ソーシャルメディアの普及により、ネガティブな情報があっという間に広まってしまう現代社会。リスクコミュニケーション(危機管理広報+α)は、企業や組織を守るためにも広報担当者として知見を高めるべき領域でしょう。
リスクが表面化しやすい環境下で広報担当者はどのようにリスクを意識し、行動すべきなのか。経済学者・メディア・企業広報責任者それぞれの視点でシェアしていただきました。
本レポートでは、その講演やクロストークの内容を掲載します。
<登壇者>
- 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授 山口真一氏
- 株式会社日経BP 日経ビジネス電子版 編集長 池田信太朗氏
- 株式会社メルカリ グループ広報責任者 矢嶋聡氏
<モデレーター>
- 日本リスクコミュニケーション協会 副代表理事 岡田直子氏
リスクコミュニケーションとは
まずは岡田氏による冒頭説明のレポートから。
日本リスクコミュニケーション協会が定めるリスクコミュニケーションの定義とは、「平時からの準備および有事の際、事後の対応まで、タイムマネジメントしながら各ステークホルダーとコミュニケーションをとる一連の行動」を指しています。つまり、リスクコミュニケーションでは、問題が発生してから行動するのではなく、平時からリスクを意識した行動が重要です。
Withコロナ時代のリスクの傾向を知る
リスクはその年や世間のトレンドによって傾向が異なるため、その傾向を把握しておくことが大切です。では、現在のリスクコミュニケーションで知っておくべき傾向とは何でしょうか。国際大学准教授・山口氏によると、新型コロナウイルスによってソーシャルメディア上の炎上が増えていると言います。2020年4月の炎上件数は前年同月と比較して約3.4倍にも増加したそう。
とくに、新型コロナウイルスに直接的に関連した内容だけでなく、通常では炎上しそうにないものまでパンデミック時には炎上する傾向にあります。
また、増加の理由はそもそもソーシャルメディアを利用する時間が増えたこと、不安解消・ストレス発散のために批判をおこなうことの2つが考えられると分析しています。
統計データが示す炎上の実態
山口氏の研究領域である統計データに基づき、炎上の一般的な実態についてシェアしていただきました。
- X(旧 Twitter)が一般的に使われるようになった2011年から炎上が急増
- 2019年の炎上発生件数は、約1,200件。平均して1日3回以上発生している
- ネット世論を形成する炎上に参加している人は、1件当たりで推計すると約0.0015人(7万人に1人)であり、ごく一部の人
- 同じ人が何度も書き込む実態。中には炎上1件に対し50回以上書き込む人も
- 書き込む動機は、「正義感」。社会的正義ではなく、各々が持っている価値観での正義感で人を裁いている
つまりごく少数の人が、インターネットやソーシャルメディア上の言動をリードしているということが分かります。では、このような炎上に対してどのように対処していけば良いのでしょうか。
炎上のメカニズムと予防・対処方法
ソーシャルメディア上だけで批判や誹謗中傷が書かれている状況では、リツイートなどで拡散されるものの、実は影響力はまだ小さい状況です。しかし、まとめサイトなどのネットメディアやテレビの情報番組などのマスメディアにより影響力が拡大します。炎上認知経路はテレビの情報番組からが60%で、X(旧 Twitter)からは20%であるという調査結果も報告されています。
ソーシャルメディア上の状況だけで、さほど問題ないと判断するのではなく、他メディアを通して大炎上する可能性があるという認識を持つことが大切です。
山口氏は予防方法を上記5つにまとめています。
しかし、ここまで徹底しても、炎上してしまうことは十分にあり得ると言います。そのために、予防方法と合わせて対処法を準備しておくと良いでしょう。以下の図のように、対処の状況判断の整理や謝罪文の要点を掴んでおくことをおすすめします。
Withコロナ時代のリスクコミュニケーションにおいて最も気を付けるべきこと
山口氏のリスクコミュニケーションに関する講演をうけて、企業広報・メディア・経済学者の視点から、Withコロナ時代のリスクコミュニケーションにおいて最も気を付けるべきことをシェアしていただきました。
矢嶋「コロナ過でオンラインの接触時間が増えたり、社会全体が不安という状況の中で、何かを批判したくなる風潮が増える状況の中では、ふとしたことが炎上の引き金になりえます。
広報は世論やSNSの風潮など、外の目を持っている人たちだと思うので、リスクの可能性があるものに対しては迅速に情報を収集し、経営層や社内にフィードバックすることが大切です。マーケティングや他部署が展開している対外コミュニケーションについても、誤解をされるような発信をしていないか積極的にウォッチすることも大事かなと思います」
池田「嘘はついてはいけないとか、上から目線は嫌がれるとか、間違ったら誤りましょうとか、個人だとできることが、企業の代表になってしまうと企業を守らなければいけない等、様々な理由でできなくなってしまうんですよね。人としてやってはいけないことをやらないという基本に立ち返ることが大事だと思います」
山口「基礎知識をもっておくことと、消費者の気持ちに寄り添うことが大事だと思います。双方向のコミュニケーションや顧客エンゲージメントを高め、信頼してくれるファンを多く獲得することがビジネスの成功に導きますし、炎上があったとしても擁護してくれることがあります。コミュニケーションだけを小手先で変えても、消費者に伝わってしまう時代。広報だけでリスクコミュニケーションを考えるのではなく、会社全体で、経営者に提案できる人間を育てていくことも大事ですね。そういう人間が情報社会において求められていると感じます」
広報の現場で、コロナ過の社内外のコミュニケーションはどう変わったか
リスクコミュニケーションのみならず、コミュニケーション全体で、コロナ禍で変化があったのでしょうか。
池田「取材先で経営者に『コロナで何が変わったか』という質問をしてきました。日頃から働き方に問題意識をもっていた企業がコロナを機にオンライン化を進めている姿と、あわててテレビ会議を始めた会社とでは、経営との結びつきやコミュニケーションの質に差が出ていると感じています。企業の規模にかかわらずです」
矢嶋「リモート前提により、部門間のコミュニケーションや、経営陣と現場との距離が詰めづらい状況ですが、PRの勉強会を実施して自分たちの考え方や行動を理解してもらったり、経営陣のオープンドアをつくって社員との交流の場を設けたりと、トライ&エラーを繰り返しています。
社外のコミュニケーションにおいては、マスク不足の時に、当社のサービスが転バイヤーの利益を後押ししているという批判をいただいたこともありました。社会にとってどういう存在であるべきかを改めて考えさせられ、我々のスタンスをもっと明確に発信していかなければいけないと感じています」
山口「企業の意識が変化していると感じます。先日、エネルギー関連企業の方から、危機時におけるSNS発信が大事だと認識しているものの、炎上が怖いという相談をうけました。5年前までは、業界として、SNSはそもそも使わないというスタンスだったのが、有事の時に消費者に役立つ情報をSNSで届けたいというスタンスに変わっています。大きな変化だと思います」
本クロストークは、経済学者・メディア・企業広報責任者それぞれの視点で、コロナ過におけるリスクコミュニケーションとの向き合い方について語られました。
- 基礎知識をもっておくこと。予防方法と合わせて対処法を準備しておくこと
- 世論やSNSの風潮など、外の動きに目を向け、リスクの可能性があったら経営層や社内にフィードバックする
- 消費者との双方向でのコミュニケーションや、顧客エンゲージメントを高め、信頼してくれるファンを増やすコミュニケーションに注力
リスクコミュニケーションが求められる時代。現在所属している企業や組織の体制を振り返り、有事が起こる前にしっかり備えておきましょう。
最後に、本ウェビナーのダイジェスト映像を掲載いたしますので、併せてチェックしてみてくださいね。
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