想定外の危機(=クライシス)が発生したとき、企業としてどのように対応するか。トラブルが発生したとき、被害を最小限に抑えるための広報PR対応が「危機管理広報(クライシスマネジメント)」です。
緊急時の対応を誤ると、企業の存続にもかかわる問題に発展する恐れもあります。今回は、危機管理広報の役割や実際の業務、押さえておきたいポイントをご紹介します。
危機管理広報とは?
危機管理広報とは、企業や組織が予想していない突発的な危機的な状況に直面した際に、その影響を最小限に抑え、組織の信頼性を守るために行う広報活動のことです。
事故や不祥事、製品のリコール、サイバー攻撃、経営上の問題などが発生したときは危機管理広報としての対策が必要となるでしょう。
BCPと危機管理の違い
危機管理とよく似た言葉に「BCP(Business Continuity Plan)」があります。日本語で「事業継続計画」ともいい、大災害、テロ、不祥事、事故などが発生し、自社へ直接的な影響があり、事業継続が困難になった場合を想定して準備しておく計画のことです。
主に事前準備を指すBCPとは異なり、危機管理は、企業に影響を与えるクライシス(危機)が発生した後の事後対応を示すことが多いです。よって危機管理広報も、危機が起こった後の対応を指す傾向にあります。
BCPにおいては、人命優先で自社の設備などの被害も最小限に食い止めつつ、リスク状況下でも、中枢となる事業が継続できるよう決めていくことが大切です。なお、BCPについてはこちらの記事で解説しています。
危機管理広報に求められる役割
危機管理広報では、例えば災害やテロ、事件・事故、不祥事などのトラブルが発生した後に、その被害を最小限に抑えることが求められます。トラブル発生前から発生後まで、広報PR担当者に必要な3つの役割についてご紹介します。
1.起こり得る危機に対する事前準備
危機的状況は、思いがけず発生することがほとんどです。災害やサイバー攻撃、風評被害、大幅な株価下落、不祥事、リコール……。経営に大きなダメージを与えることも想定されます。
こうしたクライシスを燃え上がる炎に例えるなら、危機管理広報は消火活動の一環です。対応が遅くなると燃え広がり、組織に深刻なダメージを与えることにつながってしまいます。
危機に対してスピーディーな対応をするためには、起こり得るトラブルやそれへの対応方針、社員の役割などを明確にしておきましょう。社員に対して危機発生時のシミュレーションを定期的に実施するなど、社内での危機感の醸成も大切です。
2.トラブル発生時の情報開示
危機が発生した場合には、スピーディーに正確な情報を開示することが重要です。関係者から情報を収集して「何が起きているのか?」を把握し、事実関係と対応を明確に伝達しましょう。危機管理広報では、初動の対応がその後の組織やサービスの存続、イメージに直結します。すでに発生してしまったものは仕方がないと割り切り、できる限り早く情報開示を行えるよう動きましょう。
3.事実誤認による風評被害を防ぐ
プレスリリースや緊急記者会見によって情報開示をした際には、メディアを通じて発信された情報に、事実関係の間違いがないかをリサーチしましょう。ネガティブな情報ほど拡散されやすく、誤認によってレピュテーションの低下を招きます。
SNSの普及により、マイナスイメージが生活者に浸透するスピードは速くなってきています。メディアによって間違った情報が発信されている場合には、事実関係をしっかりと伝える対応をすることで、風評被害や重大なイメージダウンを防ぎます。
危機管理広報はどんな仕事をするの?危機管理広報の業務内容
危機管理広報は、想定外のトラブルに対処するための業務で、通常の広報PR業務とは異なります。そのため、すでに起きてしまった事象に関して、ステークホルダーに誠実にお詫びをするコミュニケーションも時には必要です。
このときのコミュニケーションが重要で、適切なものであれば信頼回復につなげることが期待できますが、適切でないものであればトラブルの内容以上のイメージダウンを招きます。適切なコミュニケーションをとるために、危機管理広報の業務は「トラブル発生前の業務」と「トラブル発生後の業務」の2つに分けることができます。
トラブル発生前の業務
個人情報漏洩や工場での事故、社員の不祥事など、さまざまなトラブルが生じる可能性があります。そうしたトラブルへの準備が、危機管理広報の第一歩です。
トラブル発生時の責任者や社員の役割、メディア対応や情報発信の方法、迅速な情報収集のためのフローなどトラブル発生時の対応方針を決めて、マニュアルを作成しておくとよいでしょう。
緊急記者会見などに備えて社内の関係者に向けたメディアトレーニングも実施します。トラブル発生時のメディア対応では、想定外の事態が誘発されることも考えられます。実際に危機が訪れたときの混乱を最小限に防ぐために、定期的なシミュレーションを実施しましょう。
トラブル発生後の業務
トラブル発生後は情報開示のスピードと正確性が大切。社内の関係者から情報を収集し、事実関係の把握をしつつ、対外的な対応をリスト化していきましょう。平時から危機管理リストのひな形を作っておき、それらをもとに、報道用資料や想定問答集の作成を行うのも一計です。
緊急記者会見を実施する場合は、会場選びも慎重に行いましょう。ホテルなどの華美な場所での会見は、危機対応にふさわしくないと捉えられる可能性もあるため、本社や記者クラブを選定するのがベターです。
情報開示後は、報道に事実誤認がないか、各メディアの報道内容をチェックします。事実誤認がある場合は、事実誤認であることの根拠を示すとともに担当者へ情報の訂正をお願いします。
企業の信頼を失わないために、危機管理広報が知っておきたいトラブル後対応3つのポイント
トラブルが発生し危機的状況となってしまったときの対応では、スピード、的確性、誠実さの3つが重要です。それぞれどんなことに気をつければいいのかご紹介します。
ポイント1.最初の情報開示は8時間以内に迅速に実施する
危機管理広報の中でもっとも重要なのはスピーディーな情報開示です。トラブル発生から8時間以内に、最初の情報を出せるようにしましょう。事実関係や現場の状況について調査中であれば、その旨を伝えます。緊急記者会見を実施する場合は、会見2時間前までにメディア関係者への告知を行います。
情報開示が遅れると対応が後手に回っている印象が強くなり、さらなるイメージダウンへつながる可能性もあります。また、公式の情報が公開されない限り、事実とはまったく異なる憶測がSNSなどを通じて拡散されるかもしれません。特にネガティブな情報は浸透が早いため、致命的なダメージを負って会社の存続が危ぶまれる事態に発展することも考えられます。
ポイント2.的確な情報で説明責任を果たす
危機管理広報では、トラブルに対して企業が説明責任を果たすことが求められています。緊急記者会見や取材対応では、事実関係とトラブルに対する対応を明確に伝えるようにしましょう。不祥事や事件・事故の場合には、自社にとって都合の悪い事実があることもあり得ますが、不明な部分を無理に回答しようとしたり嘘をついたりせずに、事実をできる限り公開します。
情報開示を行うときにすべての事実関係が明確になっていない場合は、未確認情報を憶測で開示することで混乱を招くことは防ぎましょう。事実確認のできていない情報は、「調査中です」などと伝えつつ、時間とともに更新していく姿勢で取り組みます。
ポイント3.誠実な態度で対応する
情報開示は、誠実な態度で行います。危機管理広報は、トラブルに自社がどのような姿勢で取り組むかをメディアやステークホルダー、生活者に広く伝えることが目的です。迷惑と心配をかけたことをお詫びするコミュニケーションも、必要に応じて取り組みます。
事態を正確に把握したうえで、真摯に伝える心持ちで臨みましょう。緊急記者会見を開く場合には表情や言動など、会見内容以外の部分で不信感を与えてしまうことは避けたいところです。レピュテーションリスクも最小限に食い止めつつ、トラブル対応を行いましょう。
メディア関係者から追及を受けたり、度重なる取材などで心の余裕がなくなったりすることもありますが、メディアや生活者に誠実な態度で対応することで、マイナスイメージを与えないようにします。
被害を最小限にする準備をしよう
危機管理広報が必要になるときは、常に想定外のタイミングです。実際のトラブル発生時には、動揺やパニックで、通常通りの働き方ができなくなる可能性も。適切な対応のためには、想定外のトラブルにも冷静に対応し、被害を最小限にすることが必要とされます。
信頼を得ることにはたくさんの時間がかかりますが、信頼が崩れるのは一瞬です。こうしたレピュテーションリスクも正しく把握しつつ、信頼が揺らぐピンチの瞬間さえも企業を知ってもらえるチャンスと捉えられるかが重要でしょう。もしものときに適切な対応ができる準備を、今から始めておきましょう。
<編集:PR TIMES MAGAZINE編集部>
危機管理広報に関するQ&A
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