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無鑑査でも支持される。一ノ蔵の体験・ストーリーを軸にしたファンづくり|酒造向け広報PRセミナー~第一部~

無鑑査でも支持される。一ノ蔵の体験・ストーリーを軸にしたファンづくり|酒造向け広報PRセミナー~第一部~

国内消費の減少や米価格の高騰、物流コストの上昇などが重なり、厳しい環境が続く酒造・酒販業界。商品力に加えて、「魅力や価値を届ける力」がこれまで以上に求められる中で、どのようにブランドを育てていけばよいのでしょうか。

プレスリリース配信サービス「PR TIMES」を運営する株式会社PR TIMESは、2026年1月29日に酒蔵の運営に携わる方に向けたセミナーを開催。第一部は、宮城県を代表する酒造・一ノ蔵の7代目社長鈴木整さんを迎え、お話しいただきました。

上質な二級酒「無鑑査本醸造辛口」や発泡清酒「すず音」など、日本酒の枠を超えて話題となった商品の数々はどのようにして生まれ、人気を獲得していったのか。理念を「価値」に変える広報PRの取り組みなど、当日の内容をもとにレポートします。

株式会社一ノ蔵(宮城県大崎市):最新プレスリリースはこちら

株式会社一ノ蔵 代表取締役社長

鈴木 整(Suzuki Hitoshi)

1969年、一ノ蔵創業元となる4蔵の一つ「勝来酒造」の家に生まれる。異業種での勤務を経て、2004年に一ノ蔵へ入社。製造、財務、営業各部門での経験を積み、2014年より現職。お祭りを愛する情熱を胸に、日本酒の伝統を守りながら新たな挑戦を続けている。

酒造業界の常識を覆した「一ノ蔵無鑑査」

一ノ蔵は、1973年に、宮城県内の若手醸造家が率いる4つの蔵元が企業合同して誕生した酒造です。創業当時、日本酒業界には「特級・一級・二級」という級別制度があり、税率と品質が紐づく仕組みになっていたのですが、私たちはそこに強い違和感を覚えていました。

東京で楽しまれている特級や一級のお酒は確かにおいしいものが多くあります。一方で、東北などの地方に行くと、その土地でしか飲めない、驚くほど旨い二級酒がある。日本酒級別制度は「本当に酒の価値を表しているのだろうか」という疑問があったんです。

そのような中で、あえて鑑査を受けず、高品質な酒を「二級酒」として世に出すことを選びました。それが「一ノ蔵無鑑査シリーズ」のはじまりです。「本当に鑑査なさるのはあなたご自身です」という言葉とともに、級別制度への思いを率直にラベルに記しました。今思えば、酒税行政そのものに盾突くような、かなり強い表現だったと思います。

しかし、そのことが「税制に反旗を翻す酒蔵があるらしい」と生活者の関心を集め、大きな話題となりました。メディアに取り上げられたことも重なり、全国に「一ノ蔵」の名が知られるきっかけになったと思います。

一ノ蔵さま01

広告に頼らない、話題づくりとファンづくり

創業した当初、広告宣伝に使える予算がほとんどなかったので、有料広告はすべて断り続けてきました。断りすぎて「ケチノクラ」と呼ばれたこともあるほどです。しかし、広告予算がなかったからこそ、「記者が書きたくなる話題」を自分たちでつくることを意識してきました。

生活者との接点を大切に

例えば、「社名公募」もそのひとつです。50年前に実施したのですが、生活者を巻き込む参加型の取り組みは、SNSのない時代としては先駆的な試みだったと思います。

また、私たちが長年大切にしてきたのが、リアルな場でのファンづくりです。

  • 実体験の共有:「一ノ蔵を楽しむ会」や「友の会」など、蔵元と生活者が直接杯を交わす場を継続的につくる
  • 帰属意識の醸成:「一ノ蔵ファン」と名乗ってもらえるような関係性を育てる
  • 永続的な関係性:一過性ブームで終わらせず、世代を超えて続くつながりを目指す

このような取り組みは、すぐに収益に結びつくものばかりではありません。しかし「やりっぱなし」にせず、イベントごとに振り返りと改善を重ねていくことで、長期的には顧客満足度や収益性につながっていくと考えています。

メディアを惹きつけた5つのストーリー

メディアや生活者の関心を集めるためには、「ここでしかできない体験」をどう設計するかが大切です。ここでしかできない、希少性のある体験にすることで、自然とストーリーが生まれ、結果的にメディアからの取材や生活者からの共感につながっていくと考えています。

1.体験×杜氏との交流(希少性/独自性)

無鑑査の新米新酒の生酒を発売した際、単なる新商品リリースとして発信するのではなく、商品づくりの現場を体験できる「蔵見学」をあわせて展開したことがあります。

普段は入室できない「もろみ室」での櫂入れや総杜氏との懇談の体験には、限定20名の人数に対し想像以上の申し込みがありました。

参考:一ノ蔵 特別体験ツアー募集!『一ノ蔵 新米新酒 無鑑査しぼりたて生酒 見学体験ツアー』初開催

2.社会貢献×アート(社会性・公益性)

東日本大震災後、「東北を応援したい」という地元の画廊さんの思いから始まったのが、画家の方々の作品を酒のラベルにするチャリティ企画です。

売上の一部を被災地に寄付する取り組みで、最初は単発での実施予定でしたが、反響が大きく継続的な活動になりました。参加した画家の方々やその関係者からケース単位の注文、地元メディアでの掲載など、社会的な取り組みを具体的に「見える形」にしたことで、大きな反響につながっていると考えています。

参考:一ノ蔵のお酒とアートがコラボ!東日本大震災 復興支援 チャリティ「素敵に食卓‐日本酒ラベル展XV ありがとう」が開催!(本展10月28日~、巡回展11月8日~)

3.記念日×デジタル(季節性)

一ノ蔵のロングセラー商品「すず音」は、長年親しまれている商品ですが、リブートのきっかけが必要だと感じていました。そこで、「すず音」が誕生した日を記念日に登録し、LINE限定のプレゼント企画と連動。デジタル上で顧客との新たな接点づくりを実現しました。

参考:7月8日は「すず音の日」記念日登録を祝し、7月のLINE限定プレゼントを増量!

4.若手育成×垂直統合(共感・映像)

一ノ蔵には農業部門があり、自社でお米を作っています。その農業部門と蔵人、広報PRチーム、それぞれの若手がチームを組んで酒造りに挑戦したいという意向が出て、若手主体のプロジェクトをスタートしました。

商品が完成した際には「若手が造った酒です」と打ち出すのではなく、苗箱に種を蒔く段階から情報発信をはじめ、酒が完成するまでのプロセスそのものを伝えることを重視しました。裏ラベルのQRコードからストーリー動画に誘導する仕掛けも用意し、「人」に共感してもらう設計にしています。

参考:一ノ蔵 若手・中堅社員のプロジェクト!「一ノ蔵 特別純米酒 辛口 吟のいろは」新発売

5.環境保全×教育(地域性/社会性・公益性)

私たちが30年近く続けている取り組みのひとつに、夏休みの第1週に開催する「いちのくら微生物林間学校」があります。地元の小学校5・6年生を対象に、酵母を含む微生物について学ぶ科学教育の取り組みで、15ページほどのテキストを自分で書き込むことで、夏休みの自由研究がその場で完成するため、親御さんたちからも大変好評です。

さらに、20歳になった自分への手紙を書いてもらい、成人後にお酒と一緒に届けるサービスも行っています。将来のファンにつながる、いわば10年単位のブランド投資です。教育系メディアや地方紙に取り上げられることも多く、非常に評判の良い企画になっています。

参考:7月26日(土)開校 ~集まれ!ミクロの探検隊~いちのくら微生物林間学校 参加者募集

一ノ蔵に学ぶ。酒蔵におけるプレスリリースのヒント

私たちが、プレスリリースを作成する際に大切にしているポイントは以下の通りです。

  • 自社の当たり前を疑う:毎年続けている行事や取り組みは、社内では日常であっても、世間から見れば「稀有な伝統」であることも多いため、まずは自社の「当たり前」を疑ってみる。
  • 人を主役にする:杜氏の苦労や若手蔵人の葛藤と挑戦は、それ自体が強いストーリーに。商品ではなく「人」を起点に考えることで、伝え方の幅を広げる。
  • 共創をニュースにする:地域の農家や他業種との連携は、それだけで社会性のある話題に。自社だけで完結させず、「誰と」「どんな思いで」取り組んでいるのかを伝えることで、幅広いメディアにアプローチする。
  • デジタルを活用する:YouTube配信やSNSキャンペーンなど、今の空気感をどう取り入れるかも重要なポイント。時代に合わせて伝え方を更新していく。

【質疑応答】参加者からの質問に鈴木整さんが回答

ここからは、参加者から鈴木さんへ寄せられた質問への回答をご紹介します。

──さまざまなことに取り組まれているかと思いますが、広報PRを行っている体制を教えていただけますでしょうか。

広報は、SNS運用も含めて4人のスタッフで担当しています。役割としては、SNS用の画像や動画を制作・投稿する担当が2名、そして「いちのくら微生物林間学校」や地域と連携したイベント企画を考える担当が2名という体制です。

最近は、Instagramなどでお酒の写真や動画を投稿する際、背景に居酒屋のカウンターのような雰囲気のあるシーンを使っていますが、その背景はすべてAIで生成しています。撮影にかかる手間を減らしながら、表現の幅を広げることができていて、時間短縮という面でも効果を感じています。

──蔵見学の付加価値に共感し、弊社でもぜひ実施したいと感じました。通常販売しているお酒のタンクを見学に使う際、気をつけている点はありますか。

弊社の蔵は、すべての工程をガラス越しに見られる見学通路を備えているため、比較的一般の方をご案内しやすい設備になっています。通常の見学では、その通路から製造工程を見ていただく形をとっています。


一方で、特別見学会の際には、白衣と帽子を着用していただいたうえで、もろみ室やこうじ室の中に入って見学していただくこともあります。

──作家さんとのコラボラベルにまさに取り組みたいと思っているところです。作風もさまざまだと思いますが、お酒に合うものにするべきか、若者向けにあえてポップな表現に振り切るべきか、判断に迷っています。

私たちの場合は、あくまでも画廊さんと一緒に行ったイベントで、レギュラー商品になるというわけではありませんでした。企画に応募され、画廊で展示を行った作家さんの作品をそのままお酒のラベルに落とし込み、絵とラベル化したお酒を並べて展示会を行いました。あくまで期間限定の企画だったので、デザインや作風もあえて絞り込まず、多様な表現をそのまま受け止めて進めています。

結果的に、アイデア面でも多くの学びがありましたし、「お酒に合うかどうか」よりも、その場の文脈や体験として成立しているかどうかが大切なのだと感じました。

一ノ蔵さま02

まとめ:愛され続ける酒蔵「一ノ蔵」を支える広報PR

業界の常識にとらわれることなく、地域や生活者に向き合った発信を続ける一ノ蔵。酒づくりを通じたストーリーを共有し、共感を育てる取り組みがたくさんありました。

自分たちの「当たり前」を見つめ直し、誰と、どんな未来を描きたいのかを言葉にし続ける。その姿勢こそが、一ノ蔵を単なる酒蔵ではなく、共感を生み、応援され、愛され続けるブランドへと育ててきた原動力だったのではないでしょうか。

続いては、浅野日本酒店の浅野洋さんにご登壇いただき、酒販店の視点から、「選ばれる酒造ブランド」のヒントを解説いただいた第二部をお届けします。

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『PR TIMES MAGAZINE』は、プレスリリース配信サービス「PR TIMES」等を運営する株式会社 PR TIMESのオウンドメディアです。日々多数のプレスリリースを目にし、広報・PR担当者と密に関わっている編集部メンバーが監修、編集、執筆を担当しています。

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