人は生活のあらゆる場面で、良い・悪い・大きい・小さいにかかわらずさまざまなストレスを受けます。しかし一人ひとりの受け止め方、感じ方は異なりますし、何より悪いストレスに対する許容量を把握していないことが多く、自分でも気付かぬうちに心身に影響を及ぼしてしまうことがあります。
セルフコンパッションを身につけることでストレスをコントロールし、自分自身とも他者ともより良い関係性をつくっていきましょう。
セルフコンパッションとは?
「セルフコンパッション(self-compassion)」は自分への慈しみを意味し、他者を思いやるように、自分自身のことを大切に思うことです。仕事・プライベートに限らず、ネガティブな状況、ストレスのかかる状況でも、前向きな気持ちを持ち続けられる心理状態やその技法を指します。
企業内でも自身の心理的なコントロール手法のひとつとして活用される場面が増えてきています。
セルフコンパッションが注目されている背景
日本人はほかの国に比較し、自分を他者と比較して軽視・謙遜する傾向にありメンタル不全の発生率が高いと言われています。
近年では仕事や家庭でのストレスに加え、コロナ禍による行動制限や将来への不安など、本人も知らず知らずのうちにストレスを抱え込んでいることが増えています。さらに仕事・プライベートに限らずコミュニケーション機会の減少により、その人の状態に周囲が気付く機会も減ってきていることから、セルフコンパッションによる自身の心のコントロールに注目が集まっています。
セルフコンパッションに重要な要素
私たちは苦しい状況になると、自分のことを非難し傷つけるような言葉を自らにかけてしまったり、自分一人がつらいと感じ、苦しさから目を背けてしまったりすることが多くあります。
その状態から脱するためにセルフコンパッションで重要な3つの要素があります。
1.自分への優しさ(Self-kindness)
私たちは自分が苦しい時に自分を責めてしまう一方で、親しい友人や家族が苦しむ状況では優しい言葉や態度で接することができます。
セルフコンパッションでは、自分自身を親友と同じようにとらえ、ネガティブに考えたり、自分を否定したりすることなく、他者に対して思いやりを持って接するように、ありのままを受け入れられるような言葉をかけたり、振る舞いをしたりすることで、自己肯定感を高めていきます。
2.他者と共通の人間性(Common humanity)
人は困難に直面した際に、「なぜ自分だけがしんどいのか」と自分一人の問題として抱え込んでしまい、周囲からの疎外感や孤立感に苦しんでしまいます。
セルフコンパッションでは自分一人で悲観的に考えるのではなく、「誰もが同じように苦しんでいる」「誰もが苦しい時期を経験する」と他者と共通の人間性を見出すことにより、苦しみが緩和されていく状態を目指します。
3.つらい状態も受け入れるマインドフルネス(Mindfulness)
人はつらいと思った際に、それを我慢しよう、あるいは忘れようと努力をした結果、さらに混乱してしまうことがあります。
マインドフルネスは、苦しみや困難などのつらい感覚を無視したり誇張したりすることなく、「そこにある事実」としてありのままに受け入れ、ストレスを減らしていく取り組みのことです。自分を肯定するセルフコンパッションと密接に関係する概念です。
セルフコンパッションを高める3つの効果・メリット
セルフコンパッションにはさまざまな効果があることが研究で証明されており、特に以下3つの面で効果があると言われています。セルフコンパッションを取り入れれば、心を病まずにこれらの効果を得ることができます。
効果1.幸福感を高める
セルフコンパッションを取り入れることで、焦りやマイナス思考など悲観的な感情が少なくなり、自分にとってマイナスな出来事が起きても冷静に、適切に対応できるようになります。仕事やプライベートで失敗してしまった場合、セルフコンパッションを身につけていると「次にどうすれば失敗しないか」と心を前向きな状態に保つことができます。
また自分を癒やすことで他者への理解も進んでいき、周囲に対して前向きな影響を与えることができる人材になれるでしょう。
効果2.ストレスの軽減につながる
セルフコンパッションが身につくと仕事でもプライベートでもストレスを感じづらくなるため、悲しみや怒り、嫉妬のようなネガティブな感情を抑えられるようになります。
そのため他者との関わりでも、心に余裕が生まれることで他者に配慮でき、人間関係も良好になり、ストレスが生まれづらい環境が自然と出来上がっていくのです。
効果3.心が健康になる
セルフコンパッションが身についていないと、ストレスや悩み、不安といったネガティブな感情が生まれ、そこから抜け出せなくなっていき、精神衛生面でも悪い状態が続いていきます。
しかしセルフコンパッションが身についていれば、自分の状況を客観的にとらえ自己肯定感を高めることができるため、ストレスや困難に対してもポジティブに立ち向かうことができます。すると心に余裕がある状態になり、心の病にかかりづらくなっていきます。
セルフコンパッションを鍛える3つの実践方法
セルフコンパッションを身につければさまざまなプラスの影響がありますが、ではどのように鍛えればよいのでしょうか。いくつか方法がありますが、ここではセルフコンパッションを鍛える3つの実践方法を見ていきます。
1.リマインドペーパー
リマインドペーパーとは、苦しい状況に陥った時にセルフコンパッションの考え方を思い出せるようにする手法です。
セルフコンパッションを身につけていても、苦しい状況が続くと、どうしてもネガティブな感情が先行してしまいます。そのような状態ではポジティブな感情を取り戻すことが困難になります。
そうなった場合に備えリマインドペーパーを準備して、セルフコンパッションの考え方を思い出せるようにします。メモしておく内容は、自分が苦しい時に「取るべき行動」や「自分にかける優しい言葉」です。苦しい状況に陥っても、客観的なきっかけを持つことで、冷静に自分と向き合い適切な行動を取れるようになるでしょう。
2.ジャーナリング
ジャーナリングとは、一定の時間内に頭に浮かんだことをあるがままに書き続け、客観的に自分を把握する手法です。
書く内容は、自分自身が不安に感じていることや、ストレスの要因、悩みなどになります。大切なのは、カッコつけた文章ではなく、ありのままを文章で表現することです。
書き記すことで、自分自身が無意識に感じているネガティブな感情や気付かなかった課題を、客観的に把握し、対処することができるようになります。
3.慈悲の瞑想
慈悲の瞑想とは、自分自身と向き合うためのセルフコンパッションにおいてもっともベーシックな取り組みです。
苦しい状態に陥った時には、人は混乱し、冷静さを失ってしまい、上記2つの手法を取る余裕がなくなってしまう場合があります。しかし慈悲の瞑想は、いつでもどこでも実践できます。
慈悲の瞑想では「私が安全でありますように」「私が幸せでありますように」「私が健康でありますように」「私の悩みや苦しみがなくなりますように」と、まずは自分自身に優しい言葉をかけます。心の中で傷ついた自分を癒やすための言葉をかけることで、気分が楽になり、優しい気持ちになれます。
自分の気持ちが落ち着いた後は、他者に対して慈しみが持てるような言葉を唱えます。両者への慈しみを持てるようになると、マインドフルネスな状態で心を落ち着かせることができます。
セルフコンパッションについて学べるおすすめの本
セルフコンパッションについてはアメリカの心理学者のクリスティン・ネフ博士が、自身の経験をもとに概念化され、さまざまな臨床研究でもその効果が実証されています。
たくさんの本が出されていますが、まずこれを読めば概念から実用まで理解できる2冊の本をご紹介いたします。
書籍紹介
セルフ・コンパッション[新訳版]クリスティン・ネフ (著)
セルフコンパッションの研究の先駆者であるクリスティン・ネフが、自身の体験や学術的な知見をもとにわかりやすく解説した本になります。
セルフ・コンパッション:最良の自分であり続ける方法 有光 興記 (著)
セルフコンパッションの概念から実践方法まで、その背後にある仏教やマインドフルネスにも触れたうえで解説されている本で、とても読みやすいです。
セルフコンパッションに関する資格
セルフコンパッションに関する公的な資格はありませんが、東京マインドフルネスセンターなどの団体が提供するトレーニングがあります。
参考:マインドフル・セルフ・コンパッション Mindful Self-Compassion (MSC®)
セルフコンパッションでさまざまなストレスにさらされる自分をねぎらおう
仕事やプライベートにかかわらずプレッシャーや不安が多い現代において、程度の差はあれど誰もが悩みやストレスを抱えています。他者への思いやりや、優しい気持ちを抱くことはもちろん大事ですが、それと同じように自分に優しくすることも大切です。
セルフコンパッションを身につけ、自分自身が自分にとっての優しい友人になり、慈しみを自身に向けることができるようになれば、人生は少し楽しくなるかもしれません。
セルフコンパッションに関するQ&A
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