事業戦略の決定に大きく影響する「市場規模」。広報担当者は、自社が業界内でどのような立ち位置かを理解することで、より効果的な広報戦略を立てることができます。
本記事では、マーケティング担当者や広報担当者に向け、市場規模の調べ方と生かし方を成功事例を交えながらご紹介します。
市場規模とは?
市場規模とは、ある事業における市場の大きさ。具体的には、その市場で年間に行われる商取引の総額のことを指します。商品の販売金額や販売数量を把握し、売り上げ見込みを予測する材料として、主に事業計画を立てる際に用いられます。
市場規模の特徴
市場規模は目的に合わせて、さまざまなくくり方で定義できる点が特徴です。例えば、事業全体の将来性を検討するためには「自動車関連」のような広いくくりでの調査が適していますし、特定サービスのマーケティングのためには「ハイブリッド車」のように細分化した市場を調査したほうが検討が具体的に進みます。
このように、市場範囲を定めてリサーチすることで、市場規模は企業にとって、より意味のある数値になっていきます。
市場規模を知る3つのメリット
市場規模を把握することで、企業はどのような情報を得ることができるのでしょうか。3つのメリットについて解説します。
メリット1.新規事業の立案・立ち上げ時の見通しが立てられる
市場規模を把握する最大のメリットは、自社が市場に参入したときにどのくらい売り上げが見込めるかを計算できる点です。市場規模が大きければ大きいほど、参入の間口も広がっています。
新規事業を考えている企業が、参入の見通しを立てるためには、市場規模の把握が必要不可欠といえます。市場規模の推移を調査することで、需要が見込まれるマーケットやこれから成長する可能性のあるマーケットを発掘できる点も、新規事業立ち上げ時にはうれしいポイントです。
メリット2.既存事業の成長予測から投資など戦略の見直しができる
市場規模の把握は、既存事業の成長戦略にも役立ちます。例えば、参入している市場規模の伸び率と自社の売り上げの伸び率を比較することで、自社が今後シェアを拡大できるかを予測することが可能です。
加えて、自社のシェアから将来の売り上げ高や利益を予測できれば、いくらくらい投資してもよいかを考えることもできます。小さな市場で広告費にお金をかけてしまうと、シェアは取れていてもコストの回収に苦労することがあります。
市場規模をもとに投資額を見直すことは、既存事業の経営戦略において非常に重要です。
メリット3.生活者の理解につながる
大きく成長している市場を知ることは、最新のトレンド情報を把握することにもつながります。「業界動向SEARCH.COM」によると、2020~2021年でもっとも成長したのはAI業界の市場でした。ここから、AIは私たちの生活に浸透してきており、生活者にとって興味・関心度の高いことがわかります。
生活者のニーズの認識を深め、ニーズに沿って商品を開発し、業界の市場を理解してメッセージを伝えていくことで、広報担当者はより高い成果を発揮することができるでしょう。
業界の市場規模の調べ方
市場規模の調査方法としては、官公庁や業界団体、調査会社の市場レポートを調べる方法や、市場規模マップを利用して調べる方法などがあります。各レポートの特徴を確認していきましょう。
1.官公庁が発行する資料から調べる
官公庁がホームページで公表している資料の中で主要なレポートは、経済産業省の「工業統計調査」と財務省の「法人企業統計調査」です。
工業統計調査は、業界の市場規模が網羅されているほか、地域別の調査結果も記載されているため、幅広い利用機会があります。法人企業統計調査は、損益計算書や賃借対照表をもとに市場規模が算出されており、法人の決算計数を調査するのに便利です。
体系的に調査を進めたい際には官公庁データを利用するとよいでしょう。公開されているデータを確認したい場合は、政府統計のポータルサイト「e-Stat」で検索することをおすすめします。
2.業界団体が発行する資料から調べる
規模が大きな業界では、一般社団法人や公益社団法人である業界団体が市場規模レポートを公表している場合があります。
官公庁のレポートは、データを集計してから発表するまでに時間がかかることも多いため、最新の業界動向を把握したい場合には、業界団体のレポートを参照するとよいかもしれません。
市場が大きい業界団体のレポート例
自動車業界:日本自動車工業会
建設業界 :一般社団法人 建設業ハンドブック2020
不動産業界:不動産市場動向調査 | 消費者のみなさまへ | 全宅連
3.調査会社の市場レポートから調べる
官公庁のデータでは市場範囲が大きすぎる場合や、最適な業界団体のレポートが見つからない場合には、民間企業のレポートを購入する方法もあります。
代表的な調査会社としては「株式会社矢野経済研究所」や「株式会社船井総合研究所」があり、調査可能な業界が広いことが特徴です。
また、「株式会社インテージ」や「株式会社マクロミル」など、市場調査レポートを無料でダウンロードできる調査会社もあります。
4.市場規模マップから調べる
市場規模マップとは、官公庁や業界団体などのレポートを収集して、各業界の市場規模をブロックの大きさでビジュアライズしたマップのこと。前年比の成長で色分けがされており、前年と比べてマイナス成長の業界は赤色、プラス成長の業界は緑色で表示されています。
市場規模の大きさが視覚的にわかるだけでなく、気になる業界にカーソルを合わせることで、市場規模を算出した出所を調べることもできます。業界ごとの市場規模を比較したい場合は、ぜひご活用ください。
業界の市場規模の算出方法
知りたい市場に関する調査レポートがない場合は、既出の情報を使って規模を算出する必要があります。今回は2つの算出方法をご紹介します。
1.会社の売り上げとシェアから算出する
市場規模を知りたい業界の企業の売り上げとシェアがわかっている場合は、簡単な計算で市場規模を算出できます。
市場規模=「ある企業」の売り上げ÷「ある企業」のシェア
このように計算する場合の注意点は、試算に利用する企業の売り上げに、他分野の売り上げが合算されていないかを確認することです。
企業の発表している決算には、さまざまな分野の売り上げが合算されて掲載されている場合があります。試算時には、市場規模を知りたい事業分野に特化した会社をモデルケースにするなどの工夫が必要です。
2.フェルミ推定で算出する
フェルミ推定とは、実際には調査することが難しい数量を、いくつかの手掛かりをもとに推論し、短時間で概算することを指します。決まった方式があるわけではなく、どういう道筋で算出するかは分析者次第です。
短時間での推定が可能である一方、計算方法によって推定がずれてしまう懸念点もあります。フェルミ推定を行う場合は、なるべく複数の計算方法で検算するとよいでしょう。ここでは2つほど推定方法の例を見ていきます。
需要側から算出する場合
商品やサービスを購入する生活者側から市場規模を求める場合、以下のような掛け合わせてあたりを付けることができます。
例)生活者数 × 生活者1人当たりの平均単価
例)商品数 × 1商品当たりの平均単価
供給側から算出する場合
商品やサービスを供給する企業側から市場規模を求める場合は、以下のような推定をすることができます。
例)市場に参入している企業数 × 1社当たりの平均売り上げ高
市場規模の推移や拡大予想を把握する方法
市場規模を把握した後は、その市場が今後拡大していくのか、縮小していくのかを知りたくなります。推移と予測を把握する方法としては、市場レポートの検索・購入が有用です。ここでは、市場規模の推移や拡大予測を知る際に役立つ、書籍やレポートの検索方法をご紹介します。
1.日経BP社『未来市場』の購入
日経BP社 総合研究所 未来ラボが発行している有料レポートのひとつに、有望市場に対するこの先10年の市場予測をまとめた『未来市場(2019-2028)』があります。『未来市場』には市場規模の算出ロジックが明示化されており、市場規模算出の各係数を変えることで、レポートに載っていない市場にも応用できる点が特徴です。
業界レベルの大きな市場範囲を取り扱っているため、広域な調査が必要な際に活用するのがおすすめです。
2.民間企業の調査レポートの検索
有料レポートを購入する前に、まずは手軽に推移を把握したい、という場合に活用できるのが民間企業の調査レポートをまとめたサイトです。今回は2つのサイトをご紹介します。
調査のチカラ
「調査のチカラ」は、インターネット上に公開されている調査データを集約したサイトで、無料で閲覧できるレポートが多い点が特徴です。関連データがリスト化されているコーナーからデータを探すこともでき、細分化された市場の調査が必要な際に有用です。
PR TIMES
「PR TIMES」には、企業が調査した市場動向に関するプレスリリースが掲載されており、フリーワード検索で市場規模に関する情報を絞って閲覧することが可能です。どのような市場レポートがあるのかを手軽に知りたいときは、ぜひご活用ください。
市場規模はどう生かす?検討したい戦略例
市場規模と推移を把握した後は、具体的にどう戦略を立てていけばよいのでしょうか。市場規模をうまく生かして事業を展開している企業を参考に、4つの戦略例をご紹介します。
戦略例1.市場規模が大きい場合
市場規模が大きいからといって、必ずしも新規参入の魅力があるとは限りません。すでに多くの企業が激しい競争を繰り広げている可能性もあります。そんな規模が大きい市場の中で、競合より優位に立つための戦略のひとつがコストリーダーシップ戦略です。
コストリーダーシップ戦略とは、事業に必要なコストを競合他社と比較して低く抑えることで市場の価格決定権を握る戦略です。
この戦略で成功した企業にユニクロ(株式会社ファーストリテイリング)があります。ユニクロは、商品の企画・製造・物流・販売をすべて自社で行い、余計な業者を通さないことで、製品単価を圧倒的に削減。低価格・高品質を広報戦略として掲げることで、アパレル市場という大きな市場規模の中で成功を収めました。
市場規模が大きいことを把握した後は、自社がその市場でシェアを確立する方法があるかを検討する必要があります。
戦略例2.市場規模が小さい場合
規模が小さく、一見売り上げが立ちづらそうな市場だとわかった場合はどうでしょうか。規模が小さい市場で成功する考え方として、ニッチ戦略があります。
ニッチ戦略とは、他社との競争が起きないニッチな市場に焦点を当てて事業展開する手法です。競合が少ない市場を見つけて事業化させることで、シェアを獲得し売り上げを伸ばしていきます。
ニッチ市場でのブランディング戦略が成功した事例として、モスバーガー(株式会社モスフードサービス)があります。モスバーガーは、当時のハンバーガー市場からは、価格を一段高めに設定し、注文を受けてからハンバーガーを作る、野菜の生産者名を店頭に出す、といったブランディング戦略で、高級志向のハンバーガーというニッチな市場でシェアを伸ばしました。
市場規模が想定よりも小さかった場合は、他社と競争せずにシェアを獲得できるマーケティング戦略をとることが望まれます。
戦略例3.規模の拡大が見込める場合
一般的にビジネスでは、市場に早く参入するほど優位性があるといわれていますが、規模の拡大が見込まれる市場に後発で参入する場合は、どのような立ち回りが必要でしょうか。
乱立するコーヒーチェーン市場で、自社の独自性をアピールし、差別化戦略をとって売り上げを伸ばした企業がスターバックス(スターバックス コーヒージャパン株式会社)です。
スターバックスは、内装のおしゃれさやインテリア、音楽などに注力し「居心地のよさ」という体験を提供することで、生活者に「後発のカフェ」ではなく「スターバックス」という独自ブランドを浸透させていきました。
さらに、根強いファンを獲得するべく、生活者との双方向的なコミュニケーションを徹底したところにも成功要因があります。テレビCMなどの一方向的な宣伝は行わず、SNSでの宣伝やアンケートを行うことで、若年層から圧倒的な支持を集めました。
差別化戦略を理解し、事業戦略を促進させるように広報戦略を行っていくことで、スターバックスは拡大する市場の中で唯一性を確立できたといえます。
戦略例4.規模の縮小が予測される場合
市場規模が縮小している場合、事業縮小や撤退などの戦略を考える企業も多いのではないでしょうか。そんななかで、市場を横展開することで成功した企業が富士フイルム株式会社です。
デジタルカメラが普及したことで、富士フイルムの売り上げのほとんどをしめていた写真フィルム市場は急速に縮小していました。しかし、富士フイルムは、フイルム製作時に必要な技術が、化粧品や医薬品と類似していることに気づき、化粧品市場や医薬品市場に横展開していくことで、見事に新規事業を軌道にのせることに成功しています。
市場が縮小傾向にある場合は、既存の技術や知識を生かして、隣接する業界へ参入することも有用な戦略のひとつといえます。
市場規模の理解は事業成功への近道
市場規模を理解することは事業成功のための大切な一歩であり、事業戦略への深い理解が必要な広報戦略においても重要です。市場・競合・自社の状況を正しく把握し、社会の動向に合わせてメッセージを発信することで、より的確に自社の想いや強みをユーザーに届けることができます。
マーケティング戦略や広報戦略を担当されている方はぜひ一度、ゆっくり市場を調査する時間をつくってみてはいかがでしょうか。
市場規模に関するQ&A
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