身近な地元企業やメディアから広報PRに関する成功談や失敗談を聞き、明日から活かせる実践のヒントを得られるイベント「そこで、PRゼミ!」。2024年9月12日には、大阪で「事業の未来を切り拓くPR」をテーマに開催されました。
人気番組「相席食堂」のプロデューサー髙木伸也さん(朝日放送テレビ株式会社)が登壇した第一部に続き、第二部では、BABY JOB株式会社の東ネネさん、錦城護謨株式会社の水田竜平さん、江崎グリコ株式会社の宮崎友恵さんの3名をゲストに迎えたパネルディスカッションを実施。広報PRを強化したきっかけと成果に至るまでの苦労や学びなどについて、それぞれお話いただきました。
本レポートは、当日のお話を元にまとめています。
第一部:千鳥「相席食堂」プロデューサー登壇。コアなファンを引きつける秘訣はは逆張りにあった|朝日放送テレビ
BABY JOB株式会社 マーケティング部
石川県出身。広告提案の営業を5年経て、2021年4月にBABY JOB株式会社に入社し、未経験で広報・マーケティングを担当。すべての人が子育てを楽しいと思える社会を目指して、子育て課題の解決に向けて数々の調査を実施。2021年には、保育園から使用済みおむつを持ち帰る問題について全国調査を実施し、厚生労働大臣に署名とともに提出。その後、厚生労働省から各自治体に向けて「園での廃棄を推奨する」という通達が出される。
錦城護謨株式会社 業務統括部企画課 係長
2003年、大学で土木工学を学び卒業。ゴム製品のメーカーでありながら、軟弱地盤の改良工事を手掛ける土木事業部があるユニークさに興味を抱き錦城護謨に新卒で入社。以降約20年間、土木事業部に所属し日本全国で現場管理や営業を担当。2020年に立ち上げた自社初となる to C向けオリジナルブランド「KINJO JAPAN」の中心メンバーであり、シリコーンゴムでできた、まるでガラスのようなグラスは多くの話題をよんでいる。2022年、自社初の広報担当となる。
江崎グリコ株式会社 グループ広報部 グループ広報部 戦略広報グループ グループ長
総合電器メーカー、外資系食品企業を経て、2013年江崎グリコ入社。ビスコ等のマーケティングを担当後、事業を通じて社会貢献を行うべく、グループ広報部にて子育て施策「Co育てPROJECT」を立ち上げる。男性育休100%等様々な実績を残し「子育て応援企業」としての事業イメージづくりを行っている。その他「キッザニア甲子園 チョコレート工房」立ち上げなど、子ども領域におけるコミュニケーションコンテンツを担当。2015年パワーママオブザイヤー受賞。第2子の育休中、育休者に学ぶ機会を提供する「一般社団法人ぷちでガチ」を仲間と立ち上げ、当時理事を務める。通算4000人参加する団体となる。
BABY JOB:紙おむつサブスク事業を5年で85倍へ
BABY JOB株式会社は、保育園へ紙おむつのサブスクリプションサービス(以降、サブスク)をはじめ、子育て支援サービスを提供するスタートアップです。広報PR部署がない状態で入社した東さんは、未経験で広報PR担当になり、3年間手探りで広報PR施策を進めてきました。まずは、紙おむつとおしりふきのサブスク「手ぶら登園」の導入障壁となっていた社会課題について、どう乗り越え成果を出したのか、お話いただきました。
広報PRの力で社会課題を解決することこそがサービス導入の糸口に
広報PR担当者として最初に取り組んだのは、導入を妨げていた「使用済みおむつの持ち帰り問題」を、広報PRの力で解決することです。実は保育園で使用したおむつをどうするのかは自治体や保育園によって方針が異なっていて、保育園で廃棄するケースと保護者が持ち帰るケースとが混在していました。持ち帰る保育園では保護者の負担だけでなく、使用済みのおむつを管理しなければならない保育園の負担もあり、顕在化されていない社会課題となっていたのです。
このことが私たちのサービスを導入する際の障壁となっていたので、まずは社会課題となっている問題を解決したいと考えました。そのために必要なのは「使用済みおむつは保育園で廃棄すべし」という方針を、厚生労働省から発信してもらうことです。私たちはこの方針を発信してもらうべく要望書を作成し、厚生労働省に提出。すると4ヵ月後には厚生労働省から方針が発表され、その影響でサブスク導入も大きく前進したのです。導入施設数は5年で85倍へと成長し、さらに保護者と保育園の負担も軽減でき、社会課題の解決をすることがサービスの導入や事業成長につながる結果となりました。
参考:全国の保育施設で使用済みおむつの持ち帰り廃止を求める、署名および要望書を加藤勝信厚生労働大臣へ提出しました
「使用済みおむつ持ち帰り問題」をオンライン署名で顕在化
保育士さんに紙おむつサブスクのご案内をしているときに、「おむつに名前を書いてないと保護者に返せないから、名前のないサブスクの紙おむつは管理ができない」と言われたことで、「使用済みおむつ持ち帰り問題」を知りました。このサービスは保護者や保育園の負担を軽減するためのものなのに、逆にそれがおむつの管理を難しくさせるのだと知り、衝撃を受けました。これを乗り越えるための支援はできないかと考えたのが、この施策のきっかけです。
実は私自身、BABY JOBに入社するまで、紙おむつに一つひとつ名前を書いたり、使用したおむつを持ち帰ったりしなければならないことをまったく知りませんでした。そこで取り組んだのは、SNSで「使用済みおむつ持ち帰り問題」をリサーチし、実態を把握することです。しかし、X(旧 Twitter)で検索してもなかなか出てこない。ネガティブなテーマは投稿されやすい傾向があると思っていたので、予想外でした。そこで、保育園にお子さんを預けている自社の社員に聞いてみたところ、「確かにおむつの持ち帰りは大変だけど、当たり前のことだと思っていた」とのこと。これは顕在化しないといけない問題だと確信し、多くの人が同じ思いを抱いていることを示すため、オンラインで署名を集めることにしました。無料のオンライン署名のプラットフォームを活用し、1000人くらい集まればいいかなと考えていたのですが、半年間で約1万6000人もの署名が集まったのです。なんと、共感してくれた方々が「これ署名して!」とSNSでシェアしてくれていたんです。
続々と集まる署名を見て、やはり多くの人が抱えている社会課題だったのだと実感しました。この署名は厚生労働省への要望書に活用するだけでなく、この問題を解決すべきと感じている人が多いことを「数」として示し、仲間づくりに役立てられたのがよかったですね。
参考:「使用済みおむつ」を4割の市区町村で公立保育園から保護者が持ち帰っている実態が判明 持ち帰り比率が高い都道府県:ワースト1位滋賀県、2位長野県、3位京都府
「大目的」達成のための施策を進める優先付け
この問題をなんとかしたいと考えたときから、最初の目標である厚生労働省からの方針提示を達成するまで約2年かかりました。広報PR経験者が社内にいない環境で、何から手を付ければよいのかもわからない状況でしたが、大事にしたのは施策を進める際の優先付けです。また、細かく複数の目標を設定することで、大きな目標達成に向けて着実に進めていきました。例えば、オンライン署名という施策の先に、要望書の提出だけを目標とすると、それができなかった場合に目標は未達成となってしまいますよね。でも、賛同してくれる仲間づくりや問題の解像度を上げることなどを第二、第三の目標として設定しておけば、どれかは必ず達成できます。そうやって複数の目標を設定して、小さな一歩でも確実に前進していることを示すのは、自分にとっても周りにとっても重要なことだと思っています。
錦城護謨:若手の離職を防ぐべく、オリジナルブランドを立ち上げる
錦城護謨株式会社は、創業89年の老舗ゴムメーカーです。ゴム部品の製造だけでなく、軟弱地盤の改良などの土木事業も展開しており、水田さんは約20年もの間、土木事業の担当をしていたそうです。そんな水田さんが、なぜ自社初の広報PR担当者になったのか、どんな成果を成し遂げたのか、お話を伺いました。
自社の技術力を発信し多くの注目を集める
私は長く土木事業の現場管理や営業を担当していたのですが、基幹事業のゴム製造の若手技術者が相次いで離職していたタイミングがあり、なんとかしたいと思っていました。そこで、自分たちの技術に誇りを持ってもらうためには、「社外に対する情報発信が必要である」ことを訴えているうちに広報PRを担うようになり、2020年に自社初のオリジナルブランド「KINJO JAPAN」を立ち上げるに至りました。
「KINJO JAPAN」では、ゴムでできた「割れないシリコーングラス」を開発・販売しています。まるでガラス製のようだと、多くのメディアに取り上げていただき、Xの投稿に14万もの「いいね」がつくなど、想像以上の話題となりました。
さらに、キャンプブランドを展開する株式会社スノーピークさんから、代表商品のオプション品として「クリスタルシェード」をこの技術で作りたいとお声がけいただきました。BtoBの事業というのは、いくら有名なブランドへ技術提供したとしても、自社の名前を明かせないのが一般的です。しかし「KINJO JAPAN」は自社の技術力を発信するために立ち上げたものなので、その背景を伝えたところ、社名などを公表することを許可していただくことに。このほかにも、「KINJO JAPAN」をきっかけに企業に興味を持ち、採用試験を受けに来てくれる人が現れるなどといったさまざまな効果がありました。
参考:大阪の老舗ゴムメーカーが、スノーピークの人気アイテム LEDランタン「ほおずき」「たねほおずき」専用の高透明シリコーンシェードを製造
自分の考えを周りに伝えることから始めた
私はずっと土木事業の現場管理や営業の担当でしたが、ゴム事業の人たちへ強いリスペクトを持っていたので、若手技術者がたくさん辞めてしまうのを純粋にもったいないと感じていたんです。BtoBの会社はよくあることだと思いますが、どんなにすごい技術があり、価値がある仕事をしていたとしても、守秘義務があるので自分たちがやっていることが社会に認知されづらい。だからこそ、その価値を発信することが先決だと思ったのです。また、自社が選ばれる理由をつくらなければ、事業としても先が厳しいだろうという危機感もありました。
まず行ったのは、自分の考えを経営者や周りの信頼できる人たちに伝えることでした。有名なメーカーのひとつの炊飯器は、いろいろな中小企業が作った部品によってできていて、炊飯器の価値はそういう企業によって生まれています。だから「錦城護謨のパッキンが入っているからこの炊飯器は高いんだ」と言ってもらえるような状態になってほしい。そういう思いを社内外のキーパーソンに常々伝えていったのです。
それからあちこちから情報が入ってくるようになり、タイミングよく大阪府八尾市が「ものづくりのまち」を立ち上げていることを教えてもらいました。これは、ものづくり企業とデザイナーをマッチングさせ地元企業の技術力を世界に向けて打ち出すためのプロジェクトです。「KINJO JAPAN」の企画を考えるタイミングと重なり、行政の取り組みなら安心感を持ってもらえるだろうと、そのプロジェクトの一環として「KINJO JAPAN」を推進することができたんです。
参考:【事業再構築・生産性向上】を評価。大阪府八尾市の老舗ゴムメーカー、経済産業省「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選ばれる
自分が仕事を楽しむ姿を若手に見せたい
この施策で一番苦労したのは、社内からの理解を得ることでした。歴史がある企業で、管理体制がしっかりしているからこそ、新たな取り組みに対してはリスクについて指摘されます。案の定、「グラスの金型ひとつ作るのに車一台分の費用がかかる」「投資した分を回収できるのか」など、さまざまな指摘を受けましたが、最初からすべての人に理解を得られると思っていませんでした。施策の成果が見え始めれば、きっと賛同してくれる人が増えるだろうと信じて、反対されるなか進めてきたというのが実際のところです。
先ほどお話した通り、私は「広報PRをやろう」と思って行動してきたわけではなく、ただ自社の素晴らしさを知ってほしいという一心でやってきました。もちろん土木事業の営業担当として与えられた仕事、やるべき仕事は100%遂行しましたが、同じ部署にはその仕事を120%がんばれる人もいます。自分はその20%を広報PRに使っただけです。「こうなればいいな」という思いを信頼する人に伝え続けた結果、いろんなことが巻き起こっていったというのが正直な実感です。ただ、一番大事にしたのは、自分が楽しむ姿を若い人たちに見てもらうこと。若手技術者の離職防止のために始めたことなので、私の楽しむ姿から何か伝わっているといいなと思っています。
江崎グリコ:男性育休取得率を4%から100%へ引き上げる
「ビスコ」や「ポッキー」で全国民に知られる江崎グリコ株式会社(Glico)は、大正11年創業という長い歴史を持つ食品メーカーです。宮崎さんは、自身の育休をきっかけに広報PR担当となり、子育て支援に関する広報PR施策に取り組んでいます。マーケティングの経験を生かした広報PR戦略をいかに推進してきたのか、お話いただきました。
広報PRの成果で多くのアワードを受賞
私はこれまで複数社でプロダクトマーケティングを行ってきたのですが、育休復帰後広報部へ異動し、2019年に子育て支援のための「Co(こ)育てPROJECT」を立ち上げました。このプロジェクトでは、広く子育て支援となるための施策を行っていますが、主な施策は男性の育児参画の促進のためのものです。男性が育児にもっと参加できる環境をつくれれば、ワンオペ育児やパタニティ・ハラスメントといった社会課題を解消でき、子どもたちが笑顔になり、みんながハッピーになれると考えたためです。
社内施策として行ったことは、人事と連携して社内制度「Co育て休暇」を導入し、男性を含めた全社員に対して1ヵ月の育休取得を必須に。それまで取得率4%だったのを100%に引き上げることができました。
また、マーケティング部と連携して液体ミルク「アイクレオ」発売に際して、誰もが授乳できる子育てサポート商品であることを発信したり、家族で子育てをするサポートをするアプリ「こぺ」を一般の生活者の方向けに無料提供して子育て支援を行ったりもしています。これらの取り組みの結果、厚生労働省イクメン企業アワードやキッズデザイン賞、ベビーテックアワードなど、たくさんの育児関係のアワードで表彰いただきました。自社の男性社員の育児参画への意識も変わってきていると感じています。
参考:「Co育て(こそだて)プロジェクト」が第17回キッズデザイン賞を受賞
自身の育休がプロジェクト発足のきっかけに
私が育休前に担当していた「ビスコ」は当時、働く女性へ向けたコミュニケーションが強かったのですが、育休中にお父さんやお母さんが子どもに「ビスコ」を食べさせているのをよく見かけるようになったんです。仕事から離れたことで、見える景色が変わったんですね。そのときに、当社がこれまで長きにわたり「子どものココロとカラダの健康」を願ってさまざまな取り組みをしてきたことに、あらためて気づかされました。私たちGlicoは、「子どもたちに対して今後何をすべきなんだろうか」「何ができるんだろうか」と考えるようになったんです。
育休から復帰してからすぐ、マーケティング視点でさまざまな資料を分析し、当時のマーケティング本部長に会社としてもっと子どもに関する取り組みを支援すべきということをプレゼン。すると広報部へ異動となり、子育て支援施策のプロジェクトを発足することになったというわけです。
社外からの評価で社内の意識が向上
「Co育てPROJECT」はさまざまな切り口から施策を行っており、いかに他部署のメンバーを巻き込むかがポイントとなります。そのために意識したのは、相手の課題を解決するために「このPROJECTが使えるよ」と伝えること。Win-Winになるように、広報PRやマーケティングの視点を活用してもらうことです。
人事制度の変更をするなら人事部に対して、社員へのコミュニケーションに関するプランを導入前だけでなく導入後も継続的に提案します。よく広報PRが他部署を巻き込んだり、社内理解を得るのは大変だと言われたりしますが、どういう未来をつくりたいかという最終ゴールを共有してさえいれば、それぞれの部署のメンバーが自らがすべきことを進めるようになると思っています。だからこそ、広報PRは言語化することがもっとも重要で、どうやるか(HOW)ではなく、なぜやるのか(WHY)をしっかり伝えるようにしています。
最初は男性社員の育休を必須にするなんて無理だという声ももちろんありました。特に営業職は営業活動がありますので、休むのは難しいということも多々あったんです。そんなとき、この取り組みが掲載された新聞を読んだ取引先の小売のバイヤーさまが「自社でもやりたい」ととても褒めてくださったことを育休取得社員から聞き、人事も私も涙涙でしたね。
まだ課題は多いですが、少しずつ対象者や社会の役に立っていること、この取り組みに意味があることを実感できています。お客さまからの声やメディア掲載による社会から注目など、社外から良い評価が集まることで、社員は自らアンバサダーになって会社の情報を発信してくれるようになります。課題を把握し改善するためにも、実際に育休を取得した社員の声を拾って、課題解決に向けた行動を続けることが重要です。会社からの一方的な発信ではなく、内部から浸透していくことが、こういう施策では一番大切だと思って広報PR活動をしています。
参考:Glico Co育て NEWS LETTER (第 2 号)「子どものココロとカラダの健やかな成長」への想いをカタチに
まとめ:広報PR担当者の強い思いが周りを動かす
スタートアップから老舗企業まで、それぞれ環境は違えど、広報PR担当者の強い思いが周りを動かし、大きな成果へと結びついたことがわかるお話でした。これから広報PRを担当する方や、ひとり広報の方は励まされる思いだったのではないでしょうか。
今回のお話を通しての広報PRの学びは4点です。
- 解決したい課題を言語化し、なぜそれをやる必要があるのかを明確にする
- 周りを巻き込むためには、調査資料やデータなどを活用して説得力を強化する
- 社内外から良い反応が生まれれば、自然と取り組みの賛同者が増える
- 広報PR未経験でも、強い思いがあれば成果を出すことができる
3社の取り組みをヒントに、広報PR担当者としての仕事の向き合い方や施策の具体的な進め方について、たくさんの学びを得ることができました。みなさんも明日からぜひ取り入れてみてください。
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