少子化が進み、大学間の学生獲得競争が激化しています。本記事では、重要性を増す大学の広報PRについて、仕事内容やブランディング戦略のポイントをご紹介。実際の大学の広報事例も紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
そもそも、大学広報は何をしているの?仕事内容は?
大学広報はさまざまなステークホルダーへ向けて大学の取り組みや目指す方向を発信する仕事です。受験生向けの「入試広報」から、研究成果や産官学連携など大学のブランディング、卒業生や保護者に向けた情報発信まで、幅広い業務にかかわっています。
詳細は後述しますが、具体的には以下のような業務が挙げられます。
- 入試広報(大学案内の制作、オープンキャンパスの企画運営、高校訪問など)
- コミュニケーションツールの企画制作(学内広報誌、大学オリジナルグッズ、その他パンフレットなど)
- メディアリレーションズ(取材対応、プレスリリースの作成配信など)
- 大学Webサイトや公式SNSの運営
- 広告出稿
- 講演会などイベントの企画運営
大学によっては入試広報と大学広報で担当者が分かれていることもありますが、公立大学(国立を除く)の43.1%、私立大学の55.8%が大学広報と入試広報を同じ部署でカバーしているという調査結果もあります(※)。
※参考:『大学等の広報に関するアンケート調査結果』(文部科学省大臣官房総務課広報室、2012年)
大学広報に求められている3つのこと
大学広報は、上述のように多岐に渡る業務を行っています。こうした業務を行う目的として、大学広報に求められている役割について説明します。大学広報の役割は、「入学希望者増加への貢献」「大学が持つ独自性や強みの訴求」「大学運営の円滑化」の3つに大別できます。
1.入学希望者増加への貢献
大学広報の業務の中で、もっとも重要視されてきたのが入学希望者を獲得するための「入試広報」です。第二次ベビーブーム世代が進学する1990年代中ごろまでは、大学広報イコール入試広報とさえ考えられていたといいます。
参考:『大学広報を知りたくなったら読む本』(谷ノ内 識
大学存続のためには、広報PR活動を通して受験生に「この大学に通いたい」と思ってもらうことが必要不可欠。オープンキャンパスや説明会など地道な活動を重ね、受験者数(出願者数)を増加させることが大学広報の重要な役割です。
2.大学が持つ特色の訴求
受験や入学を考えるうえで、大学に対するイメージは非常に重要です。「〇〇大学は生徒数が多く自由な校風」「〇〇大学は歴史が古く上品な雰囲気」「〇〇大学は資格取得や就職が強い」などです。
なかには、「地味」「堅い」など、ネガティブに捉えられかねないブランドイメージを持たれてしまっている大学もあります。また、そもそも名前を聞いてイメージを想起してもらえない、という大学もあるでしょう。
入学希望者を増やし、在校生・卒業生の愛校心を高めるためにも、メディア露出やSNSなどの活用を通じて大学の特色をアピールする必要があります。大学の持つ独自性や強みを広く知ってもらうことも大学広報の重要な仕事です。
3.大学運営の円滑化
そもそも広報PRの役割は、一方的に情報を発信することだけではありません。発信した情報に対するリアクションに耳を傾け、自社の立ち位置や足りない点を客観的に把握し改善すること(広聴)までを担っています。
大学広報においても、受験生や在校生・卒業生の声を大学運営にフィードバックし、大学の経営自体の改善につなげる必要があります。大学広報が正しく機能すれば、学内の情報共有も容易になり、職員間のコミュニケーションも円滑になるでしょう。
大学広報の広報PR・ブランディング戦略とは?
大学広報に求められる3つの役割「入学希望者増加への貢献」「大学が持つ独自性や強みの訴求」「大学運営の円滑化」を達成するために、大学の広報担当者はどのような広報PR活動やブランディング活動を行うべきなのでしょうか。本項では大きく5つの種類に分けて紹介していきます。
1.受験生とのタッチポイント強化
現代の大学受験生はデジタルネイティブ・スマホネイティブな世代です。大学を知り興味を持ってもらうためには、Webサイトはもちろん、SNSなどデジタルツールを活用して接点を持つ必要があります。
Webサイトは受験生以外に保護者や在校生も閲覧するため、若年層に特化したデザインにするのはなかなか難しいでしょう。受験生向けのサイトを別途設けている大学もありますが、それができない場合でも、大学としてWebサイトを通して伝えたいメッセージが届くよう、Webサイトのデザインやトンマナ(トーン&マナー)は統一します。
YouTubeやSNSなども活用できます。親近感を持ってもらうことはもちろん重要ですが、あくまで教育の場として「この大学で学びたい」と思ってもらえるような内容にしたいところです。教授に研究内容について語ってもらうなど、学術的なコンテンツ作りを心がけましょう。
イベントなどオフラインの接点も重要です。オープンキャンパスや説明会など以外にも、中高生向けのコンテストなどを開催している大学もあります。イベントの際に直接手渡せる、公式グッズやパンフレットなども印象に大きくかかわるポイント。ただ大学のロゴをプリントするだけでなく、自校にどのような印象を持ってもらいたいかから逆算し、差別化できるデザインにしましょう。
2.メディアリレーションズを通じた信頼性獲得
メディアリレーションズの活用は、大学広報においても重要です。教員の研究成果や在校生・卒業生の活躍など、大学内には多くのネタが転がっています。それらを活用し、まずはプレスリリースにまとめてメディアに配信しましょう。
報道対応窓口の整備も重要です。メディアが取材を検討していても、問い合わせ先が明確でなかったり対応に時間がかかったりすると、メディア露出の機会を失ってしまう可能性があります。また、万一学生や教員による不祥事が発生した場合、記者会見などの対応を行える危機管理体制も事前に整えておく必要があります。
一般企業と同様に、メディア関係者に「取材したい」と思ってもらえるような対応を心がけ、アプローチを行っていきましょう。「メディアキット」としてロゴや校舎の画像、大学の歴史をまとめた資料データなどをすぐ渡せるようにしておくと、取材依頼があった際にスムーズに対応可能です。
3.潜在層に向けたアプローチ
受験生などの直接的なステークホルダー以外に対しても、大学の認知を高めることは重要です。大学とは直接関係のない潜在層であっても、大学に良いイメージを持ってもらえれば、少しずつ大学に対する社会的な認識を変えていくことにつながるためです。
潜在層に対して大学の認知度を上げるための取り組みとして、広告出稿は有効な手段のひとつです。教育機関という立場上、尖った切り口は難しいことも多いですが、ユニークでインパクトのあるクリエイティブを打ち出して話題になった大学の例もあります。
また、中高生向けのコンテストやイベントのスポンサー・協賛を務めたり、企業や官公庁とコラボ(産官学連携)の取り組みを行ったりすることでも、大学にかかわるステークホルダーを増やし認知を広く向上させることが期待できます。
大学広報を行う際の3つのポイント
多岐に渡る大学広報の業務。取り組むうえでのポイントを意識して臨むことが重要となります。ここでは、特に心がけておきたい3つのポイントについて紹介します。
1.大学の独自性や強みを言語化する
すべての広報PR活動を行ううえで、「うちの大学だからできること」を説明できるようにしておくことは非常に重要です。受験生、保護者、また在校生・卒業生や自治体・地域住民など、さまざまなステークホルダーに「ほかの大学にはない強みや特徴」を理解してもらえるようにしなければ、愛され選ばれる大学であり続けることはできません。
歴史や立地などは変えがたい部分ですが、独自のカリキュラムや制度などをアピールすることはできます。
事例として後述しますが、都内の私立大学・追手門学院大学は、受験時に高校生の自己分析を含めてサポートする「アサーティブ入試」などの画期的な取り組みで注目を集めました。
2.在校生や卒業生も巻き込む
つい受験生ばかりに目を向けがちですが、大学においてもっとも大きなステークホルダーは在校生(学生)です。在校生に大学を知ってもらい、好きになってもらえれば、親類・兄弟や友人知人のつながりを通じて、保護者や受験生にも大学へ良い印象を持もってもらえるでしょう。
また、対外的な目線で考えたとき、大学の魅力は広報担当職員よりも学生に語ってもらったほうが説得力が増すことは想像に難くありません。メディアとしても、実際の学生の声を取材したいと思うでしょう。
説明会など対外的なイベントを企画する際は、学生に登壇してもらったり、スタッフとして運営に協力してもらったりできるとベストです。また、活躍している卒業生の力も借りられるよう、卒業生向けのイベントやホームカミングデーなどの施策を通じてアルムナイのつながりを維持していきたいところです。
3.効果測定を行う
広報PR活動全般において、効果測定は非常に難しいものとされています。広範な業務に追われる大学広報の担当者であればなおさらだといえるでしょう。
実際、公益財団法人文教協会平成28年度調査研究助成「大学等の広報活動に関するアンケート」によると、国公私立232大学のうち、「効果測定をしていない」と回答した割合は33.6%(国立8校、公立19校、私立51校)に上ったというデータがあります。約3割もの大学が広報PR活動の効果測定を行っていないことからも、大学における広報PRの効果測定が非常に難しいことがわかります。
上記の調査によれば、「効果測定をしている」と回答した154大学のうち、「入試志願者数」を指標の一つに設定しているのが93大学(60.4%)。うち31大学は入試志願者数のみを指標としています。そのほかの指標として挙げられていたのは、「外部調査会社のブランド力調査」「自大学での独自調査」「新聞・テレビ・雑誌などの取材件数」「公式ホームページへのアクセス数」などでした。
入試広報は大学の存続にかかわるためもちろん重要ですが、その年の社会情勢・景気など外部要因に左右される部分でもあります。入試志願者は短期的な指標として追いつつ、パブリシティやブランドイメージも中長期的な指標として観測していく必要があるでしょう。
参考:『大学広報を知りたくなったら読む本』(著者:谷ノ内識/発行:大学教育出版)
参考になる、大学の広報事例3選
ここまで大学広報の仕事内容について説明してきました。本項では、参考になる大学の広報事例を3つ紹介します。
1.広報ファーストの発想で先進的な取り組みを実施──近畿大学
現在では「出願者数日本一」の大学として知られている近畿大学ですが、かつては「認知はあるのに受験の選択肢として挙がらない」という課題を抱えていました。
そこで、学者視点ではなく高校生視点に立ち、交通広告の出稿やプレスリリースの配信など積極的な広報PR活動を展開。2014年には、日本で初めて紙の願書を完全に廃止し、「近大エコ出願」と銘打った広告で大きな話題を呼びました。広報担当者はネット出願について、「出願方法を便利にするための改革ではあるが、話題づくりも一つの目的だった」と語ります。
前例のない取り組みであったことから、一部からは猛批判を受けました。しかし各メディアで取り上げられた結果、その年の志願者数は前年に比べ2万人も増加。初めて一般受験の志願者数が日本一になったのです。
翌年には紙の願書を廃止する大学も増え、完全ネット出願が大々的にメディアに取り上げられることはなくなりました。「広報ファースト」の発想のもと先陣を切って新たな取り組みを行うことで、批判はあったものの大きな広報PRの成果を得られた事例です。
2.積極的なコラボで大学の魅力を幅広く訴求──京都芸術大学
京都芸術大学(旧:京都造形芸術大学)は、1977年に京都で開校した美術大学です。京都という伝統の地をルーツに持つ同大学は、京都・大阪を中心にさまざまな地域の企業・団体と積極的なコラボレーションを行っています。
コラボの仕方は多様ですが、学生と協力して製品開発を行ったり、学生のアイデアやデザインを製品化する取り組みなどが多く見られます。一例として、京都を拠点に伝統と現代的な感性を合わせたテキスタイルで国内外から人気を誇るブランド「SOU・SOU」とのコラボが挙げられます。
「音と色」をテーマに、同大学の空間演出デザイン学科の学生が貫頭衣を制作。企画から制作まで学生らが担った作品は、実際に店舗・オンラインで販売されます。地元の人気企業と学生が協働するコラボを行うことで、幅広いステークホルダーに対し大学の認知を広げ、地域性を大学の魅力のひとつとして発信することができている例です。
参考:京都芸術大学×SOU・SOUのコラボレーション!すべて一点物の「伊勢木綿の貫頭衣」約130着が7/15(金)より店頭販売、7/18(月)よりオンライン販売開始。
2.多岐にわたる研究成果をプレスリリースで発信──岡山大学
国立大学である岡山大学は、2020年から毎月30件以上のプレスリリースを配信しています。特に研究成果に関する発信が多く、総合大学である強みを生かし非常に多岐にわたる分野の研究において積極的に情報を発信しています。
また、同大学はプレスリリースの量だけではなく質についても工夫をしています。研究成果に関するプレスリリースというとどうしても専門的な内容になりがちですが、
- 冒頭で発表内容を端的に要約
- 図や写真などのビジュアルを活用
- 研究者自身のコメントなども掲載
などの工夫によって多くの人にとって理解しやすい情報となっています。
また、「難しそう」と敬遠されてしまわないよう、プレスリリースにイメージしやすくキャッチーなタイトルをつけているのもポイントです。たとえば「性別を持つ柿の花が、性別のない両性花へ先祖返りする仕組みを解明した」というプレスリリースには、「【岡山大学】柿の花が解き明かす「植物の揺らぐ性」の進化 ~作物の性別を制御して効率的な作物生産や品種改良につながる技術へ」というタイトルをつけています。
大学広報には幅広いステークホルダーとの関係構築が求められる
大学広報には受験生向けの広報だけでなく、在校生や卒業生、その保護者など幅広いステークホルダーへの情報発信が求められています。また、大学の特色について知ってもらうことでブランドイメージの形成に貢献したり、大学内の運営にも良い影響を与えることが期待できたりと、大学の広報PR活動はさまざまな可能性を秘めています。
本記事で紹介したポイントや事例を参考に、ぜひ積極的に大学広報へ取り組んでみてください。
<編集:PR TIMES MAGAZINE編集部>
大学の広報PR・ブランディング戦略のポイントに関するQ&A
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