ここ数年、日本でも取り入れる企業が増えてきたダイレクトリクルーティング。ダイレクト・ソーシングとも呼ばれています。「聞いたことはあるけど、詳しくはわからない」、「話題だけど自社に合うだろうか」そんな疑問も解決できるダイレクトリクルーティングの基本知識をご紹介します。
「ダイレクトリクルーティング」という言葉の意味やこれまでの採用手法との違いをふまえ、メリットや成功させるポイントを解説します。成功事例では新卒・中途採用それぞれのケースをピックアップ。実際に導入して運用することがイメージしやすくなるでしょう。ぜひ、最後までご覧ください。
ダイレクトリクルーティングの意味とは?
ダイレクトリクルーティングとは、企業が採用したい人材を積極的に探して直接アプローチする能動的な採用手法です。企業がアプローチする人材は、新卒採用であれば自社のことを認知していない学生、中途採用であれば求職活動をしていない転職潜在層も対象になります。
ダイレクトリクルーティングは求人広告を出して応募を待つのではなく、企業主体で採用したい人を探し出し、直接アクションを起こすことから始まります。ターゲットを絞り、心を動かすメッセージを直接届けることで優秀な人材の獲得を狙い、大手から中小企業まで会社の規模を問わず普及してきています。
多くの企業がダイレクトリクルーティングを導入しはじめている背景として、労働人口の減少とIT環境の変化があげられます。
少子化による働き手の不足は採用競争を激化させています。限られた労働人口の中から優秀な人材を確保することは、どの企業にとっても課題です。
そして、この数十年でITツールが大きく発達し普及しました。SNSが発展した現在では、個人と企業が直接コミュニケーションをとることも気軽にできます。企業から採用したい人に直接連絡できるツールがあることで、ダイレクトリクルーティングが効果的な手法となったと考えられます。
ダイレクトリクルーティングの手法
ダイレクトリクルーティングにはさまざまな手法がありますが、LinkedInやWantedlyなどのビジネス系SNSや、ビズリーチなどの人材データベースといったダイレクトリクルーティングサービスを通してスカウトを行うのが一般的です。その他、FacebookやTwitterなどのSNSを使うこともあります。
ダイレクトリクルーティングサービスは、いずれも採用したい人に直接スカウトメールを送ることができ、受け取った側はその内容に応じて選考に参加するかどうかを決められます。
スカウトメールには、受け取る人のどんな職歴や能力を評価しているか、自社のどのような仕事やポジションで活躍してほしいと望んでいるかなど、きちんと相手のプロフィールを読み込んでいることを伝えるのが大切です。熱意とメリットがしっかり伝われば、選考につながる可能性が高まります。
ダイレクトリクルーティングと従来の採用との違いを比較
従来の採用とは、新卒であればナビサイトや合同説明会、中途であれば求人サイトや雑誌を使用した求人広告の出稿や、転職エージェントをはじめとした人材紹介会社に依頼する方法です。ダイレクトリクルーティングと従来の採用とはどのような違いがあるのか比較していきます。
違い1.企業の姿勢
従来の採用と比べ、企業が採用候補者に働きかける熱量に大きな違いがでます。採用候補者とのメッセージは定型文でやり取りをするのが従来の採用でしたが、ダイレクトリクルーティングでは、採用候補者一人ひとりの人間性やスキルを加味した、その人だけに向けたスカウトメッセージを用意します。相手に合わせて、提示するメリットや自社アピールの切り口を変えるなどの工夫を行うのが従来の採用との違いです。
違い2.採用コスト
求人広告への掲載料や、人材紹介会社など仲介者へ支払う手数料が抑えられるため、従来に比べて採用コストが軽減されます。
大手の中途採用の媒体では、最小サイズの求人広告を2~4週間掲載するのに20~30万円程度必要です。掲載サイズを大きくしたり表示順をあげたりするオプションを追加すると、100万円以上かかるケースもあります。この費用は1人も採用につながらなかったとしても変わりません。
一方、ダイレクトリクルーティングサービスを利用して採用した場合は、基本料のほかは成果に応じて報酬を支払うケースが一般的です。利用するサービスやプランによって異なるものの、1人当たり50~70万円の採用単価が相場となります。
違い3.人的工数
従来の採用方法では外注していたことも、ダイレクトリクルーティングでは多くの採用活動を自社で行うため工数が増えます。採用候補者の選定や、一人ひとりにカスタマイズしたスカウトメールの文章作成、メッセージのやり取りなどのリソース確保が必要です。
自社の人的コストも費用となるので、後述する注意点1.工数がかかり業務負担が増えるも参考にしてください。
ダイレクトリクルーティングにかかる費用の目安
ダイレクトリクルーティングを行うにあたり、大きな費用がかかるのはダイレクトリクルーティングサービスの基本料金と成果報酬です。提供されるデータベースの検索とメッセージ送信に対して基本料金が発生するのが一般的で、オプション内容などの違いはありますが、月額10~30万円が相場といわれています。
成果報酬は新卒か中途か、未経験かキャリア採用かなどの違いや、サービスや職種によっても異なりますが、新卒採用の場合は70~120万程度、中途採用の場合は入社後年収の35%程度(年収600万円であれば210万円)が相場です。
ダイレクトリクルーティングを行う5つのメリット
ダイレクトリクルーティングを導入すると得られるメリットをご紹介します。
メリット1.転職潜在層へアプローチできる
転職活動をしていない転職潜在層にアプローチできるのは大きなメリットです。一般的な求人サイトの登録者は、ほとんどが転職を考えているか退職済みで、積極的に転職情報を収集しています。ダイレクトリクルーティングでは、まだ転職活動をしていない転職潜在層へアプローチできます。
採用候補者が転職潜在層の段階では、自社のアピールについて他社と比較されることなく検討してもらえます。優秀な人材に届く大量のオファーのうちの1社として埋もれることを回避できます。
新卒採用の場合は、学生認知度の低い企業であったとしても、優秀な学生にアプローチでき採用につながることも珍しくありません。
メリット2.企業の要望にマッチした人材にアプローチできる
企業から採用候補者に直接アプローチできるので、求人サイトや人材紹介ではなかなか巡り合えないようなプロフェッショナルな人材にコンタクトできる可能性があります。これは新卒採用でも同じで、中小企業やベンチャーでも優秀な学生と接点を持てることはメリットといえるでしょう。
求人広告を出してもなかなか希望の人材が集まらないような認知度の低い業界であっても、自社の魅力を伝える機会を増やすことで課題を解決できたケースもあります。
メリット3.モチベーションの高い人材が採用できる
ダイレクトリクルーティングは採用候補者一人ひとりにアプローチする方法のため、メッセージを受け取った側も、自分のことをきちんと見てくれているという特別感が得られます。さらに、企業側から自社の理念や文化をしっかり伝えたうえで入社にいたるので、モチベーションの高い人材が採用できます。
メリット4.採用にこだわらず容易に開始できる
求人サイトのように掲載するだけで料金が発生する仕組みではないため、費用においても最小限の負担で始めることができます。また人材紹介サイトのように求人の詳細を確定せず、オープンポジションに近い間口を広げた採用も容易です。費用面、人材面どちらの側面からみても、採用にこだわることなく開始できるハードルの低さは利点です。
メリット5.採用力が高められる
ダイレクトリクルーティングは自社で採用活動のほとんどの工程を行うので、採用力が高められます。人的工数がかかる反面、よい人材を効率よく見つけるにはどうしたらいいのか、採用候補者から返信がもらえるメッセージの書き方のコツとはどんなものか、など自社独自の採用手法が構築できるでしょう。例え失敗したとしても軌道修正が効きやすく、その失敗もナレッジとして蓄えることができます。
ダイレクトリクルーティングを行うときの3つの注意点
ダイレクトリクルーティングを導入する前にデメリットも把握しておきましょう。
注意点1.工数がかかり業務負担が増える
採用活動のほとんどを自社で行うことになるので、採用に関する人的工数がかかり業務の負担がふえます。自社を魅力的に感じてもらうページの構築やブランディング、スカウトメールは採用候補者に合わせたアレンジが必要です。メール返信から応募者の選考などの工数もあります。特に少人数の会社では担当者の負担が大きくなるので注意しましょう。
採用候補者を選ぶ際に、求人サイトや人材紹介で出会えるような求職者層かどうかが見極めづらいことも工数が増える要因のひとつです。
注意点2.大量の採用が向いていない
採用担当者自らが採用候補者と1対1で向き合い口説くような採用方法なので、採用人数が定まりづらく多くの人数を採用するには向いていません。基本的にアプローチした人数までしか採用できないため、大量の採用をするにはそれ以上のアプローチが必須になります。
求人サイトや人材紹介に登録している転職活動に前向きな求職者層とは違う点でも、大量の採用は難しいといえます。
注意点3.リクルーターの育成が難しい
ダイレクトリクルーティングを成功させるには、採用候補者に企業の魅力を伝えなければなりませんが、成果を出せるリクルーターの育成は簡単ではありません。求職者層のような知りたいと思っている人に伝えるのと、自社のことを知らない学生や転職潜在層などの全く予備知識がない人に興味を持ってもらうのとでは難易度が異なります。
おのずと担当者のスキルによって成果にばらつきが出てしまうので育成が課題となってきますが、日本での転職文化はまだ浅くノウハウを持ち合わせていないケースがほとんどです。
ダイレクトリクルーティングを成功させるための3つのポイント
ダイレクトリクルーティングを成功させるために欠かせないポイントを紹介します。導入に向けてイメージしていきましょう。
ポイント1.会社全体を巻き込む
優秀な学生や転職潜在層にアプローチして入社してもらうには全社で取り組む姿勢が成功への後押しになります。企業経営者や経営トップ陣に協力が得られるなら、面談に進展した場面でトップ陣と採用候補者が話す時間を作れると企業側の熱意が伝わりやすくなります。
企業HPやオウンドメディア、社員個人のSNSなどでの発信は、企業のブランディングに役立ちます。さまざまな角度からの発信は企業のブランド価値が上がり、採用担当者が自社の魅力を伝える際に大きな助けになるでしょう。
以下の記事では社内外への発信や関係構築を行う採用広報について詳しく紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。
ポイント2.PDCAサイクルを回す
注意点でも紹介したように、ダイレクトリクルーティングのリクルーター育成は難しい課題です。しっかりとPDCAサイクルを回し自社のナレッジを蓄積していきましょう。
面接をする人数や返信数の目標を定め、メッセージの送信数、開封率、返信率を検証していきます。試行錯誤を繰り返し独自の採用手法を構築できれば、自社ならではの貴重なノウハウが得られます。
ポイント3.長期的に取り組む
ダイレクトリクルーティングは、自社でシステムを構築して安定した運用ができるようになるまで一定の時間を要するため、短期的には結果が出しづらい採用手法です。最初は、工数をかけたわりにいい結果が得られない場合もあるかもしれませんが、ポイント2.PDCAサイクルを回すで解説したように、少しずつ改善するほか方法はありません。長期的に取り組む施策になることを理解しておきましょう。
ダイレクトリクルーティングの成功事例
新卒・中途の採用活動をダイレクトリクルーティングで行った企業の成功事例を紹介します。それぞれの企業が抱える課題をどのように解決したのか参考にしてみてください。
新卒採用の成功事例
新卒採用でダイレクトリクルーティングを活用している企業は、学生認知度の低さをきっかけにしていることが多いようです。同じ課題を持つ企業は参考になるのではないでしょうか。
1対nのイベント開催で応募のハードルを下げることに成功
株式会社マネーフォワードは、現在では年間30~40名の新卒採用をコンスタントに行っています。
会社説明会ではなくダイレクトリクルーティングサービスを使ったイベント誘致にこだわったことで、優秀な学生と接点を持つことができた事例です。業界や市場に関心がある人に向けた勉強会として1対nのイベントを頻繁に開催。学生に実りのあるイベントを提供するには、全社の協力が不可欠であったこともわかります。
参考:株式会社マネーフォード
臨機応変なターゲットの見直しが採用につながった
株式会社ザイマックスのケースでは、内定承諾者のうち約7割がダイレクトリクルーティング経由の採用です。
メッセージを送った学生との面談を重ねながら、状況に応じてアプローチする層を変え、募集する層を見直すという試行錯誤の繰り返しが成功へと導きました。データベースから直接選ぶ、ダイレクトリクルーティングの特徴を活かした事例です。
参考:株式会社ザイマックス
感動のオファー文でインターンシップに200名以上の応募
ドコモ・サポートは、こだわりのオファー文でインターンシップに200名以上の参加者を集めました。
オファー文は、ブラッシュアップを重ねて作った定型文に、受け取る学生のためだけに考えた文章を追記したといいます。心のこもった内容に、学生からは「メッセージに感動した」という反応が得られたほど。学生の反応を見逃さず、ブラッシュアップを繰り返す地道な作業の積み重ねが実を結んだといえるでしょう。
参考:ドコモ・サポート株式会社
中途採用の成功事例
中途採用でダイレクトリクルーティングを活用している企業の成功事例をご紹介します。運用方法の工夫やダイレクトリクルーティングの特性を活かした採用活動は多くの企業の参考になるのではないでしょうか。
アウトソーシングによって人的リソースの確保を実現
株式会社ファーストリテイリングは、ダイレクトリクルーティングの導入にあたって問題となるリソースの確保を、一部アウトソーシングにすることで解決しています。
業務をオペレーション化することで担当者の負担を減らし、さらにデータベースから人材を探し、メッセージを送り、面談をセットする部分は外部に委託しています。業務の切り分けを行うことで、人的工数の増加を解消した事例です。
担当者だからこそ見つけられるポテンシャル人材
Chatwork株式会社は、ポテンシャルが感じられる人材を発掘することに成功し、中途採用の約7割がダイレクトリクルーティングでの採用になりました。
担当者が直接データベースを参照するので、求人サイトや人材紹介経由では見落とされてしまいがちな、募集要件と完全一致はしないものの企業文化に合う人材も見つけられます。最初に決めた募集要件にこだわらず臨機応変にアプローチしたことが功を奏したのではないでしょうか。
参考:Chatwork株式会社
地方のメーカー企業が全国のプロフェッショナル人材にアプローチ
埼玉県比企郡小川町に本社を置くセキネシール工業株式会社は、これまではリーチできなかった層に熱意をもってアピールすることで採用につなげました。
ダイレクトリクルーティングの活動では、自社の課題を包み隠さず書き、今後のビジョンや、中小企業ならではの魅力を盛り込んだメッセージを作成。ダイレクトリクルーティングを活用したことで、地元だけでなく全国の人材と面談の機会を作ることに成功した事例です。
参考:セキネシール工業株式会社
企業文化にあう優秀な人材を獲得したいならアクティブな採用活動を
会社の規模に関係なく、多くの企業が人材獲得に向けてさまざまな取り組みを始めています。優秀な人材を獲得したいなら、従来通りの採用だけでなく、よりアクティブな採用活動であるダイレクトリクルーティングの検討をおすすめします。
ダイレクトリクルーティングは、求人サイトの掲載料や人材紹介サービスの利用料などに比べるとコストが削減できるうえ、ミスマッチの少ない採用活動をするには効果的な方法です。採用候補者ひとり一人にしっかりと目を向けなければならず大変手間がかかりますが、PDCAサイクルをまわし自社のノウハウを蓄積することで、かけた手間も財産となります。
まずは、本記事で紹介した基本知識を参考にして、ダイレクトリクルーティング導入のヒントにお役立てください。
ダイレクトリクルーティングに関するQ&A
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