不祥事の発覚や予期せぬトラブルなど、非常事態が起きた場合に行うべき謝罪会見。危機管理を考える際に、「会見を通してどのように謝罪すべきか」を考えるのも企業にとっては重要なことです。また、何らかの理由で謝罪会見を開催する場合、当日に至るまでの準備は慎重かつ丁寧に、そして迅速に行わなければなりません。
特に危機管理広報を任されている人は、どのような準備が必要なのか、どのようなことに気を付けなければならないのかを知っておくことで、慌てずに謝罪会見を開催することができるでしょう。
本記事では、「謝罪」の記者会見の目的や開催する場合の流れ、押さえておきたい10のポイントについてご紹介します。
謝罪会見を開く目的
謝罪会見とは、企業の経営者や役員らがメディアの記者などを集め、自社の不祥事やトラブルについて謝罪する会見のこと。
企業の不祥事やトラブルによる被害者は、不特定多数のステークホルダーです。本来なら一人ひとりに謝罪すべきところですが、それを実行するのはほぼ不可能です。その代わりにメディアを通してまとめてお詫びし、反省の意を述べるとともに自社の立場、考えを効果的にステークホルダーに伝達することを目的としています。また謝罪会見を通して、自社への信頼回復につなげることも目的に挙げられます。
謝罪会見を開く理由
企業が謝罪の記者会見を開く理由は、誠意ある行動・態度、相手にとっての有益性を追求している姿勢を視覚的・聴覚的に伝え、早期の信頼回復につなげるためです。
特に重大な不祥事・トラブルを起こしたにもかかわらず、文書による謝罪だけで済ませようとした場合、社会からは「あの企業には誠意がない」と見なされ、トップをはじめとする経営陣の辞任、ステークホルダーからの信頼失墜、不買運動などによる業績悪化、最悪の場合には倒産にまで追い込まれる可能性があります。
記者会見を開き、自社が誠心誠意ステークホルダーからの信頼回復に努めていることを伝えることで、事態の悪化や風評被害を防ぎ、早期収拾を図ることができます。
謝罪の記者会見を開催するまでの広報対応
もし自社で不祥事やトラブルが発覚した場合、記者会見を開くかどうか、会見を実施する場合、適切な広報対応をするためにどのような準備が必要か悩んでしまうのではないでしょうか。
謝罪会見での対応は、世間が注目します。何を伝えるために開かれた会見なのか、企業側の都合として弁明だけが述べられていないかなど、厳しい目も向けられるでしょう。できる限り多くのステークホルダーに自社の誠意を感じてもらうためにも、会見の準備は慎重かつ丁寧に、そしてスピーディーに行うようにしましょう。
1.事実関係を確認する
記者会見を開くべきか否かが曖昧な、小規模の不祥事・トラブルの場合、まずはどのような現象が起こっているのか、関連する部署の事実関係はどうなっているのかを確認します。謝罪会見を開くべきケースには次のようなものが挙げられます。
- 被害者が存在する事案。特に生命・健康の危険があるケース
- 二次被害の恐れがあり、早急に事実関係を社会に伝えなければならない事案
- 不祥事やトラブルの影響を受けるステークホルダーが広範囲に及ぶ事案
- 経営層や幹部の重大な違法行為や企業ぐるみの違法行為が発覚した事案
もし、上記のいずれかに該当している場合は上層部の判断を待ってから行動するのではなく、すぐに会見を実施できるように準備に取りかかりましょう。
2.謝罪の記者会見で伝えることを明確にする
記者会見はメディアを通じて自社の立場や考え方を効果的に伝える手段です。一方で、会見の内容によっては自社に対する悪いイメージを助長してしまい、瞬く間に世間に広がってしまう場合もあります。伝えたいことが曖昧だったり、内容が二転三転してしまったりするようではステークホルダーに誠意は伝わりません。不祥事やトラブルの事実に対し、どのような考えを持っているのか、どのような対策を行うのかなど、謝罪の言葉とあわせて伝えたい内容をしっかり定めておきましょう。
3.緊急対策本部を設置する
不祥事の発覚から謝罪会見までの時間は、できるだけ短くしなければなりません。緊急対策本部を設置し、経営者・幹部の迅速な意思決定をサポートする必要があります。特に企業全体を揺るがすような大きな不祥事・トラブルが発生した場合、現状を正しく把握するまでに時間がかかります。このときに、緊急対策本部を設置しておくことで、さまざまな情報を一元化・整理することが可能となります。
また、早急に謝罪しなければならないような緊急時におけるメディア対応はさまざまなことを同時に行わなければなりません。そのため、危機管理広報担当者だけでは手が足りなくなることも念頭に置き、ほかの部署からも人員を確保しておきましょう。
4.メディア向けの資料を作成する
危機管理広報担当者によってメディア向けの資料を準備するのも大切な役割です。資料作成の際は主に次の3つで構成するとよいでしょう。
声明(ステートメント)
ステートメント(声明)は、記者会見の冒頭でスポークスパーソンとなる広報PR担当者が、不祥事やトラブルに関する会社としての問題意識・見解・方針・決意などを表明することです。メディア向け資料にはステートメントを簡潔かつ明瞭に記載します。
プレス資料(概要説明)
不祥事やトラブルの概要をまとめたものがプレス資料です。謝罪の記者会見の際に公表できる事実やそれまでの経緯、今回の不祥事・トラブルの原因、今後の対策、見解をA4サイズの用紙2枚程度に記載します。必要に応じて会社案内や、不祥事・トラブルの現場見取り図などを添付します。
FAQ(想定問答集)
謝罪の記者会見でメディア関係者が重視する場面は、その企業の本音や誠意が見えやすい質疑応答の時間です。不祥事やトラブルなどの本質や企業の責任、構造的な問題点に加え、発言内容の矛盾を引き出すために、あらゆる質問が投げかけられることが想定されます。質問されるであろう内容をあらかじめ想定し、それに対する回答をまとめたFAQを作成します。FAQは自社内で全員が共通の見解を持つのにも役立ちます。
なお、資料を作成する際は、次の点を踏まえることが大切です。
- 世間はどのようなことを知りたいのか
- ステークホルダーは何を問題視しているのか
- 早期解決、早期解消に向けた行動を示しているか
- メディアに対して理解や協力を求める姿勢を示しているか
- 自社は説明責任や社会的責任を果たしているか
- 倫理観のある姿勢を示しているか
- 透明性・公平性・納得感のある情報を開示できているか
- 自社がステークホルダーに伝えたいことは明確になっているか
- 情報を隠蔽したり、偽ったりしていないか
- 開示すること、すべきではないことの整理がされているか
- 再発防止策について示しているか
5.十分な広さの会場を押さえる
謝罪の記者会見はできるだけ早い段階で開催することが望ましいため、伝える内容などを決めるのと並行して会場を押さえておきましょう。特に大きな不祥事・トラブルの記者会見には、大勢の記者やカメラマンが集まるため、できるだけ広い会場を準備することが大切です。
十分な広さがないと記者との距離が近くなり、広報PR担当者に心理的な圧迫感が生じてしまいます。また、記者が会場に入りきれなかったり温度調節がうまくいかなかったり、不快な思いをさせてしまい、心象が悪くなる可能性もあります。公表できない内容が書かれた資料がカメラに移ってしまうリスクも考えられます。
6.記者会見の開催を通知する
記者会見開催の2時間前くらいまでに、メディア関係者に記者会見のテーマや場所、時間、広報PR担当者の名前、役職などを通知します。内容に誤りがないように通知する前に念入りなチェックを行うようにしましょう。なお、記者会見の開催時間は、記者の原稿の締め切り時間など、メディアに配慮した設定を心がけることも大切です。
謝罪の記者会見を開催するときの10のポイント
この先、何らかの理由で自社でも謝罪会見を開催する機会があるかもしれません。少しでも早く社会的信用を取り戻すためには、誠意の伝わる記者会見を行い、メディアや生活者からの理解を得ることが重要です。ここからは、謝罪の記者会見を開催する場合に押さえておくべき10のポイントを紹介します。
ポイント1.謝罪の記者会見の必要性を検討する
謝罪を要する事象が発生した際、受け手にとってベストな伝達方法をよく検討する必要があります。すべての場合で記者会見を行えばよいというわけではありません。時には静観し、「公表しない」という判断が求められる場合や、企業のホームページにのみ迅速に情報を掲載する、という場合もあります。また、プレスリリースを用いてより広いステークホルダーに対して説明をする場合もあるでしょう。
記者会見は、あくまでもさまざまある選択肢の中のひとつであり、必ずしも絶対解ではないということを認識しておきましょう。特に、企業としてステークホルダーに伝えるべきことが明確でなかったり、不明瞭なことがある状態で謝罪会見を開いても逆効果になる場合があるため、判断を誤らないように注意が必要です。
ポイント2.なるべく早い段階で開催する
謝罪や説明の手段として記者会見を決定したのであれば、なるべく早い段階で開催する必要があります。
重大な事故や不祥事が発生しているにもかかわらず、メディアへの対応が遅れたり、情報を十分に公開しないようなことがあったりすれば、世間からは「謝罪に消極的」「事実を隠蔽しようとしている」という印象につながる可能性があります。リスク発生から記者会見を開くまでの時間をいかに短縮できるかという部分も、緊急時のメディア対応として判断される項目のひとつです。
ポイント3.FAQを作成し社内で共通の見解を持っておく
前項でも少し触れましたが、事前に記者会見でメディアに質問される内容を想定したFAQを作成しておくことも大切です。FAQを用意しておくことは、自社内で共通の見解を持つことや、謝罪の記者会見において主導権を握れることにもつながります。
特に記者から追求される内容には次のようなものがあります。
事実確認に関するもの
- 不祥事やトラブルの経過と現状や事実の説明
- 被害の規模、今後の見通し
- 発生の原因
- 取引先などへの影響
- 再発防止策や現時点で行っている対応など
企業姿勢、企業体質に関するもの
- 謝罪、見解の表明
- 社長が当該事案を知ったタイミング
- 補償や賠償などの方針
- 過去における同様の事案の有無
- 引責辞任や役員報酬の減額、役員の降格などの責任表明
このような質問に対し、人によって回答が異なったり、スムーズに答えられなかったりすると、状況を把握できていない、誠意がないという印象を与えかねません。
FAQを用意せずに記者会見を行うと、質問にスムーズに答えられず、状況を把握しきれていないという印象を与えかねません。そうならないためにも、FAQを用意し、事前に念入りな準備を行っておきましょう。
ポイント4.社長などのトップが出席する
謝罪の記者会見には、自社の責任者が出席することが重要です。企業の代表である社長や役員はもちろん、不祥事やトラブルが従業員の失態によって起きてしまった場合は、事業責任者もその場にいることが求められます。
例えば、重大な事件・事故が発生したにもかかわらず、社長が不在のまま謝罪の記者会見を行えば、ステークホルダーの不信感が増幅し、「トップの責任をどう考えているのか」とバッシングされる事態になりかねません。謝罪の記者会見には、原則として最終意思決定者である社長が指揮をとり、自ら会見に挑む姿勢が大切です。記者会見での謝罪は、会社の公式の見解であると同時に社会に向けて再発防止を約束する意味合いがあります。代表権のない社員や危機管理広報担当者だけのコメントでは誠意を伝え切れません。
ポイント5.不適切な発言にならないよう注意する
社長自らが謝罪の記者会見に挑んでも、発言の内容が不適切であった場合、ステークホルダーに誠意は伝わりません。不祥事やトラブルを重く受け止めて反省しているという意思があっても、発言の内容次第で受け手の印象は大きく変わってしまいます。
例えば、自社が起こしたトラブルについて、「法的には問題ない」「他社にも同様の例がある」などの社会的責任認識を欠いた発言や、「自分は知らなかった」「部下がやった」などの責任逃れをする発言があれば、起こってしまった不祥事を軽んじていると捉えられてしまいます。謝罪会見を行っているにもかかわらず、明確な謝罪の言葉がなかったり、他者に責任を押し付けたりすると、ステークホルダーに会見の意図が伝わらず、自社への不信感をより高めてしまうでしょう。
ポイント6.再発防止に向けた姿勢や具体策も表明する
謝罪の記者会見は、謝罪だけを行えばよいわけではありません。事案の経緯や内容を伝えた後は、これらの事態にどう対応するのかを述べて、ステークホルダーに安心してもらう必要があります。
謝罪会見の目的は、謝罪そのものに加え、今後どうするのか、対応策や再発防止策として決定したことを表明することも含まれます。ただ「再発防止に努めます」と述べただけでは、ステークホルダーの不安は拭い切れません。例えば、「事故検証委員会を設置する」「原因分析や再発防止のために専門機関の協力を仰ぐ」「〇月までに全従業員にコンプライアンス研修を実施する」など、具体策を表明することで、事態を重く受け止めているという意思が伝わりやすくなります。
ポイント7.服装の選定にも気を配る
服装の選定などの細かいところにまで気を配ることも大切です。これは、謝罪の意を述べる社長だけに限らず、会場にいる広報PR担当者やそのほかの社員にも共通します。
謝罪会見での身だしなみは、会社のイメージに直結します。また、謝罪会見を見ている側は、言葉そのものよりも、服装や態度、表情、声のトーンなどから、「本当に心から謝罪しようとしているかどうか」を判断します。
大切なのは「個人の人格・性格を出さないこと」と「見る者の感情を刺激するような服装を避けること」の2点。男性の場合、スーツの色は黒や紺で、無地のもの。シャツは白で清潔感を出し、ネクタイも無地か小紋柄のようなシンプルなものがベター。女性は、スーツの色は黒かグレー、アクセサリー類は付けないほうが無難です。ヒールがなるべく低い靴を選び、スカート丈は膝下にすることなどを徹底しましょう。
ポイント8.プレスリリースを発表する
謝罪の記者会見が終わった後の対応も大切です。広報PR担当者は会見終了後に概要説明資料をもとにしたプレスリリースをホームページで発表します。
謝罪のプレスリリースは、つい難しい言葉を使ってしまいがちですが、メディア関係者や生活者が一目で理解できる文章にすることが大切です。プレスリリースを正式に発表する前に、「繰り返し読まないと理解できない内容になっていないか」「不必要な修飾語や難解な言葉が使われていないか」「端的かつメリハリのある文章にまとまっているか」などをチェックしましょう。
ポイント9.メディアチェックを実施する
プレスリリースの作成と同時に、メディアチェックの実施も忘れずに行います。新聞、テレビ、インターネットなどの報道内容に事実誤認がないかを確認し、もし誤りがある場合は迅速にメディアに訂正の連絡を入れましょう。
その後も再び記者会見を開催する予定がある場合は、今回の報道内容を分析し、メディアの姿勢を十分に把握・理解したうえで次の会見に挑むことが重要です。
ポイント10.謝罪の記者会見以外でも誠意のある対応を心がける
謝罪会見当日に至るまで、あるいは謝罪会見後も誠意のある対応を心がけなければなりません。
例えば、不祥事やトラブルに対するメディア関係者からの問い合わせや、生活者からのクレーム対応などが挙げられます。記者会見などで会社の公式の謝罪・見解が述べられていない段階では、生活者に対して伝えられることは少ないかもしれません。しかし、その場合でも「ご心配をおかけしてしまい申し訳ございません」など、不安・不快な思いをさせていることに対する謝罪は述べられるでしょう。また謝罪の記者会見後でも、伝えられない内容に対しては、その旨を丁寧に伝えなければなりません。少しでも相手の気持ちに寄り添った対応を行うことで、謝罪や反省の意を受け止めてもらいやすくなるはずです。
謝罪の記者会見を実施する目的や流れを理解し、誠意の伝わる広報対応を実施しましょう
謝罪会見でもっとも重要なのは、謝罪をすべき相手がおり、その人たちが知りたいことを誠意を持って説明しなければならないということです。自社の謝罪の意、反省の念が伝わる記者会見を実現させるためには、迅速かつ念入りな準備とメディアや生活者への誠実な対応を意識しなければなりません。
謝罪の記者会見を開いたからといって、すぐにステークホルダーの納得感を高められるとは限りませんが、誠実な広報対応を続けることで、いずれは社会の信頼を取り戻すことができるかもしれません。
なお、どのような企業でも、不祥事やトラブルは意図せず起こり得るもの。日常の広報PR活動を通してメディア関係者と良好な関係を構築しておくことで、謝罪の記者会見を開催する際も、良き理解者として好意的に報道してもらえるかもしれません。また、謝罪会見のシミュレーションを定期的に実施しておけば、緊急時の広報対応力が強化され、スムーズに会見を開催できるほか、より誠意の伝わる会見が実現できるようになります。
謝罪の記者会見を開催するまでの体制や、広報対応のマニュアル整備なども行っておけば、もしものときも慌てずに対応ができるでしょう。日頃から準備をしておくことが大切です。
<編集:PR TIMES MAGAZINE編集部>
謝罪の記者会見に関するQ&A
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