「広報PRにおけるChatGPTの影響」への見解をお伺いするこの企画。情報学の分野で20年以上研究されている国立情報学研究所の佐藤一郎さんにお話いただきました。この記事は、前後編でお届けします。
広報PR活動の多くは、プレスリリース配信をはじめ、いずれも自然言語によって成り立っている中で、今後はどのような影響が考えられるのでしょうか。
国立情報学研究所について
国立情報学研究所(NII)は、情報学という新しい学術分野での「未来価値創成」を目指す国内唯一の学術総合研究所です。情報学における基礎論から人工知能やビッグデータ、Internet of Things(IoT)、情報セキュリティーといった最先端のテーマまでの幅広い研究分野において、長期的な視点に立つ基礎研究、ならびに、社会課題の解決を目指した実践的な研究を推進しています。
ChatGPTとWeb検索の違い
対話型のAI(人工知能)であるChatGPTと比較的似ているものとしてWeb検索があります。Web検索の場合、ほしい情報に関するキーワードを入れるとキーワードに関する情報が出ているWebページを教えてくれ、利用者はWebページを見に行くことになります。一方で、対話型のAIの場合、何かキーワードを入力すると利用者がほしい情報そのものを教えてくれます。
例えば、スマートフォンで近くのレストランを知りたいときに、検索の結果からWebページを選び閲覧する。そうすると、多少の手間がかかるわけです。そのため、今後はWeb検索ではなく、対話型AIで知りたいことを調べる人が増えてくると思います。
対話型AI、ChatGPTが広がる影響
そこで問題になるのは、人間が対話型AIのアウトプットに満足して元の情報を見ない、つまりWebの情報を見なくなるという点です。
インターネット広告の効果が減少
もっとも大きな影響はインターネット広告の効果が下がることではないでしょうか。SNSや無料のブログなど、無料のインターネットサービスを利用する人が多いですよね。広告から得られる収入によって支えられ、現在は無料で提供されていますが、インターネット広告の効果が下がることで、なかには広告による収益が減り、続けられなくなるサービスが出てくるかもしれません。もちろん、新しいビジネスモデルは出てくると思いますが、どちらかと言うと業界的にはマイナスに働いてしまう可能性が高いと予想されます。
情報の枯渇
次に起こるのは、情報が枯渇するという問題です。インターネット業界のビジネスモデルとして、インターネット広告に依存している場合、淘汰される事業者が出てくる。結果的に、メディア以外の企業の方、個人の方が情報を発信する場が減る可能性があり、情報の枯渇につながる可能性があるわけです。
インターネット広告の進化
もちろんインターネット広告も生き残りのため、形を変えてくると思います。今はWebの履歴に応じた、いわゆるターゲティング広告が盛んですが、これからの広告は「その場で生成する効果的なターゲティング広告」「対話型の広告」が主流になってくると思います。一方通行な広告から、インタラクティブな広告に変化するイメージです。しかし、インタラクティブな広告は、度が過ぎてしまうと広告を出している元のWebページを見なくなるため、どこまでやるのかはこれから検証し、見極めていく段階かと思います。
- パーソナライズ化された広告:AIはユーザーの興味や行動パターンを今まで以上に詳細に分析し、それに基づいてパーソナライズ化された広告を選択・提供
- 効果的なターゲティング:利用者に応じた広告選別から、利用者に応じて、テキスト、画像、動画などのコンテンツ生成により広告が動的生成され、広告効果が上がる
- 対話型広告の普及:対話型AIの発展に伴い、利用者が対話できる広告が可能となり、ユーザー体験が向上し、広告の受け入れ度が向上
- ステルスマーケティング:良いか否かは別にして、ステルスマーケティングのためのコンテンツを自動生成
プレスリリース配信への影響
現在、ChatGPTのサイトにアクセスして文章を生成することが多いと思いますが、ワープロや表計算ソフトウェア、パワーポイントなどのプレゼンテーションソフトウェアなど、それらから対話型のAIの機能を呼び出すこともできるようになると思います。キーワードと相手の情報を入れるとメールの文章を生成し、メモを入れるとドキュメントやプレゼンテーションのスライドを作成する。これらのことは一般化されるでしょう。
プレスリリースの作成が簡易化
そのなかには、プレスリリースの作成も含まれていて、定型文が多く、比較的自動化しやすい分野だと思います。企業のプレスリリースの場合、冒頭のお決まりのキーワード、会社名、社長の名前、ニュースの内容(新製品の発表であればコアキーワード)などを入れると、ある程度の文章を作れるようになるでしょう。「プレスリリースの文章を作ること」から「AIが作ったプレスリリース文をチェックする・修正すること」に業務の内容は変化するかと思います。プレスリリースを作成する仕事がなくなるわけではないですが、その仕事の内容がだいぶ変わってくるのではないでしょうか。
配信数増、クオリティの低下も懸念
もう一つ考えなければならないことは、プレスリリースを作成する仕事の内容が変わった先のことです。これまでは多くのプレスリリースを作ることができず、オウンドされていた情報が、チェックする工数のみとなり非常に簡易化し、プレスリリースの量は2倍、もしかすると10倍の量にできる可能性だってあります。中小企業やスタートアップなど、広報PR担当者がおらず、プレスリリースを配信できない企業も多いと思いますが、今後は気軽に配信することができるのではないでしょうか。人間がチェックする前提ですが、AIで自動生成しているため、必ずしもクオリティが高いとは言えないプレスリリースがあふれる可能性があります。
プレスリリースを読まなくなる可能性
そうすると、何が起きるのかというと、メディア関係者などの受け手側に変化が起こります。例えば、記者さんのメールはプレスリリースで埋まってしまうと思うんですね。しかも、そのプレスリリースのクオリティが高くないとすると、読まなくなる可能性があるわけです。
プレスリリースの存在の危機
もっとも恐れる事態は、プレスリリースが読まれなくなることで、企業が配信しなくなるということです。プレスリリースを配信するという行為は、企業にとってそんなにお金をかけずに宣伝活動ができるという点で非常に優れており、メディア関係者にとっても、担当する取材対象以外を知れる機会だったんです。残念ながら、それが失われる可能性があるということです。
広報PRの役割と必要となる能力
今後、メディア関係者は大量に届くプレスリリースのキュレーションを精度高く行っていく必要が出てきます。反対に広報PR担当者は、記者の方またはメディアの関心事によりターゲティングをしなければいけなくなるわけです。また、たくさんのプレスリリースの中から、読んでもらうための要約部分はより重要になってくるでしょう。
そして、対話型AIは、原理的に新しい情報に弱いです。データを学習するわけですが、おおよそ半年前くらいのデータを使っているケースが多いため、鮮度の高い情報は広報PR担当者の元にあり、メディアリレーションズができる広報PR担当者は必要とされるでしょう。記者やメディア関係者が信頼する広報PR担当者からの情報を優先するケースも想定されますね。
「プレスリリースを書く」という業務は、最終段階だと思うんですよね。社内にニュースはたくさんあったとしても、それぞれの部署も忙しく、よほど宣伝したいことがないと、情報は上がってこないのではないでしょうか。社内取材し、プレスリリースに値するネタを見つけられる能力、現場の方針を知り、そのために広報PR担当者ができることを考える理解力、それらは残念ながらAIでは現状できません。広報PR担当者の役割や考え方、求められる能力は整理したほうがよいでしょうね。
佐藤一郎氏に聞く対話型AI ChatGPTのQ&A
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