイトから伝わってくると、取材の決め手になりやすいと思います。
また、当番組の場合は宿泊施設だけでなく、近くにぶらっと出かけられる場所も一緒に紹介することが多いです。ですので、宿泊施設の公式サイトに周辺施設や観光スポットなどが紹介されていると、下見に行ってみたくなりますね。体験できるものも人気なので、近くに魅力的な場所があるなら、あわせて掲載することをおすすめします。
取材先が決まり、実際にロケハン(現地の下見)ではさらに詳細な情報を集めます。例えば宿泊施設の食事がビュッフェ形式であれば、どれくらいのバリエーションがあるのか、温泉からどういう景色が見えるのかなどはもちろん、ホテルや旅館のスタッフの方にとっては当たり前になっているアメニティへの気配りも、情報としては魅力的。
ただ、初めて行く場所で、すべての魅力を聞き取るのはかなり大変です。そのため、宿泊施設の方から「実はこういうプランやイベントもあります」「近くにこんなスポットがあります」と紹介していただけると、すごく助かります。取材の効率がよくなるのはもちろんですが、番組の中身もとても充実したものになるんです。取材をご希望の宿泊施設の方は、ぜひいろいろな形で情報発信やご提案をしていただけると、取材する側のわれわれもより良い番組作りができるため、ありがたいですね。

古屋旅館:広報PRは集客・採用に大きなインパクト
古屋旅館は、熱海で220年もの伝統がある温泉旅館です。DX化・働きやすい環境づくり・PR戦略を駆使した経営は、観光業界だけでなくさまざまな分野から注目を集めています。ここからは古屋旅館の代表取締役社長である内田宗一郎さんに、広報PRにつながる施策やプレスリリースの効果などについて、お話いただきました。
DX化や業務効率化で新卒応募数が数倍に
私は旅館の息子として生まれ、旅館の仕事を身近に感じながら育ってきました。大学を出てからは銀行で5年ほど働き、その後は旅館一筋です。また、旅館経営だけでなく近隣に飲食店を開業したり、地域との関わりで街づくりなどにも従事したりして、2021年からは広報PRの一環としてプレスリリースの配信を開始しました。老舗旅館にしては珍しいということで、いろいろな取り組みをメディアで取り上げていただけるようになっていますね。
当社の企業理念は「お客様と社員の幸福を第一に考える」としているため、働く環境を改善する取り組みも進めており、新卒採用の応募数は以前に比べると数倍に増えています。私は生まれた時から旅館で生活していますので、小さい頃は社員に面倒を見てもらっていたことも多く、本当に文字通り社員に支えられてきました。だからこそ、社員には「ここで働けてよかった」と思ってほしい。そんな想いで、このような取り組みを進めているんです。
プレスリリースを配信して反響が大きかった事例のひとつに、「予約データ入力のオンライン化・アウトソーシング化」があります。現場の機械的な作業を軽減することは、従業員満足度に直結すると考えており、当社では以前からすべてOTA(Online Travel Agent)でのオンライン予約に切り替え、電話予約を行っていません。また、決済はカード支払いのみにし、時間や手間のかかるキャンセル料のやりとりがなくなりました。もちろん、われわれのような老舗旅館は高齢のお客さまも多いので、できれば電話予約を受け付けたいという思いもありますが、その分、対面での接客に集中できるようになり、お客さまの満足度にもつながっていると思っています。
OTAでの予約に限定したことで、かなり効率化は進んだものの、サイトによって氏名の欄が分かれていたり、備考欄があったり、予約システムのデータ形式が統一されていないことで、手入力で調整する必要はありました。しかし、この作業もアウトソーシングしたことで、月間120時間もの削減につながっています。このこともプレスリリースで情報を発信したことで、多方面から注目していただけました。
参考:創業200年超、熱海一の老舗温泉宿「古屋旅館」が予約データ入力のオンライン&アウトソーシング化を推進、月間120時間の作業時間短縮を実現
お客さまがホテル・旅館を選ぶ基準が多様化
人手不足は日本全体の問題とされるなか、特に宿泊業界は顕著です。何もせずに優秀な人材が集まることは、ほとんどありません。どうしたら求職者に選ばれるのかを考えた結果、やはり企業の価値をきちんと伝えていくことが非常に重要だろうといった考えに至りました。もちろん業績を向上させ、給与や待遇を改善することは大前提ですが、今の時代はそれだけでは難しい。企業の価値を効果的に発信することで、いかに求職者に「いいな」と思ってもらえるかが、とても大切な要素になっています。そのため当社では、さまざまな取り組みをするだけでなく、それをプレスリリースや公式サイトなどで発信しているというわけです。
昔は、宿泊施設がメディアに取材される対象は「絶景の温泉」「豪華な料理」などが中心でした。しかし、今は本当に多様化していて、働きやすさや環境貢献への取り組みなども非常に注目されるようになっていると感じています。またこれはメディアの方からだけでなく、お客さまに支持していただける要素にもなり、求職者が企業選びする基準にもなっているんです。就職面談で、当社に惹かれた理由を聞いてみるとさまざまなんです。どんな発信が、誰にどう評価されるのかわからない時代だと感じています。だからこそ、当社では固定観念に縛られず、いろいろな角度から発信するようにしているんです。
私自身、社長になると誰かに怒られることはほとんどなくなります。だから自分を戒めるためにも「年間〇回は、PR TIMESで発信できるような取り組みをする」と決め、自分にプレッシャーをかけるようにしているんです。2〜3ヵ月プレスリリースを出していないと、「そろそろ何かしなくては」と焦ってきます。ぜひみなさんにも、「こんなことでもいいのかな」と臆せずに、さまざまな情報を発信して、宿泊業界を盛り上げていっていただきたいですね。

温故知新:「地域の光」を発信する広報PR戦略
「地域の光の、小さな伝道者」を理念として掲げる株式会社温故知新は、ホテル・旅館の運営やプロデュースを手掛ける企業です。宿泊施設を「地域のショーケース」と位置づけ、その土地ならではの魅力を発見・発信し、地域活性化に貢献することを目指す同社は、広報PRにどう向き合っているのでしょうか。マーケティング・PRを担当する小森さおりさんに、お話いただきました。
それぞれの土地の「光」を見つけ、発信する
温故知新は2011年に創業し、全国で11のホテルを運営しています。「地域の光の、小さな伝道者」をミッションとして掲げ、世界初のオフィシャル・シャンパンホテルなど個性的な施設を展開しているのが特徴です。私自身はホテルのレストランサービスからキャリアをスタートし、オーベルジュの新規開業や旅館・飲食店のPR統括などを経験。2024年4月に温故知新に入社しました。現在は5つの施設の広報PRを担当しています。
当社は全国にホテルがありますが、現地に広報PR担当がいるのではなく、私ともうひとりの二名体制で施設を分担しています。現地の情報収集が非常に大事になりますので、社員全員が誰でも参加できる「雑談チャンネル」で投稿されたさまざま内容に目を通し、広報PRのネタにすることが多いです。例えば、ホテルのロビーから見える絶景も、毎日出勤している社員からすれば当たり前の日常です。でも、私たち広報PR担当者が外にいることで、いかに特別なことなのかを客観的に把握することができています。
自社のホテルに対しても、自分が旅行に行ったときにどこを見るか、どんなところに感動するのかという視点を意識し、その土地の「光」を見つけているんです。
ストーリーは作るのではなく「引き出す」
温故知新は「それぞれの光を、それぞれの地で見つける」ことを大切にする企業です。そのため、プレスリリースも単なる告知ではなく、「その土地のストーリーを伝える手段」と捉えています。みなさんもプレスリリースを作成するときに、どんな内容・ストーリーにしようかと悩むことが多いのではないでしょうか。私は、ストーリーはすでにその地にあるもので、いかにそれを引き出すかが広報PRの役目だと思っています。
例えば、五島列島にある「五島リトリート ray by 温故知新」というホテルで、新料理長が就任するというニュース。この料理長はまだ30代と若く、移住した先の五島の食材に魅せられたという背景のある方で、単なる人事ニュースではなく「若き料理長の決意表明」というストーリー性を持たせてプレスリリースを配信しました。料理長が五島の食材の素晴らしさに感動したというのを知り、それがきっかけになって作成したプレスリリースです。料理長が五島のあちこちに出向いている写真をたくさん入れ、このストーリーがより伝わりやすくなるよう工夫しています。
参考:「五島リトリートray by 温故知新」の総料理長に山本祐輔が就任
一方、愛媛・松山市にある「瀬戸内リトリート青凪 by 温故知新」では、さまざまな土地のホテルなどで経験を積んだ大ベテランの料理長が就任しました。こちらのホテルの料理長はこのホテルに合う料理を作りたいという想いがあったので、「新たなステージに挑む」というストーリーを軸にプレスリリースを作成しました。また、料理長自身がソムリエに一緒に地域の魅力を伝えたいから意見がほしいと伝えたそうで、その結果、唯一無二のペアリングが生まれています。「ソムリエとの対話から生まれた」という要素もしっかり盛り込むことで、メディアの方からも注目いただくフックとなりました。
ただ、引き出すというのは簡単ではなく、現地のスタッフの方に「どんな想いで仕事していますか」などと漠然とした投げかけをしても、どう答えたらよいかわからないと思うんです。そのため、現地のことを詳細に調べて、取材相手が料理長なら、その土地で釣れる魚についてどんな特徴があるのかを尋ねてみたり、漁獲量が減っていることについて、どう考えるかを聞いてみたりといった、具体的な質問をするようにしています。そういう具体的な話をベースに、少しずつその方の想いに迫っていく。そんな風にストーリーを引き出す工夫をすることで、その土地ならではの「光」を見つけることにつながっていると思っています。
プレスリリースにはその地域ならではの体験を盛り込む
もうひとつプレスリリースで意識しているのは、「ここでしかできない体験」をどう表現するかという点です。特に主題に地元色が薄い場合には、その土地に行かなければ得られないコト・モノをプラスするようにしています。
例えば、新プランを発表するプレスリリースでは、「販売します」という事実の部分しか載せていないケースもよく見ますよね。温故知新では、その土地の歴史やこの土地だからこそこんな食が生まれるんだ、というストーリーをしっかり伝えるようにしています。
事例としてご紹介したいのが、長崎の島原半島にある「旅亭 半水盧」で、春の味覚を堪能する「春リッチプラン」の販売開始を知らせるプレスリリースです。食の宝庫・島原半島の食材の素晴らしさを全面に出すよう工夫し、食事の細部がイメージできるような豊かな表現を追求するようにしています。よく「海の幸、山の幸」という表現を使うことが多いと思いますが、このプレスリリースでは「三方を海に囲まれた島原半島ならではの、サイズも味わいも別格の海の幸、土地の旨味が凝縮された山の幸」といった表現にしたり。食べてみたいと思ってもらえる表現というのはとても難しく、文字でいかにそれを伝えるかはいつも課題になっています。
参考:旅亭 半水盧で春の味覚を満喫!豪華「春リッチプラン」の販売を開始
それから、岡山県玉野市にオープンした競輪スタジアム一体型ホテル「KEIRIN HOTEL 10 by 温故知新」では、競輪以外の要素をたくさん盛り込んで、競輪好きな方以外にも興味を持ってもらえるよう工夫しました。
流行しているサウナの外来利用を始めたことを伝えたり、地元の食材である瀬戸内海の鮮魚と岡山県産の地海苔・醤油を使用した海鮮丼などを新メニューとして打ち出したりして、家族や女子旅でも楽しめるホテルであることを発信しました。そのうえで、普段あまり見られない競輪も楽しめるという提案をしたことで、サウナ系のメディアやビジネス系のメディアにも取り上げていただけました。
参考:「KEIRIN HOTEL 10 by 温故知新」夏本番、“泊まれる競輪場” がアツい!ホテル内の大浴場・サウナの外来利用日を拡大!
温故知新のプレスリリースは、これまでさまざまなメディアに掲載していただいていますが、一番大切にしているのは地元のメディアのみなさまとのつながりです。温故知新は地域の光の伝道者であることを目指しているため、地域のみなさまとのつながりなしには運営できません。
私たちだけで地元の魅力を発信するのではなく、メディアのみなさま、地元のみなさまと共創していると思っていただきたいんですね。だからこそ、地元のメディアの方々との関係構築を最優先し、そこから全国に広がっていくことを期待しています。

まとめ:ホテル・旅館の魅力を多角的に発信し注目を集めよう
番組プロデューサーの河野さんのお話からは、メディアがどんな点を重視して取材対象を選んでいるのかがわかり、宿泊施設が自ら情報発信する重要性について、多くの示唆を得ることができました。
また、古屋旅館の事例からは、自社の取り組みを発信することは企業ブランドの向上、そして集客だけでなく採用にも大きな影響を与えるということに気づかされたのではないでしょうか。ユニークなホテルが注目の温故知新の事例からは、地域の特色を生かしたストーリー性のある情報が多くの人の関心を引き、メディアに注目されるフックとなっていることを学ぶことができました。
いずれのお話も自社の施設の企画や運営に当てはめ、取り入れたい要素が多かったのではないでしょうか。本記事を参考に、ぜひ自社に合った広報PR戦略を考え、施設の魅力を発信してみてください。
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