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日経ビジネス編集長磯貝氏に学ぶメディアとのコミュニケーション|PR TIMESカレッジVol.8~交流会・東京会場~

広報PR担当者にとって、メディアがどのような情報をどのようなタイミングで必要としているのか理解することは、メディア関係者と良好な関係を築くうえで大切なポイントのひとつです。

PR TIMESでは、11月16日に学びとつながりの広報・PR担当者向けコミュニティイベント「PR TIMESカレッジVol.8」を開催。東京会場交流会では、日経ビジネス編集長の磯貝高行さんがゲストスピーカーとして登壇し、「広報の方はわれわれのパートナーで、一緒にコンテンツを作り上げる仲間だと思っています」といった、熱いメッセージから始まりました。本記事は、磯貝さんの講演の様子をレポートします。

日経ビジネス編集長

磯貝高行(Isogai Takayuki)

1993年日本経済新聞に入社。主に企業を取材する記者として、電機、通信、素材、運輸、建設・不動産など幅広い業種を担当した。日経新聞のデジタル部門や経営企画室を経て、2021年4月から日経ビジネス編集長。

日経ビジネスの編集体制と発行までの流れ

1996年9月創刊の『日経ビジネス』は、「経営課題を解決するメディア」をミッションに掲げ、マネジメント層を中心としたビジネスパーソンに向けて、独自の視点で実践に役立つ情報、知識、教養を提供。

2019年には有料のサブスクリプションモデル『日経ビジネス電子版』を創刊し、紙とデジタルを合わせた読者数は約17万人にものぼります。交流会は、その日経ビジネスの編集体制と発行までの流れについての紹介から始まりました。

縦軸と横軸の2つからなるマトリクス組織

磯貝さんが編集長を務める編集部は、『日経ビジネス』だけでなく『日経Gooday』、『日経トップリーダー』、『日経ビジネスLIVE』などさまざまな媒体やチームが連なり、幅広い領域をカバーしています。その編集体制は、縦軸と横軸の2つからなるマトリクス型であることが大きな特徴です。

縦軸:ジャンルごとの4班体制

縦軸は「電気・IT」「製造業」「金融・マクロ」「小売サービス」の4つのグループに分けられていて、それぞれのジャンルごとに担当記者が割り振られる4班体制になっています。

横軸:旬の経営課題ごとの横断的なチーム

一方、横軸は旬の経営課題を見つけ、それぞれにチームを立ち上げています。

  • 人的資本チーム:働き方や多様性などに関するニュースを扱うチーム。2023年3月期から義務付けられている「人的資本情報開示」の特集などを担当
  • 経済安全保障チーム:米中対立やロシアの問題など経営課題となる安全に関するニュースを扱うチーム。半導体や電池にまつわる米中貿易戦争や台湾有事などの特集を担当
  • ESGチーム:普遍的な経営課題でもある社会的責任投資に関するニュースを扱うチーム
  • 友軍チーム:上記以外の瞬間的なテーマを扱うチーム。マイナンバーやChatGPTなど話題となっているテーマの特集や、企業1社を掘り下げる記事を担当

日経ビジネスを発行するまでのワークフロー

次に、『日経ビジネス』を発行するまでのワークフローを解説。今年10月からスタートした新連載「管理職 罰ゲーム」を例に挙げ、テーマ出しからチーム編成、校了までの流れを追いました。

1. テーマ出し

テーマを決定するのは校了の3ヵ月前。縦グループと横チームがそれぞれのアイデアを出します。「管理職 罰ゲーム」は、「最近管理職になりたくない若者が増えているから特集してみたい」という友軍チームの記者の声で特集が決まりました。

2. チーム編成

担当デスクがチームを編成。「管理職になりたくないのは管理職の仕事が増えているからではないか」「なぜ管理職の仕事が増えているのか」「それはジョブ型人事が始まったからではないか」と議論を重ね、スケルトンを何度も書き直しながらテーマを煮詰めていきます

3. 情報収集・取材

WebやSNS、プレスリリース、雑誌や新聞の過去記事、自社データなどから情報を収集します。実際に取材をはじめるのは校了の2ヵ月ほど前から。企業の広報PRなどにアクセスするのもこのタイミングです。「こういうテーマでこの人に会いたい」「工場に行ってみたい」などのアポイントを入れて、専門家に会ったり、アンケート調査を実施したりします。

今回の特集では、武蔵野大学が管理職候補に「管理職になりたいかどうか」という調査することを聞き、共同調査ができないかという交渉も。

4. スケルトンと表紙案のチェック

校了の1ヵ月前に、はじめて磯貝さんがスケルトンを確認。すでに取材が半分ほど終わっているタイミングですが、「ここは甘いんじゃないの?」「ここはもっと専門家に聞いたり、取材を重ねてみたりしよう」「海外の事例はどうなっているの」などと煮詰めていきます。追加取材が必要な場合は、残りの1ヵ月で軌道修正をすることもあるそうです。

また、表紙のデザインもこの時期にスタート。特集班が手描きのイラストなどでラフを作成し、デザイナーに希望を伝えます。それをもとにデザイナーが形にしていき、30枚ほどのデザイン案を作成。その中から1枚を選びます。

5. 初稿・見出し会議

初稿が上がるのが校了の3日前。時には「ちゃぶ台返し」といって大きな修正が入ることもあるそうですが、残りの3日でさらに取材を重ねよりよいものに仕上げていきます。

また、同じタイミングで見出し会議も実施。「誰に読ませたいのか」「マネージメントクラスは疲弊しているけれど、それを役員クラスは知っているのか」「その人たちにいかに強く訴えるのか」など議論を重ねていきます。管理職になることが「罰ゲーム」と呼ばれている時代だということを、経営層にきちんと伝えることを意識した結果、「管理職 罰ゲーム」に決まったそうです。

6. 校了後は他の媒体へ展開

校了後には、電子版に再編集する作業をします。最近では、知識人や企業の経営者を呼んで、特集をウェビナーで取り上げたり、特集をさらに深掘りしたものをオンラインで行ったりすることも。また、バリューチェーン分析をして、コンテンツの書籍化やほかの媒体などで稼いでいく方法を考えます。

PR TIMESカレッジVol.8~交流会・東京会場 日経ビジネス編集長磯貝氏01

日経ビジネスが注目する今後のテーマ

旬のテーマの課題解決に役立つコンテンツを提供する『日経ビジネス』が、今注目するテーマとは何か。磯貝さんに今後特集を予定しているテーマの一部を教えてもらいました。

「報酬」「炎上防止の流儀」「水素」「生成AI」が挙げられ、当日は取り上げる背景、具体的な特集内容も展開されました。

PR TIMESカレッジVol.8~交流会・東京会場 日経ビジネス編集長磯貝氏02

メディアと広報PR担当者の理想的なコミュニケーション

交流会の最後は、磯貝さんが考えるメディアと広報PR担当者との理想的なコミュニケーションについて。メディア側が大切にしているポイントを聞くことができました。

広報PR担当者は記者の先生

新人記者にとって広報PR担当者は頼もしい先生であると話す磯貝さん。磯貝さん自身も新人時代に、さまざまな企業の広報PR担当者から学ぶことが多く、鍛えてもらったそうです。社会人として他社の人と関わるよい機会でもあるため、「ぜひうちの若い記者がきたら仲良くなっていただきたい」と思いを伝えました。

批判精神を受け入れる

記者として大切なのは「批判精神」を持つということ。「右から左に書いて、取材先のいわれるままに記事を直すというのでは広告と同じ」と磯貝さんはいいます。企業側も批判精神を受け入れて、一緒に社会の見方を「一般的な見方」として発信していくことが大切なのだそうです。

まずは信頼関係を築く

「これを書いてください」「こんなネタがあります」と商品やサービスを押し出す前に、まずは信頼関係を構築していくことが、コミュニケーションの第一歩です。

事実を曲げない

書いてほしくないことや隠したいことがある場合でも「嘘はつかないでほしい」と磯貝さん。広報PRの立場として言えないことがあることは、記者も理解しているため、「メディアとのコミュニケーションの中で事実を曲げるということはしないでほしい」と話しました。

ストーリーを盛り込む

製品のすばらしさや、サービスがいかに優れているかということだけでなく、記者が興味を引かれるのは、その裏側にあるストーリーなのだそうです。製作者や開発者の思いやストーリーをプレスリリースなどに盛り込むことで、特集テーマにマッチした際などに取材につながっていきます。

PR TIMESカレッジVol.8~交流会・東京会場 日経ビジネス編集長磯貝氏03

磯貝高行氏へ広報PR担当者から質問

交流会では広報PR担当者から磯貝氏へたくさんの質問が寄せられました。ここでは、当日お時間の関係でお話いただけなかったご参加者の方からの質問に対する回答をご紹介します。

──所属する記者の方から「これはおもしろい企画」「自分にはこの発想はなかった」と、磯貝さんが驚かれた企画について教えてください。

昨年5月のGWに掲載した「サウナのすゝめ」という特集です。サウナ好きの記者が集まった飲み会で考えた企画です。日経ビジネスの特集にはそぐわないので、却下しようと思ったのですが、「コロナ禍でのデジタルデトックスに欠かせない」「観光産業が壊滅する中でサウナ経済圏だけが広がっている」「サウナを愛するフィンランドは国民の幸福度が高い」など、なかなか切り口が斬新だったので採用しました。私が彼ら以上にサウナーだったこともありますが。

──磯貝さんから見て、メディアフックのうち絶対見ている項目があったら教えてください。

「時流」、「新規性/独自性」、「意外性」、「逆説/対立」です。

9つのメディアフック

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──どんな企画書だったら目を通したくなりますか。

タイトルが立っている企画です。提案段階でタイトルにおもしろさがないと、完成してもおもしろくない企画になります。

例えば「管理職罰ゲーム」という企画提案があったのですが、このタイトルだけでいろんな想像が膨らみますよね。結果、議論が盛り上がり、おもしろい企画になることが多いです。

東京会場交流会まとめ|日経ビジネス編集長 磯貝高行氏

今回の交流会で印象的だったのは、「広報はわれわれのパートナーであり、共にコンテンツを作り上げる仲間」という磯貝さんの言葉。

どのように記事が作られているのか、記者がどのような情報を必要としているのか、メディア側の視点を理解し、双方向性を大切にしながらメディアとよりよい関係を築いていくためのヒントが詰まったセッションだったのではないでしょうか。

今後の広報PR活動に取り組むうえで、新たなアプローチのヒントとなれば幸いです。

【カレッジVol.8に関する記事】
鈴木おさむ氏が1000名の広報担当者に贈る『世の中に「刺さる」方法』|PR TIMESカレッジVol.8~第一部~
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