広報PR活動の脱属人化へ。書籍で話題のサニーサイドアップがつくる「社内PRマニュアル」の極意

広報PR活動は属人化しやすく、またケースバイケースで対応することも少なくありません。とくに企業の広報PR部門は他部署と比較して少数精鋭。日常業務と並行してマニュアルを作成することが難しく、重要だと頭では理解しながらも、手をつけられないのが現状です。

そんな中、2021年4月に発売された書籍『サニーサイドアップの手とり足とりPR』は、どの企業にも通用する汎用性の高いナレッジがマニュアルとして言語化されており、多くの広報PRパーソンの間で話題になりました。持続可能な広報PRの実現に欠かせないマニュアルづくりの秘訣を、著者でありサニーサイドアップ社内マニュアル編集チームを立ち上げられた吉田さんにお伺いしました。

株式会社サニーサイドアップ ​​アカウントプランニング局アカウントプランニング部部長 PR プランナー

吉田 誠(Yoshida Makoto)

イベント会社で2年の勤務を経て、サニーサイドアップへ2008 年入社。BtoB からBtoCまで幅広いクライアント企業の広報・PR 企画を立案。社会的課題や生活者インサイトを捉えたストーリー性のあるPR 戦略の策定を得意とし、実績も多数。企業向けの広報セミナーなども数多く行っている。

危機意識から生まれた社内マニュアル

ー 大変読み応えのある書籍でしたが、最初から出版を目指していたのではなく、もとは社内マニュアルだったのですよね。

はい。もともとは出版の予定はなく、社内マニュアル用に知見をまとめていました。
わたしは2008年に営業としてサニーサイドアップに入社しており、「PR」という言葉や手法が大きな広がりを見せ始めた2012年頃に、社内で新たにプランニング部が発足したんです。その時に、わたしもプランナーに転向しました。

そこで気になったのは、社内のメンバーの知識の偏りです。弊社には様々な分野のPRのプロが集まっています。しかし、それぞれの知識はそれまでの経験業界に大きく左右され、カテゴリがばらばら。当社で受ける案件は消費財から官公庁の案件まで幅広いのですが、一人で様々な分野に対応できるメンバーは多くありませんでした。それぞれのバックグラウンドがあまりにも違うので、同じ考え方や捉え方で議論をするのが難しかったのです。それであれば、共通言語を作り、社内の知識を標準化した方がいいなと感じました

ー 「社内マニュアル」というだけあって、本来社内に閉じるはずのものを、なぜ出版されたのですか。

マニュアルが完成目前となったタイミングで、Twitterを経由して他社広報さんとオンラインで話しをする機会ができました。スタートアップの広報や元大手PR会社のPRプランナーなど、経験値はまちまちでしたが、その中で、「急に広報になって困っている人が多い」という話を聞いて。

そこで、社内用に作ったマニュアルを、一般向けに出版したら助かる広報さんがいるんじゃないかと思いました。マニュアルが出来上がってすぐ、社長に書籍化を提案しました。

広報PRに関する良書はたくさんあります。ただ、専門性が高すぎたり一部の活動にフォーカスを当てていたりとどれもじっくり読み込む必要があります。初めてPRに触れる方にも読みやすく、現役PRパーソンであれば困った時に必要な部分だけ簡単に読める辞書のような本があってもいいんじゃないかなと思ったのも、出版に至った理由のひとつですね。

ー 書籍化には、相当慎重になられたのではないでしょうか。

それが、20秒くらいで「よし、出版しよう」となったんです。その数時間後には出版社も決まるようなスピード感でした。

書籍化が決まってから、社内では「ここまでノウハウを出してもいいのか」という声が一部で上がりました。しかし、簡単に模倣されるものは自社のノウハウじゃない。勝負すべき場所は基礎知識を入れた上での発想や論理、アイデアの掛け合わせです。書籍化するのはあくまで広報PRの基礎。ノウハウの流出ではないと伝え、書籍化の意義を理解してもらいました。むしろ、書籍ができたら社内のOJTがやりやすくなると、関係各所が積極的に協力してくれました。

ー 出版されて予想外の反響はありましたか。

出版前は、一人広報やベンチャーの広報担当者が手に取ってくれるのではと想定していました。しかし、ふたを開けてみると広報部署以外に大手企業が部単位でまとめて買ってくれていたり、広告宣伝部やマーケ界隈の方も読んでくださっていたんです。発売から10日で重版がかかりました。現場で困っている広報さん以外にも、広報PRを知り自分の業務に活かしたいというニーズがあるのは驚きでした

知識の平準化に必要な「知見の抽象化」、マニュアルは社内の必須カリキュラム

ー マニュアル、書籍を作成する上で苦労された点はどんなことでしたか。

スタートアップだったり大手PR会社だったり、広報担当者だったり広報担当者以外の方だったり、読み手が変わると述語が変わります。幅広い読み手に届いてほしいなと考えていたので、誰の視点で書くのかを定めるのが難しかったです。最終的には、広報PRにいま従事している人、これから着手する人。どんな状況の方の視点でもわかるように、基礎的な内容をまとめることにしました。

また、マニュアル作成は1年がかりだったので、作成途中で情報がアップデートされることも少なくなくて。そのキャッチアップや更新も地味に苦労しましたね。執筆中は「バルセロナ原則2.0」だったものが「3.0」になったり、デジタルマーケティングの章ではSNSのアクティブユーザー数が変動していたりと、出版されたタイミングで最新の情報が載っているよう気を遣いました

※更新が間に合わなかったものは重版分で更新しています。

ー サニーサイドアップ社にとって、マニュアルとはどのくらい重要なものなのでしょうか。

中途入社のメンバーや社員の育成フェーズには、必ずマニュアルをもとに学習する社内セミナーが組まれているほど、重要視されています。“たのしいさわぎをおこしたい”をスローガンとする当社では、楽しいことを考えるのが好きな右脳的感覚を持った人が多いです。その右脳タイプが多いメンバーの中に、マニュアルで左脳の考え方や抽象化された知見がプラスされると最強なのではないかと感じています。

わたしがプランナーになった当時は、広報PR=パブリシティという時代でした。「こうやったらメディアに出るのではないか」という知見を持っているものの、個々で止めている状況で。その知見を集約してメソッド化して提案する。つまり、事例や手法ではなく抽象化した理論を提案をすることで、クライアントに広報PRの理論をまずわかってもらう。そうすると、話もスムーズに進みます。プランナーになって改めて、知識の抽象化が重要だと感じるようになりました。そこで、マニュアルや書籍には広報PRの具体的な手法や事例というよりは、あえて抽象化した情報を掲載しています。

社内のカリキュラムでは、書籍ではなく社内でのみ受け継がれているパワーポイント版のマニュアルが使われています。クライアント名は出していませんが、書籍の内容に加えて施策の事例を記載しています。その他、詳しいメディア分類や都内のケータリング一覧など、より実務に踏み込んだ内容になっています。

ー では、わたしたちが社内で独自のマニュアルを作成する場合、注意すべき点はありますか。

少人数で作ろうとしないことが重要です詳しい人が一人で書くと、必ず偏りがでます

今回、この書籍や元になったマニュアルは総勢20名で取り組みました。プランニングやメディアプロモートなど、各セクションの執筆は2〜3名を指名し担当してもらいました。それをわたしが横串で編集したほか、構成は取締役を含めた3名で作りました。何を書くかは各担当者と2、3回打ち合わせをして決めています。要素の洗い出しに3ヶ月、分類に3ヶ月、制作に6ヶ月かけたので、マニュアルが完成するには丸1年かかりましたね

日頃から仕事をグルーピング、タイトルをつける

ー 広報PR業務は臨機応変に行うことも多いため、マニュアル化するうえでは業務の型化に苦労するかと思いますが、どのようにパターン化させたのでしょうか。

PRパーソンには右脳的な方が多い中、わたしは左脳的な考え方をよくするんです。日頃からアイデアをグルーピングをしたり、抽象化してタイトルをつける癖があります

たとえば社内のミーティングで企画をブレストするときにも「写真1枚バズ狙い企画」や「地元が主役のイベント」など、とにかくラベリングをしているんです。タイトルをつけて引き出しに仕分けしていくイメージですね。

広報PRの施策や業務をラベリングしようとしても、縦に割り切れず重なり合っていることもあります。例えば企画を「新規性」と「社会性」でラベリングする場合、どちらも兼ね備えているものもありますよね。そういう場合は、割り切ってどちらかに分ける。精緻に分けようとし過ぎると手が止まってしまうので、ざっくりと仕分けることが大事です。なんでもラベリングして分類する癖をつけておくことで、パターンが掴めるようになるはずです。

ー PRパーソンに向けて、書籍の活用方法を教えてください。

書籍だと、1回読んで終わりとなってしまう方も多いと思います。しかし『サニーサイドアップの手とり足とりPR』は机に置いて、わからないことがあれば必要な部分だけを読む、辞書のような使い方をしてもらえたら嬉しいです

広報PRは世の中の「名もなき悩み」を探すことから始まると思っています。そんな潜在的ニーズと商品が結びついた時に、大きいネタになる可能性があります。潜在的ニーズと商品をつなぎ合わせるにはどうすればいいか、その手段や考え方のヒントをこの本から得てほしいですね。この書籍に書かれていることはあくまで基礎的な部分なので、書籍の内容を踏まえた上で大きなネタを作り出してもらえたら幸いです。

今回の事例ポイント

・マニュアルは複数人で作成し、偏りが無いようにする

・日頃から業務や施策をグルーピングし、仕分けする癖をつける

書籍は適宜必要な箇所を読み、辞書のように活用する

広報PRノウハウは属人化していて、汎用性の高い情報として共有するのが難しいと言われがちです。数ある実績や経験を抽象化してラベリングし、複数人でマニュアルの作成にあたるなど、属人化しないよう取り組まれた今回の事例。

企業で一人広報をしていたとしても、担当交代や広報人員が増える、他部署にも広報理解を深めてもらうなど、マニュアルを活かせる場面は多くあると感じました

広報PRを職人技にせず、組織でできる持続可能な業務や概念として育てていきたいものですね。

(撮影:原 哲也)

この記事のライター

永井玲子

東京・大阪でメディアリレーションを行う関西在住の広報パーソン。新卒でルート営業、2社目に入った会社で未経験ながら広報をゼロから立ち上げ、広報キャリアをスタート。2021年からフリーランス。自分が良いと思った「地方」の人・物・サービスを応援するために広報をやっています。日々頑張っている全国の広報パーソンが正しく評価されるよう、PR TIMES MAGAZINEで想いを紹介したいと思います。

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