企業にとっての重要なブランディング手法のひとつに「スポンサーシップ」があります。
スポーツイベントやエンタメ分野、地域活動などへの協賛を通じて、ブランドの認知向上や企業イメージの向上、社会との接点づくりを実現するこの取り組みは、マーケティング戦略の一環として多くの企業に活用されています。近年では、商品やサービスの販売促進だけでなく、企業の姿勢や価値観を伝える手段としても注目されています。
しかし、スポンサーシップの効果を最大限に引き出すためには、単に契約を結ぶだけでは不十分です。情報発信やステークホルダーとの関係構築を担う広報・PR担当者との連携が欠かせません。
本記事では、スポンサーシップとは何か、その基本的な仕組みやマーケティングとの違いに触れつつ、効果を高める5つの広報PRの戦略と成功事例をわかりやすく解説します。
スポンサーシップとは?意味をわかりやすく解説
スポンサーシップとは、企業がスポーツや文化・芸術事業、イベントなどの活動に対し、金銭・物品・人的リソースなどを提供し、支援することです。企業はその対価として、スタジアムや選手のユニフォームに企業のロゴを掲出したり、イベント会場内でCMを放映できたりと宣伝活動を行うことができます。
スポンサーシップは「見返りがあること」が前提となるので、純粋な寄付はスポンサーシップにあたりません。

スポンサーシップの仕組み
スポンサーシップ契約は、スポンサー(提供者)と受益者(被支援者であるスポーツ団体やイベントの主催者など)との間で交わされる公式な合意を基に成り立っています。この契約では、スポンサーが提供する支援内容(資金、物品、サービスなど)と、受益者が提供する見返り(広告権、ブランド露出、コラボ機会など)が明記されます。契約に基づく双方向の利益提供こそが、スポンサーシップの基本構造です。
スポンサーシップマーケティングとは?
スポンサーシップを企業のマーケティング戦略の一部として活用していくことを、スポンサーシップマーケティングといいます。
スポンサーシップマーケティングの主な目的は、「ブランド価値の向上」です。そのために「ブランドの認知向上」「商品・サービスの販売促進」「顧客との関係構築」といったアプローチをスポンサーシップを通して行っていきます。
アプローチしたい内容によって、スポンサーシップのメニューが変わります。例えば、「ブランドの認知向上」であれば、スタジアムやイベント会場などへの看板広告掲出やネーミングライツが有効です。「商品・サービスの販売促進」であれば、タイアップキャンペーンやサンプリングなどが有効になるでしょう。目的に応じた手段選定が鍵となります。
スポンサーシップ市場の成長
スポンサーシップ市場はどのような規模感なのでしょうか。
IEG社の調べによると、スポンサーシップの内訳としては、スポーツに対する投資が全体の約70%、その他の約30%は美術やエンターテインメント、慈善活動、フェスティバル、協会・メンバーシップ組織を対象にしたものになっています。
世界的にスポンサーシップ市場が成長している要因としては、企業がどのように社会貢献をしているのかというポイントに生活者が関心を持つ傾向が強まっていることが考えられます。企業はスポンサーシップの社会貢献という側面を活用し、生活者にアピールしているのです。また、OTT(Over The Top)※の登場により、生活者はスポーツを楽しむ時間や場所の制約から開放され、実際にスポーツの観戦時間と観戦試合数が増えていることから、企業は投資をしやすくなったとも考えられます。
※ インターネット上での音声通話や動画コンテンツのほか、SNSなどのマルチメディアを提供するサービスの総称
企業がスポンサーシップをアクティベーションするメリット
スポンサーシップを通じて企業が得られる主なメリットは、単なる広告以上に戦略的で持続的な価値創出にあります。以下では、3つの主要な効果について紹介します。
メリット1.ブランディングと企業優位性の向上
スポンサーシップは、単なるロゴ掲出ではなく「なぜこの活動を支援するのか」という企業の想いや価値観を生活者に伝える機会になります。企業が掲げる社会的メッセージや支援姿勢への共感がブランドの信頼性を高め、結果としてブランド価値や企業優位性の向上につながります。広告では届きづらい「企業の人間らしさ」を伝える手段でもあります。
メリット2.生活者や取引先との関係構築
スポーツイベントへのブース出展、ファンを招待するイベントの開催やキャンペーン企画など、スポンサーシップのアクティベーションを通して、自社だけでは成しえない、生活者とのコミュニケーションの機会が生まれます。たとえば、スポーツ観戦への招待や協賛イベントでの体験提供は、参加者の記憶に残る関係構築のきっかけになります。
また、これらは、生活者に限定したことではなく、自社の取引先をターゲットにして実施することも可能です。生活者や取引先にメリットを感じてもらえるアクティベーションを企画するとよいでしょう。
メリット3.CSRとしての価値の創出
スポンサーシップは、定型の取り組みがあるというわけではなく、企業ごとの課題や理念に応じて柔軟に設計できるため、CSR活動の一環としても非常に効果的です。
たとえば、「地域との関係強化」を課題とする企業が、地元スポーツチームと連携し地域活性化イベントを実施すれば、社会貢献とブランディングを同時に実現できます。自社らしいCSRの形を見つけるきっかけとして、スポンサーシップは大きな可能性を秘めています。
スポンサーシップの種類
スポンサーシップは、さまざまな分野で実施されていますが、代表的なものには「スポーツ」「エンターテイメント」「社会貢献」「地域イベントやコミュニティ支援」の4領域があります。それぞれの詳細について紹介します。
スポーツスポンサーシップ
スポーツ分野は、スポンサーシップの中でも最も活発で、人気が高いジャンルです。スポンサーは、スポーツチームや大会、個人アスリートの支援を通じて、自社のブランド露出を広げます。企業は試合の観客や放送視聴者をターゲットに、認知度向上を狙います。
(例)サッカーチームのユニフォームや試合会場へのロゴ掲載、スポーツイベントの冠スポンサーなど。
エンターテインメントスポンサーシップ
音楽フェスティバルや映画、舞台、アートイベントなど、エンターテインメント分野へのスポンサーシップは、観客の感情に訴えかけるマーケティング効果があります。特に若年層やカルチャー感度の高い層にリーチしたい企業にとって、有力な選択肢となります。
(例)音楽フェスの公式飲料として協賛することで、若年層へのブランドアピールを行う。
社会貢献型スポンサーシップ
CSR(企業の社会的責任)の一環として、地域福祉や環境保護活動、教育支援など社会課題の解決に向けたへのスポンサーシップが注目されています。企業はその取り組みを通じて、単なる経済的支援にとどまらず、社会的な価値を創出し、ブランドへの信頼や共感を高めることができます。
(例)環境保護団体への支援や、災害復興プロジェクトの協賛。社会的課題に取り組む姿勢を示すことで、消費者や投資家からの信頼を得ます。
地域イベントやコミュニティ支援
地元に根差したイベントや地域活動を支援することで、企業は地域社会との関係を深めると同時に、ローカルブランドとしての親しみや信頼を獲得できます。地域密着のアプローチは、中小企業から大企業まで、企業規模を問わず効果的です。
(例)地域のお祭りやスポーツ大会への協賛、地元学校の活動支援など。地域社会とのつながりを深めることで、企業の好感度が向上します。
スポンサーシップの効果を最大化させるために広報PR担当者が行いたい5つのこと
コストをかけるからには、スポンサーシップの効果は最大化させたいものです。次に、スポンサーシップの効果を最大化させるために広報PR担当者が実施したい5つのポイントについて説明します。

1.スポンサーシップの意義を明確にする
スポンサーシップを自社の経営課題やビジネスにどう貢献させていくのか、具体的なビジョンを描くことが大切です。これによってスポンサーシップのあり方が変わってきます。目的がブランド価値向上なのか、売上への貢献なのか、あるいはブランドの認知拡大を図りながら、社会貢献も狙うのかを決め、目的が複数ある場合は、優先順位を決めましょう。優先順位によって獲得する権利の種類が変わってきたり、かかる費用が変わってきたりするからです。まずはスポンサーシップの意義を明確にしましょう。
2.スポンサーシップ先との親和性を大切にする
「あの企業は〇〇という事業をやっているから、あのチームのスポンサーになっているのか」と対外的に納得してもらえるような、親和性のあるスポンサーシップ先を選ぶことが大切です。あまりにも関連性がかけ離れていると、人気にあやかろうとしているなどと捉えられ、企業価値を損ねる可能性もあります。事業だけでなく、自社のビジョン・ミッションにつながるかどうか、連想できるかどうかもポイントになります。
3.スポンサーシップの背景や理由を伝える
多くの企業の場合、「ブランド価値向上」のためにスポンサーシップを活用しています。そのため、「なぜスポンサーシップを行うのか」という背景や理由を生活者に伝え、共感を生み出し、企業やブランドを身近に感じてもらうことが重要です。単にスポンサーシップを行っている事実や活動内容の報告をするだけでなく、プレスリリースやオウンドメディアなどさまざまなタッチポイントにおいてストーリーを伝えるようにしましょう。
4.継続的で一貫性のある活動をする
スポンサーシップ期間中は、スポンサーシップ先の動きや展開に寄り添い、生活者やファンに感動を与え続けられるような活動を意識するようにしましょう。広告やイベント、キャンペーンなどさまざまな活動が考えられますが、すべての活動において一貫性のある展開を図り、ブランドの姿勢を発信するようにしましょう。
5.トレンドに合った企画を実施する
スポンサーシップで行う活動は、メディア露出の機会にもなりえます。メディア露出を最大化させるためには、メディアや生活者に関心を持ってもらえるよう、トレンドや社会情勢に合った企画を実施するようにしましょう。
スポンサーシップをアクティベーションする際の注意点
企業がスポンサーシップの効果を最大化するためには、戦略的なアクティベーションが欠かせません。次に、スポンサーシップをアクティベーションするうえで注意すべきことを3つ紹介します。
注意点1.自社の課題と目的を明確する
スポンサーシップを行うことで、どのような経営課題を解決につなげていきたいのか、目的を明確にしましょう。ブランディング強化なのか、販売促進なのか、あるいはCSRの一環なのかによって、企画やKPIの設定が大きく異なります。曖昧なままでは、施策が場当たり的になり、効果測定も困難になるため、経営戦略との接続を意識した設計が求められます。
目的を明確にした後は、目的達成に向けた活動方針、スケジュール、取り組み内容の設定を行います。目的の達成度を測るために、KPIなどの評価指標もあわせて設定しておくとよいでしょう。
注意点2.スポンサーシップ先と協働する
契約しただけで終わりではなく、目的の擦り合わせやディスカッションなどを通して、スポンサーシップ先と協働してアクティベーションを企画するようにしましょう。ロゴ掲示や広告露出にとどまらず、共同イベントの開催やオリジナルコンテンツ制作など、双方向の取り組みに発展させることで、よりインパクトのある施策につながります。
注意点3.スポンサーシップ先のファン目線に立った活動をする
アクティベーションを考える際に、スポンサーシップ先のファンの期待を裏切るようなメッセージの発信や施策になっていないか注意しましょう。期待に反する演出や企業都合が透けて見える施策は、ブランド価値の毀損につながりかねません。ファンの熱量や価値観を尊重し、自然な形で共感を得られる表現や体験を設計することが重要です。
スポンサーシップのアクティベーション成功事例5選
魅力的なスポンサーシップのアクティベーション成功事例を5つご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
スポンサーシップの事例1.レッドブル社
エナジードリンク市場で高いシェアを誇るレッドブル社は、製品発売が1987年で、100年以上続く老舗メーカーが多い飲料業界においては、新興メーカーと位置付けられることが多いです。新興メーカーであり、既存流通網を持っていなかったレッドブル社が行ったことは、マスマーケティングではなく、少数でも値段が高くても買ってくれる顧客をファンにして、ファンからの口コミによって、「レッドブル」の認知や評判を広げることでした。施策のひとつが、さまざまなスポーツへのスポンサーシップです。
レッドブル社は、知名度が高いスポーツや選手ではなく、マニアックだが熱狂的なファンがいるエクストリームスポーツのスポンサーシップを積極的に行っています。そして、そのスポーツ自体を一緒に広めるパートナーという立場で支援を行っており、関係性が深いのも特長です。レッドブル社は、スポンサーシップを行うことで、競技の認知度向上や大会規模拡大に貢献し、選手やファンからの支持を集めることに成功しています。
スポンサーシップの事例2.日本コカ・コーラ社
コカ・コーラ社がスポンサーシップを行う目的は、すべてビジネスのためであり、消費者にコカ・コーラ社のブランドに手を伸ばしてもらうためです。そのために、最も重要になるのが「共感」で、スポンサーシップを通じて消費者の「共感」を生み出そうとしています。消費者の「共感」を生み出すために、コカ・コーラ社は、国際的なスポーツイベントがブランド認知向上に寄与するものと着目し、約90年前からのスポンサードとなり、ほかにも、さまざまな世界的なスポーツイベントのスポンサードとなっているのです。
コカ・コーラ社は、スポンサーシップにおける中長期的な戦略として以下の3つを掲げています。
- 一般的なスポンサーシップで求められるようなブランド露出ではなく、あくまでも消費者が求め、共感する価値を提供すること
- 他社と同じことをせず、イノベーティブであること。常に新しいことへのパイオニアであり続けること
- 全国のボトリング会社も含め日本のコカ・コーラビジネスに従事する社員2万3000人一丸となって、アセットの価値を引き出していく土壌をつくること
スポンサーシップを行っているFIFAワールドカップでは何ができるのか、各アスリートには何をしてもらえるのか、それらをどう組み合わせることができるのかを考え、キャンペーンを仕掛けています。
スポンサーシップの事例3.株式会社Donuts
クラウドシステム「ジョブカン」やライブ配信アプリ「ミクチャ」を開発・運営する株式会社Donutsは、琉球フットボールクラブ(FC琉球)とスポンサー契約を結んでいます。このスポンサーシップでは、自社サービスの新規契約法人の利用料金の一部をFC琉球のチーム強化費としてサポートするキャンペーンの取り組みを行ったり、自社サービスのライブ配信アプリ上で、FC琉球の応援ナビゲーターを選考するオーディション企画を行ったりと、自社サービスを掛け合わせた取り組みを進めています。
スポンサーシップの事例4.AIGジャパン・ホールディングス株式会社
AIGジャパン・ホールディングス株式会社は、グローバルスポンサーとして、ニュージーランドラグビー代表オールブラックスとスポンサー契約を結んでいます。チームの選手を招いて日本でのイベントを開催したり、キャンペーンムービーを展開したりと、アスリートを活用したアクティベーションを積極的に行っています。
スポンサーシップの事例5.アンカー・ジャパン株式会社
アンカー・ジャパン株式会社は、川崎フロンターレとスポンサー契約を結んでいます。
「Anker」のチャージング関連製品や「Soundcore」のオーディオ製品等を選手にサンプリングしたり、同チーム所属の選手OBをアンバサダーに起用し、商品のプロモーションやキャンペーンなどで商品の魅力を発信しています。また、選手のサイン入りユニフォームやチームカラーである水色の自社製品をプレゼントする、川崎フロンターレの周年記念キャンペーンも行い、ファンを巻き込む施策を展開しています。
スポンサーシップは契約締結だけでは意味がない!アクティベーションすることが大切
今回は、スポンサーシップとはなんなのか、そしてスポンサーシップの効果を最大化する広報PRのポイントや、アクティベーションの事例を紹介しました。
スポンサーシップは、ブランド価値の向上や生活者・取引先との関係構築に有効な方法ですが、契約締結をすれば達成できるわけではありません。スポンサー契約後のアクティベーションが肝心です。この記事で紹介した事例のように、スポーツチームへのスポンサーシップであれば、チームの選手を起用したPRイベントや、チームとコラボレーションした商品開発や顧客向けのキャンペーン施策など、自社らしいアクティベーションを模索していきましょう。
世界的なスポーツイベントや著名なイベント・モノ・コトへの関わりが消費者の共感を生み出し、ブランド価値向上に寄与するからといって、「アンブッシュ・マーケティング」を行ってしまうと、規則違反になりかねません。必ずスポンサー契約を締結してから、自社のマーケティングに活かすようにしましょう。
<編集:PR TIMES MAGAZINE編集部>
スポンサーシップに関するQ&A
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