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大学広報に求められることとは?大学の広報PR・ブランディング戦略のポイントを紹介【事例あり】

大学広報に求められることとは?大学の広報PR・ブランディング戦略のポイントを紹介【事例あり】

少子化に伴い、大学間の学生獲得競争は年々激化しています。こうした環境の中で、大学広報・PRの重要性はますます高まっています。魅力的な大学像をどのように発信し、受験生や保護者、地域社会との信頼関係を築くかが、大学の将来を左右する時代です。

本記事では、重要性を増す大学の広報PRについて、仕事内容や、効果的なブランディング戦略のポイントをご紹介。実際の大学の広報事例も紹介していますので、大学の広報力を強化したい方は、ぜひ参考にしてみてください。

目次
  1. そもそも、大学広報とは?何をしているの?役割と業務内容を解説

  2. 大学広報に関わるステークホルダーとは

  3. 大学広報に求められている4つのこと

  4. 大学広報の広報PR・ブランディング戦略とは?

  5. 大学広報を行う際の3つのポイント

  6. 大学ならではの広報テーマ

  7. 参考になる、大学の広報事例3選

  8. 大学の広報PR・ブランディング戦略に関するQ&A

  9. 大学広報には幅広いステークホルダーとの関係構築が求められる

そもそも、大学広報とは?何をしているの?役割と業務内容を解説

大学広報はさまざまなステークホルダーへ向けて大学の取り組みや目指す方向を発信する仕事です。受験生向けの「入試広報」から、研究成果や産官学連携など大学のブランディング、卒業生や保護者に向けた情報発信まで、幅広い業務にかかわっています

詳細は後述しますが、具体的には以下のような業務が挙げられます。

  • 入試広報(大学案内の制作、オープンキャンパスの企画運営、高校訪問など)
  • 広報のコミュニケーションツールの企画制作(学内広報誌、大学オリジナルグッズ、その他パンフレットなど)
  • メディアリレーションズ(取材対応、プレスリリースの作成配信など)
  • 大学Webサイトや公式SNSの運営
  • 広告出稿・プロモーション施策の実施
  • 講演会や地域連携イベントなどの企画運営

大学によっては入試広報と大学広報で担当者が分かれていることもありますが、文部科学省の調査によると、公立大学(国立を除く)の43.1%、私立大学の55.8%が大学広報と入試広報を同じ部署でカバーしています(※)。

※参考:『大学等の広報に関するアンケート調査結果』(文部科学省大臣官房総務課広報室、2012年)

大学広報に関わるステークホルダーとは

大学広報は「誰に向けて発信するか」を最初に固定しないと、実施する施策が「なんとなく全部」となり、成果も責任も曖昧になりがちです。ステークホルダー整理のポイントは、対象を列挙するだけでなく「期待される価値」「意思決定の構造」「最適チャネル」「リスク(炎上・誤解の起点)」までセットで設計することにあります。最初に主要対象を棚卸しし、大学として優先順位(今期は受験生、来期は研究連携など)を決めると、コンテンツ企画・予算配分・体制が一気に整います。

受験生・保護者・高校教員:意思決定者、影響者を分けて設計する

受験生向け広報は、実務上「受験生本人だけ」を見て設計すると失敗しがちです。その理由は、多くのケースで意思決定は受験生(当事者)と保護者(費用・安全・将来不安の観点)と高校教員(情報の信頼性と進路指導の観点)の三者で分散しているためです。

受験生には学びの中身、学生生活、卒業後の進路のリアルなど体験が想像できる情報を。保護者には学費・奨学金、サポート体制、就職実績の読み解き、トラブル対応など「安心につながる情報」を。高校教員には教育方針、入試制度の透明性、学びの特色の客観情報など「説明可能な根拠」を用意します。

同じ事実でも語り口を変えることが重要で、ここが揃うとオープンキャンパス参加から出願までの歩留まりが改善します。

在学生・教職員:内部理解が外部発信の一貫性と質を決める

大学広報の信頼性は、外部広告よりも「内部から出る言葉の整合性」で決まります。在学生は口コミの発信源であり、教職員は大学の公式性を担う存在なので、内部理解が弱い状態で外向きに強いメッセージを出すほど、現場の実態とのギャップが炎上・不信の火種になります。

実務では、広報が一方的に素材提供を依頼するのではなく、学内向けに「今年の重点メッセージ」「NG表現」「取材依頼の受け方」「写真・個人情報の扱い」などを共有し、発信の品質を底上げします。加えて、学生アンバサダーや学内編集委員のような仕組みを作ると、素材が偶発ではなく定期供給に変わり、更新頻度と内容の厚みが安定します。内部を整えることは遠回りに見えて、外部成果の再現性を高める最短ルートです。

卒業生(アムルナイ)・寄付者:長期的な支援者を育てるコミュニケーション

卒業生・寄付者向け広報は、短期の募集成果よりも「関係資産」を積み上げる領域です。このコミュニケーションが希薄になると、寄付・人材紹介・共同研究・学生支援など、大学の中長期価値を支える機会が失われます。

重要なのは、卒業生を「OB・OG」として一括りにせず、年代・地域・業界・学部・関心テーマなどの属性でセグメントし、ホームカミングデー、オンラインイベント、研究トピックの定期配信、学生との交流など、参加しやすい接点を設計することです。

寄付者に対しては、金額の多寡で態度を変えるのではなく、使途・成果・次の課題などの透明性を丁寧に示し、寄付が「大学の未来にどう効いたか」を可視化します。アルムナイ広報は、募集期に急にお願いするものではなく、平時に関係を温めておくほど成果が出やすくなります。

地域・自治体・企業・メディア:社会的信頼と連携機会を増やす

大学は地域の公共性を背負う存在であり、地域・自治体・企業・メディアは「社会的信頼」を形成する重要なステークホルダーです。地域向け広報は「イベント告知」だけだと単発で終わるため、大学が地域にもたらす便益(例えば、人材育成、研究による課題解決、学生ボランティア、文化資源の活性化など)をストーリー化して継続発信することが肝要です。

企業・自治体に対しては、連携の入口を「研究室の専門性」「共同研究の実績」「相談窓口の明確さ」で作り、問い合わせのハードルを下げます。

メディアに対しては、専門性の高い研究成果をそのまま投げるのではなく、社会課題・季節性・政策動向と結びつけて「ニュース価値」へと翻訳し、取材対応の即応性を整えます。ここが整うと、露出そのもの以上に「信頼される大学」という印象が蓄積されます。

海外(留学生・研究ネットワーク):英語発信と国際的な評価の橋渡し

国際発信は、英語ページを用意するだけでは成果につながりません。留学生にとっては、学びの内容や支援体制が分かることに加え、ビザ・住居・生活サポート・キャリア支援など「生活の現実」が重要な判断材料になります。

一方、研究ネットワークや国際メディアに向けては、研究成果の社会的意義、共同研究の受け皿、研究者プロフィール、画像・図表の権利関係が整理されているかが評価を左右します。実務では、英語発信を「翻訳」ではなく「再編集」と捉え、国内向けの表現をそのまま置き換えないことが大切です。加えて、海外向けSNSや国際向けニュースルーム(英語のプレス窓口、素材一式)を最低限整えると、偶発的な国際露出が取りに行ける機会に変わります。

大学広報に求められている4つのこと

大学広報の業務は多岐にわたりますが、それらが果たすべき役割は大きく4つに整理できます。従来から重視されてきた入試広報に加え、ブランディング、学内コミュニケーション、そして近年は地域・社会との関係構築も大学広報の担うべき重要な領域となっています。

1.入学希望者増加への貢献

大学広報の業務の中で、もっとも重要視されてきたのが入学希望者の獲得に直結する「入試広報」です。第二次ベビーブーム世代が進学する1990年代中ごろまでは、大学広報イコール入試広報とさえ考えられていたといいます。

参考:『大学広報を知りたくなったら読む本』(谷ノ内 識

大学存続のためには、安定的な学生確保が欠かせません。広報PR活動を通して受験生に「この大学に通いたい」と思ってもらうことが必要不可欠です。オープンキャンパスや説明会など地道な活動を重ね、受験者数(出願者数)を増加させることが大学広報の重要な役割です。

2.大学が持つ特色の訴求

受験や入学を考えるうえで、大学に対するイメージは非常に重要です。「〇〇大学は生徒数が多く自由な校風」「〇〇大学は歴史が古く上品な雰囲気」「〇〇大学は資格取得や就職が強い」など、大学ごとのブランド認知が志望動機に直結します。

なかには、「地味」「堅い」など、ネガティブに捉えられかねないブランドイメージを持たれてしまっている大学もあります。また、そもそも名前を聞いてイメージを想起してもらえない、という大学もあるでしょう。

そうしたイメージを打破し、入学希望者を増やし、在校生・卒業生の愛校心を高めるためにも、メディア露出やSNSなどの活用を通じて大学の特色をアピールする必要があります。大学の持つ独自性や強みを広く知ってもらうことも大学広報の重要な仕事です。

3.大学運営の円滑化

そもそも広報PRの役割は、一方的に情報を発信することだけではありません。発信した情報に対するリアクションに耳を傾け、自社の立ち位置や足りない点を客観的に把握し改善すること(広聴)までを担っています。
大学広報においても、受験生や在校生・卒業生の声を大学運営にフィードバックし、大学の経営自体の改善につなげる必要があります。大学広報が正しく機能すれば、学内の情報共有も容易になり、職員間のコミュニケーションも円滑になるでしょう。

4.社会との接点創出と関係性の強化

現代の大学には、地域や産業界、国際社会といった学外ステークホルダーとの連携・発信が強く求められています。研究成果の社会還元、地域貢献活動、産官学連携プロジェクト、国際交流など、大学が社会のなかで果たす役割は年々拡大しています。

これらの取り組みを社会に広く認知してもらうことは、大学の社会的信頼や影響力の向上に直結します。結果として、共同研究や寄付金の獲得、企業との提携、学生の就職支援などにもつながるため、大学のブランド価値向上に貢献する極めて重要な活動といえるでしょう。

大学の広報PR

大学広報の広報PR・ブランディング戦略とは?

大学広報に求められる「入学希望者増加への貢献」「大学が持つ独自性や強みの訴求」「大学運営の円滑化」「社会との接点創出と関係性の強化」などの役割を果たすには、目的に応じた戦略的なPR・ブランディング活動が欠かせません。大学の広報担当者はどのような広報PR活動やブランディング活動を行うべきなのでしょうか。本項では、大学が実施すべき広報PR活動・ブランディング施策を大きく45つの種類に分けて紹介していきます。

1.受験生とのタッチポイント強化

現代の大学受験生はデジタルネイティブ・スマホネイティブな世代です。大学を知り興味を持ってもらうためには、Webサイトはもちろん、SNSなどデジタルツールを活用して接点を持つ必要があります。

Webサイトは受験生以外に保護者や在校生も閲覧するため、若年層に特化したデザインにするのはなかなか難しいでしょう。受験生向けのサイトを別途設けている大学もありますが、それができない場合でも、大学としてWebサイトを通して伝えたいメッセージが届くよう、Webサイトのデザインやトンマナ(トーン&マナー)は統一します。

YouTubeやSNSなども活用できます。親近感を持ってもらうことはもちろん重要ですが、あくまで教育の場として「この大学で学びたい」と思ってもらえるような内容にしたいところです。教授に研究内容について語ってもらうなど、学術的なコンテンツ作りを心がけましょう。

イベントなどオフラインの接点も重要です。オープンキャンパスや説明会など以外にも、中高生向けのコンテストなどを開催している大学もあります。イベントの際に直接手渡せる、公式グッズやパンフレットなども印象に大きくかかわるポイント。ただ大学のロゴをプリントするだけでなく、自校にどのような印象を持ってもらいたいかから逆算し、差別化できるデザインにしましょう。

2.メディアリレーションズを通じた信頼性獲得

メディアリレーションズの活用は、大学広報においても重要です。教員の研究成果や在校生・卒業生の活躍など、大学内には多くのネタが転がっています。それらを活用し、まずはプレスリリースにまとめてメディアに配信しましょう。

報道対応窓口の整備も重要です。メディアが取材を検討していても、問い合わせ先が明確でなかったり対応に時間がかかったりすると、メディア露出の機会を失ってしまう可能性があります。また、万一学生や教員による不祥事が発生した場合、記者会見などの対応を行える危機管理体制も事前に整えておく必要があります。

一般企業と同様に、メディア関係者に「取材したい」と思ってもらえるような対応を心がけ、アプローチを行っていきましょう。「メディアキット」としてロゴや校舎の画像、大学の歴史をまとめた資料データなどをすぐ渡せるようにしておくと、取材依頼があった際にスムーズに対応可能です。

3.潜在層に向けたアプローチ

受験生などの直接的なステークホルダー以外に対しても、大学の認知を高めることは重要です。大学とは直接関係のない潜在層であっても、大学に良いイメージを持ってもらえれば、少しずつ大学に対する社会的な認識を変えていくことにつながるためです。

潜在層に対して大学の認知度を上げるための取り組みとして、広告出稿は有効な手段のひとつです。教育機関という立場上、尖った切り口は難しいことも多いですが、ユニークでインパクトのあるクリエイティブを打ち出して話題になった大学の例もあります。

また、中高生向けのコンテストやイベントのスポンサー・協賛を務めたり、企業や官公庁とコラボ(産官学連携)の取り組みを行ったりすることでも、大学にかかわるステークホルダーを増やし認知を広く向上させることが期待できます。

4.インターナルブランディングの推進

大学の魅力は、在学生や卒業生、教職員自身の言動からも伝播します。内部のステークホルダーが大学の理念や戦略を正しく理解し、共感しているかどうかは、外部向け広報と同じくらい重要です。

教職員向けのガイドラインや、学生を巻き込んだ広報活動(学生アンバサダー制度など)を設けることで、一貫性のあるブランド発信を実現できます。また、卒業生に向けた情報発信や交流機会の創出も、長期的な支援者の育成に役立ちます。

大学広報を行う際の3つのポイント

多岐に渡る大学広報の業務。取り組むうえでのポイントを意識して臨むことが重要となります。ここでは、特に心がけておきたい3つのポイントについて紹介します。

1.大学の独自性や強みを言語化する

すべての広報PR活動を行ううえで、「うちの大学だからできること」を説明できるようにしておくことは非常に重要です。受験生、保護者、また在校生・卒業生や自治体・地域住民など、さまざまなステークホルダーに「ほかの大学にはない強みや特徴」を理解してもらえるようにしなければ、愛され選ばれる大学であり続けることはできません。

歴史や立地などは変えがたい部分ですが、独自のカリキュラムや制度などをアピールすることはできます。

事例として後述しますが、都内の私立大学・追手門学院大学は、受験時に高校生の自己分析を含めてサポートする「アサーティブ入試」などの画期的な取り組みで注目を集めました。

2.在校生や卒業生も巻き込む

つい受験生ばかりに目を向けがちですが、大学においてもっとも大きなステークホルダーは在校生(学生)です。在校生に大学を知ってもらい、好きになってもらえれば、親類・兄弟や友人知人のつながりを通じて、保護者や受験生にも大学へ良い印象を持もってもらえるでしょう。

また、対外的な目線で考えたとき、大学の魅力は広報担当職員よりも学生に語ってもらったほうが説得力が増すことは想像に難くありません。メディアとしても、実際の学生の声を取材したいと思うでしょう。

説明会など対外的なイベントを企画する際は、学生に登壇してもらったり、スタッフとして運営に協力してもらったりできるとベストです。また、活躍している卒業生の力も借りられるよう、卒業生向けのイベントやホームカミングデーなどの施策を通じてアルムナイのつながりを維持していきたいところです。

3.効果測定を行う

広報PR活動全般において、効果測定は非常に難しいものとされています。広範な業務に追われる大学広報の担当者であればなおさらだといえるでしょう。

実際、公益財団法人文教協会平成28年度調査研究助成「大学等の広報活動に関するアンケート」によると、国公私立232大学のうち、「効果測定をしていない」と回答した割合は33.6%(国立8校、公立19校、私立51校)に上ったというデータがあります。約3割もの大学が広報PR活動の効果測定を行っていないことからも、大学における広報PRの効果測定が非常に難しいことがわかります。

上記の調査によれば、「効果測定をしている」と回答した154大学のうち、「入試志願者数」を指標の一つに設定しているのが93大学(60.4%)。うち31大学は入試志願者数のみを指標としています。そのほかの指標として挙げられていたのは、「外部調査会社のブランド力調査」「自大学での独自調査」「新聞・テレビ・雑誌などの取材件数」「公式ホームページへのアクセス数」などでした。

入試広報は大学の存続にかかわるためもちろん重要ですが、その年の社会情勢・景気など外部要因に左右される部分でもあります。入試志願者は短期的な指標として追いつつ、パブリシティやブランドイメージも中長期的な指標として観測していく必要があるでしょう。

参考:『大学広報を知りたくなったら読む本』(著者:谷ノ内識/発行:大学教育出版)

大学ならではの広報テーマ

大学は、教育・研究・公共性・地域性・国際性という複数の価値が同時に存在し、ステークホルダーも多いため、企業向けの広報施策を実施するのではなく、大学ならではの広報を実践することが重要になります。

領域ごとに、目的と、成功条件を定義すると、発信がぶれず、担当者が替わっても品質が維持されます。特に研究・社会連携・アルムナイは、大学の中長期価値に直結するため、入試期以外でも継続運用するテーマとして位置づけるのが効果的です。それでは、大学ならではの広報テーマの詳細を紹介します。

研究広報:研究者の負担を増やさずに社会に伝わる形に編集する

研究広報は、メディア露出だけでなく、共同研究相談、寄付、学生の志望動機にも影響するため、大学の競争力を高める投資領域です。

研究広報でつまずく典型は、研究者に「広報品質」を求めすぎて協力が得られなくなることです。研究者は研究を進めることが本業であり、広報の役割は研究成果を社会に伝わる形へ編集・翻訳することにあります。実務では、研究者に依頼するのは「研究の本質(何が新しいか)」「誤解してほしくない点」「社会的意義」の確認に絞り、文章化・図解・タイトル設計は広報側が担います。

さらに、学会、論文公開、共同研究発表などの研究発表のタイミングに合わせて年間カレンダーを作ると、ネタが枯れにくくなります。

産官学連携・地域連携:取り組みを“地域の便益”として語れるようにする

産官学・地域連携は、大学の公共性を示す強いテーマですが、発信が「取り組み紹介」で止まると効果が限定的です。広報としては、誰のどんな課題が、大学の知見でどう変わったのかという「便益のストーリー」にして伝える必要があります。

自治体や企業が知りたいのは、理念だけではなく、連携後どんな指標が改善したか、継続する仕組みは何かなどの成果、相談の窓口過去事例です。ここが整理されると、連携が単発で終わらず、次のプロジェクトが生まれやすくなります。

大学側も、研究室・部署ごとに分散していた活動を束ね、大学ブランドとしての強みに統合できます。連携は実績の積み上げが命なので、広報で資産化することが重要です。

学生・卒業生の活躍:在学生のリアルと卒業後の進路を資産化する

学生・卒業生の活躍は、受験生が最も知りたい情報の一つですが、単なる成功談の羅列では志望理由に変換されません。重要なのは、学生が何を学び、どんな支援や環境が成長に寄与し、卒業後にどう生きているかを「学びの成果」として示すことです。

実務では、活動の結果だけでなく、失敗・試行錯誤・学びなどのプロセスを丁寧に扱うと、同年代の受験生の共感が生まれます。

卒業生については、職種や業界でセグメントし、キャリアの多様性を示すことで、大学の教育価値が伝わりやすくなります。なお、肖像権・個人情報・所属表記などの掲載ルールを整え、本人と大学双方を守る運用が必須です。

国際発信:英語ページ・海外向けSNS・国際メディア対応の最低限を整える

国際発信は、国内向け発信の翻訳版では成果が出にくい領域です。留学生の意思決定に必要な情報、例えば、授業言語、サポート、生活費、住居、キャリア、入学手続きなどを先に揃え、迷いが生まれるポイントをFAQで潰すことが基本になります。

研究ネットワーク向けには、研究者情報、研究設備、共同研究の受け皿、過去の国際プロジェクト、素材(写真・図表)の権利処理など、取材や連携が成立する「事務的な整備」が重要です。

海外向けSNSは、更新できないなら無理に増やさず、英語ニュースルームや英語プレス窓口など、最低限の受け皿を優先します。国際発信は、評価の入口を増やす活動であり、整備が進むほど偶発的な機会を取りこぼしにくくなります。

参考になる、大学の広報事例3選

ここまで大学広報の仕事内容について説明してきました。本項では、参考になる大学の広報事例を3つ紹介します。

参考

1.広報ファーストの発想で先進的な取り組みを実施──近畿大学

現在では「出願者数日本一」の大学として知られている近畿大学ですが、かつては「認知はあるのに受験の選択肢として挙がらない」という課題を抱えていました。

そこで、学者視点ではなく高校生視点に立ち、交通広告の出稿やプレスリリースの配信など積極的な広報PR活動を展開。2014年には、日本で初めて紙の願書を完全に廃止し、「近大エコ出願」と銘打った広告で大きな話題を呼びました。広報担当者はネット出願について、「出願方法を便利にするための改革ではあるが、話題づくりも一つの目的だった」と語ります。

前例のない取り組みであったことから、一部からは猛批判を受けました。しかし各メディアで取り上げられた結果、その年の志願者数は前年に比べ2万人も増加。初めて一般受験の志願者数が日本一になったのです。

翌年には紙の願書を廃止する大学も増え、完全ネット出願が大々的にメディアに取り上げられることはなくなりました。「広報ファースト」の発想のもと先陣を切って新たな取り組みを行うことで、批判はあったものの大きな広報PRの成果を得られた事例です。

2.積極的なコラボで大学の魅力を幅広く訴求──京都芸術大学

京都芸術大学(旧:京都造形芸術大学)は、1977年に京都で開校した美術大学です。京都という伝統の地をルーツに持つ同大学は、京都・大阪を中心にさまざまな地域の企業・団体と積極的なコラボレーションを行っています。

コラボの仕方は多様ですが、学生と協力して製品開発を行ったり、学生のアイデアやデザインを製品化する取り組みなどが多く見られます。一例として、京都を拠点に伝統と現代的な感性を合わせたテキスタイルで国内外から人気を誇るブランド「SOU・SOU」とのコラボが挙げられます。

「音と色」をテーマに、同大学の空間演出デザイン学科の学生が貫頭衣を制作。企画から制作まで学生らが担った作品は、実際に店舗・オンラインで販売されます。地元の人気企業と学生が協働するコラボを行うことで、幅広いステークホルダーに対し大学の認知を広げ、地域性を大学の魅力のひとつとして発信することができている例です。

参考:京都芸術大学×SOU・SOUのコラボレーション!すべて一点物の「伊勢木綿の貫頭衣」約130着が7/15(金)より店頭販売、7/18(月)よりオンライン販売開始。

2.多岐にわたる研究成果をプレスリリースで発信──岡山大学

国立大学である岡山大学は、2020年から毎月30件以上のプレスリリースを配信しています。特に研究成果に関する発信が多く、総合大学である強みを生かし非常に多岐にわたる分野の研究において積極的に情報を発信しています。

また、同大学はプレスリリースの量だけではなく質についても工夫をしています。研究成果に関するプレスリリースというとどうしても専門的な内容になりがちですが、

  • 冒頭で発表内容を端的に要約
  • 図や写真などのビジュアルを活用
  • 研究者自身のコメントなども掲載

などの工夫によって多くの人にとって理解しやすい情報となっています。

また、「難しそう」と敬遠されてしまわないよう、プレスリリースにイメージしやすくキャッチーなタイトルをつけているのもポイントです。たとえば「性別を持つ柿の花が、性別のない両性花へ先祖返りする仕組みを解明した」というプレスリリースには、「【岡山大学】柿の花が解き明かす「植物の揺らぐ性」の進化 ~作物の性別を制御して効率的な作物生産や品種改良につながる技術へ」というタイトルをつけています。

大学の広報PR・ブランディング戦略に関するQ&A

大学広報は、入試・研究・地域・学内の複数目的が同時に走るため、組織設計やKPI、危機対応の考え方が曖昧だと、日々の判断がブレてしまいがちです。そこで最後に、大学の広報PR・ブランディング戦略に関してよくある質問をQ&A形式で回答します。

FAQ

Q1:大学広報と入試広報は、組織を分けるべきですか?同じ部署でも回せますか?

結論から言えば、どちらでもできます。

組織を分けるメリットは、入試の短期成果(オープンキャンパスや出願数)と大学ブランドの中長期成果(研究・地域・寄付)を別KPIで追いやすく、優先順位が衝突しにくい点です。一方で、分けるとメッセージが分裂しやすく、受験生向けの発信が大学全体のブランドと噛み合わないリスクがあります。

同じ部署で回す場合は、目的別に担当を明確化し、編集会議で「今月の重点対象」「今期のメッセージ」「チャネルの役割分担」を固定しないと、入試に全てのリソースが割り振られかねません。

重要なのは組織形態より、意思決定と優先順位が明文化されていることですが、現実的には、統括(ブランドコア管理)を一本化し、入試・研究・地域をサブチーム化する「マトリクス型」が運用しやすいでしょう。

Q2:SNSはどの媒体を優先すべきですか?受験生向け・地域向けで使い分けは?

SNS選定は「流行」ではなく「対象の生活導線」と「発信目的」で決めます。受験生向けは、体験が伝わりやすいInstagramやTikTokが相性が良く、キャンパス体験・学生生活・学びの雰囲気を短いコンテンツで届けると効果が出やすくなります。

一方、地域向けは、自治体や地域団体が情報を追いやすいFacebook等の媒体や、イベント告知の到達性が高い仕組み(LINE公式、メール、Webなど)を組み合わせるのが実務的です。

重要なのは、媒体を増やすことではなく、目的別に「投稿の型」を決めて継続することです。たとえば受験生向けは「オープンキャンパス前に不安を潰す投稿」「学部の学びを1分で理解する投稿」、地域向けは「地域便益が分かる取り組み事例」「参加導線が明確な告知」といったテンプレを持つと運用が安定します。

Q3:研究者の協力が得られません。研究広報はどう設計すると進みますか?

研究者の協力が得られない理由は、意欲の問題よりも「負担とリスク」の設計不備であることが多いです。研究者にとっての懸念は、時間が取られる、専門性が誤解される、炎上や批判に巻き込まれる、機密や先行研究との関係で不利益が出る、といった点にあります。

解決策は、広報が研究を理解したうえで、依頼内容を最小化し、責任分界を明確にすることです。具体的には、広報側がドラフトを作り、研究者は「事実確認」「誤解される表現の修正」「公開可能範囲の確認」のみを担当する形にします。

加えて、公開前のチェック項目(共同研究先の承諾、特許・学会発表との整合、図表の権利)をテンプレ化すると安心して協力してもらえます。研究広報は「編集の仕事」であり、研究者に広報をさせない設計が進めるコツです。

Q4:効果測定が「志願者数」だけになってしまいます。どうKPIを設計すべきですか?

志願者数は重要な指標ですが、外部要因の影響が大きく、広報の良し悪しが見えにくい指標でもあります。KPIは「認知→理解・信頼→行動」の段階で設計し、志願は最終指標として位置づけるのが実務上の基本です。

認知は指名検索やリーチ、Share of Voiceで測り、理解・信頼は主要メッセージ掲載率、好意度、センチメント、FAQ閲覧などで測ります。行動はOC参加、資料請求、LINE登録、出願ページ到達、説明会予約などの「次の一歩」で追い、どのチャネルがどの行動に寄与したかを見ます。

さらに、運用KPIとして制作リードタイムや素材供給量を置くと、継続性が担保されます。KPI設計の肝は、広報が改善できる指標を中間に置き、志願だけで一喜一憂しない仕組みにすることです。

Q5:炎上が起きたとき、大学として最初に確認すべきことは何ですか?

最初に確認すべきは「事実」「被害」「拡散構造」「関係者」の4点で、これを短時間で揃えると初動の質が上がります。

事実は、何が起きたのか、未確認は何か、いつまでに確認できるかを整理し、憶測で語らない線引きを決めます。被害は、安全配慮が必要な対象(学生・教職員・第三者)がいるか、個人情報や人権侵害が含まれるかを最優先で判断します。

拡散構造は、どの媒体・どのコミュニティで燃えているか、影響の広がりはどの程度かを把握し、返信・沈黙・訂正・削除の方針を決めます。関係者は、学内の決裁者、法務・学生支援・情報システムなどの関与部署、外部の共同研究先・自治体・企業など影響先を洗い出します。

発信は、結論を急ぐよりも、調査中であることと次の更新予定を明示し、説明責任を果たす姿勢を示すことが信頼を守ります。平時から承認フローと「言ってよいこと・言わないこと」の境界線を決めておくほど、有事の対応は安定します。

大学広報には幅広いステークホルダーとの関係構築が求められる

大学広報には受験生向けの広報だけでなく、在校生や卒業生、その保護者など幅広いステークホルダーへの情報発信が求められています。また、大学の特色について知ってもらうことでブランドイメージの形成に貢献したり、大学内の運営にも良い影響を与えることが期待できたりと、大学の広報PR活動はさまざまな可能性を秘めています。

本記事で紹介したポイントや事例を参考に、ぜひ積極的に大学広報へ取り組んでみてください。

<編集:PR TIMES MAGAZINE編集部>

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この記事のライター

ならきち

ならきち

在宅ライター主婦。会社員時代は中古IT機器の専門商社で広報をしていました。取材対応をはじめとするメディアリレーション全般、プレスリリース執筆、危機管理対応、記者会見の企画・運営、自社ブログ記事の企画・執筆などを担当した経験を活かし、広報担当者の役に立つ記事を書きたいです。現在はわんぱくな息子に翻弄されながら在宅でライターの仕事をしています。

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