近年、社会問題や環境問題に注目が高まっていることもあり、企業活動に求められる社会的責任「CSR」に関連する活動が注目されています。SDGs(持続可能な開発目標)やコンプライアンスなどの言葉とともに、目にすることも増えているのではないでしょうか。
本記事では、CSRの定義や活動の具体例、企業価値向上のメリットや、ポイントをお伝えしていきます。企業の社会的責任を正しく理解し、実践していきましょう。魅力的なCSRを掲げている企業の事例もご紹介します。
CSRとは?定義をわかりやすく説明
企業が行う組織活動の社会的責任のことを「CSR(Corporate Social Responsibility)」といいます。社会的責任とは、顧客、従業員、取引先、投資者などのあらゆるステークホルダーをはじめ、社会貢献や環境への配慮など幅広い内容に対して適切な意思決定をすること。

日本でのCSRの定義
経済産業省によると、CSRは以下のように定義されています。
「企業の社会的責任」とは、企業が社会や環境と共存し、持続可能な成長を図るため、その活動の影響について責任をとる企業行動であり、企業を取り巻く様々なステークホルダーからの信頼を得るための企業のあり方を指します。
企業会計、開示・対話、CSR(企業の社会的責任)について
国内でのCSRのルーツは、1960年代頃の高度経済成長期に起こった環境破壊にさかのぼります。工場の煙や排水・自動車の排ガスなどが環境問題となり、住民の健康被害が多発。企業がもたらす社会・環境への影響が問題視されるようになりました。
「CSR」の言葉とともに企業活動が取り上げられるようになったのは、2000年代からとされています。企業が起こした環境問題への反省に加え、企業活動のグローバル化、情報化、消費者意識の変化などがきっかけで、企業の社会的責任が注目されるようになりました。今では、世界各国で課題を抱えている地球温暖化や気候変動、大気汚染や資源利用に関する問題に対し、環境汚染の防止、植林活動、生物の保護などをCSRに掲げている企業も多くあります。
JETRO(日本貿易振興機構)が実施した「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(2017年度)では、CSRに関する方針について、「方針を策定している」「策定することを検討している」企業は合わせて全体の65.6%を占めていることが明らかになっています。
アメリカ・ヨーロッパなど海外でのCSRの定義
欧米でのCSRの定義を紹介していきます。
アメリカはCSRの先進国。1990年代後半から、企業に法律の順守や環境への配慮などが求められるようになり、グローバル化が進む中で、国は企業に対してCSR関連の法制を整備し、活動を強化するよう推進してきました。「企業は株主のもの」という考えや、「株主への説明責任」という観点から見ても、株主を中心としたステークホルダーがCSR活動を知ることについて、関心が高い国といえるでしょう。
ヨーロッパにおいては、環境や人権問題に対する意識が高いとされており、CSRを「未来への投資」と考え、「企業の社会への影響に対する責任」とする事例も。地球の環境と労働者を大切にすることを企業活動の根幹として捉えた取り組みも活発で、レポートなどによる情報開示も多く見られます。
ボランティア活動とCSRの違い
近年、サステナビリティを重視する企業が増え、SDGsやESG(環境・社会・ガバナンス)、ボランティアなどCSRに近い意味合いの言葉が一般に広がりつつあります。しかし、CSRとボランティアなどの慈善活動は、似ていますが異なるものです。
CSRの目的は「企業価値の向上」で、経営視点でロードマップを熟慮されてから行われることが多いです。企業が社会・ステークホルダーに対し、責任を持った対応をすることが大切です。例えば、社員個人が無償で行うボランティア活動や単発の慈善事業とは異なり、自社のブランディングに関わる、戦略的な活動として取り組むことが必要でしょう。企業が果たすべき社会的負担との関係が見出しにくい慈善活動をしたとしても、ステークホルダーには伝わりにくいことがありますので、注意しましょう。
CSRは、サステナビリティ・SDGsなどの考え方とも関連しています。サステナビリティ・SDGs・ESGについては、こちらの記事で解説しています。
サステナビリティとCSRの違い
混同しやすい、CSRとサステナビリティの違いについてもお伝えしていきます。サステナビリティは直訳すると「持続可能性」という意味で、大量生産、大量消費、環境破壊、資源の奪い合いなどが行われている現状をよい方向に改善する意味合いが強いです。サステナビリティは企業だけでなく政府や自治体や個人、社会全体が対象となるため、事業活動に限られるCSRとは対象の範囲が異なります。
企業にはサステナビリティの文脈においても世界に受け入れられやすい施策を考え、CSR活動の一環として取り組む姿勢が求められるでしょう。
CSR活動の項目
SO(国際標準化機構:本部ジュネーブ)が2010年11月1日に発行しました組織の社会的責任に関する国際規格「ISO26000」によると、CSR活動には、さまざまな項目が例示されています。I参考:ISO26000(社会的責任) | 日本規格協会グループ JSA GROUP Webdesk
「ISO26000」では、社会的責任を果たすための基本的な視点として、「説明責任」「透明性」「倫理的な行動」「ステークホルダーの利害の尊重」「法の支配の尊重」「国際行動規範の尊重」「人権の尊重」の7つの原則を挙げています。
企業のCSR活動を大きく分けると、下記の内容があります。
- 社会貢献
- 環境への配慮
- 地域貢献
- 健全な職場環境と従業員支援
- 法規の順守
- コンプライアンス
- 情報の開示
- 消費者対応
- 取引先との関係
CSRの取り組みを考えている企業の方は、ぜひ参考にしてみてください。
企業価値を向上させる3つのポイント
企業としてCSRを掲げることは、自社のイメージアップにつながり、ステークホルダーへの信用獲得などに効果があります。CSRによって一体どのように企業価値の向上が図れるのでしょうか。ここでは、3つのポイントをご紹介していきます。
1.取引先や株主からの信用獲得
企業がCSRを推進する目的として、顧客、従業員、取引先、投資者、株主などのステークホルダーからの信用獲得があります。自社の事業内容に合ったCSRを掲げ、ステークホルダーからの信用を得ることで、円滑な資金・資材調達につながります。企業を経営し、事業を行っていくために、とても大切な要素です。結果的に、売り上げや販路の拡大につながること、社会的評価も上がり、企業全体のイメージが向上していくことが望めます。
2.人材の獲得や従業員満足度の向上
従業員も企業のステークホルダーの一員なので、CSRは社外に向けた内容だけではありません。企業が成長・拡大していくためには、従業員一人ひとりの力が必要です。「従業員満足度」を向上させ、パフォーマンスをアップするためにも、CSRの取り組みは重要であるといえるでしょう。
また、世の中にCSRの認知が広がるにつれ、新卒や中途採用の際に、企業のCSRの内容を確認する応募者も増えてきています。安心して働ける環境、事業内容への満足度が心理的安全性を高め、仕事に取り組みやすくなる効果も期待できます。
3.コンプライアンス体制の強化
データ改ざんやハラスメントなどがニュースで取り上げられることも増え、企業倫理のあり方が問われている昨今。ルールに従って公正・公平に業務を行うことを指す「コンプライアンス」は、現代社会でますます注目されています。
コンプライアンスは「法令順守」を意味する言葉ですが、近年は法令以外の分野にも範囲を広げており、社会的なルールに従って企業活動をするという意味が含まれることも。「企業の社会的責任」を意味するCSRは、コンプライアンスの基礎とも重なります。CSR活動を通じ、適時適切に情報を開示していくことが、コンプライアンス違反の防止につながる効果もあります。
企業が戦略的にCSR活動を推進するための5つのポイント
企業がCSR活動の効果を高めるには、戦略的に推進していくことが大切です。CSRの活動は、ステークホルダーや社会へのアピールになります。企業のブランド力向上につながる、戦略的な5つのポイントを押さえておきましょう。

1.自社の目標と社会のニーズをすり合わせる
CSR活動は、企業評価やブランドイメージの向上につながります。今、社会的にどのような動きが求められているのか、どんなことに注目が集まっているのかなどの、世の中の流れやニーズに敏感であることが大切です。
国内のニーズや社会問題を追うことはもちろん、先進的なCSR活動が目立つ欧米ではどのようなトレンドが生まれているかなどを調べるのも効果的。そこから導き出したテーマや内容を、どのような形で自社のCSR活動に落とし込んでいくのかを考えることも重要です。
そして、自社のCSR活動の目標と社会のニーズをすり合わせていくことが必要です。例えば環境問題に対する取り組みを掲げる際、自社が作っているプロダクトに関連する内容やストーリーがあることで、一貫性・継続性の高い企業としてのイメージアップにもつながります。ユニークなCSRの取り組みに注目が集まり、そこから事業の認知拡大という可能性も高まるでしょう。
2.自社に見合った内容を考える
自社に見合ったテーマ・コスト感で取り組みの内容を考えるのもポイントです。自動車関連の企業であれば環境や交通に関わる内容、アパレル企業であればリサイクルや衣料支援など、自社の経営方針やプロダクトに見合ったCSR活動の骨組みを考えます。その企業ならではの取り組みや、独自の視点で考えた内容であれば、企業イメージの向上や認知につながるきっかけとなります。
骨組みを考えたら、次は必要なコストを把握しましょう。社会貢献につながりそうでも、コストが割に合わない企画は実現可能性が低くなりがちです。環境問題や廃棄を解決しようとする取り組みなどは、生産体制の抜本的な改革が必要になることも。そういったテーマは、経営層や現場責任者とコストを話し合いながら、綿密に計画を練りましょう。
生活者参加型のイベントやSNSを駆使したキャンペーンなど、コストや人員を限定しながらも、実現しやすいことから取り組む方法もあります。
3.運用体制を検討する
次に、実際にCSRに結びつく企画を立案し、プレスリリースで発表するまでの運用体制を決めましょう。ステークホルダーに「CSRレポート」などで定期的に情報を発信している企業であれば、IR部門など、他部署と連携することもあるでしょう。また、イベントなど人手を要する企画の場合は、実現するために必要なコストや業務フローをまとめてみましょう。
4.ステークホルダーへの情報発信を行う
自社の公式サイトへの掲載はもちろん、CSR活動を一つひとつ報告することも大切な業務です。プレスリリースを配信し、Webメディア・テレビ・ラジオ・新聞などで取り上げてもらうことはもちろん、社内報、公式のSNSなど、さまざまな手段を駆使してこまめに情報を伝えていくよう、心がけましょう。
活動状況を定期的に伝えたり、開示したりすることで、その企業が大切にしていることや活動の内容が広まります。Webサイトで概要を掲載し、SNSでその経過を発信していくなど、それぞれの媒体の特徴を生かして情報を発信していきましょう。
なお、ステークホルダーについてはこちらの記事でも解説しています。
5.効果検証する
CSRに関わる施策を実施した結果、メディアや生活者からどのような反響があったかなどの効果検証をしましょう。例えば複数部署でイベントに取り組んだ場合は、参加者にアンケートをお願いするなども有効です。クリッピングでパブリシティを確認するほか、TwitterなどのSNS上でキーワードやトレンドを検索するのもよいでしょう。
CSR活動の具体例3選
最後に、CSR活動に力を入れる企業の具体例を見ていきましょう。あらゆるCSR関連の取り組みに共通しているのは、自社が取り扱う商品・サービスがはらむ社会的な課題を、環境や地域に配慮しつつ解決しようとしていること。プレスリリースでのメッセージの打ち出し方も含めて、参考にしてみてくださいね。
事例1. 白鶴酒造株式会社
白鶴酒造株式会社は神戸大学とともに、酒粕の飼料化について共同研究を開始しました。輸入飼料に代わる飼料として、国産の酒粕の活用(地産地消)を目指しており、事業化が実現できれば、飼料を輸入する際に出るCO2の削減につながります。
日本酒の副産物である酒粕の新たな活用法を探しつつ、地元の大学と協働することで、環境問題に加えて飲料自給率の問題にも関連性を持たせた取り組みです。日本酒の副産物として知られる「酒粕」をテーマに持続可能な社会につなげる、酒造会社ならではのメッセージが伝わるプレスリリースです。
参考:神戸大学と白鶴は、神戸市のCO2削減支援制度で共同研究を開始!~輸入飼料に代わる国産酒粕飼料開発で、地産地消とCO2削減を目指す~
2.株式会社ゴールドウイン
アパレルの廃棄を減らし、ファッションロス・ゼロを目指すためのリセール事業である、サステナブル・レーベル「GREEN BATON(グリーン・バトン)」を展開する株式会社ゴールドウィン。スキーウエアのジュニア製品を全国の直営店対象19店舗にて、買い取る取り組みを開始しました。
キッズ向けのウエアは成長によって約2年でサイズが合わなくなります。シーズンが限られるスキーウエアは、数回着てサイズアウトしてしまうケースも少なくありません。着れなくなったキッズ向けウエアを買い取り、クリーニングや補修、アップサイクルを施してから「GREEN BATON」の新たな製品として再販することで、ファッションロス・ゼロを目指すことを目的としています。
参考:≪昨年始動した当社初のリセール事業「GREEN BATON」≫対象製品に「Goldwin」スキーウエアのジュニア製品が仲間入り、1月20日(金)より買取りをスタート
3.株式会社アートフィアー
「豊岡鞄」ブランドで有名な兵庫県豊岡市。かばんを製造する株式会社アートフィアーは、地場産業の職人育成に力を入れており、高校生を招きかばんづくりの歴史やSDGsへの取り組みなどを伝えるプログラムを実施。座学、見学、ワークショップを含むイベントに、地元の高校生約60人が参加しました。
同社は、2013年に「Toyooka KABAN Artisan scholl」を開校、地域全体でかばんづくり従事者を増やすための学習機会の提供、技術力アップを目指しています。
参考:豊岡鞄ブランド【アートフィアー】が兵庫県内の高校生向けに地場産業の未来とSDGsの取り組みについての校外学習を実施
社会貢献と企業ブランディングにつながるCSR
本記事では、組織活動の社会的責任であるCSR活動の定義、効果やメリット、具体例などをお伝えしました。経済・社会・環境問題など、世界規模の問題については、国をまたいであらゆる当事者が解決策を模索しています。企業の広報活動も、国境を超えたプレゼンスを発揮するためには、今後は社会的な活動やコンプライアンスなどを重視する姿勢を積極的に発信していくことが求められるでしょう。
しかし、企業がきちんとCSR活動をし、活動情報を開示していくには、どうしても多くのコストや人員が必要です。自社で行える取り組みと、世の中で求められているニーズをすり合わせ、できることから始めていきましょう。多様なステークホルダーを相手に、社会貢献と企業ブランディングにつながるCSRについて考え、広報PR活動につなげてみてはいかがでしょうか。
<編集:PR TIMES MAGAZINE編集部>
CSRに関するQ&A
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