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まずはこれだけやればOK!炎上がこわいあなたに伝えたい「守りの広報」の基本

情報発信と企業経営を切り離して考えることのできない現代において、広報・PRパーソンの担当領域は広がりつつあります。使えるスキルを意識的に習得していくことで、また違った視点でPRを考えることができるようになるかもしれません。

今回は領域越境型を目指すPRパーソンのキラースキルの一つ、「守りの広報」について、数多くの「リスクコミュニケーター」を育成・輩出してきた、日本リスクコミュニケーション協会代表の大杉春子さんにお話を伺いました。

日本リスクコミュニケーション協会の最新のプレスリリースはこちら:日本リスクコミュニケーション協会のプレスリリース

日本リスクコミュニケーション協会 代表理事

大杉 春子(Osugi Haruko)

コミュニケーション戦略アドバイザー 。民間企業・地方自治体・省庁などのパートナーとして、PR戦略の策定から広報物の制作監修まで幅広い支援を行う。日本でのERC普及を目指し、2020年に日本リスクコミュニケーション協会を設立し、国内外の専門家を束ねる。リスク管理からBCP/BCM、危機管理広報までを網羅した新たなリスクコミュニケーションのスキルを持った『リスクコミュニケーター』の育成を展開。 

スタートアップにこそリスクコミュニケーションは重要

── 「攻めの広報」と「守りの広報」。よくこんな表現が使われますが、具体的に何を指すのか理解できていない人も多いのではないかと思うんです。大杉さんから見た「守りの広報」とは。

「攻めの広報」は、情報発信をしていきながら企業の認知拡大を狙っていく活動ですよね。具体的には、メディアへ情報提供やSNS等の活用を通して認知拡大や興味の形成を目指していく活動を指すことが多いのではないかと思います。

一方「守りの広報」は一般的に危機管理広報を指すことが多いですが、私たちの言葉では平時からの準備も含める「リスクコミュニケーション」と表現します

── リスクコミュニケーションはどちらかというと大企業向けのもので、スタートアップや小規模なベンチャー企業にはあまり馴染みがないようにも思えるのですが……。

今は、大企業でなくともリスクコミュニケーションの考え方は必須です。背景にはやはりSNSの普及があります。消費者と企業がコミュニケーションを取りやすくなった一方で、1日に平均3件程度、なにかのニュースが炎上しているという調査(※1)もあります。不祥事の発覚や、環境問題・社会課題への企業姿勢が疑問視されるようなパターンもありますが、最近だと広告の内容や役員の投稿が問題視されて炎上につながり、謝罪に追い込まれるようなケースも目立ちますね。こうした事例に企業規模は関係ありません。

※1
デジタル・クライシス総合研究所「デジタル・クライシス白書2021」より

そうした有事の際、適切に対応できないと消費者のイメージが悪化して顧客離れにより売上が落ちる懸念があります。経営陣に対する信頼感が低下し、従業員の意欲が失われて生産性が落ちたり、優秀な学生や人材から就職先として敬遠されていくなど、多方面にマイナスの影響が発生する可能性があります

日本リスクコミュニケーション協会インタビュー1

スタートアップにとっては、炎上にうまく対応できないと取引先や機関投資家からの信頼が失墜し、企業成長のために必要な契約や資金調達に影響が及ぶといったリスクもあります。

初動対応は平時から考えておこう

── なるほど。炎上、正直言ってこわいです。

炎上を必要以上にこわがる必要はありません。人間が不安や恐怖を覚えるのは「わからない」から。炎上した時にどのように対応すればいいかが決まっていないから怖いのです

先ほど「1日に平均3件の炎上が発生している」とお話ししたとおり、炎上は一定の割合で発生します。ただし実態としては、ネット炎上に書き込みをしている人は、インターネットユーザー全体の約0.5%と言われています(※2)。炎上1件当たりに換算すると、0.0015%以下のユーザーにすぎないんです。もっとも大きな影響は、別のメディアによる二次的な拡散後に発生します。ある調査によると75%の炎上ニュースが別のメディアによって報道・拡散されているというデータ(※3)も……。ですから広報担当者の役割の一つは、初動対応を適切に行うことだと考えておくと良いかもしれません。

※2
山口真一(2018)『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)より

※3
デジタル・クライシス総合研究所「デジタル・クライシス白書2021」より

── 初動対応、ですか。

出来れば発覚後12時間以内、遅くとも24時間以内の情報公開が求められます。そのデッドラインを超えてしまうと、小規模な炎上であっても他のメディアに取り上げられ、さらに信頼を損なう可能性が高まります。

── かなりタイトなスケジュールになりそうですね。

はい。だからこそ重要なのが日頃から方針を決めておくこと。それがなければ数時間以内にスピーディな対応に移ることはできませんよね。

炎上事案の多くが、企業の営業時間外に発生しているという調査結果(※4)もあります。ですから、有事が起こる前に少なくとも「自社にはどんな炎上リスクがあるのか」「もし炎上した場合、どのように対応するのか」の方針を決めておくことをおすすめします。

※4
ZEUS Consulting Co., Ltd.調査より

── 方針を決めるとは、具体的にどんなことを考えておくと良いのでしょうか。

まずは「リスクの洗い出し」をすること。自分たちが発信する情報を整理したり、社内の不安要素を点検したりして、どんな炎上リスクがあるかを考えておくだけでも備えることができます。

炎上という言葉からはSNSが連想されがちですが、各種のハラスメントや役員の不適切発言、女性関係、労働環境など、社内にいる人が日頃から感じている懸念や不安が問題として表面化することで発生することが多いのが特徴です。企業として改善できる部分は改善していきながら、万が一炎上が発生した場合の対応を検討しておきます。

私が立ち上げた日本リスクコミュニケーション協会では、危機感知から2時間以内に対応チームに共有し、企業としての問い合わせ窓口を一元化することを推奨しています。そこから詳細調査を行い、リスクレベルの評価を行なった上で、24時間以内に第一報を情報公開します。ただこのとき、なんでもかんでも謝罪するのが良いとは思いません。調査した上で沈静化するのを待つ、あるいは企業としての姿勢を公式コメントとして出す、といったことも検討事項に入ります。併せて、コミュニケーション対象者と順番を決めておくことも重要です。

大杉氏提供
(大杉氏提供)

── リスクの洗い出しや、有事が発生したときの対応の検討。広報担当者一人では進めにくいですね。

そのとおり。そこが難しいところでもありますね。やはり多くの方がそこに悩んでいます。経営陣や社内メンバーをうまく巻き込んでいかなければ、守りの広報は機能しないんです

リスクコミュニケーションのスキルは企業価値に貢献する「武器」になる

── 経営者や社内をうまく巻き込んでいくために、広報担当者としてできることとしてはどんなことがありますか。

一方的に「守りの広報を強化しましょう」と言っても響かないと思うんです、なぜなら正論は人に伝わりにくく、きれいごとに聞こえてしまうから。例えば「健康のために食事に気を使いましょう」「定期的に運動しましょう」とスローガンを掲げても、自分ごととして捉えてもらいにくいのと同じ。

私がおすすめしているのは、定期的に社内に「他社の炎上案件」をシェアすること。ポイントは、ポジティブな空気の中で伝えることです。併せて、適切なリスクコミュニケーションが企業の株価に好影響を及ぼした例など、守りの広報を強化しておくことの具体的なメリットもデータを示しながら共有していくと良いでしょう。

日本リスクコミュニケーション協会インタビュー2

私は、攻めと守りは同時であるべきだと考えています。炎上を恐れて情報発信に萎縮するのではなく、トレンドをキャッチしながらバランスよく行うことが重要です。何かの施策を打てば、必然的にリスクは発生します。そのリスクをうまくコントロールしながら、万が一リスクが顕在化したとしても対応できる体制にすることが最も価値を感じてもらえる場面なのかなと。

そもそも企業経営者は日頃から様々なリスクを想定して意思決定を行なっています。広報担当者として、経営者の判断に使える情報を提供することで、リスクマネジメントに対する組織全体の関心度合いを高めていきたいですね。

── リスクコミュニケーションの考え方は、小さな企業にこそ強く求められるような気もしてきますね。

そのとおりです。リスクコミュニケーションの知識は企業価値を守り高めるための強力な武器となります。その力を磨き、使いこなせる広報担当者はどの企業でも重宝されますから、ご自身の業務やキャリアの幅も広がっていきますよ。リスクを過剰にネガティブにとらえるのではなく、PRパーソンが経営活動に貢献できる一つの分野だと考えるようにすると、「広報」という仕事に対するマインドセットもポジティブに変わっていくと思います。

日本リスクコミュニケーション協会インタビュー3

今回のまとめ

  • 炎上を過剰に怖がる必要はない
  • 初動対応は遅くとも24時間以内に。そのためにも平時から方針を考えておこう
  • 他社事例やリスクコミュニケーションのメリットを上手に伝えて経営陣や社内を巻き込もう

PRにかかわる人間なら、誰もが考えたくない「自社の炎上」。しかし、今回のお話からは、避けて通りたいからといって考えることまで放棄してしまうと、有事のときに企業価値を大きく損なう結果に繋がる可能性が高まることがわかりました。

経営陣と適切なコミュニケーションをとりながら「いざというとき」の動き方をシミュレーションしておくこと。他社の炎上案件などを分析しながら自社に当てはめて考え、社内にもシェアすること。このように、特別な知識や経験がなくても今日からできる「守りの広報」はたくさんありそうです。

大杉さんはまた「炎上案件をたくさん見つめると、逆説的ですが『これは話題になるだろうな』という勘がさえてくる」ともお話ししていました。

日々の業務に忙殺されているとつい後回しになりがちですが、守りの広報、今日から一歩だけでも取り入れてみませんか。

(撮影:原 哲也、取材はリモートで実施しました)

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この記事のライター

青柳 真紗美

青柳 真紗美

ビジネス書の編集者から広報PRパーソンへ。AI系スタートアップや不動産テック企業のPRなどを経て、現在フリーランスで広報・PR支援をしています。メディアリレーションからオウンドメディアの編集まで「コミュニケーションを考える」のが大好物。特にニッチ領域のサービス・プロダクトが好き。「みんなが嬉しい広報・PR」をモットーにその企業の「らしさ」を届け、ファンを増やすお手伝いをしています。

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