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3年連続でプレスリリースアワード審査員を務めた河さんの審査ポイント解説セミナーレポート

2021年にプレスリリース発信文化の普及と発展を目的として始まった「プレスリリースアワード」。2021年には420件、2022年は1,412件、2023年は1,161件と過去3回の開催で合わせて3,000件近くのエントリーがあり、大企業や老舗BtoB企業、地方のスタートアップまで、業種業態もさまざまなプレスリリースが受賞に至っています。

受賞したプレスリリースにはどのような共通点があったのでしょうか。本記事では、2023年9月1日に開催されたセミナーの様子をレポート。3年連続でプレスリリースアワードの審査員を務める、PR研究者の河炅珍さんを講師に迎え、審査のポイントを解説していただきました。

國學院大学 観光まちづくり学部 准教授

河 炅珍( Ha Kyungjin)

1982年生まれ。韓国梨花女子大学卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。専門は社会学、メディア、コミュニケーション。主著に『パブリック・リレーションズの歴史社会学』(2017、岩波書店・日本広報学会学術貢献賞)など。2021年、2022年、2023年と開催以降3年連続でプレスリリースアワードの審査員を務める。

プレスリリースアワードとは

プレスリリースアワードは、1年間に日本国内で発表されたプレスリリースを対象にエントリーを受け付け、社会性・公共性・共感性・将来性などの視点からプレスリリースの可能性拡大に貢献したものを審査・選考するPR TIMES主催の取り組みです。

プレスリリース発信文化の普及と発展、プレスリリースの発表を担う担当者に光を当て、その挑戦と貢献を称えることを目指し、2021年から毎年開催しています。

また、プレスリリースアワードは大賞や最優秀賞は設けず、一つひとつの異なる魅力に着目して審査されるのも特徴です。

  • イノベーティブ賞:既成概念に縛られずプレスリリースの表現や用途を最も拡大したプレスリリースに贈る賞
  • インフルエンス賞:発信と活用により社内外へ最も広く好意的な影響をもたらしたプレスリリースに贈る賞
  • ソーシャル賞:社会とのつながりを表現し深めることに最も貢献したプレスリリースに贈る賞
  • パブリック賞:情報の平等と信頼を実現することに最も忠実なプレスリリースに贈る賞
  • エンパシー賞:受け手の心を動かし共感を育むことで最も飛躍したプレスリリースに贈る賞
  • ヒューマン賞:プロダクトや社員、顧客に対する愛と情熱が最も感じられるプレスリリースに贈る賞
  • ストーリー賞:人に語りたくなるストーリーを最も有しているプレスリリースに贈る賞
  • 特別賞:上記賞にあてはまらないが表彰したいプレスリリースや発表者の行動を讃える賞

2023年は、これら8部門の賞に加えて、新しく2部門の賞が新設されました。

  • ローカル賞:地元企業や自治体から地域に根ざす飲食店まで、プレスリリースの発信と活用によって地元の魅力を内外へ広げることに貢献したものへ贈る賞
  • グレートステップ賞:これまで外部への発信を積極的に行ってこなかった業界や、これまでプレスリリースを発信してこなかった企業などを対象に、覚悟を持って情報を発信したプレスリリースに贈る賞

審査で重視する3つのポイント

プレスリリースアワードの審査員を歴任されている河さんは、エントリーされたプレスリリースのどのような点に注目しているのでしょうか。セミナーでお話いただいた審査で重視する3つのポイントを紹介します。

タイトルと内容の整合性

とにかくインパクトがあって目を引くタイトルにすべき、と考える方も多いと思いますが、タイトルと内容の整合性や関連性を意識することが大切です。エントリーされたプレスリリースには、読み手を惹きつけようとタイトルを工夫しているものが多数見受けられますが、本文を読み進めると、タイトルで使われていたキーワードと本文の内容の間にギャップがある場合も少なくありません。

タイトルと内容のギャップが大きいと、かえって読み手の期待を裏切ることとなり、プレスリリースが発信する情報そのものの信憑性や発信者への信頼も損なわれます。ただ単に「読ませること」を目的としたタイトルではなく、伝える内容と響き合う関係にあるのが理想的です。

調査データの適切な提示・利用

客観性を重視し、伝えたいメッセージの論拠となるオリジナルなデータを活用するプレスリリースが増えていますが、データの適切な提示、解釈が伴わなければ、逆効果を招いてしまいます。

調査データには、いわゆる定量的データだけでなく、インタビューや専門家のコメントのような定性的データも含まれます。調査結果を都合よく解釈することはもちろん避けるべきですが、とにかく沢山データを用いればよい、というわけでもありません。プレスリリースで伝えたい内容に合わせて定性的データと定量的データのどちらを用いるべきか、適切なデータを選び、不要なものは省くことで、より価値のある情報として提供できるはずです。

基礎・基本が守られているか

革新的で斬新なプレスリリースは審査会で高く評価されますが、そのうえで前提となる基準が、プレスリリースとしての基礎や基本がきちんと守られているか、という点です。

基礎・基本とは、例えば、情報の5W1Hを満たしているか、起承転結など読み物として構造がしっかりしており、ストーリー性があるかなどを指します。さらに、究極的には「誰」に届けたいかが明確であり、伝えたいメッセージが絞られていることも重要です。それに加え、写真や動画などの視覚的資料や定量的・定性的データを適切に使っていることも欠かせないポイントです。

プレスリリースの基礎・基本がひと通りきちんと守られたうえでオリジナリティが出せたら、さらに高く評価されるでしょう。

2022年度受賞プレスリリースの審査ポイント

2021年に始まったプレスリリースアワード。これまでに合わせて1,832件のエントリーがあり、18社のプレスリリースが受賞に至っています。過去の受賞作品はどのような点が評価されたのでしょうか。ここからは、2022年のプレスリリースアワードで受賞したプレスリリースを参考にしながら、河さんが考える審査のポイントを詳しく見ていきましょう。

ソーシャル賞:株式会社池部楽器店

株式会社池部楽器店は、ウクライナ緊急支援チャリティ企画を全店で開始したことをプレスリリースで発表。社会とのつながりを表現し、深めることに貢献したプレスリリースに贈る「ソーシャル賞」を受賞しました。

株式会社 池部楽器店

プレスリリース:「楽器は強い。武器よりもずっと。」環境マンガ家 本田亮さんのイラストをイケシブで緊急展示!池部楽器店では全店でウクライナ緊急支援チャリティ企画を開始いたしました。

|自分ごと化させるメッセージ

このプレスリリースは、環境マンガ家の本田亮さんが描いたイラストが何よりも印象的でした。とくに評価したのは、戦争や平和を「自分ごと」として捉える機会を、読み手に与えている点です。

池部楽器店は音楽に関連する商品やサービスを扱っている会社ですが、「平和・反戦」というメッセージと「音楽を楽しむ・楽器を奏でる」という経験を延長線上で捉え、イラストの力を用いて視覚的にわかりやすく表現し、力強いメッセージとして発信しています。

仮に、事業と関係ないところで社会貢献や公益性だけを掲げ、「みんなでウクライナ戦争を考えましょう」と発信しても大きな反響は期待できないでしょう。このプレスリリースは、平和や反戦を自らの事業と強く結びつけることで音楽ファンの心を動かすより深いメッセージを発信し、インパクトを与えることに成功しています。

|情報発信に重要な視点

情報を発信する際には「視点」が重要です。情報が届く先にいる他者の視点ももちろん大事ですが、自分たちが何者であるか、組織としてのアイデンティティを忘れないことも非常に重要です。情報/ニュースの社会的価値は、しっかりした視点に基づく自他関係を軸として生まれ、拡散するものです。

池部楽器店のプレスリリースでは、組織のアイデンティティと、プレスリリースを届けたい相手(他者)の関心が見事に一致していました。音楽ファンや関係者からすれば、本田さんのイラストと池部楽器店のメッセージを通じて戦争/平和を「自分ごと」として捉える機会につながったのではないでしょうか。このような感情や経験から、組織とステークホルダーの関係が深まっていくと考え、「ソーシャル賞」に相応しい実践と評価しました。

パブリック賞:ファブラボ広島安芸高田

広島初のデジタルファブリケーション施設・ファブラボ広島安芸高田は、ヤフー株式会社が運営するオープンコラボレーションハブ「LODGE」と共同で、ペットボトルキャップを入れると遊べるガチャガチャを制作し、その作り方をオープンソースで公開したことをプレスリリースで発表。情報の平等と信頼を実現することに最も忠実なプレスリリースに贈る「パブリック賞」を受賞しました。

ファブラボ広島安芸高田

参考:プラスチックゴミのアップサイクルを楽しく体験できるガチャガチャをオープンソースで公開

|公共性の高さを伝える

ファブラボ広島安芸高田は、プレスリリースを通じて社会課題の解決に向けた取り組みを写真や動画で伝えるだけでなく、取り組みの中核ともいえるガチャガチャの設計図をオープンソースとして公開しています。URLから簡単にアクセスできるため、ほかでもすぐに応用できる点が審査会で高く評価され、公共性の高さから「パブリック賞」に選ばれました。

パブリック賞の審査では、プレスリリースとしての素晴らしさと、プレスリリースが対象としている人やモノ、コトの素晴らしさ、どちらにより重点を置くべきかが毎回議論のポイントになっています。個人的には「プレスリリースアワード」である以上、プレスリリースとしての機能や特徴に重点を置きたいと思っています。

まったく同じ出来事を扱う場合でも、プレスリリースの違いによって社会的なインパクトや、ステークホルダーの受け止め方に大きな差が出ます。事業そのものや商品開発、イベントなどが素晴らしいのとは別の観点から、「誰に」「どのように」伝えるのか、ストーリー性に加えて物語としての魅力があるかといった「プレスリリースらしさ」を審査の重要なポイントとしています。

|基礎・基本と視覚的要素

プレスリリースにおける視覚的要素は、益々重要になっています。日々、動画に慣れているので文章や写真だけではやや物足りなく感じることもあるでしょう。プレスリリースとしての基礎・基本をきちんと踏まえたうえで、関連する写真や動画などを適切、かつ戦略的に使っているプレスリリースは情報過多の時代に読み手に好印象を与え、高評価につながると思います。

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その他の受賞プレスリリース

河さんによる具体的な審査ポイントの解説でした。ここからは、その他の受賞したプレスリリースの受賞理由を紹介します。

2022年10月28日株式会社PR TIMES発表プレスリリースより

インフルエンス賞:側島製罐株式会社

側島製罐株式会社

参考:【老舗缶屋の挑戦】「いつか一緒におしゃべりしようね」親子の絆を深める缶”Sotto”新発売!

受賞理由:株式会社PR TIMES 広報PR管掌取締役 三島映拓より

製品発売のプレスリリースでありながら、その背景ストーリーが濃密で、思わず語りたくなる。年商が落ち込み苦闘する老舗缶メーカーが、「宝物を託される人になろう」という新たに策定したビジョンの下で、下請けでなく当事者として挑戦した新製品。文面と小見出し、写真からひしひしと伝わる想いが、この製品に価値を乗せている。ビジョンの下でとても真摯にものづくりしてきた様子が伝わる、リブランディングの好例。

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エンパシー賞:株式会社クラダシ

株式会社クラダシ

参考:KURADASHI、2月15日よりバレンタインPOPUPを期間限定で開催

受賞理由:NewsPicks 執行役員CXO 池田光史より

これはもう、「私たちのバレンタインは2月15日から始まります。」のコピーが秀逸すぎます。世間を見渡せば、一方で「フードロス」が叫ばれるのに、他方でのんきにバレンタインデーやホワイトデーを過ごすところでした。改めてハッとさせられたし、社会全体で考えるきっかけになりうるPOPUPではないでしょうか。

ヒューマン賞:公益財団法人 筑波メディカルセンター

公益財団法人筑波メディカルセンター

参考:病院にアートを|茨城県産ヒノキに囲まれた家族控室が、緩和ケア病棟内に誕生

受賞理由:東京都市大学メディア情報学部教授 奥村倫弘より

病院の家族控室で患者を待つ家族は不安でいっぱいです。その部屋は殺風景なことが多く、不安を収めてくれることはありません。そんな家族控室が、クラウドファンディングの力を借りて温かみのある空間に生まれ変わりました。リリースでは、支援にかかわった人たちの問題意識や思いをインタビュー動画などにまとめ、とりくみを改めて発信。プロジェクトの開始時だけでなく、終了後にもメッセージを発信することの意義を感じました。高齢化社会をリードする日本に明るさをもたらす内容であり、よりパブリックに広がってほしい取り組みです。

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ストーリー賞:菊水産業株式会社

菊水産業株式会社

参考:【社長になって1ヶ月で会社全焼】祖父の会社を守りたい!日本で2社のみとなった国産つまようじメーカーが会社再建のためのクラウドファンディングを開始。

受賞理由:東洋経済オンライン編集長 吉川明日香より

大変な状況の中で実施されたクラウドファンディングに続き、3日後にプレスリリースもあわせて発信したことで、当初予定を上回るより広い支援を得ることに成功した事例と感じました。火災で建物はじめ多くのものが物質的に失われるなか、これまでの家族と事業の思い出を写真とともに掲示することで、失われたものの大きさを読む人に伝えています。動画も効果的です。自社の危機を訴えるにとどまらず、なぜ自社の事業が存続する意義があるのかも的確に表現されており説得力がありました。様々な表現手法を駆使したプレスリリースの柔軟な活用法として、また広く人の心を揺さぶる家族と事業の物語の表現として、人に語りたくなるストーリーを持ったプレスリリースであり、大変印象に残りました。

特別賞:有限会社nakatx

有限会社 nakatx

参考:ネコ好きに愛されて累計5,500箱突破!日本初の猫専用こたつ付きみかん『猫と、こたつと、思い出みかん』2月22日の「スーパー猫の日」に本年度の予約受付スタート。

受賞理由:Forbes JAPAN 執行役員 Web編集長 谷本有香より

大変面白い。そもそもの視点やプロダクトが面白いのだが、数種の猫のタイプの写真を使うことで、より理解や興味を深めることにつながっている。一度見たら、このビジュアルを人に是非見せたいと思う作品。

特別賞:ひさだアートインダストリー株式会社

ひさだアートインダストリー株式会社

参考:近場消費やマイクロツーリズムで進む京都のヘアケア需要の多様化に合わせ、老舗美容室が創業初となるシャンプーの量り売りを開始

受賞理由:東洋経済オンライン編集長 吉川明日香より

目を引いたのは、量り売りの意義の見出し方です。量り売りといえば、包装材が省けてエコであるとか、楽しいとかいったイメージが浮かびますが、ひさだアートインダストリー様が考える意義は、お客様とのコミュニケーションという意外なものでした。流行の言葉に流されることなく、地域のお店だからこその視点をもち、かつそれを丁寧に言語化し、発信する姿勢は、大変目を引くものでした。なぜ持ち込み容器にしないのか、衛生面への配慮とその説明も説得力があります。プレスリリースとは顧客など第三者とのコミュニケーションの一形態ですが、その本質、根本にあるのは、何を伝えたいか、どう伝えるかという姿勢です。その本質を突き詰めていることを感じさせられるプレスリリースでした。

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特別賞:株式会社Creative Project Base

株式会社Creative Project Base

参考:インバウンド観光客に向けた「日本全国英語スローガン」プロジェクトスタート。1都市目は天理市。スローガンは「Time Travel City」に決定。

受賞理由:Forbes JAPAN 執行役員 Web編集長 谷本有香より

日本全体の課題であるイシューを、非常に素晴らしい取り組みによってシンプルに伝えている。国内向けのプレスリリースでありながらも、国外を見据えた内容で大変好感が持てる。

特別賞:ettü

ettü

参考:出産祝いに『幸せ』を贈ろう。赤ちゃんと家族のためのベビー靴下『Angel Ring Socks』 本日、Makuakeにて先行販売開始!

受賞理由:株式会社宣伝会議 月刊『広報会議』編集長 浦野有代より

何を贈ったらいいのか迷いがちな「出産祝い」をタイトルに入れ、「あなのあいた靴下を贈ろう」のコピーを付けた画像で読み手の関心を引き付けています。読み進めると、認知がまだ低い「ヘアターニケット」の事故が国内でも発生していること、その解決策として開発されている商品であることが分かり、理解を促しています。ヘアターニケットを知らない人向けに、イラストの解説も加えて啓発しているほか、あながあいていることで、靴下を履かせやすいメリットにも訴求。様々な気づきを与える内容になっています。

河さんから見たプレスリリースの可能性

これからのプレスリリースは、ジャーナリスティックな視点・機能がより重要になってくると思います。プレスリリースは記者が記事を書く際、役に立つ補助的資料に過ぎない、という認識が長く続いてきました。ですが、現在では、企業と個人がダイレクトにコミュニケーションをとることが当たり前になり、記者も個人や企業のブログやSNSを見て記事を書くようになっています。

時代の変化にあわせてプレスリリースのあり方も変わっていく必要があります。記者やメディアに提供するために書くだけでなく、広報・PR担当者自ら記者やメディアとなったつもりで社会的価値を考慮した情報を、正しく発信する。このような試みが、今後、益々広がっていくのではないでしょうか。

「広報・PR」といえば、単に情報を発信するという意味合いに捉えられがちですが、情報が誰に届くか、届いた先でどのように解釈され、いかなる社会的影響と結びつくかを含めたすべてのプロセスを考慮し、プレスリリースをデザインしていくことを期待したいと思います。

まとめ:届けたい相手に想いを伝えるプレスリリース

社会性・公共性・共感性・将来性などの視点から審査されるプレスリリースアワード。今回ご紹介した審査のポイントは、プレスリリースアワードへのエントリーだけでなく、今後プレスリリースを作成する際にも参考になる内容でした。

プレスリリース審査のポイント

  • タイトルと内容の整合性や関連性を意識する
  • 調査データは適切なものを選び、不要なものは省く
  • プレスリリースの基礎・基本を守ったうえでオリジナリティを出す

プレスリリースは、単に情報を発信するだけでなく、組織の想いを自らの言葉で届けたい相手に届けることができるメディアです。プレスリリースを通して届けられた想いや、力強いメッセージは、読み手をはじめ、ステークホルダーの心を揺さぶり、新たな展開を導くきっかけにもなるでしょう。

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