株式を公開し上場企業となると、インベスタリレーションズを行う必要性が出てきます。では、インベスターリレーションズとは一体どのようなものなのでしょうか。また、具体的には何を行っていけばよいのでしょうか。
本記事ではインベスターリレーションズの重要性から各種施策事例、実施のポイントについて紹介していきます。
インベスターリレーションズとは?
「インベスターリレーションズ(Investor Relations)」とは、機関投資家や個人投資家に向けた情報提供を指します。企業の経営や財務状況など、投資判断に必要な情報提供をさまざまな手段を用いて行います。
後に詳しく述べますが、上場企業に義務付けられている法定開示書類の作成のほかに、各種説明会の開催やイベント出展など対面による情報提供と、アニュアルレポートなどの制作・発行、Webサイトやメールを使った情報提供に分けられます。
インベスターリレーションズの最大の目的は、多くの投資家に上場企業としての自社に興味関心を持ってもらうことで、より多くの投資機会を創出することです。そのためには、投資家が必要とする情報を十分に開示し、彼らが安心して投資判断できる信頼関係を構築することが重要です。
インベスターリレーションズが重要な理由
投資家は上場企業が開示する法定開示書類をもとに投資判断を行いますが、事業には数字データに表れない情報も多く存在します。その保有にはさまざまな制約がありながらも、自社株を持つ社員や持ち株会など、事業運営に関する情報に触れることが多い立場の投資家が存在する中、外部の投資家にも遜色ない情報を提供することは、公平性の点からも非常に重要です。
また、多くの業界が成長・拡大していく中で、近年では株式公開買い付け(TOB)案件が複数起こるなど、上場企業であるがゆえに自社の事業環境が大きく変わる局面にさらされる可能性も高くなっています。万が一自社がその対象となった時に、迅速に必要な情報開示ができる体制を常に整えておくことは、上場企業として必要不可欠です。
さらに、世界的なSDGsへの取り組み支持が高まる中、社会的に認められる企業として存続するためには、ESGへの深い理解とそれに伴う情報開示が必要です。2022年4月より適用される東京証券取引所の再編に伴うカテゴライズでは、プライム市場の企業に対してTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が義務付けられるなど、その対応は急務となっています。
このように、上場企業として対応を求められる分野はさらに幅広くなっており、インベスターリレーションズの重要性はますます高まっているのです。
インベスターリレーションズの施策例
では、インベスターリレーションズの具体的な活動とはどのようなものになるのでしょうか。ここでは、いくつかの施策例をご紹介します。自社のIR部門のキャパシティ、広報など他部門との連携も考慮して、実施施策を計画するとよいでしょう。
1.1on1やスモールミーティングの実施
機関投資家やアナリストと行う個別面談を1on1(ワン オン ワン)といいます。決算発表後にアナリストや機関投資家から取材という形で面談依頼が入ります。時価総額と流動性が高い大型株は投資判断が難しいため、こういった形で情報提供を求められるケースも多くなります。1on1のアレンジには証券会社が間に入ることが多いため、事前に面談対象となる投資家の投資傾向や運用方針、興味関心のポイントなどの情報を入手し、投資につながるような情報提供を準備する必要があります。
決算説明会などと併せて行うことが多い経営説明会・事業説明会をラージミーティングと呼ぶのに対し、少人数で行う面談をスモールミーティングと呼びます。日頃から自社のIR部門とつながりのあるアナリストや機関投資家のほか、発言力・影響力のあるアナリストに証券会社から声をかけて参加してもらったりします。自社や事業に対する理解を深めてもらうことを目的に、質疑応答を中心に展開するスタイルが多く見られます。
2.個人投資家説明会の実施、IRカンファレンスなどへの出展
個人の資産形成として投資活動を行う人が増えている昨今、個人投資家もフォローが欠かせない存在です。特に一般的に理解が難しい専門分野の製品などを扱う企業は、その理解促進のための個人投資家向け説明会を実施することも少なくありません。投資規模は違ってきますが、個人投資家は企業や製品自体のファンとなり、長期株主になってくれる可能性もあります。きちんとコミュニケーションをとる機会は重要です。
また、国内外で開催されるIRカンファレンスなどのイベントへの参加も、投資家との重要なコミュニケーション機会のひとつです。こうしたイベントにはさまざま規模・業種の企業が集まるため、投資家側も効率よく投資対象を探せる機会として活用します。逆に言えば、これまで自社がコンタクトしづらかった層とコミュニケーションできる可能性があるということです。
3.決算説明会および経営(事業)説明会の実施
決算説明会とは、四半期ごとの決算発表のタイミングで行う説明会のことです。法定開示書類を開示した当日から翌営業日までに行う企業がほとんどです。
決算説明会では、発表した決算内容の数字データに加え各種資料を用いてわかりやすく説明します。株主や投資家からの質問が出る可能性もあるので、質疑応答の準備もしておきます。また、発表した決算に関する説明に加え経営説明会(事業説明会)を行う企業も多くあります。第2四半期と第4四半期(年度決算)の2回、または年度決算の時のみ行う企業もあります。
決算説明会・経営説明会は任意で開催するものですが、結果および今後の見通しの具体的な説明は、投資判断に重要な影響を及ぼします。株主・投資家への十分な情報提供の場として開催するとよいでしょう。
4.株主通信やアニュアルレポートなどIRツールの制作
IR部門では、法定開示書類以外にも投資判断を促進するための各種情報発信を行います。四半期から半期ごとに発行することの多い株主通信や、半期から年次で発行するアニュアルレポート(年次報告書)などを発行する企業は多くあります。
株主通信やアニュアルレポートは作成が義務付けられていないため、盛り込む内容の自由度が高いのが特徴です。米国では上場企業に発行が義務付けられている書類ということもあり、海外投資家は投資判断材料として活用する傾向があります。海外市場を視野に入れている企業は、英語版の作成を含めて制作を検討してもよいかもしれません。
また近年、海外で制作する企業が増えているのが、「統合報告書(統合レポート)」です。アニュアルレポートに掲載するような内容に加え、将来を見据えて長期的に取り組む、企業価値を向上させる取り組みを伝えるものです。世界的なSDGsへの取り組みも後押しし、企業が社会的責任のもとに求められることも増えています。上場企業として長期的に存続し成長を続けるためには、こうした意思表示も必要となってくるでしょう。
5.コーポレートサイト・IRサイトやIRメールの企画運営
投資家や株主は、コーポレートサイトやIRサイトについて、その時点で企業が開示している情報を「もっとも正しく迅速に確認できる場所」として認識しています。常に最適な情報が掲載されるようにしましょう。
各種情報を開示した時には、きちんと掲載されたかを確認します。また、株主や投資家に配布する株主通信などのIR関連制作物は、Webサイトからもダウンロード・閲覧できるようにしておきます。そのほかにも、企業や経営トップからのメッセージなど、年次で更新が必要な部分などは、広報など関係する部門と連携して計画的な運用を心がけましょう。
また、投資先として自社に興味関心を持ってくれている人たちに、定期的にメールを送ることも有効です。テンプレートを作成し、配信スケジュールに合わせてコンテンツを計画的に集めましょう。さまざまなメルマガに埋もれてしまわないよう、目を引くタイトルを付けるなどの工夫も必要です。
6.施設見学会や商品説明会などの実施
メーカーなど自社の製品を持つ企業であれば、製品に触れる機会、理解してもらう機会として製品説明会などを開催するのもひとつの手段です。機関投資家向け・個人投資家向けなど、イベントの方向性を分けてもよいでしょう。工場や研究所など普段立ち入れない場所や、変わったオフィスを保有しているのであればオフィスに招待するなど、さまざまな切り口があります。
たとえば食品などのBtoC商品は日頃から触れる機会は多いかもしれませんが、「子ども」を対象に、「新しい使い方」を紹介するなど切り口を変えてみるのも手です。また、頻繁に購入する対象ではない住宅や車などの高額商品、IT製品などのBtoB商品なども、「〇〇体験会」などの施設見学会や技術を活用した事例に触れる機会などを通じて、その魅力や将来性を理解してもらうことは可能でしょう。
さらに、それらの催しを広報を通じてマスコミに取材してもらうなどすると、潜在層へのアプローチにもつながります。広報や営業など各部門と連携して実施すると効果的です。
7.SNSを活用した情報発信
近年、SNSの活用により、オンラインでのIR活動も活性化しています。企業のアカウントでX(旧Twitter)やYouTubeを運用する会社も増え、日々の情報発信を通じて潜在的な投資家層へのアプローチを可能にしています。SNSの管理は広報部門が担うことも多いので、広報が日々行う配信プランにIRトピックスを入れるなど、計画的に行うと効率的です。
また、四半期ごとの決算説明会などをYouTubeにて配信し、投資家や株主がわざわざ会場に出向かなくても参加できるようにしている企業もあります。当日の動画をアーカイブとして残すことで、時間的に視聴できなかった人が後から見ることも可能です。参加者からの質問などをメールやX(旧Twitter)にて受け付け、当日配信する中で回答するなどすれば、一方通行なコミュニケーションにならないでしょう。
インベスターリレーションズを行う時の3つのポイント
インベスターリレーションズの重要性や施策例などを見てきました。では、インベスターリレーションズを行ううえで意識すべきことはなんでしょうか。ここでは3つのポイントをご紹介します。
ポイント1.投資家が投資判断できるだけの十分なIR情報を開示する
上場企業は基本的に、法定開示書類に指定された情報を正確に開示していれば、条件をクリアしていることになります。しかし、上場した以上、より多くの投資家に興味関心を持ってもらい、自社への期待を投資という形で授受していかなければ、上場を維持することは困難になるでしょう。
どんな情報がどの層の投資家の興味をひき、投資判断につながるのかを常に意識し、投資家が安心して投資を決断できるだけの十分な情報を開示することが重要です。
ポイント2.広報との連携で、より際立ったIR活動を実現する
インベスターリレーションズでは既存のステークホルダー=株主やコンタクトができている投資家へのコミュニケーションとともに、潜在的なステークホルダー=未来の株主となりうる層へのアプローチも大切です。
広報部門が日々行っている自社の広報活動は、あらゆるステークホルダーへのアプローチを想定しています。広報と密に連携することで、潜在層の興味関心を投資という形にしてもらう機会を増やしましょう。
また、自社の魅力を伝える活動を行う広報部門は、あらゆるツールを通じた情報の伝え方にも長けています。アニュアルレポートなどのIRツールやIRメールの作成には、広報部門にも関わってもらうことで、際立ったインベスターリレーションズを実現できるでしょう。
ポイント3.会社を長期的に支えてくれる「ファン」作りを意識する
株主とは、自社の事業活動を支えてくれる存在です。「この製品が流行っているから」「現在の注目の技術だから」という今株価を押し上げている要因を投資理由とする投資家は多くいるでしょう。
しかし企業としては、自社の将来を見据えたうえでの中長期的な視点による投資が、もっとも安定した経営につながります。一次的な落ち込みなどに左右されずに株を保有し続けてくれる株主は、企業としての将来性や成長性を期待してくれている、いわば「ファン」のような存在です。数字だけではなく、企業や経営トップの想いも伝わるインベスターリレーションズを通じて、ファンとなってくれる存在を増やせるよう意識しましょう。
自社の魅力を伝えるインベスターリレーションズで企業価値の向上を
本記事では、インベスターリレーションズについて施策例を含めてご紹介しました。
情報発信・収集が容易に行えるようになった今、世界中の投資家から投資対象とされる機会も増えています。そんな環境の中、将来にわたって存続しうる価値ある企業として認知してもらうためには、自社の魅力を伝えるインベスターリレーションズの重要性はより高まるでしょう。
ただ自社の業績を伸ばしその将来性をうたっていればよかった時代は終わり、上場企業として求められることは幅広くなっています。IR部門が持つべき知識の幅も広がり、担う責務は重くなっています。部門を超えた運営体制を構築し、自社の情報をより魅力的に伝えるインベスターリレーションズの実施が求められています。
インベスターリレーションズに関するQ&A
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