企業や個人が年始にコメントを発表する年頭所感(ねんとうしょかん)。広報PRの観点で有効な手段ですが、積極的に年頭所感を発信している企業は多くありません。
実際に年頭所感を作成・発信する際にはどのようなステップが必要なのでしょうか。年頭所感を配信するまでのステップを詳しく見ていきましょう。
年頭所感とは
年頭所感(ねんとうしょかん)とは、年始に社外の幅広いステークホルダーに向けて、前年度の取り組み実績、自社が掲げる目標やその取り組みへの抱負などを公に伝えることを指します。
誰でも年頭所感を述べることはできますが、企業でいう「年頭所感」は、トップの人が公に発表する新年の挨拶という意味で使われる場合がほとんどです。
企業が年頭所感を配信する3つのメリット
では、企業が年頭所感を配信することにはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、3つのメリットをご紹介します。
メリット1.企業活動における実績を伝えブランディングができる
年頭所感には、前年の活動や実績、新年度の目標などを盛り込みます。そのため、企業活動を網羅的かつ積極的に配信することができます。
達成できたことだけでなく、取り組み半ばや未着手なものについても、なぜそのような状態になったのか、今年の取り組みとしてはどうなっていくのかなどを記載し、複数の要因を考慮しながら活動していることを伝えるとよいでしょう。
また、配信する内容に応じて、企業イメージの強化・確立を図ることができるほか、幅広いステークホルダーへ情報を届けることができ、ブランディングにもつながります。
決まった枠組みにとらわれず、企業ブランディングの一環として活用できるのは大きなメリットといえます。
メリット2.注力キーワードを発信し、布石を打つことができる
年頭所感では、新年度の目標や注力領域などを発信することが可能です。今年度の注力キーワードを発信できるため、その後の広報PR活動の下地をつくることができます。
注目領域や注力キーワードを発信することは、社外に対する明確な意思表示になるだけではなく、その領域やキーワードに該当する記者の興味・関心を惹くことにもなります。
また、すでに発表済みの内容も、今後本格的に展開していく場合には年頭所感を活用するのがおすすめです。詳細を表明しないにしても、領域やキーワードの頭出しを行い、今後の展開の布石としましょう。
メリット3.長期目線での目標を表明できる
年頭所感はその年の目標に限らず、長期目線の目標を表明する場としても適しています。日頃のプレスリリースでは埋もれてしまうような、長期目線での目標について触れるとよいでしょう。
また、理念やビジョンを再掲し、事業との関わりを発表する場としても有効です。理念やビジョンは、プレスリリース内でボイラープレート(boilerplate)※として記載している企業は多いものの、具体的に触れる機会は多くありません。節目である年頭所感のタイミングで丁寧に語ることで、企業の方向性を改めて明確に示せます。
※テンプレートのように使い回すことを前提で用意したテキスト(文言)の通称
年頭所感をプレスリリース配信するまでの7ステップ
年始にコメントを発表する年頭所感は、さまざまな業界においてもプレスリリースを配信するよい機会です。
この章では、年頭所感のプレスリリースを配信するために欠かせない内容をご紹介します。プレスリリースを配信するまでに、どんな進め方をしたらよいかわかるように、7ステップに分けて解説していきます。
STEP1.前年度の実績と、社会情勢などの外的要因を振り返る
年頭所感を作成する前に、前年度の実績を振り返ります。定性面・定量面いずれも振り返りながら、企業内のトピックをピックアップしましょう。
前年度も年頭所感を作成している場合は、その内容を踏まえた実績を確認します。前年度の内容を受けての実績報告は、ステークホルダーからの信用を高めることができるためです。
また、自社の実績だけではなく、社会情勢などの振り返りも行います。事業は社会情勢などの外的要因も大きく関連するためです。外的要因と照らし合わせながら確認を行うことで、より具体的な振り返りをすることが可能となります。
STEP2.今年度の注力内容を整理する
前年度の振り返りが完了したら、今年度の力を注ぎたい内容を整理し、キーワードを選定します。
今年度の注力内容は、広報PRの観点ではもちろん、事業推進の観点でも整理することが大切です。近々プレスリリースを配信する予定がある場合には、その内容を確認のうえ、年頭所感で頭出しを行うのもよいでしょう。また、情報が手元にない場合、各事業と連携のうえ、情報収集を積極的に行うことが大切です。
年頭所感のタイミングで情報を整理することで、今後の広報PR施策や計画を整理することにもつながります。
STEP3.長期計画における現在地点、今後の目標を確認する
前年度、そして今年度の情報整理が完了したら、中期経営計画などの長期計画における現在地を確認します。そのうえで、今後の目標について改めて整理していきます。
長期的な目線で現在地から今後の目標達成に向けてどのような取り組みを行う予定なのか、これを機にプランを練るのがおすすめです。
たとえ、現時点では実現可能性が伴わない内容であっても、実現を踏まえてイメージを描くことは大切です。長期目線の目標に対して現在地を明確にすることで、今後のアクションに対して共感者が生まれるかもしれません。
STEP4.STEP1~3の内容を基に、年頭所感を作成する
ここまで完成したら、年頭所感の文書を作成します。年頭所感の文書に決まった形式はないため、企業内の文化や風土の雰囲気を取り入れつつ、対外向けの情報に仕立てていくことがおすすめです。
誰が読んでもわかりやすい文書となることを意識し、経営陣の意見などもヒアリングしながら完成させます。
STEP5.作成した年頭所感を基に、プレスリリースを作成する
年頭所感が完成したら、プレスリリースを作成します。一般的にはコーポレートサイト内への掲載や社内での発表に留める企業がほとんどですが、広報PR観点からプレスリリース配信を積極的に行いましょう。
作成した年頭所感の内容から大きく変更する必要はありません。ただし、より多くの人々へ情報を届けることになるため、潜在的なステークホルダーであっても理解できるよう、内容の補足が必要となる場合があります。
また、プレスリリース配信は企業のブランディングとしても有効です。通常のプレスリリースと比較し、企業情報を中心に発信できるため、企業ブランディングを行う意識を持った文書作成を心掛ける必要があります。
STEP6.必要に応じて、年頭所感の動画などを制作する
年頭所感の文書やプレスリリースが完成したら、必要に応じて年頭所感の動画などを制作します。近年は、年頭所感を動画などで発信するケースが増えています。
動画など映像コンテンツ化することで、テキストよりも臨場感を持って年頭所感を伝えることができます。
制作した映像は社内に留めず、文書やプレスリリースにリンクとして掲載するのもおすすめです。企業のブランディングに留まらず、社長のブランディングにもつながるため、広報PR目線で最も有効な活用方法を模索することが重要となります。
STEP7.年頭所感の周知およびプレスリリースの配信を行う
文書が完成したら、年頭所感の周知やプレスリリースの配信を行います。年頭所感はコーポレートサイトなどに掲載するほか、社員へ内容を共有することも大切です。企業の情報が詰まっているため、確実に内容をキャッチアップしてもらうように働きかけを行いましょう。
プレスリリースの配信タイミングは社内で調整のうえ、最適な時機を判断します。なお、年頭所感配信の期日などはないものの、「年頭」であることを踏まえ、1月上旬のうちに配信をしましょう。
年頭所感に含めておきたい4つの内容・項目
年頭所感にはどのような内容を含めたらよいのでしょうか。ここでは、4つの内容・項目を紹介します。
1.前年度の大きなトピック
まず大切なのは、前年度の大きなトピックです。STEP1で解説したように、前年度の振り返りをしながら、企業内のトピックをピックアップします。
なかでも、企業内の影響度が大きかったものではなく、対外的な影響が大きかったものを選定します。売り上げが良かった商品やサービスをはじめ、対外発信における反響が大きかった内容などを中心にまとめます。
2.今年度の注力事業やサービス、取り組み
年頭所感をプレスリリースなどで配信する場合、これまで接点があるステークホルダーだけではなく、潜在的なステークホルダーにもアプローチできるでしょう。また、年頭所感で発信したキーワードを通じて、これまで接点がなかった記者と関係を構築できる可能性があります。
さまざまな可能性を踏まえ、企業をブランディングする機会と捉え、展開する事業やサービスの内容を記載しておくことがおすすめです。
そして、今年度の注力事業やサービス、取り組みも必ず含める必要があります。通常のプレスリリースと異なり、商品やサービス単体ではなく、企業の包括的な情報を発信できるため、今年度の方向性や注力内容を表明しましょう。
今年度、新たに取り組む案件がある場合は頭出しを行ったり、すでに進行している案件を深化させていく場合は、その内容に触れておくのも効果的です。
細分化した情報を発信するのではなく、領域などにまとめて発信することで、今後の広報PR活動における下地として機能させることができます。
3.5年後、10年後など、先を見据えた目標
中長期的視野に立った目標や見通しも盛り込んでいきましょう。直近1年の具体的な取り組みに合わせて中長期的なプランを記載することは、継続的・持続的な会社経営を思わせ、読んだ人たちに期待感を与えます。すぐには実現不可能なものであっても、ステップを経て実現していくことを明確に意思表示する機会として記載していきます。
この部分は「起・承・転・結」に加えて、その先を表す「展」の位置づけとすると作成しやすいでしょう。未来につながる要素を入れることで、社会に寄り添う会社としてその事業活動により重みが増し、その姿勢に共感した新たなファンを生み出すかもしれません。
こうした意思表示は、会社のブランディングにつながります。企業理念や使用する言葉にも気を遣い、ブランド形成の一環として取り組みます。
4.企業の理念やビジョン
企業の理念やビジョンについても、年頭所感では丁寧に触れておきましょう。もちろん普段からプレスリリースなどで触れているかもしれませんが、より丁寧に掘り下げることができる点が年頭所感のメリットといえます。
企業の理念やビジョンを丁寧に解説することで、企業ブランディングにつなげることができます。また、年頭所感のタイミングで、改めて企業の理念やビジョンを再認識することができます。社内への再周知はもちろん、社外に対しても企業の方向性や将来性を示す機会となるため、必ず内容に含めましょう。
【項目別】年頭所感の書き方・例文
では、年頭所感はどのような書き方をすればよいでしょうか。書き方の参考となる例文を交えつつ説明します。
書き出し
年頭所感の書き出しは、新年の挨拶を記載するのが一般的です。ただしプレスリリースなどで配信する場合、「〇つの宣言をします」というように、今年度の宣言から書き始めるとスムーズです。
宣言から入ることで、ステークホルダーや記者の興味を惹き、次の内容につなげやすいといったメリットもあります。
前年度の実績
前年度の実績は、カテゴリー別に3つ程度記載するのがおすすめです。シンプルに箇条書きにし、特筆すべき事項には下線を引くなど、強調箇所をわかりやすくすると、読みやすいでしょう。
豊富な実績があるほどすべてを掲載したくなるかもしれませんが、年頭所感の目的は実績掲載だけではありません。記載するべき実績を厳選することが大切です。新年度以降も注力するカテゴリーや、特に貢献が大きかった実績を中心に記載しましょう。
今年度の目標
今年度の目標を記載する際は、ただ目標を書くのではなく、製品やサービスを絡めた説明を展開すると効果的です。
当社は〇〇分野のパイオニアとして(製品名・サービス名)でお客さまの生活を支えてまいりましたが、今年度はさらなるニーズに応えるべく△△用途の製品(サービス)を開発し、シェア〇%を目指します。
このように、目的や目標を明確に主張しながら、いつ・どのようなシーンで製品やサービスが活躍するのかもきちんと記載することは、ステークホルダーの企業理解を深めることにもつながります。
常に広報PRの視点を忘れずに、できる限り具体的な情報を年頭所感内に記載する工夫が必要です。
企業が目指す未来や目標
企業が目指す未来や目標は、理念やビジョンに絡めて説明しましょう。「なぜ当社は〇〇に取り組むのか?」といった大項目を設定し、社長など代表者に未来を語ってもらう方法や、中期経営計画を明記したうえで未来やビジョンを合わせて記載する方法など、自社に最適な発信の形を見つけることが大切です。
未来や目標をただ示すだけでは、ステークホルダーの心に響きません。代表者の想いや長期視点の経営計画を踏まえた目標を発信しましょう。
企業の説明
年頭所感の中には、必ず企業の説明をいれましょう。プレスリリース配信時に活用しているボイラープレートだけでなく、具体的な事業内容など詳しい説明を加えるのがおすすめです。
ボイラープレートは企業情報が網羅的に記されていますが、年頭所感は広くさまざまなステークホルダーや記者に届く可能性があるため、初めての方にも伝わるように、企業情報をわかりやすく、詳細に記載しておくことが大切です。
このような場合に備え、通常時よりも詳細なボイラープレートを作成しておくとよいかもしれません。この機会に作成を検討してみてはいかがでしょうか。
年頭所感のプレスリリース事例
では、実際に年頭所感としてどのようなプレスリリースが配信されているのでしょうか。具体的な例を見ていきましょう。
事例1.株式会社PR TIMES
プレスリリース配信を行うPR TIMESでは、年頭所感のプレスリリースとしてお手本となるような内容を配信しています。
前年度の振り返りとして定量・定性的どちらも網羅的に情報を掲載しているほか、製品やサービス情報をうまく織り交ぜるかたちで内容を展開しています。一度読めば、PR TIMESの情報をきちんと把握することが可能です。
また、代表取締役のメッセージも掲載しており、PR TIMESが目指す方向性や、どのような思考で事業に取り組んでいるかが丁寧に記されています。
全体を通して「オープンステージの行動者たちへ」というミッションをもとに構成されているのも特徴。展望・目標について触れることで、PR TIMESが目指す世界をわかりやすく伝える内容となっています。
参考:「オープンステージの行動者たちへ」年頭所感2024(株式会社PR TIMES)
事例2.株式会社セガ エックスディー
株式会社セガ エックスディー(SEGA XD)の年頭所感のプレスリリースは、新型コロナウイルスが5類感染症に引き下げられたことなど社会情勢について触れながら、これまでの実績や展望につなげています。
自社が運営するサービスやコンテンツを簡潔に紹介し、各項目に分けてわかりやすくまとめられた構成が特徴的です。
ゲーミフィケーションカンパニーを担う企業として、ゲームだけでなく金融・教育・ヘルスケアなどさまざまな切り口で多くのステークホルダーへアプローチした例といえます。
参考:年頭所感 「ゲーミフィケーションは拡大し続け、セガ エックスディーも変わり続ける」
事例3.アイグッズ株式会社
アイグッズでは、8つの挑戦と題して新年度の宣言を記載しています。8つの挑戦をただ羅列するのではなく、「フルオーダー事業部の3つの挑戦」など関連する内容ごとにカテゴリーを分けているのが特徴です。カテゴリー化することで、読者が大要を把握しやすいというメリットがあります。
また、1~8の挑戦について項目が立てられているため、トピックを読み取ることも容易です。写真やイラストを複数用いた非常に丁寧な構成で、広報PRの効果を期待できる仕上がりとなっています。
参考:【年頭所感2024】得意の企画力と製造力で、モノを通して社会課題を解決 アイグッズ8周年に向けた”8つ”の挑戦
年頭所感のプレスリリースを通じて、広報PRの下地づくりを
年頭所感は作成後、社内に展開するだけではなく、プレスリリースとして社外へ発信することがおすすめです。年頭所感は新年の挨拶だけでなく、企業が提供する商品やサービス、理念やビジョン、実績や目標など、あらゆる情報を含めて発信できる貴重な機会です。
年頭所感をプレスリリースで配信することで、ステークホルダーはもちろん、記者の目に留まる機会を増やすことができます。社会的に注目を集めるきっかけになるかもしれません。
広報PRの立場としては、企業ブランディングやサービスブランディングにつなげることができるほか、今後の広報PRの下地づくりとしても重要です。年に一度しかないタイミングだからこそ、年頭所感のプレスリリースを積極的に活用しましょう。
年頭所感に関するQ&A
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