広報PRの目的は「パブリックリレーションズ」の言葉通り、自社を取り巻くさまざまなステークホルダーとの関係づくりです。ステークホルダーのひとつである取引先との長期的で良好な関係づくりは広報施策としてとても重要になります。
本記事では、広報施策に欠かせない「パートナーシップ構築宣言」についての解説から、実施方法までを紹介します。
パートナーシップ構築宣言とは?
「パートナーシップ構築宣言」とは、取引先と共存共栄関係を築くために企業規模にかかわらず、企業が発注者の立場で自社の取引方針を宣言する取り組みです。新たな共存共栄関係の構築を企業の代表者名で宣言し、取引先とのパートナーシップ強化を図ります。価格交渉などもできる関係構築、利益もコストもサプライチェーン全体で適正にシェアすることで成長と分配の好循環を目指します。規模の小さい企業や個人事業主でも安心して事業を営んでいける可能性を秘めた取り組みです。
パートナーシップ構築宣言を公表している企業
「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイトでは登録企業を業種別、地域別で確認できるようになっており、各企業の宣言内容も掲載されています。清水建設やカルビー、京セラ、岡山県個人タクシー協同組合など、業種・規模を問わず6,860社(2022年3月29日時点)の宣言が公表されています。
参考:パートナーシップ構築宣言
企業がパートナーシップ構築宣言を行う3つのメリット・効果
パートナーシップ構築宣言は、サプライチェーン全体で適正な取引が行われることで、それぞれの企業が成長し業績も向上する好循環が生まれることが期待できます。適切に取り組むためには全社を巻き込んだプロジェクトにすることも必要です。宣言の目的や自社に表れる効果を従業員に伝え導けるよう、メリットや効果をしっかりと理解していきましょう。
メリット1.企業の取り組みを広く周知できる
パートナーシップ構築宣言に参加するすべての企業を業種別、地域別で掲載する上記ポータルサイト内の「登録企業リスト」では、各企業の宣言内容を紹介しています。そのため、元請け企業が同リストを閲覧して、自社の取引先の宣言内容を確認することが可能です。また、新規取引先を探す・選定する場合にも活用される場面が増えるでしょう。企業は社会の公器であり、ステークホルダーとの関係性を情報として見える化することは広報PRの重要な役割です。内閣府、各省庁や経団連が作成した公的な位置づけにある「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイトを活用し、自社の企業精神や取引姿勢を示しましょう。
メリット2.SDGsも同時達成できる
近年注目度が高まり、多くの企業が取り組んでいる「SDGs」(持続可能な開発目標)ですが、パートナーシップ構築宣言を通じて以下の5つの目標に取り組んでいることになります。
- 目標3:すべての人に健康と福祉を
- 目標8:働きがいも経済成長も
- 目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう
- 目標10:人や国の不平等をなくそう
- 目標17:パートナーシップで目標を達成しよう
パートナーシップ構築宣言をすることは、国際社会共通の目標に向かって取り組んでいることになり、企業の社会的責任を果たすことにもつながります。
メリット3.一部の補助金で加点措置を受けることができる
パートナーシップ構築宣言には金銭的なメリットもあります。一部の補助金制度では、登録した企業が申請の際に加点措置を受けることができます。パートナーシップ構築宣言で加点措置を受けられる補助金は、以下の通りです(2022年3月時点)。
- 事業再構築補助金
補助金のためにパートナーシップ構築宣言を目指すのは、目的や意義に反しますが、登録作業のご褒美と捉え、活用できる企業は積極的に活用しましょう。
企業がパートナーシップ構築宣言を行う方法
- ポータルサイトからひな形をダウンロード
参考:概要・登録方法:「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイト - 自社の取り組み内容にあわせて宣言文に加筆・修正
- 会社名と代表者名を明記(代表者のコミット)
- PDF形式に変換してアップロード
- 内容に問題がなければ登録・公表→「パートナーシップ構築宣言」ロゴマークが使用可能に
パートナーシップ構築宣言をする際に実施したい5つの広報施策
パートナーシップ構築宣言は取引先との関係構築から、自社の企業価値向上をもたらします。広報担当者は、直接やり取りのない取引先との良好な関係づくりと、それを対外的に発信することで自社のコーポレートブランディングにつなげる方法としてパートナーシップ構築宣言に取り組みましょう。
広報施策1.企業価値向上につなげる
広報PRの目的は、自社を取り巻くさまざまなステークホルダーとの良好な関係づくりです。メディアや関係省庁、従業員と同様に取引先も重要なステークホルダーとなります。特にESGの観点では、自社だけでなく取引先を含めたサプライチェーン全体が評価される時代であり、広報担当者として取引先との関係構築に生かす視点が必要です。
パートナーシップ構築宣言をすることで「取引先や下請け企業と正しい取引をするホワイト企業」であるという良いイメージを発信しましょう。また、下請け会社に不利益のない取引を守る取り組みを見える化することが宣言の決まりです。取引先・下請け企業や求職者、また生活者などステークホルダーに宣言内容を広く認識してもらい、広報PRの目的である企業価値を高めてファンをつくるための広報活動に役立てましょう。
広報施策2.取引先・下請け企業との信頼関係構築につなげる
パートナーシップ構築宣言の趣旨は、取引先・下請け企業との円満な関係の構築です。売り手と買い手は常にパートナーとして平等であり、取引先が健全であることで自社が成立するという考えのもと事業を営んでいる企業と認知することで、下請け企業は安心して取引ができます。
円満で深い信頼関係を築くことで、優秀な下請け企業との長く安定的な取引につなげることができます。「取引先との関係構築は、セールス部門の役割では?」と思うかもしれませんが、広報として取引先との良好な関係性を対外的に発信することは、自社のブランディングに影響するため非常に重要です。
広報施策3.従業員満足度向上につなげる
パートナーシップ構築宣言の検討をきっかけにして、自社を振り返り企業体質の改善につながることもあります。長い歴史を持った企業では、これまでの認識を改める機会となるかもしれません。自社が「パートナーシップ構築宣言」にふさわしいのか、宣言するためにはどのような改革が必要か検討することは、古い慣習や長年のルールを見直し、より働きやすく社会的にクリーンだと認められる企業を目指すことにつながります。
お互いを尊重しながら切磋琢磨できる取引先との良好な関係や、自社が共存共栄の精神で取引の公平性を保つ企業であることは従業員にとって誇りとなります。また、取引先との合意による改善で得られたコストダウンなどの成果を分かち合うことは、結果的にお互いの仕事の質を上げ、成長することにもつながります。
広報施策4.ホワイト企業として認知拡大につなげる
パートナーシップ構築宣言を行った企業は、取引先との共存共栄の精神に賛同し関係を築こうとするホワイト企業であると認識されます。2020年6月に開始され、2年弱で6,000社を超える企業が宣言している状況を鑑みても、今後この取り組みは拡大し働き方改革やSDGsと同様に取り組んでいることが当たり前になることが予想されます。
既存のステークホルダーに加え、事業継続のために重要となる新規取引先や求職者に向けて「クリーンで信頼できる企業」と認知してもらうためにも効果的な取り組みとなります。
広報施策5.ロゴマークを活用して企業姿勢を日常的に発信
公式ポータルサイトに登録したのち、掲載・公表されると、パートナーシップ構築宣言のロゴマークを使用することができるようになります。ロゴマークはホームページのほか、名刺などにも記載できるため、従業員が営業活動などで日常的に企業姿勢を発信することができます。
パートナーシップ構築宣言を行う際の5つのポイント
パートナーシップ構築宣言は「取引条件のしわ寄せ防止」「取引先との共存共栄の取り組み」「新たな連携」などに重点的に取り組むことで、大企業と中小企業がともに成長することを目指しています。全社を巻き込む大きなプロジェクトであり、企業イメージにも大きな影響を与えるため、急がず適切に進めていきましょう。
ポイント1.宣言の目的やメリット・懸念点を理解
パートナーシップ構築宣言の目的は、発注側・受注側とともに良好な関係を築くことです。パートナーシップ構築宣言で重点的に取り組む内容は、主に2つです。
- サプライチェーン全体の共存共栄と規模・系列などを超えた新たな連携
- 親事業者と下請け事業者との望ましい取引慣行の遵守と各企業の取り組みの「見える化」
パートナーシップ構築宣言は、弱い立場になりやすい下請け企業を守り、発注者と円滑で良好な関係を築く助けとなる取り組みです。中小企業庁が実施した調査では、パートナーシップ構築宣言の効果についてのアンケートで、発注側の9割以上が「宣言を意識して仕入先と取引条件の協議をしている」、受注側の5割以上が「宣言の効果を実感している」という結果が出ています※1。また、公益財団法人全国中小企業振興機関協会が行った登録事業者向けアンケートでは、宣言を検討した際に課題となった項目として「特にない」が6割以上を占め、「手形などの支払条件」「働き方改革等に伴うしわ寄せ」については1割強でした※2。
このように宣言の効果は高い反面、取引先をはじめとするステークホルダーがこの宣言を理解していなければ意味を成しません。制度について趣旨を周知するといった取り組みも必要です。
※1 出典:中小企業庁「令和2年度取引条件改善状況調査結果概要」(2021年4月23日)
※2 出典:日本商工会議所「『パートナーシップ構築宣言』登録事業者向けアンケート調査結果」(2021年10月 4日)
ポイント2.必須の項目と定型部分は漏らさず記載
記載見本や記載要領などもあるため、すべての書類をダウンロードして、見本などを参考にしながら作成しましょう。ひな形は随時更新されるため、作成したまま長く提出しないでいると形式が古くなってしまうことがあります。
ポイント3.自社の事業や取引内容に当てはまる項目を選択
詳しい記載の仕方は記載要領に書かれているため、参考にしましょう。パートナーシップ構築宣言の内容には、必須の項目と任意の項目、定型部分と個別記載部分があるので、自社の事業や取引内容に当てはまる項目を選んで作成します。
ポイント4.宣言に基づいた適正な取り組みの継続
パートナーシップ構築宣言は、登録して終わりではありません。登録後、取り組みが適正か否か判断されます。現在もチェックは継続して行われており、今後は下請け取引の適正化のために、Gメンの増員が行われる予定です。これにより、下請け取引の監督体制はさらに強化され、宣言企業の適正な取引は進んでいくと考えられています。
ポイント5.宣言した取り組みを社内に発信し業務に反映
パートナーシップ構築宣言に基づいて日々判断・行動できるよう、徹底的な社内浸透に向けた社内広報や従業員教育が重要になります。過剰な品質要求や短納期はないか、余裕を持った計画など対等なコミュニケーションが維持できているか、定時後の商談設定など身勝手な行動がないか、共存共栄の関係構築実現に向けて、社会人としてのモラルや働き方を見直す取り組みを継続して行うことが大切です。
パートナーシップ構築宣言による企業価値向上を図りましょう
2020年6月にはじまったパートナーシップ構築宣言では、大企業と中小企業がともに成長すること、取引先との持続可能な関係を築くことを目指しています。
社会の公器として、社会課題に挑むのが企業であり、それは一社で解決することはできません。パートナーシップ構築宣言は、ステークホルダーとのリレーションづくりや、取引先との関係構築までも含めたコンプライアンスの徹底などによるブランド醸成を、公的に示すことができる制度として活用できます。また、宣言を背景に本業に沿ったSDGs施策やCSRを作り上げていけば、効果も期待できるでしょう。
企業価値向上の鍵は、ステークホルダーに向けての発信における一貫した姿勢です。日常業務の中で従業員が宣言内容に触れる機会を積極的に設けることで、取引姿勢の改善など効果が表れてくるでしょう。常にPDCAサイクルを回し、宣言の目的を見失わないよう、従業員への教育や取引先満足度調査を継続して行い、本質的なコーポレートブランディングへつなげましょう。
パートナーシップ構築宣言に関するQ&A
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