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広報PR活動におけるPDCAサイクルの回し方とは?具体例とポイントを紹介

PDCAサイクルは1950年ごろから浸透しているフレームワークで、業務改善や品質管理を目的として多くのビジネスパーソンが利用しています。一方で、PDCAは古いという考え方があるのも事実です。

PDCAが古いと言われる理由やOODAループなど類似フレームワークとの違いを、KPI式PDCAを推奨する株式会社Scale Cloud代表取締役、広瀬好伸さんにお話を伺いながら解説します。広報PR業務ならではのPDCA活用事例とポイントをチェックしていきましょう。

PDCAサイクルとは

PDCAサイクルは、統計学者ウィリアム・エドワーズ・デミング博士によって提唱され、1950年代に日本で普及しました。製品を製造後に見直す従来の確認方法ではなく、製造プロセスを分解して管理するようにしたことで、品質・生産性向上が可能になりました。

品質管理やプロセス改善の際に重要視されるPDCAサイクルは、Plan-Do-Check-Actionの4つから構成されています。

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Plan(計画)

いつまでにどれくらいの目標値で何を達成したいのか、課題を明確にしたうえで数量的な目標を設定します。

例:2ヵ月間で金融ビジネスメディアに2件露出

Do(実行)

計画に基づいて実行します。

例:メディアアプローチ20件、プレ取材3件、取材1件

Check(評価)

実行した結果を振り返り、問題点を発見します。

例:取材数が1件で目標を下回っている、プレ取材が足りていない

Action(改善)

ボトルネックを把握して問題を改善するための仮説を立てます。

例:統一した企画書を利用するのをやめ、媒体ごとに提案内容を変更して再アプローチし、プレ取材につながる確率を検証する

上記4つのサイクルを繰り返すことで継続的に品質管理やプロセス改善につながり、質の高いアウトプットが期待できます。

広報PR業務は社会的認知度や企業の評価など数値化しにくい指標が多いですが、態度変容や認知拡大につながった場合のユーザー行動を数値化し(Webサイト訪問など)、達成度合いを定量的に評価することが可能です。成果を定量的に評価することで、施策をブラッシュアップしながら活動ができます。

PDCAサイクルを効果的に回すポイント

KPI式PDCA: 数値化で事業成長する仕組み』の著者、広瀬好伸さんによると、「PDCA」という誰もが知るフレームワークは運用につまずきやすいため、KGI(重要目標達成指標)とKPI(重要業績評価指標)を用いて「数値化」したロジックツリーを描く必要があるのだとか。数字で目標を共有することで、事業の状況を客観的に判断し、意思決定が行えます。

KPIを用いたPDCAサイクルの運営方法やポイントを広瀬さんに伺いました。

P(プラン):現場メンバーがKGIやKPIの重要性を理解したうえで、組織と現場の目標値をひもづける

広瀬好伸著『KPI式PDCA: 数値化で事業成長する仕組み』実生社、2022年、p.76
(広瀬好伸著『KPI式PDCA: 数値化で事業成長する仕組み』実生社、2022年、p.76 )

目標値(KGI)を定めたら、具体的な活動目標(KPI)まで落とし込みます。このとき、KGIを達成するために必要な要素をツリー状に分解し、四則演算でつなげます(図A)。

ポイントは、下記注意点に留意して計画を立てることです。計画立案に時間をかけすぎず、実行を通して精度を上げていきましょう。

■注意点

  • チームメンバーがKPIの必要性を理解する必要がある
  • 過去に施策を実施した際の数字を参考にする、数字がない場合はチーム内で指標を相談して見直していく
  • 認知度やサービス理解度といった数値化が難しい項目は入れない
  • 「アプローチ数は増えたが、提案の質が落ちて取材獲得率が低下している」といった、トレード・オフの関係が各所に生じる可能性も念頭に置いた数字設定が必要

D(ドゥ):目標を日次までブレークダウンし、優先順位をつけて実行する

KPI数値で進捗管理を行うことで、ロードマップにおけるボトルネックを把握して施策を実行できます。目標達成に近づくため、下記3つのステップをチェックしましょう。

ステップ1.KPIごとに週次や日次の目標値を決める

計画時に決めた数字を週次と日次に落とし込み、実行します。計画通り動けているか、KGI達成に近づけているかなど、数値の見直し頻度を高めて問題に対処します。

ステップ2.週次や日次のKPI目標値を達成するための施策を考える

KPIごとに週次や日次の目標が決まったら、達成のために必要な施策を考えます。例えば、媒体研究を進めながら、広報PR手段を選定して施策に落とし込む、などです。

ステップ3.施策の優先順位をつけて実行する

KPI指標が多くなる場合は優先順位づけが必要です。優先順位をつける際に検討するポイントは「インパクトの大きさ」「コストパフォーマンスの良さ」「実行しやすさ」「必要な時間」など。各項目を検討しながら、KGIにおける結果に反映されやすい指標を選定します。

C(チェック):原因を深掘りして改善点を明確にする

実行した結果を数値化して、計画を達成できた要因や未達成になった要因を客観的に分析します。KPIツリーのKGIに近い指標から、因果関係を理解して未達成の原因分析をしましょう。達成時も分析を行い、施策の再現性を高めることが重要です。

A(アクション):「鳥の目」「虫の目」「魚の目」で見直しする

鳥の目、虫の目、魚の目を意識して行動の精度を上げていきます。結果が出る前段階、進捗途中で施策が機能しているかどうか確認することで素早く軌道修正ができ、KGI達成に近づけます。

鳥の目……KPIツリーを使ってビジネスの全体像を俯瞰的に見る

虫の目……各KPIの個別状況を細かく見る

魚の目……過去からの推移や予測といった時の流れを見る

PDCAサイクルで進めるのが合っている業務の特徴

PDCAサイクルを有効に機能させるためには、KGIやKPIをうまく設計することが重要です。感覚や感情ではなく、数値にすることで客観的な観点で目的地に向かう手段になります。広報PR業務は長期的な視点での評価が必要であり、複数の要素が結果に影響するため量的指標を定めるのはとても難しいといえますが、業務内容によってうまくPDCAサイクルを活用できる場面があります。

資料とパソコン

マーケティング施策

マーケティング施策は広報PR業務に活用できます。Webサイトのアクセス数や検索ワード検証、SNSエンゲージメントやコメント数の進捗確認にPDCAサイクルを活用すると有効です。広報PR活動において採用広報やオウンドメディアでの発信を強化する際には、閲覧数や問い合わせ数といったKGIからKPIを逆算し、施策を繰り返し見直しながら実行していきましょう。

メディア露出におけるKPI

メディアアプローチのプロセスは営業と近いので、PDCAに必要なKPI設定がしやすいといえます。メディア露出の際にPDCAサイクルを用いるなら、アプローチ、プレ取材、取材、露出それぞれの数をKPIに定めることができます。ただし、アプローチできる母数が限定的ですので、確率を上げるメディア研究に注力することが必要です。メディア研究や1件ずつの打ち合わせが重要になるので、実績値やノウハウを棚卸しして企業ごとの指標をつくることで行動の質を上げていけます。

イベント運営

メディア勉強会や記者会見など、ある程度プロジェクトの成果物やプロセスが標準化できるものは、PDCAサイクルを使って効率を高めることが可能です。告知から集客、来場率の計測、アンケートなどを実施後、KPIを設定することで見直しができる体制が整えられます。

部署連携が必要なプロジェクト

広報PR活動は、経営戦略を施策に落とし込み、営業やマーケティング、クリエイティブ部門など、他部署と連携しながら企画を立案し実行する場面が多いです。その際、経営目標をKGIに定め、各部署のKPIを設定しPDCAサイクルを回すことが可能です。

PDCAサイクルが古いと言われる理由

PDCAサイクルは製造業を中心に活用されていたこともあり、現代ビジネスにはふさわしくないフレームワークであるという認識も耳にします。市場のニーズや移り変わりが速く、事象に対して検討しすぎるとスタ―トが遅れてしまうためです。以下で、その理由について詳しく考えてみましょう。

理由1.改善までのサイクルに時間がかかる

計画立案から実行、評価し検証するには、人的リソースや時間がかかるとされています。計画に時間をかけすぎてしまうと、実行する際に状況が変化してしまうこともあります。

理由2.新しいアイデアが生まれにくい

PDCAサイクルを活用し、マニュアル化したルーティン作業でPDCAサイクルを回すイメージを持っている方もいます。施策の恒常化により前例主義に陥り、新しい活動やアイデアにつながらないケースが考えられます。

理由3.社内コミュニケーション、体制構築が難しい

社内で分析や改善をするために、会議時間を設ける、確認をとるといったコミュニケーションや、共通理解ができる社内体制を整えるのに労力がかかります。

上記理由から、数値換算できない業務領域や広報PR戦略の面では、OODAループのほうが適切なケースもあるといえます。

OODAループとは

OODA(Observe-Orient-Decide-Action)ループ:OODAループは、情報の観察、状況の把握、意思決定、行動の実行を繰り返すフレームワークです。戦略的意思決定のプロセスに関連して使用されます。

Observe(観察)

商品PRの場合、市場や競合他社の動きを観察します。ベンチマーク企業の露出度や媒体、それに対する受け手の反応をSNSなどで見ることができます。

Orient(状況の判断)

観察した情報を整理し、業界のトレンドやニーズを把握し、ターゲットユーザーのニーズに合わせた広報PR戦略を立てるために、自社商品の特徴や優位性などを確認します。

Decide(決定)

観察、判断・情報整理を通じて得た情報をもとに次のアクションを決定します。例えば自社商品の優位性を伝えるために、業界イベントやカンファレンスを主催する、業界専門誌へ寄稿するといった広報PR戦略を立てます。

Action(行動)

プレスリリースを配信したり、SNSで情報を発信したりするなど、決定したアクションを実行します。

常に変化する市場や競合他社の動向を観察し、適切な判断を行い、迅速かつ効果的なアクションを起こすことが重要です。

PDCAサイクルとOODAループの違い

PDCA(Plan-Do-Check-Action)とOODA(Observe-Orient-Decide-Action)は、いずれもプロセス改善や戦略的意思決定のためのフレームワークです。PDCAは品質管理やプロセス改善の分野で、OODAはもともとは軍事戦略として生まれ、現在はビジネス戦略の分野で使われています。

PDCAサイクルは分析後に目標を設定し、計画を実行します。評価段階で達成度合いを確認し、プロセスを改善することで継続的に品質を向上させることが期待できます。

一方、OODAループは環境が急速に変化する場合や数値化が難しい指標に対して有効です。必要に応じて途中で前の段階に戻るといった活用の仕方も可能なので、複雑な状況においても迅速に対応することができます。

PDCAとOODAは目的や使用する分野によって異なるアプローチを持っていますが、共通点として、一連のサイクルを繰り返し、学習をしながら継続的に改善を重ねることが挙げられます。

OODAループで進めるのが合っているプロジェクトの特徴

OODAループに適したプロジェクトの特徴を紹介します。

不確実性が高いプロジェクト

市場や技術の変化が激しい、競合が激しいなど、不確実性が高いプロジェクトに適しています。最新技術に関する広報PR活動は、競合や技術開発のスピードが高いため、状況に応じて迅速に対応することが必要です。

複雑性が高いプロジェクト

プロジェクトが複雑で、多くの要素が絡み合っている場合、状況を理解して意思決定を行い、適切な行動を取ることができます。大規模なイベント運営やクライシス対応、海外展開を伴う広報PR活動などに適しています。

緊急性が高いプロジェクト

緊急性が高く、迅速な行動が求められるプロジェクトに適しています。災害時や不祥事などの不測の事態、急なサービス発表時でも、冷静に状況を把握して判断することが可能になります。

以上のようなプロジェクトには、OODAループを使うことで、迅速に対応し、継続的な改善を行うことができます。

その他のフレームワーク

PDCAの類似フレームワークはほかにもあります。それぞれの特徴について説明していきましょう。

DCAP

DCAPは、Do(実行)-Check(評価)-Action(改善)-Plan(計画)のプロセスで構成されたフレームワークです。PDCAと似たフレームワークですが、大きく異なるのは、実行からスタートする点です。最初に動いてみることで、未知のものや変化から学び、サイクルが回せます。DCAPはスピード重視で実践的なアクション志向のフレームワークといえます。

STPD

STPDは、See(見る)-Think(考える)-Plan(計画)-Do(実行)の4つのステップを繰り返して業務改善を実現するフレームワークです。問題や課題を正確に把握するために現状を観察し、データや情報を収集、根本原因を見つけ実現可能なプランを立て、計画を実行します。状況に合わせてスピーディに判断を下すことができるように設計されています。

PDR

PDRは、Prep(準備)-Do(実行)-Review(再考)のサイクルを繰り返すマネジメント手法です。スピード感を持ったマネジメントサイクルで、目的や目標、いつ、どのようにやるかを整理して実行し、予定通りだったかどうかを振り返ります。

広報PR活動においてPDCAサイクルやOODAループを目的に応じて使いこなし、結果を出せる仕組みをつくろう

結果を出すためのフレームワークは多くあります。業務内容や目的に応じたフレームワークを選択していきましょう。今回ご紹介したKGIとKPIを利用した「数値化」でロジックツリーを描いて直感的に目標を共有するPDCAサイクルは、ビジネスにおいて本質的で根本的な課題の解決につながります。

KPI数値を使うことで、チーム全体の目標が何で、その目標に向かってどのようなロードマップを進んでいけばいいのかが、チーム全員にとってわかりやすくなります。結果的にセクショナリズムやサイロ化に陥ることなく組織全体がひとつのファンクションとして事業をすすめることが可能になるため、場面に応じた活用にチャレンジしていきましょう。

<執筆:坂下 彩花

PDCAサイクルに関するQ&A

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この記事の監修者

広瀬好伸

広瀬好伸

株式会社Scale Cloud 代表取締役 公認会計士・税理士/1979年、兵庫県生まれ。京都大学卒業後、あずさ監査法人に入社し、公認会計士として従事。2007年に起業し、CFO/IPO/会計/税務/M&A/企業再生などのコンサルタントとして800社以上の経営を支援する。4社のIPOに携わり、そのうち2社の社外役員を務める。KPIマネジメントのスペシャリストとして、KPIを活用した科学的なPDCAを組織的にまわすことで事業を成長させる、日本初のKPIマネジメントプラットフォームSaaS「Scale Cloud」を開発・提供している。著書に『1店舗から多店舗展開 飲食店経営成功バイブル』(2015年、合同フォレスト)がある。

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