2022年10月の福岡県での開催を皮切りに、全国各地の都道府県で開催されている「そこで、PRゼミ!」。京都府では2023年2月2日(木)に実施され、当日は「広報PR活動を始めたが効果がない」「売り上げが伸びている企業の取り組みが知りたい」など、さまざまな目的や課題を持つ地元企業の方々が集まりました。
本イベントレポートは、京都タワーの広報PR企画に携わる京阪ホテルズ&リゾーツ株式会社の乾浩一さん、ホテルインフルエンサーのやよぴさん、京都新聞社の上野正俊さん、老舗の菓子店である亀屋良長株式会社の吉村由依子さんらによるトークセッションをまとめています。
京阪ホテルズ&リゾーツ株式会社 タワー事業部副部長
大阪府出身。同志社大学法学部を卒業後、京阪電気鉄道株式会社(現京阪ホールディングス株式会社)に入社。不動産業、流通業、鉄道業をはじめ、新規事業など管理部門に従事。2021年7月より京阪ホテルズ&リゾーツ株式会社へ出向し、京都タワー展望室の運営や京都タワービルなどの不動産賃貸業務を担当している。
亀屋良長株式会社
京都府出身。同志社女子大学生活科学部食物栄養科学科を卒業後、Le Cordon Bleuパリ校料理ディプロムを取得してレストランで研修後、帰国。亀屋良長八代目との結婚を機に伝統的な和菓子の世界に。商品企画や開発などに携わっている。
亀屋良長株式会社 デザイン・企画
東京都出身。多摩美術大学を卒業後、設計事務所の辻村久信デザイン事務所+株式会社ムーンバランスに入社。亀屋良長本店の設計を担当したことを縁に、2018年より現職。商品の企画開発のほか、パッケージ、ディスプレイ、販促物などのデザインを担当。
京都新聞社 メディア局 経済サイトプロデューサー
1995年に立命館大学を卒業後、京都新聞社に入社。取材記者、整理記者、デスク、論説委員として、京都府と大阪府で勤務。企業や経済団体の活動など、ビジネス分野全般の取材を担当。2019年からデジタルニュースの配信などに関わる。2021年から、経済サイト「京都新聞ON BUSINESS」の運営に携わる。趣味は散歩とサイクリング。
「京都市の進展に貢献」続けて58年、京都タワー流の企画術
第一部のトークセッションでは、京阪ホテルズ&リゾーツ株式会社の乾浩一さん、上野環奈さんとホテルインフルエンサーのやよぴさんが登壇。58年の歴史を持つ京都タワーが地元企業とのコラボレーションの中で、地域の活性化や課題解決につながる役割を模索し続けていることや、SNSを含めたコミュニケーションのあり方などについて議論を交わしました。
京阪ホテルズ&リゾーツ株式会社は、昨年は19件の企画を実施し、うち8件が他企業などとのコラボ案件だったとのこと。宣伝面や情報拡散面での役割を果たすことと、生活者に刺さる仕掛けを意識しているという京都タワーの広報PR企画について、乾さんが実例とともに説明しました。
NAKED GARDEN ONE KYOTOとのコラボ
東京都渋谷区に本社を構えるクリエイティブカンパニー「NAKED」が、京都をひとつの庭と見立て、あらゆるジャンルの垣根を超えたアートプロジェクトを2022年秋に展開。神社仏閣や城、大学などがリアルとメタバースの次世代型アートで彩られ、本格的なインバウンド回復に備えて夜の観光コンテンツとして定例化を目指す取り組みで、京都タワーもコラボしました。
参考:【京都タワー】NAKED FLOWERS 2022 秋 世界遺産・二条城 × 京都タワー 両施設を楽しめるお得なセット前売券を販売中
協業の内容は、イベントのオープニング企画として京都タワーのカラーライトアップと「NAKED FLOWERS 2022 秋 世界遺産・二条城」と「京都タワー展望室」のセット前売券の販売です。同社から連携を持ち掛けられ、「参画しない理由はなかった」と振り返った乾さん。観光業を担い、京都の発展に貢献することを目的に設立された京都タワーの役割とマッチしており、京都市のみならず宇治市、滋賀県大津市を巻き込んだプロジェクトは京阪グループの事業エリアとも重なることから、一緒に取り組むことを決めたそうです。
年に一度の恒例イベントはコロナ禍で柔軟に対応
京都タワーの展望室から初日の出を見ることができる年始恒例の「元旦初のぼり」は、新型コロナウイルス感染症の流行前は先着順で、長蛇の列ができていたといいます。2022年はコロナ禍における「密」を避けるため、Webチケット販売による予約制に変更したところ、大人1人1,500円と通常料金の約2倍の価格にもかかわらず、早期に完売したそう。
この結果を受けて2023年の正月にも同様の定員制を継続し、昨年の2倍の価格に設定したところ、発売翌日には完売。「地上100メートルから見る初日の出」というプランが、観光客や地元の人々にとっては唯一無二のプランであり、京都タワーの展望室だけが提供できる強みであることを再認識するきっかけとなったそうです。
ホテルインフルエンサーのやよぴさんも「メディア関係者、生活者ともに関心が高まる時節性があるプレスリリース。京都タワーの強みやオリジナリティがとても良く現れています」と賞賛のコメントを送りました。
参考:【京都タワー】<人数限定>地上100mの京都タワー展望室から初日の出を鑑賞「京都タワー元旦初のぼり2023」イベントを開催
SNS発信のプロが選ぶ「魅力的なプレスリリース」
コロナ禍で始まったリモート勤務をきっかけにホテル暮らしを始め、X(旧 Twitter)とInstagram合わせて約12万人のフォロワーに日々「推し宿」を発信しているホテルインフルエンサーのやよぴさん。最近は日本の風景や文化、食事に触れる機会が増え、地方創生にも興味を持って発信しているとのことです。例えば、岐阜県の郡上市と一緒に現地の宿泊業者向けにSNS講座を実施したり、メディアの連載で地方の魅力ある宿を紹介したりするなど、各方面で活動しています。
やよぴさんが京都市内のホテルをX(旧 Twitter)で紹介した際には、約3ヵ月分の予約が一気に埋まったと反響が知らされることもあるそうです。SNSで「バズる」ツイートをするコツは、「ターゲットが明確でわかりやすい情報を提供すること」。このポイントを意識すると、結果として多くの人に見てもらいやすくなるといいます。
また、やよぴさんは、YouTube、Tik Tok、Instagram、X(旧 Twitter)などSNSのプラットホームごとに「画像」「短尺動画」「長尺動画」などの特色があることに触れ、「何を誰に伝えたいか」ということを考えたうえでSNSを使い分けられることが大事、と第一部を締めくくりました。
老舗和菓子店の新たな挑戦、メディアに響く企画広報PRとは
第二部では、スライスようかんなどのヒット商品を生み出し続けている1803年創業の老舗和菓子店「亀屋良長株式会社」の女将、吉村由依子さん、京都新聞社メディア局経済サイトプロデューサーの上野正俊さんらが登壇。吉村さんは「身近なひとりを考える」企画を数多く手がけているといいます。同社のデザイン担当である柴田さんとともに、ヒットの裏側にある企画の考え方について語ってもらいました。
若手の感性を活かす「かめや和菓子部」
吉村さんは、「かめや和菓子部」という社内制度で若いスタッフを巻き込んだ商品企画やアイデア集めに取り組んでいます。若い職人や販売員、事務員が持っている感性を活かして発案してもらうことで、季節の二十四節気に合わせた菓子の商品企画から販売の施策を繰り返しているそう。また、若いスタッフが商品の撮影をしてSNSの発信も行っており、同世代の客層にリーチしやすい発信を心がけているといいます。
この取り組みは、若手社員のモチベーション向上や、部署間のコミュニケーション改善、若い世代に和菓子を身近に感じてもらうことなどにもつながっており、さまざまな効果が生まれているとの説明がありました。
和菓子をもっと身近にするために。企画と考え方のポイント
吉村さんは、「和菓子をもっと若者に身近に感じてもらいたい」という思いから、さまざまな新しい和菓子を企画しているそう。デザイン担当の柴田さんも含め、亀屋良長は以下のことに気を配って商品を開発しているそうです。
- 商品のパッケージや見た目をかわいらしく変えること
- 買ってもらう前にまずその和菓子を知ってもらうこと
- 20代後半から30代の世代、身の回りの知人がほしいと思う商品を考えること
柴田さんは、百貨店売り場、スーパーやコンビニ、テレビなどでトレンドや需要をチェックし、自分たちの店を客観的に見ながら企画に落とし込んでいるといいます。また「母や姉など、身近な人が忖度なく買ってくれるか」についてもポイントにしていると話しました。
こうした考え方は、スポット商品として販売したチョコバナナ仕立てのようかんや、クリームソーダようかんなどの発案にも生かされているそう。栄養価が高く免疫力をアップさせる効果があるとされるバナナを使ったり、若者の「レトロブーム」で流行したクリームソーダを取り入れたりするなどのアイデアが盛り込まれています。
約30年、和菓子を手作りする体験教室で技術の普及も図っており、中学校の修学旅行で京都に来て体験した学生が「和菓子職人になりたい」と実際に職人として採用されたエピソードもありました。
SNSやプレスリリース配信の活用方法
亀屋良長のX(旧 Twitter)運営の特徴は、吉村さんが自社や商品についてのツイートを拾って、返信していることです。その理由として吉村さんは「お客さまとの距離を縮めるだけでなく、第三者の口コミ的な意見としていただいている」と話していました。柴田さんは「失敗したと思った商品もあえて公開すると、お客さまからアドバイスをもらえる」と、次の企画に活かす使い方についても触れていました。
柴田さんは、プレスリリースを配信するときに、商品を差別化する工夫を重ねていることにも言及。
こちらのプレスリリースは、「バレンタインのプレスリリースが山ほどある中でどうしたら差別化できるか」を何度も考えたものだといいます。以下のような検討を重ね、最終的に「今年のバレンタインは『あったか〜い和菓子』を。創業220年の亀屋良長が『ようかん×トースト』『ココアになる和菓子』など、心温まるお菓子を販売します。」というタイトルに決めた、とのことでした。
- 「バレンタインの和菓子」にしたら意外性で目に留まるかもしれない
↓ - でも最近は、チョコレートを使った饅頭や生菓子はすでにある
↓ - もうワンポイント、差別化できる特徴がほしい
↓ - お湯に溶かすとホットココアになる干菓子と、トーストできるようかんがある
↓ - 温めて食べる和菓子としてアピールしてみるのはどうか
↓ - キャッチフレーズは「温かい」にするか、「あったかい」にするか
↓ - よりキャッチーな「あったか〜い」を使用しつつ、「和菓子」「ようかん×トースト」という独自性のあるキーワードを入れる
メディア担当者が選ぶ「魅力的なプレスリリース」
京都新聞社の上野正俊さんは、メディア関係者の視点から、以下のプレスリリースをピックアップして、魅力的であると感じる理由を説明しました。
参考:「焼き芋」 ×「ようかん」を「パン」にのせて焼く、新感覚の和菓子。『スライスようかん 焼き芋』が今年の秋も再登場!
参考:【亀屋良長】和菓子から年越しそばまで。京都のお正月と、老舗6店の味が詰まった「おうちで京都気分。〈迎春〉」を発売。
上野さんが選んだ1つ目のプレスリリース(画像上)は「ようかんをパンに乗せて焼いた商品」を紹介するもの。日本人から安定した人気を誇る「焼き芋」をモチーフにした「新規性」のある企画に、京都の老舗が手作り感のある「芋判」を用いる「物語性」がフックとなり、取材したい気持ちになったといいます。
2つ目のプレスリリース(画像下)は、京都の老舗企業のコラボレーション商品で、その企画だけでなく、「季節感」や文化的な要素が詰まったパッケージにも注目していました。また、掲載されている写真のレイアウトや箱のデザインもしっかりしており、「ひとつのシンフォニーを奏でるような印象を与えるプレスリリース」と評価していました。
地域ならではの魅力を最大限に伝える発信を
プレスリリースやSNSを通じた情報発信の手法について、企業の担当者の経験を交えたノウハウが飛び出したPRゼミ京都。老舗企業ならではのコラボレーションや、地域性を活かした企画立案など、各企業がユニークな方法で情報発信を行っていることがわかりました。情報発信のポイントは以下の通りです。
- 自社ならでは・地域ならではの特色を企画に落とし込んで「独自性」「地域性」などのフックを生み出す
- 情報発信の手法として積極的にSNSを活用する
- 若いスタッフにPR業務を任せることで、新たな発想やアイデアを生み出す
また、京都独自のエコシステムを構築し、相乗効果でコラボレーション企画などを発展させることが、地域の広報発信にとって大切であるという提案もありました。企業がお互いに自社の企画を伝えることや、他社の発信を参考にすることで、よりよい情報発信につながっていくでしょう。
地方自治体の広報PRのポイントや、メディアフックについての記事も参考にしてみてくださいね。
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