少子化が進み大学間の競争が激化する昨今、企業だけでなく教育機関のブランディングも必要性が増しています。ロゴデザインやスローガンの設定など実施すべきことは多数ありますが、「何をどう進めるべきかわからない」という方もいるのではないでしょうか。
大学のブランディングを成功させるためには、強みを明文化して自校らしさを可視化することが大切です。この記事では、大学ブランディングにおける構成・要素や広報PRの役割といったポイントを解説。魅力的なブランディング戦略を展開する事例もご紹介していますので、大学ブランディングに関わる方はぜひ参考にしてみてください。
大学におけるブランディングとは?目的と必要性を解説
まずは大学のブランディングについて理解を深めておきましょう。自校の魅力を発信するだけでなく、高校生を中心とする生活者に差別化できるポイントを知ってもらわなければなりません。企業の一般的なブランディングとの違い・共通点を知ると、大学ならではの戦略を組み立てることの重要性もわかるでしょう。大学ブランディングの目的や必要性について解説します。

大学ブランディングの定義と基本的な考え方
大学のイメージを伝えるためにはロゴやスローガンが重要ですが、単にビジュアルを固めるだけでなく価値・魅力を体系的に発信しなければなりません。あらゆるステークホルダーに自校を選んでもらう・覚えてもらうための取り組みであり、そのために多様な方向からアプローチする戦略がブランディングの定義といえます。
大学としては「入学したい」と思ってもらうことが大きな目標となりますが、保護者や地域住民、また企業・団体からよいイメージを持ってもらうことも大切です。自校の強みや勉強・研究するメリットを発信し、認知拡大につなげることがブランディングの基本となることを知っておきましょう。
大学にブランディングが求められている理由
大学のブランディングが必要視されている背景に、18歳人口の減少が挙げられます。少子高齢化が進む現在、大学は「選ぶ」側から「選ばれる」側へと変化しました。定員割れに悩み、募集を停止したり廃校を決めたりといったニュースを目にした方もいるのではないでしょうか。
さらに「留学のカリキュラムがある大学を条件にする」「偏差値よりも自分の興味に合った大学へ行きたい」など、志願者の価値観は多様化しています。大学間の競争激化に加え、選定の要素が増えているという時代背景も、ブランディングが求められる理由といえるでしょう。
大学・企業のブランディングの違いと共通点
認知拡大と利用促進を図るため、さまざまな手段で戦略を練るという点は大学・企業ともに共通しています。しかし、商品を購入したりサービスを利用したりといった時点で効果がわかる企業に対し、大学は入学・卒業のプロセスを踏まなければ成果が目に見えません。
また、ステークホルダーの属性が固定されないのも大学ブランディングの特徴です。高校生は大学生になり、卒業後社会人になり、自校と関係する企業の一員となるかもしれません。保護者であり地域住民でもあるといったケースも十分に考えられるため、ステークホルダーの属性を固定しない戦略設計は重要といえます。
大学のブランディングを構成する要素と進め方
大学のブランディングを進める際は、ミッションやビジョンを整理したうえでブランドアイデンティティを設計していく流れが重要です。受験生・保護者・地域住民といったステークホルダーを想定し、各対象者に応じたコミュニケーション戦略を立てましょう。大学のブランディングを構成する要素と、具体的な進め方を3つのステップに分けてご紹介します。

STEP1.教育方針を明文化する
実践的なブランディングを始める前に、自校の教育方針を明文化しておきましょう。教育機関としての役割やミッション・ビジョンを整理することで、ステークホルダーに向けて発信すべき強みや魅力が言語化しやすくなります。
ホームページやパンフレットなどに掲載する学長メッセージも重要な要素です。教育や研究にどういった力を入れているのか、社会的意義のある取り組みを行っているのか、有識者からの発信があれば読み手の信頼感・安心感も向上できるでしょう。
STEP2.ブランドアイデンティティの設計と可視化する
ブランドアイデンティティは、自校の強み・魅力・価値などをステークホルダーに伝えるために必要です。実際のカリキュラムや活動とブランドアイデンティティが乖離するとイメージも崩れてしまうため、「〇〇大学といえば△△」のような印象付けができる独自性を考えましょう。
大学の場合、ブランドアイデンティティとロゴ・タグライン・キャッチコピーなどとの整合性を持たせなければなりません。特にロゴやカラースキームは視覚的な印象を左右するため、アイデンティティに合うビジュアルの可視化を意識して設計していきましょう。
STEP3.ステークホルダーに応じたコミュニケーション戦略を立てる
大学のステークホルダーは、受験生・在学生とその保護者をはじめ、地域住民から企業まで幅広い人物像が想定できます。発信する内容やチャネルによってステークホルダーも変わりますが、その都度適切なコミュニケーション戦略を立てることが大切です。
例えば受験生を対象にする場合は、パンフレットやオープンキャンパスで「自校だから学べること」を中心に魅力を発信します。地域住民との関係構築が目的であれば、在学生と触れ合う機会を設けて将来性を伝えたり、社会的存在意義がわかる企画を展開したりしてもよいでしょう。
大学ブランディングの情報発信における広報PRの役割
大学のブランディングを広報PRの観点で考えると、魅力を可視化したりメディアミックス戦略を立てたりといった役割が見えてきます。より効果的な情報発信を目指すためには、プレスリリース配信サービスなどを用いた取り組みも重要となるでしょう。大学ブランディングの情報発信における広報PRの役割について詳しく解説します。
大学の魅力を可視化する「ストーリーテリング」
大学での活動や思想などに共感を得るうえで重要なのがストーリーテリングです。事実のみを淡々と発信するのではなく、ストーリー性を持たせることで感情的な反応を促しやすくなります。学生・教員が注力している取り組みや研究成果、社会とのつながりなどを「物語」を意識しながら訴求しましょう。
創立時の時代背景や現代までの変遷など、時流に応じたストーリーで「この大学ならでは」のポイントを可視化するのも一案です。必ずしも実績だけにこだわらず、苦難・失敗にも触れながら自校の歩みと魅力を可視化していきましょう。
SNS・Web・紙媒体を活用したメディアミックス戦略
XをはじめとするSNSや関連雑誌など、メディアミックス戦略もブランディングに必要な工程です。大学の公式ホームページはもちろん、さまざまなチャネルを活用して大学の取り組みやイベント情報などを発信していくとよいでしょう。
このとき、ブランディングの対象者をイメージしながら最適なチャネル・コンテンツ内容を検討することも大切。テレビCMのように規模の大きい広告コンテンツを打ち出す方法もありますが、SNSアカウントやパンフレットなど、あらゆる媒体を視野に入れて自校のブランドを発信することが重要です。
ニュース性を見いだしたプレスリリース配信
プレスリリース配信は、メディア関係者を中心に多くのステークホルダーに情報を届けるために有用な広報PR施策のひとつです。発信した情報がメディア関係者の目に留まれば、取材の機会につながったりニュースサイト・雑誌などに掲載されたりといった効果が期待できます。
- 研究や組織運営の見直し
- SDGs達成に向けた取り組みをスタート
- 民間企業と連携し、技術研究・開発などを展開
- 受験期に先駆けた地域との交流会を開催
教育改革・SDGs・産学連携など公益性のある情報は特に注目されやすく、外部発信の好機であるといえるでしょう。ほかにも、例えば地域住民を巻き込んだイベントを知らせるプレスリリースであれば、地域性の高さを伝えて良好な関係構築の強化につながります。ニュース性のある要素をいくつかピックアップして、テーマごとに発信する機会を検討するのもおすすめです。
大学のブランディング事例5選
ここからは、実際にブランディングを展開している大学の5事例をご紹介。具体的な取り組みはもちろん、ブランディングや広報PRとしてうまく展開したポイントを解説していきます。地域での取り組み、イベント参加など複数の活動をピックアップしていますので、自校の強みにマッチする事例があればぜひ参考にしてみてください。
事例1.SDGsの先進的な取り組みが集う地域イベントに参加
国立大学法人・岡山大学は、SDGsの先進的な取り組みが集まる「おかやまSDGsフェア2025」へ参加。講演やワークショップ、クイズショーなどを展開するイベント企画で、同校は教職員や学生団体による活動内容をパネル展示で発信しました。
「地域中核・特色ある研究大学」というコンセプトを確立しており、プレスリリースでもパートナーシップの拡大やSDGs達成に向けた取り組みについて言及しています。自校の地域性を活かした活動で、メディア関係者や地域住民にアプローチした事例です。
参考:【岡山大学】「おかやまSDGsフェア2025」に、本学および岡山大学生団体が参加しました!
事例2.歯大生と受験生が直接コミュニケーションを交わすイベント企画
公立大学法人・九州歯科大学は2025年10月25日、受験生を対象とした「2025学生相談会(歯大祭)」の開催を発表しました。大学の授業や受験勉強、歯大生の1日のスケジュールなどを、学生自らが受験生に直接発信するイベント企画です。
対面でコミュニケーションを取る場を設けることで、大学に関心があるステークホルダーとの関係構築につなげたのが特徴。また、開催概要・予約受付・実施決定といった段階に分けてプレスリリースを配信し、受験生やその保護者にアプローチする機会を増やしています。
参考:【高校生・受験生対象】九州歯科大学「2025学生相談会(@歯大祭)」10月25日(土)実施決定!
事例3.大学での研究を進めるためクラウドファンディングを始動
国立大学法人・静岡大学は、植物の眠り(休眠)をコントロールできる「物質X」の研究を進めるためクラウドファンディングをスタートし、プレスリリースで活動内容を発信しました。
大学での取り組みを、クラウドファンディングというかたちで展開することでステークホルダーとの接点を増やしています。「支援者コミュニティー」を立ち上げることで良好な関係構築が期待でき、研究に注力する自校の強みや独自性を確立するブランディング効果にもつながった事例といえるでしょう。
参考:植物の眠りをコントロールできる物質の研究を通じて、地球温暖化に強い次世代農業を実現するためクラウドファンディングを開始
事例4.大阪・関西万博で世界の文化が体験できる企画を展開
立命館アジア太平洋大学は、大阪・関西万博シグネチャーパビリオン「いのちの遊び場 クラゲ館」が主催する「世界遊び・学びサミット」に参加。立命館アジア太平洋大学(APU)の学生団体が、ステージパフォーマンスや文化体験ワークショップを手掛けました。
世界の文化に触れる場として取り組んでおり、留学生が多く在籍する大学ならではのプログラムであることがわかります。エリアは限定されるものの、注目度・希少性の高いイベントへの参加は多くの人に自校のブランド力を伝えるよい機会となるでしょう。
参考:大阪・関西万博 世界の若者による文化や伝統を感じる2日間。APUキャンパスが万博に。アジア太平洋14カ国の総勢66名が登場!
事例5.高齢者向けSNS発足を目指して学生ベンチャーをスタート
福岡工業大学の情報工学部情報工学科は、「株式会社熊猫(くまねこ)」と名付けた学生発ベンチャーの学内第1号を始動。高齢者が相互につながる新たなSNSの発足を目指し、俳句データを活用したSNS構築に向けてスタートした取り組みです。
「学生のチャレンジ起業」という点で独自性が高く、工業大学らしさも感じられるブランディングが魅力といえます。高齢者のSNS利用を想定した取り組み内容もユニークで、ベンチャーをきっかけに多くのステークホルダーへブランド力を発信した好事例です。
参考:「俳句でつながる高齢者向けSNS」を作る福工大学生発のベンチャー始動
ご紹介した事例以外に、参考になる大学を以下にピックアップします。ぜひこちらもチェックしてみてください。
参考:国立大学法人大阪大学のプレスリリース
参考:関西大学のプレスリリース
参考:学校法人聖路加国際大学のプレスリリース
参考:国立大学法人東京学芸大学のプレスリリース
参考:東京藝術大学のプレスリリース
参考:東北大学大学院情報科学研究科大関研究室のプレスリリース
参考:学校法人早稲田大学のプレスリリース
大学ブランディングを成功させる7つのポイント
大学のブランディングを成功に導くためには、ブランディングに対する理解と長期的な取り組みが重要となります。ブランディングそのものが「育てるものである」という点を認識したうえで、関係構築や実態調査といった実践を取り入れていきましょう。ここからは、大学ブランディングを成功させるポイントを7つご紹介します。

ポイント1.ブランドは「つくるもの」ではなく「育てるもの」だと認識する
大学のブランディングにおいて特に重要なのは、つくり上げて終了するのではなく「育て続けるものである」と理解することです。大学のコンセプトやメッセージを決定しても、時代の流れやカリキュラムの変更に合わせて変化・成長させなければなりません。
また、ステークホルダーが抱くイメージとの乖離を避けるためにも、やはり継続的なブランディング戦略は必要です。単に長期的なブランディングを続けるのではなく、「らしさ」を積み重ねてよりよいものにしていくことを想定しておきましょう。
ポイント2.卒業生・地域・学生との双方向の関係構築を試みる
ステークホルダーとの関係構築は、ブランディングにおいて重要な要素のひとつです。特に高校生をはじめとする学生、卒業生のほか、地域住民との良好な関係はブランディングの成果を左右するポイントといえるでしょう。
双方向の関係を構築するために、コミュニティを運営したりストーリー共創を目指したりといった活動が検討できます。例えば在学生に対してであれば、学習の機会を提供するだけでなく、その内容についてフィードバックを得ることで効率的なコミュニケーションが図れるでしょう。
ポイント3.学内の好事例を“外に出す”ことでブランディングを加速させる
大学で何らかの実績を残したときは、積極的に外部へ発信することが大切です。情報公開は広報PRにおいて重要な業務であり、認知拡大やイメージアップに大きく作用します。在学生・保護者のみに向けたコンテンツとは別で、プレスリリースなどのプラットフォームを利用した広報PR活動も実施しましょう。
「カリキュラム・学科の新設」や「〇〇研究における成果」といったテーマはニュース性が高く、メディア関係者の関心を寄せる効果も期待できます。これら以外の小さな実績でも好事例として広く発信できれば、ブランディングを加速させるきっかけになるでしょう。
ポイント4.大学のイメージや認知度を把握する
大学が現在抱えている課題や継続させるべき点を知るためには、リアルタイムで現状を把握する必要があります。ステークホルダーがどういったイメージを持っているのか、大学や活動に対してどの程度の認知度があるのかを認識しておきましょう。
全国の大学を対象とした調査データを調べるほか、校内で在学生・教職員にアンケートを取る方法も考えられます。また、SNSのようなツールを用いて動向を調査すると、特定のエリアに限らず幅広い層のステークホルダーから情報を得られるでしょう。
ポイント5.学生が求めているものを知り、差別化する
ブランディングにおいて重要なのは「らしさ」です。「〇〇大学といえば△△」という印象が定着すれば、「こんな勉強・研究がしたいからここに行く」という行動に結びつけることができます。この結果につなげるためには、差別化できる部分とニーズを一致させなければなりません。
受験生が大学や将来に何を期待しているのかを知り、その期待に応えられる大学であるという点を精査していきましょう。力を入れている研究やカリキュラムの具体性がわかれば、「ここで学んでみたい」と関心を寄せる結果につながります。
ポイント6.大学から発信するメッセージは一貫させる
大学からステークホルダーに向けて情報を発信する際は、そのメッセージを一貫させる必要があります。大学の内外へアクセスする窓口は複数あるため、ブランディングや広報PRに関わる課に限らず、ブランドイメージやメッセージを統一しておきましょう。
発信元によって差異があると、結果的に大きな乖離を招きかねません。ブランディングの進め方は大学や課によって異なるものの、常に一貫性のある内容であるかチェックすることが大切です。
ポイント7.PDCAサイクルを回してブランディング効果を高める
ブランディングは長期的な取り組みを前提に育てていくことが大切ですが、PDCAを回して効果を高める施策も必要となります。計画を実行し、結果を調査したうえで改善する流れを繰り返すフレームワークです。
効果測定をもとに改善点を洗い出すことで、学生のニーズを把握したり新たな活動を展開したりといった戦略を組み立てやすくなります。広報PRにおけるPDCAサイクルについては以下の記事で詳しく解説していますのでぜひご覧になってみてください。
大学の魅力を可視化してブランディング成功への道を築こう
18歳人口が減少し競争が激化している昨今、大学にも本格的なブランディングが求められています。多くのステークホルダーに自校の魅力・強みを伝えるためには、情報に一貫性をもたせて広く発信することが大切です。
プレスリリース配信やSNSといったチャネルを活用し、PDCAサイクルを回しながら自校ならではのブランド力を発信する広報PRも必要。強みとなるテーマをいくつかピックアップしてみると、取り組むべきブランディングや広報PR施策が思いつくかもしれません。今回ご紹介したブランディングの進め方や事例も参考にしながら、大学としての役割を構築し積極的に伝えていきましょう。
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