PR TIMES MAGAZINE|広報PRのナレッジを発信するWebメディア
記事検索
title

社会と対話し、ルールを変えていく「パブリック・アフェアーズ」とは?入門3ステップを解説

コロナ禍で世の中が大きく変化している昨今、スタートアップを始めとして、社会に新たな価値を提供したり、社会の仕組みを変えるべく事業を展開している企業にとって、社会や世論との対話が重要になっています。

このような場合、社会に理解者や味方を増やすためには、企業のあり方や存在意義・目的を正しく伝え、人々に共感を深めてもらうアクションが重要になりますが、そこでポイントになるのが、「パブリック・アフェアーズ」という概念です。

例えば自動車産業では、自動運転という技術を活かしていくために交通ルールそのものを変更していく必要があります。物流手段にドローンを使う場合も、空飛ぶ車を実現する場合もルールの修正が必要です。シェアリングエコノミーと言われる新たな領域のビジネスも、ルール修正という課題に直面しています。

このような価値観が大きく変化していく社会において、僅かな変化を見落としてしまうことは、事件・事故にもつながる恐れがあるのです。そういった社会的なルールの改訂や、そのために必要な社会との対話を自社に伝えていくなどの活動が、パブリック・アフェアーズには求められています。

ではパブリック・アフェアーズは、広報・PR活動の中でどのような目的があり、具体的にどのような行動をとっていけばいいのでしょうか。ポイントや好事例、入門ステップなどについてまとめました。

パブリック・アフェアーズの定義とは?

「Public Affairs」という言葉は、イギリスの英語学者で辞書編集者であるA・S・ホーンビーの著書「Oxford Advanced Learner’s Dictionary(8th edition)」の中で、「issues and questions about social, economic, political or business activities, etc. that affect ordinary people in general」と記述されており、元々、公共的な活動を指しているものです。

一方で、デジタル大辞泉では「公共的側面から見た会社広報。会社の社会的・公的責任を認識し、社会に対して積極的に貢献するために行う広報活動をいう」と記述されているように、会社の広報的側面からとらえて使われるようになってきています。最近では、パブリック・アフェアーズをビジネスとして支援する会社も登場してきており、そういった会社の多くは、パブリック・アフェアーズについて『対行政コミュニケーション』『社会を構成する各種環境主体(消費者、地域社会、行政、報道機関など)との積極的コミュニケーション手段』『規制や社会的課題をテーマにしたPR』といったように、コミュニケーション手段として説明しています。

しかし、パブリック・アフェアーズをコミュニケーション手段、特に行政や規制への対応のための手段としてしまう捉え方は、やや限定的です。

パブリック・リレーションズは、顧客やユーザーなど自社にとって大切な人たちとの関係性をより良いものにするあらゆる活動を指しますが、対してパブリック・アフェアーズは社会的・公共的な側面に重点を置いて企業がおこなう活動全般を指します。

つまるところパブリック・アフェアーズの本質は、社会と向き合って社会のあり方・ルールを変える機能と、社会の価値観の変化を正確にとらえ自社に還元する機能との2つの側面があり、単なるコミュニケーション手段を超え会社の本質に根ざした活動だと言えます。

パブリック・アフェアーズに取り組むメリット・ポイント

では、広報PRパーソンがパブリック・アフェアーズに取り組むメリットは何なのでしょうか。3つのポイントに絞ってご紹介します。

ポイント

1.自社の存在意義を正しく伝える活動になる

まず、パブリック・アフェアーズは、自社の存在意義を正しく伝えることに結び付くため、事業成長を後押しすることにつながります。

一般的に会社は「企業」という法人格(独立して取引をすることができる法律上の地位)が付与され、企業活動を行うことが認められています。この理由は、企業活動が社会的に有用であるということに起因しています。

企業活動は、利潤追求という一側面だけが着目されがちですが企業があげている利潤は、事業を通じて得られる対価が源泉となります「利潤をあげる」ということの本質から考えれば、「企業=社会に有用な存在」であるということが理解しやすく、その根底にあるものはミッションやビジョンにあらわれる「自社の存在意義」です。パブリック・アフェアーズの活動は、企業ごとに異なる社会的な役割に根差し、自社の存在意義を社会に伝えていくための活動なのです。

近年、自社の存在意義や社会的有用性を会社設立時に定める「定款」に記述する例も出てきました。例えば、エーザイ株式会社は会社理念を定款に記載していたり、フランスのダノン社(2020年8月9日朝刊総合1面参照)は「使命を果たす会社」を会社形態に取り入れています。会社の製品やサービスの良さを伝えるだけでなく、自社の製品やサービスを通じて社会をどのように良くしていこうとしているのか、どのような社会を実現しようとしているのかを伝えていくことがパブリック・アフェアーズのスタート地点として重要なポイントとなります。

2.社会の変化を捉える全社的な意識の醸成

2つ目は、パブリック・アフェアーズの活動自体が、社会の変化を捉え続けることの重要性を、全社的に意識することに寄与するという点です。現代のようにテクノロジーの進展が著しい社会では、技術進歩によって社会の在り方も大きく変わってきており、この「社会が刻々と変化していること」は事業環境そのものに直結します。そのため、パブリック・アフェアーズ活動は広報PR担当者だけでなく、会社全体で取り組んでいくことが重要です。

わずか30年前、グローバル企業の順位表は日本企業が上位を占めていましたが、今は米国や中国のテクノロジー企業が上位に連なっています。この期間、テクノロジーの進歩によってコミュニケーション手段は大きく変わり、私たちの働き方も変わりました。そして、それらが社会的な価値観の変容にもつながっています。

日本でも常識だとされてきた選択的夫婦別姓制に対する理解が進んだり、個人情報の取扱いが一層重要視されたり、各種ハラスメントが問題視されるようになったりと、この10数年でも様々な社会の変化が生じています。

このように変容する社会の価値観に応じ、自社や事業の有用性を自ら追及し、それらを関係する多くの人たちに対し発信することで、正しく認識してもらうことがとても重要です。変容する社会の価値観を正確に把握していなければ、会社だけが有用だと信じていても社会からは評価されずらかったり、場合によっては社会から非難されてしまったりするケースもあります。

単なるマーケットリサーチではなく、社会との対話を行い社内にフィードバックする上では、専門の担当者やチーム、さらには部署をつくることも有効です。

3.一企業という枠組みを超え、産業の発展に貢献できる

3つ目は、パブリック・アフェアーズが自社の存在価値を社会に伝えていく活動に留まらず、産業自体を成長させていくことにつながるという点です。

先にあげた自動運転を例に考えてみましょう。交通ルールが変わっていくためには、自動車だけではなく歩行者のルールも変わっていかなければならないかもしれません。事故が起こった場合の責任も、運転手ではなくてソフトウェアの開発会社が負担することになるかもしれません。事故が少なくなれば損害保険の制度にまで影響する可能性もあります。

一つのこと、一つのルールの「変化」を実現していくためには、直接関係するステークホルダーに限らず、多くの関係者の存在があり、共に歩むことが大切なのです。別の視点で考えると、パブリック・アフェアーズの活動によって、一企業の活動を超えて、様々な産業の発展に寄与できる可能性もあります。絶えず、誰と共に歩んでいるのかという視点を持ち続けることが大切ですね。

パブリック・アフェアーズ活動によって事業が前進した事例3選

パブリック・アフェアーズに取り組むメリット・ポイントについてご紹介してきましたが、具体的に事業の成長に寄与したケースにはどのようなものがあるのでしょうか。3つの事例をご紹介します。

1.マイクロモビリティのための制度づくり

 最初にご紹介するのは、スタートアップにおける新制度づくりのケースとして「マイクロモビリティ推進協議会」の事例です。

マイクロモビリティ推進協議会の写真
同社プレスリリースの画像素材より

電動キックスクータは簡便な乗り物として諸外国では比較的自由に使うことができますが、日本では法律上「原動機付き自転車」という扱いになっています。そのため、規格にあった車体を使って、ナンバープレートを付け、運転免許証をもった人がヘルメットを被るなどの道路交通法を守らなければ公道を走ることができません。

電動キックスクータという新しい乗り物に相応しいルールを作り上げていくために、スタートアップ企業が集まって「マイクロモビリティ推進協議会」を立ち上げました。協議会では行政庁や国会議員との意見交換を行い、その結果の一つが上記にあげた「自由民主党MaaS議員連盟マイクロモビリティPT」による提言に結びついています。社会との対話を行ってきた成果がプレスリリースに結びついた例でもあります。

2.AIを活用した医療機器の開発促進のために

2つ目の事例は、株式会社AIメディカルサービスなど医療系スタートアップ3社が、人工知能(AI)を活用した医療機器の発展を目指す協議会を設立したケースです。

AI活用の中で有望視されている分野の一つが医療機器の領域です。多くのスタートアップがこの領域に取り組み始めましたが、このニュースは、医療機器として販売するために必要な承認申請がよりスムーズに進むように関心の高い企業を中心に協議会を設立したというものです。

協議会の立ち上げ発表を議員会館で行い、厚生労働省の担当者と関心の高い国会議員を招き、報道関係者にも周知をおこない取材につながったものです。この活動も行政庁や国会議員の方々との意見交換が一つの鍵ですが、同時に、多くの人々にAIを活用した医療機器の有用性(疾患の発見に漏れが少なくなり、読影する医師の負担も軽減される)を理解してもらうが目的です。

3.債権法の改正

3つ目は、目立ちづらい活動の事例で、「債権法改正」の事例をご紹介します。2020年4月1日から改正債権法(民法)が施行されましたが、今回の改正は民法制定以来初めてのもので120年ぶりのものになります。

債権法は契約の基本になる事項が定められているものですが、それが100年以上も変わっていなかったことを踏まえ、今後あらゆるのものがIoTでつながる社会になっていくと、多くのものが所有からサービス利用へ移行することを見据えて、「約款」に関する条項が追加されました。

この改正は経団連の反対により、最後までその条項が含まれるかどうかは不透明でした。パブリック・アフェアーズとしての活動は、多くの人々が必要としていることを示すためのシンポジウムの開催や、法務省の審議会委員への説明、そして経団連の委員会での活動など、その時点ですぐに話題を集める活動というよりは地道な草の根運動が該当します。

これらの活動の積み重ねも奏功し、改正案が固まる最後の審議会で反対意見がなくなり法案の成立に至っています。パブリック・アフェアーズの活動は表舞台で語られることが少ないですが、多くの人々に影響のある法律を残すことにもつながっています。

委員会

「何から始めればいい?」最初に取り組むべき3ステップ

パブリック・アフェアーズについて、具体的な事例をみてきましたが、いざ自社で取り組もうと思ったときに、どのようなことから始めていけばいいでしょうか?入門3ステップをご紹介しますので、是非最初の一歩を踏み出してみてください。

1.報道や他社の活動から情報収集し、自社の存在意義を明文化する

パブリック・アフェアーズは社会との対話から始まります。皆さんが自社の存在意義を伝えようとしている人々の関心はどこにあるでしょうか。また、その人々はどのような価値観を持っているでしょうか。

伝えたい相手の関心を知るためには、日々の報道や身の回りの出来事を通じて、今の社会の価値観を把握することが必要です。また、他社が企業価値や事業の有用性をどのように社会に説明しているのかから学ぶことも有益です。プレスリリースや報道はその手がかりとなるでしょう。

こちらは同業界に限定せず、広く情報収集することが望ましいです。必要な情報収集をした上で、「では、私たちの会社の社会的な存在意義は何だろう?」と自問しながら、経営陣とも対話を重ねて明文化することがファーストステップとしては重要です。場合によっては、社会的な価値観の変化に自社ではどのように対応するか、広報PR担当者主導で、社内に働きかけることも大切です。

2.5W2Hで何を発信するか整理。重要なのは事実と科学

自社の存在意義や、世の中の関心がどこにあるのかなどの情報収集ができたら、次は発信する内容を整理していきます。ここで役に立つのが5W2Hです。読み手の前提知識の有無に関わらず頭の中で具体的なイメージが湧くよう、わかりやすく内容を整理できます。このときに、5W2Hに加えて企業展望も意識しておくとよいでしょう。

【情報整理の5W2H】

  • Who:誰が(自社)
  • What:何を(取り組み内容)
  • Where:どこで(実施場所)
  • When:いつ(開始日や実施期間)
  • Why:どうして(背景や目的)
  • How:どのように(特徴など)
  • How much:どのくらい(金額など)

また、発信内容をまとめるにあたりパブリック・アフェアーズでは特に重要な視点があります。それは事実と科学です。社会の人々について考察する場合も、あるいは社会に意見を伝える場合も、元となる事実が何であるのか、また科学的に説明できるのかという視点を忘れないようにしなければなりません。虚偽の内容を伝えることは、絶対に避けなければならないことです。

3.情報発信手段を決め、結果だけでなく過程も発信

情報がまとまったら、発信方法について検討しましょう。情報発信手段はいくつかあり、代表的なものがプレスリリースです。報道関係者に向けて、自社の活動をわかりやすくまとめるだけでなく、「なぜそれをやるのか」「社会にとっての意義は何か」について、代表者やプロジェクト責任者の思いを伝えることも重要です。

また、発信手段はプレスリリースだけではありません。自社のオウンドメディアや、SNSアカウントを通じて、タイムリーかつ小まめに活動の進捗をオープンにしていくことも重要です。情報発信というと活動の結果だけが着目されやすいものですが、まだ結果にたどり着いていない奮闘の日々の記録こそが、自社の応援者が増えていくことにもつながっていきます。

まとめ

今回はパブリック・アフェアーズについて、活動の意義やメリット、入門ステップなどについてご紹介いたしました。

私たちの社会は法律というルールで「デザイン」されています。技術やサービスの発展に伴い、より良い社会・暮らしやすい社会を実現するために、「ルールをより良く変えていく」という発想を持つことが重要です。

また米国におけるビジネスラウンドテーブルの宣言などに象徴されるように、グローバルでもに会社の役割を再確認しようという動きが広がっていくなか、パブリック・アフェアーズはますます重要になってきています。

PRパーソンにとって、パブリック・アフェアーズの本質を理解して活動をしていくことは、自社と社会が良好な関係を構築するための礎を築いていくことに他なりません。「私たちの会社にも、このような課題がある」と感じたら、是非この記事のステップを参考に一歩踏み出してみてくださいね。

パブリック・アフェアーズに関するQ&A

PR TIMESのご利用を希望される方は、以下より企業登録申請をお願いいたします。登録申請方法料金プランをあわせてご確認ください。

PR TIMESの企業登録申請をするPR TIMESをご利用希望の方はこちら企業登録申請をする

この記事のライター

別所 直哉

別所 直哉

紀尾井町戦略研究所理事長。1981年慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、持田製薬株式会社に入社。同社法務部門を経て1999年にヤフー株式会社へ。法務責任者として数多くの法律改正に関わりました。2017年よりZホールディングス株式会社の子会社として設立された紀尾井町戦略研究所に携わり、2020年4月、Z社から同社の株を譲り受け独立、理事長に就任。

このライターの記事一覧へ