SNSやPR TIMES上で話題になったPR事例の裏側に迫る本連載。今回は、2020年4月中旬から6月初旬にかけて実施された、Ubie(ユビー)株式会社さんの取り組みをご紹介します。
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前編では、一連の取り組みを振り返りながら、Ubie社の仕組みや環境づくりについて伺いました。しかしよく聞いてみると、創業当初は「PRに理解がある会社」ではなかったとのこと。後編では、PRに全社で取り組み、重要な経営課題として扱う組織になるために、PRチームが行ってきた施策を聞きました。
Ubie株式会社の最新のプレスリリースはこちら:Ubie株式会社のプレスリリース
メディアリレーションズはPRの一部にすぎない
ー 一連のPR施策の「成果」をお二人はどう見ていますか?多くのメディア掲載につながりましたが、前編でのお話からも、そこだけを見ているわけではなさそうです。
重藤:僕たちは、PRを言葉通りPublic Relationsだと捉えています。いわゆる『メディアリレーションズ』はPRの一部。そこだけを見ると小さくまとまってしまうと思います。
片山:もちろんパブリシティを増やすことも目指すけど、それは手段の一つでしかない。大手のメディアに取り上げられさえすれば良いという価値観では、手段の自己目的化に陥ってしまうんですよね。PRに携わる人間としてメディアコミュニケーションを長年手がけてきたからこそ、常に自己否定を繰り返しながら前に進んでいます。
ー 前編で伺った「全員参加型のPR」も然り、そこまでPRの本質を捉えた動きができるのはなぜなのでしょう。経営者の理解が深いから?
重藤:今は共同代表の二人もPRに対する理解がある方だと思います。でも最初は全然そんなことなかったですよ。ただ、なんとなく「PRが重要そうだ」というくらいの認識は持っていましたけど。
片山:その認識を持っているだけで、非常に勘がいい人だなとは感じていました。例えば、医師でもある共同代表の阿部さんに最初に会ったときの印象は「尖っているな」と(笑)。起業家らしく自分たちのサービスの価値を誰より信じていて「医療業界の役に立つものを開発・提供すれば必ず浸透するはず」という感じだったんです。でも、一緒に1年間走り続ける中で変わっていきましたよね。
重藤:様々な施策を通じて、PRは事業の成長に必要不可欠だとハラオチしたのではないか、と。
片山:PRの価値が正しく伝わると、意思決定の質が高まっていくんです。世の中の反応を受け止めて、それを自分たちのサービスに活かすカルチャーが加速していく。そういった部分でのPRの力を感じてもらえて、社内のメンバーもPRを自分ごと化してくれたのではないかと。
精度の高い情報発信は「コミュニケーションコスト」と「不確実性」を大きく下げる
片山:そういう意味では、僕は、社内外の情報発信の質を高めていくことで事業に貢献できることとして、大きく二つあると思っていて。
重藤:社内でもよく話していますよね。
片山:一つ目は、「コミュニケーションコスト」を下げるということ。質の高い情報発信を継続し、ステークホルダーの方々にきちんと伝わっていれば、各セクションのメンバーが毎回ゼロから説明する必要がなくなっていく。「ここから先の話だけで済む」という状態を作ることができます。
二つ目は、情報発信時の「不確実性」を小さくすること。「ボラティリティ」と言ったりもしますよね。誤読を許さないコミュニケーション、と言った方がわかりやすいでしょうか。僕たちが発信する医療分野では、ステークホルダーが多くて課題が複雑だからこそ、それぞれの立場の方に誤解のないように正しく情報を伝える必要があるじゃないですか。
重藤:たしかに、良い発信は良い影響を及ぼすし、発信の精度が低いと誤解につながってしまい、もったいない。そう気づいたことで、経営者側のPRに対する熱量も上がりましたね。
PRの価値を正しく認識してもらうために直近一年で取り組んだこと
ー 経営者をはじめ、社内のメンバーに「PRの価値を正しく知ってもらう」ということも重要ですね。でも、そこが難しいと感じている担当者も多い。片山さんは、約一年前の業務委託として関わってきた頃からどんな風に伝えていったのでしょう?
片山:一言でいうと「世の中の風を社内に通すために窓を開けた」というかんじですかね。まずは情報参謀としての立場を意識して動きました。関連記事や書籍を100以上読んで、今の世の中における「医療×AI」に対する論調をまとめ、情報発信の方針や方向性を提案しました。
それから「ラウンドテーブル(※)」の開催。勉強会を開催して、メディアとのコミュニケーションを開始しました。これはもちろんパブリシティにつなげることも意識しましたが、それ以上に「記者からの質問」で経営層が世の中の声を意識するきっかけになりましたね。
※ラウンドテーブルとは
複数メディアを対象に行う情報提供セッションのこと。一方的に伝えることが多い発表会と違い、意見交換など記者との双方向コミュニケーションを通じて、情報発信と理解を促す。
重藤:この質疑応答で「世の中からはこう見えてるんだ」と、気づかされた点は多かったようです。
片山:記者の視点は、その先の読者、つまり生活者の視点でもあります。開発担当者などは特に、サービスの細部に目がいってしまうけれど、世の中の興味はもっと違うところにあるんだな、と肌で感じる体験をしてもらえたのはよかったなと思います。
重藤:あとは、片山さんが参画した当時、社内で各部門の担当者が抱えている課題をヒアリングしてくれたのも、全員参加型PRの土台になっていると思います。いろいろな種類の課題に対して「PRの力でこういう風に解決できるかもしれない」と具体的に提案してくれたことで、メンバーがより自分ごととしやすくなったというか。
片山:細かいところだと、外部に出すほぼ全てのドキュメントの推敲も手伝ったり。
重藤:コミュニケーションのプロがチェックすることでこんな風によくなる、リスクが取り除かれる、ということに、みんなが気づいたきっかけでもありますね。今思うと、当社は医師やエンジニア等が多い集団なので「PRはビジネス的に価値がある」と論理的にわかることが大事だったように思います。
あ、それから、大事なものがありました。Affection PRチーム、という名前をつけてくれた!
ー Affection PRチーム。その意味は?
片山:「Affection」は「温和な愛情」とか「優しさ」という意味。長年PRに関わる中で「応援される・愛される会社をつくりましょう」という言葉になんとなく違和感を持つようになったんです。PRの本質はそうではなくて、自分たちがどのように社会を愛し、その結果として社会から愛されるかを考え抜くことなんじゃないかと思うようになって。
そうであるならば、企業側の課題は「愛し方」。だから、その部分にコミットできるPRチームにしたかった。「Love」だと少し情動的だなと感じて「Affection」ということばを使いました。
重藤:その場でとても気に入って、これでいきましょう!と。肩書きやSlackのチャンネルの記載などを全部変えました。
片山:反響の大きかったPR事例をいくつも見ていく中で「ああ、人は自分を愛してくれる人を愛するんだな」と学んだんですよね。
社内に対しても、社外に対しても、まずはこちらから寄り添う、包み込む姿勢を持つ。「Affection」という言葉を見るたびに「そこに愛はあるのか?」と自分に問いかけています。
ー ありがとうございました。
今回のPR事例ポイント
- PRの価値を正しく伝えるために、成功体験を通じて「ハラオチ」してもらう
- 世の中の風を社内に通す。情報参謀として社会と社内のギャップを埋める
- 「愛されること」よりも「自分たちが世の中をどう愛するか」に向き合っていく
「仲間づくり」「環境づくり」「愛し方」……。Ubie社の取り組みを通じて、PRの可能性に改めて気づかされた人も多いのではないでしょうか。
インタビュー後に片山さんがおっしゃっていた「PRは、見たい世界を実現するためのテクノロジーだと思うんです」ということばが今でも耳に残っています。私たちPRパーソンが、自社組織や社会に対してできることはまだまだあるのだと、希望を感じたとともに襟を正されたような、そんな取材でした。
(撮影:原 哲也)
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