働き方が多様化したことで、組織内の情報共有を円滑にするため、従業員数や企業の規模に関係なくインナーコミュニケーションを重視する企業は増えてきています。
インナーコミュニケーションの強化により、広報PR担当者だけでなく、多くの従業員が企業の情報発信者となってくれるというようなプラスの効果にもつながることも期待できます。本記事では、インナーコミュニケーションを成功させるポイントを解説します。
インナーコミュニケーションとは
社内外の情報を経営陣や従業員に伝達し、社内コミュニケーションの活性化を強化することをインナーコミュニケーションといいます。社内コミュニケーションや社内広報といわれることもあります。
企業の方針や動きを把握していない従業員がいたり、他部署の人との会話がなく同じ企業なのに何をやっているのかわからない、というような声を聞いたりすることはないでしょうか。インナーコミュニケーションはそういった課題解決に役立ちます。
一言でインナーコミュニケーションと言っても、経営層と従業員なのか、従業員同士なのかなど、どこにコミュニケーションの課題があるのかは異なります。まずこの記事でインナーコミュニケーションの基本を把握したうえで、実際にご自身で施策を進めていく際は、自社の課題感に合わせて施策を検討してください。
インナーコミュニケーションが注目されている背景
インナーコミュニケーションと聞くと、従業員同士のコミュニケーションが図りづらいであろう規模が大きい企業が行うものという印象を持つ方も多いかもしれません。ですが、現在は働き方、働くことに対する価値観の多様化もあり、企業規模に関係なくインナーコミュニケーションを必要と感じる企業も増えています。ここでは、インナーコミュニケーションに注目が集まる背景について、働き方の多様化を含めた2つの項目で説明していきます。
働き方、働くことに対する価値観の多様化
現在は出社を推奨する企業が多いですが、リモートワーク勤務を選択できる企業もあります。また、特に企業規模が大きい場合は、拠点が複数ある企業も。出社をしていれば業務で少し気になることがあったときにすぐに話しかけたり、部署が異なる場合でも偶然オフィスで会話ができたりしますが、働く場所が異なることで従業員同士のコミュニケーションの機会が減る可能性があります。
さらに、働くことに対する価値観も多様化していることを感じている方が多いのではないでしょうか。働き方だけでなく、この観点でもコミュニケーションは重要になってきます。
1社への継続就業から複数企業への就業へ
労働力人口の減少とともに、企業は従業員を選ぶ時代から従業員に選ばれる時代になっており、終身雇用が当たり前だったこれまでとは大きく変化しています。前述の働くことに対する価値観にも通ずることではありますが、現在は自身が希望するキャリアや働き方に合った企業や環境を求めて転職する人も多く、企業間で人材の流動性が高い状況が続いていくでしょう。このような状況の中、従業員がモチベーション高く、そして長く働いてもらうためにも、従業員に企業への帰属意識を持ってもらうことが大切です。
また、労働力人口の減少から採用に悩む企業が増えています。特に優秀な方は採用市場に出てくる前にリファラルで採用することも多いです。リファラル採用は人事以外の従業員が関わることも多いため、従業員が自社に共感し、紹介したい企業と思ってもらうことが重要なポイントになるでしょう。
インナーコミュニケーションを強化する目的
インナーコミュニケーションは、社内のコミュニケーションを活性化させ、「従業員のモチベーションと帰属意識を向上していくこと」が目的です。今いる従業員に対しては、長期的にかつ高い成果を出してもらえるように、これから一緒に働くことになる未来の従業員に対しては、自社が選んでもらえる企業になるために、インナーコミュニケーションの強化は欠かせない取り組みです。
また、この後のメリットの項目でもお話ししますが、社内コミュニケーションの活性化は業務効率化にもつながっていきます。インナーコミュニケーションは従業員が働きやすい環境を作り、企業全体の成長につながる重要な施策といえるでしょう。
企業がインナーコミュニケーションの活性化に注力するメリット
インナーコミュニケーションは企業の課題を解決するだけでなく、プラスの効果も発揮し、企業全体の成長につながるためメリットも多いです。しかし、インナーコミュニケーションの活性化のためには、広報PR担当者だけでなく、従業員も巻き込んで取り組む必要があります。協力者を増やしていくためにも、インナーコミュニケーションのメリットを理解し、従業員のみなさんにも伝えていけるようにしておきましょう。
メリット1.業務効率化やアイデア創出が実現する
特に規模が大きな企業でありがちですが、部署ごとに縦割りの組織になっていると自部署の人との会話だけで業務が進んでいくことが多く、情報が部署内に留まってしまうこともあるのではないでしょうか。自部署で悩んでいたことが、となりの部署ではすでにその悩みを解決するノウハウを持っていたりすることも。従業員同士のコミュニケーションがないと、同じ業務を多部署でやるような無駄な時間が増えていきます。
部署ごとのコミュニケーションが少ない場合は、各部署の案件を知ってもらうための企画を実施したり、業務の悩み事に社内勉強会やLT会を開いてノウハウ共有をしたりするなど、交流のきっかけ作りを行うとよいでしょう。こういった交流を増やすと、「あの部署も似たような業務を行っているから相談しよう」「この悩みは、あの人が得意そうだな」など社内でそれぞれの部署や人の情報が広がり、ナレッジやノウハウを共有しあえて、会社全体の業務効率化実現の一助になるでしょう。
メリット2.経営層、会社方針との認識のずれを軽減する
経営層の考えや会社方針が従業員に伝わっていないと感じることを、課題として挙げられることも多いのではないでしょうか。従業員数が少ない企業であれば、すぐに情報も行きわたると思いますが、企業規模が大きくなると役職ごとの会議も増え、経営会議の内容がまったく現場には届いていないということもあります。
また、そもそも一度で伝わるものではなく、組織として方向性が合うように、時間をかけて醸成していくものでもあります。
例えば、経営会議の内容を文書や動画でまとめたり、社員総会を開催したりするなど従業員が見やすい形式で会社の方針を公開する機会を増やすことで認識のずれが軽減する可能性が高まります。さらに、社歴の長い従業員の方は現状に合わせて情報をアップデートする、毎月入ってくる入社者の方には正しい情報をインプットする場を設けるといった、従業員の状況に合わせて会社の方針を伝え「続ける」ことが必要。これらの取り組みは、会社全体が同じ方向を向いてチームとして業務を進めていくことができる第一歩です。
メリット3.従業員の離職を防止する
外部メディアに掲載された会社の情報を社内でも共有し、会社の良いところを見つけて積極的に外部へ発信して終わりではなく、社内にも還元することが大切です。従業員は会社のすべてを知っているわけではなく、第三者からの自社や自社の商品・サービスに対する評価に気がついていないケースも多々あります。自社の強みや良さを共有していくことで、会社に対する理解が深まることにつながるでしょう。働く場所の選択肢が増え、人材の流動性が高くなっている中、こういった帰属意識の向上は離職防止にもなるのではないでしょうか。
メリット4.企業の広報PRを強化
インナーコミュニケーションを活性化することで、従業員が会社への理解が深まり、自社への価値を感じられるようになるでしょう。そうすると、自社に関するポジティブな発信をしたいと思う従業員が増えることが期待できます。自分の務めている会社を紹介したいと思えることは強い組織を作るうえでは不可欠です。
企業の広報PR強化するためには、会社の魅力を社内にも発信し続けることが重要。広報PR担当者だけでなく従業員に発信してもらうためには、会社案内資料や採用情報をまとめた、会社を紹介するためのツールを用意しておくこともインナーコミュニケーションを担う部署が事前に準備できる施策ではないでしょうか。会社を好きになるきっかけを作りや、発信してもらう際のサポートを行っていきましょう。
インナーコミュニケーション活性化を成功させるためのポイント
ここからは、実際にインナーコミュニケーションを行ううえでのポイントを4つ紹介していきます。初めてインナーコミュニケーションの担当者になり、どのように進めたらよいか心配な方はこのポイントを踏まえて進めていきましょう。
ポイント1.企業の課題感に沿った施策
従業員間なのか、経営層など役職間なのか、企業によってインナーコミュニケーションの課題は異なります。いきなり「社内報をやろう」「社員総会をやろう」と施策を考えるのではなく、まずは会社の実態を把握し、どこに課題があるのかを見極めるところから始めましょう。その際、ゴールや予算の認識合わせも一緒に行うことが必要になります。
社内報をこれまでは紙で配布していたがWebに変更するなど、既存の施策についても常に従業員の反応や社会の動向を見て、アップデートしていきましょう。
ポイント2.従業員を巻き込む
施策や発信を行う際、広報PR担当者のみが頑張っても継続や広がりには限界があります。広報PR担当者だけが施策を考えたり発信を頑張るのではなく、従業員がどうやったら興味を持ってくれるか、どうすれば自発的に動けるようになるかを軸に考えることが重要です。
例えば、施策を始めるときには部署ごとに数名ずつヒアリングしたり、従業員全員にアンケートを取って意見を聞いたり、プロジェクトメンバーに広報PR担当者以外の方に入ってもらったり、一緒に考えているという意識を持ってもらうのもよいでしょう。
ポイント3.基本の環境を整える
オンラインやオフライン、複数拠点など、どの勤務環境においても、全従業員が同じ情報にアクセスできるような環境を作る必要があります。この基本環境が整っていないと、どんなに良い施策や発信を行っても肝心の従業員には届かず終わってしまうことがあります。
コミュニケーションツールを統一したり、社内ポータルサイトを作成する企業も増えてきました。こちらもポイント1と同じく、まずは現状を把握し、企業の状況に合わせてツール選定を行いましょう。コミュニケーションを取るための基本の環境が整っていないと、せっかく社内イベントなど交流するきっかけ作りをしても、その場限りでその後のコミュニケーションにはつながらなくなってしまいます。
まずは基本環境を整える。次に双方にコミュニケーションが取りやすい仕組みを考えていく、など段階的に施策を進めていきましょう。
ポイント4.対象者に合わせたコンテンツ
一方で、工場で勤務する従業員や屋外で業務を遂行する従業員とオフィスで勤務する従業員など、どうしても同じ環境を作りづらい場合もあります。その際には、それぞれの環境に合わせた施策を実施する企業も多いようです。
例えば、工場で働く人向けには体力づくりに関する情報を届けたり、オフィスで働く人向けには肩こり・腰痛の解消の観点などのコンテンツを発信したり。外国籍の従業員が多い企業では数ヵ国語の対応コンテンツを準備するといった従業員が共感でき、参加しやすい内容を考え、その取り組みを発信していきましょう。
インナーコミュニケーションを活性化させる施策
ここまでインナーコミュニケーションの目的やポイントを見てきました。自社の現状を把握し、課題の設定を行ったら、具体的な施策を検討していきましょう。インナーコミュニケーションの施策は、社内報や社内イベントなどさまざま。オンラインからオフライン、コミュニケーションツールからイベントまで、施策といってもかなり幅が広いです。
初めてインナーコミュニケーションを実施する場合は、まずは予算や工数の負担が少ないものから始めていくとよいでしょう。
インナーコミュニケーションの成功事例
この項目では、インナーコミュニケーションの成功事例をご紹介します。
株式会社マイナビは、2024年8月に従業員とその家族・友人を対象とした「ファミリーデー」を開催。同社のオリジナルカードゲーム『カードゲームで学ぶキャリア図鑑』を通して、地域社会と仕事のつながりを学ぶ職業理解ワークショップや職場探検スタンプラリーといった、子どもたちが楽しく学べるイベントを実施しました。
50周年記念プロジェクトの一環として、従業員のお子さんに対してのキャリア教育を行い、エンゲージメントを向上させることを目的として開催されたファミリーデイ。参加したお子さんからは、「マイナビがどういう仕事をしてどういう人にどういうことをしてあげているのかを知れた」従業員からは「子どもに非常にプラスな時間になりました」といったポジティブな感想が寄せられました。
周年や企業の特性を活かし、インナーコミュニケーションを活性化した成功事例ではないでしょうか。
以下の記事では、インナーコミュニケーションの事例について紹介していますので、自社で検討する際の参考にしてください。
まとめ:インナーコミュニケーションは従業員が主役!
インナーコミュニケーションに対する課題は、企業によってさまざまです。ほかの企業もやっているからという理由で施策を決めるのではなく、まずは実態を把握していくところからスタートするとよいです。
施策を進める際は、従業員が自発的に動いてくれるにはどうすればよいかを軸に考え、担当者だけが頑張るのではなく、従業員が自社のファンになり、「一緒にやっていこう!」と仲間になってくれるような施策作りを行っていきましょう。
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