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進化するAIとの共創。ひとり広報に役立つChatGPT活用術4選|Gaudiy 牛山マーティン

さまざまな専門家の方に広報PRにおけるChatGPTの影響への見解を伺う企画に続き、本企画では、最前線で活躍している広報PRパーソンからChatGPTの活用術、ChatGPTとの付き合い方について学びます。

第一弾は、ChatGPTにGPT-4が登場(2023年3月15日)した翌日に自社の福利厚生に導入することを決定、その翌日には実際にGPT-4で執筆したプレスリリースを発表した株式会社Gaudiy。

実際にこのプレスリリースを手がけた牛山 マーティンさんに、ChatGPTを使ったプレスリリースの執筆や普段の活用方法についてお話を伺いました。

参考:Gaudiy、全社員向け福利厚生にAIサービス「ChatGPT Plus」と「GitHub Copilot」を導入

株式会社Gaudiyの最新のプレスリリースはこちら:株式会社Gaudiyのプレスリリース

株式会社Gaudiy HR/PR・PR lead

牛山 マーティン(Ushiyama Martin)

ドイツ生まれ、日本育ち。二児の父。IT関連企業でのWebデザイナーや事業開発ディレクターを経験した後、2015年にクックパッドに入社。2018年から同社の広報として、複数の新規事業のプロダクト広報を担当。2022年6月にGaudiyに入社し、広報やブランディングを担当。最近はNotionやChatGPTを活用した広報業務DXにも取り組む。

1日でChatGPTを使って完結させたプレスリリース

──GPT-4登場からプレスリリース発表まで、とても早かったですよね。

2022年12月にChatGPTが初めて登場した際、社内で「AI(人工知能)がどんどん進化していく。業務活用を考えていかないといけない」と、話が挙がっていました。それから、業務への活用、プロダクトへの組み込みなどの検討を進めていたんです。

そんな中、2023年3月15日にGPT-4が登場。

全世界がざわついたと思いますが、まさに当社も同じくで。GPT-4が登場したことにより「すぐに取り組まないとダメだ」となり、初めて登場したときとは比較にならないスピード感でさまざまなことが動きました。

GPT-4が登場した15日中に、開発チームに対するGitHub Copilot導入が、エンジニアから社内Slackを通じて提案されました。翌16日、提案を聞いた代表の石川から「全社員向けにChatGPT Plus(ChatGPT 4を試せる有料プラン)を福利厚生にするのはどうだろう」と新たな提案があり、僕を含め、多くの社員が賛同。

導入が決まった日は木曜日だったのですが、「金曜日にプレスリリースを出そう」と、プレスリリースを発表するまでの1営業日内で次々に話が進んでいきました。また、プレスリリースと同時並行で福利厚生の詳細が決まっていきました。

──ChatGPTを使ってプレスリリースを発表するまで、どうやって進めたのでしょうか。

せっかくなので、ChatGPTが世の中を大きく変えていくことを伝える意味も込めてChatGPTに書かせるアイデアが出ました。

最終的に僕が作ったプロンプト(ChatGPTへの指示)が採用されましたが、実は社員みんな各々でプロンプトを書いたんです。夜からプロンプト合戦が始まり、広報PR担当者だけではなく、エンジニアをはじめさまざまな職種のメンバーが参戦していました。それこそ石川も含め、既に課金していた10名弱が、出力された内容をSlackに投稿し合っていましたね。

プロンプト合戦開始時のSlack
プロンプト合戦開始時のSlack
実際に出力された内容
実際に出力された内容

上の画像をすべてを見る

2時間で50回試行してみた結果

──完成するまでにどの程度繰り返し作業しましたか。

夜と翌朝にプロンプトをちょこちょこいじって50回くらいは試行したと思います。時間にして、2~3時間程度といったところでしょうか。最初はなかなかうまくいかず、どうすればプレスリリースの体裁を整え、きちんと生成できるか、プロンプトを試行錯誤していました。

実際にお見せすると、このようなプロンプトを作っていました。最初に「あなたは広報です」と伝えてから目的を与えて、制約条件を加えています。汎用的な制約条件にしたかったので「Gaudiy」という社名が入っている点は見直す必要がありますが、プレスリリースの書式やルールをうまく定義することで、どの会社でも使える汎用的なプロンプトを作れそうだと思いました。

ChatGPTに全部書かせたと言いつつ、結構自分でも書いてしまっているところは否めませんが、このような感じで進め、出来上がった内容をそのままPR TIMESに流して公開したんです。

採用されたプロンプト
採用されたプロンプト

──50回試行したことでクオリティはどのくらい上がりましたか。

今回、一度の出力で理想の答えを出すプロンプトを試していたんですよね。プロンプトの制約条件の書き方、見出しなど体裁の指示、盛り込みたいキーワードの調整など、細かく試しているうちに50回くらい実施していました。

しかし、実際やってみた結果、一発で答えを出させるのは賢い使い方ではない、という印象です。すべてを一度で出力させようとするのではなく、タイトルや背景などパーツごとにChatGPTと対話しながら作成していく、ステップバイステップ方式の方が良い出力をえられると思いました。

指示に「Let’s think step by step(一歩ずつ考えよう)」とつけるだけでChatGPTの性能が大きく向上するという論文もありますが、やはり一つずつ考えさせるほうがChatGPTは得意なんでしょうね。

参考:https://arxiv.org/abs/2205.11916

──今後もChatGPTを活用して、プレスリリースを書いていかれますか。

プレスリリースに関しては、現状は機密情報を入れられないという社内ルールがあるため、今回のようにすべての内容をGPTに入力して書かせるつもりはありません。

今回配信したプレスリリースは、他社から受領した機密情報を含んでいなかったですし、当社が福利厚生に取り入れるという内容は機密性の低い情報でしたので、すべての内容を入力して書かせることができました。

現在、会社のルールとしても、個人情報や他社から受領した機密情報は一切入力しないルールを徹底しています。一方で自社の情報については、機密性が低い場合など、内容によっては入力可能としています。

2023年4月25日にオプションとして追加された、入力情報を学習に使わせない設定や準備中とされている法人向けChatGPT Businessプランなどにより、情報を安全に入れられるようになれば、またChatGPTの活用方法は変わってくると思います。

広報PRパーソンのChatGPT活用事例

ChatGPT活用1:文章の校閲・改善するアシスタントとして活用

──プレスリリース以外の広報PR活動ではどのような活用をされていますか。

広報PRの業務で欠かせない、文章を作成する際にアシスタントとして活用していますが、かなり優秀だと思います。例えば、「文章を校閲してください」「文章を改善してください」と目的に応じて使いわけることで、より的確に表現を改善してくれます。

「情報発信履歴」を敢えて「情報発進履歴」で入力し、「校閲してください」と指示してみたのですがきちんと訂正されてきましたね。文章をあまり変えたくないとき、間違えやすい漢字や誤った表現を正してもらうときに活用しています。

文章の校閲を指示したプロンプト
文章の校閲を指示したプロンプト

「文章を改善してください」と指示する場合は、適当に書いた文章を整えてもらう際や、より良い文章表現を探す際に使用しており、文章生成をさまざまな目的に応じて指示しています。

文章の改善を指示したプロンプト
文章の改善を指示したプロンプト

ChatGPT活用2:業界課題や背景の調査に活用

──やはり指示が大切なんですね。ほかにも活用している場面はありますか。

メールを書いてもらうことはありますね。すべてをそのまま使用することはしませんが、「これはいらない」「この部分は使おう」と、時間の短縮になっています。

また、プレスリリースを作る際に業界の課題やものごとが起きた背景を調べてまとめるときに重宝しています。

調べる・まとめるを容易く行う

これは試しに有機農業の課題についてまとめてもらったものです。まず業界の課題を挙げてもらい、その中から注目したい課題を選んで文字数を指定して文章にまとめてもらう。みたいなことも簡単にやってくれます。文字数は厳密には守ってくれないことが多いのであくまで目安ですね。

業界課題の調査、まとめを指示したプロンプト
業界課題の調査、まとめを指示したプロンプト

最新データにも適応し始める

ChatGPTは、2021年までのデータしか無いため、最新情報や正確な数値を盛り込むことは苦手とされてきました。しかし、5月15日からChatGPT Plus利用者向けに順次開放されたベータ版のWeb Browsingモデルを使うことで、ChatGPTが最新の情報を検索して読んだうえでまとめてくれるようになりました。

その機能を使って有機食品市場の市場規模をまとめてもらったのがこちらです。最新の調査結果を参照してまとめてくれました。文末の緑色の数字から出典元に飛べるためファクトチェックも簡単にできます。下のほうは指示通り農林水産省のデータを参照してくれました。

業界の市場調査、まとめを指示したプロンプト
業界の市場調査、まとめを指示したプロンプト

──ファクトチェックはどうしているのかな、と思っていました。

少なくとも現時点では人のチェックは必要です。Webを参照して出典元を表示してくれればファクトチェックもやりやすくなりますが、その出典元の信頼性も考慮する必要があります。例えば今回のように官公庁のデータを参照するなど指示を工夫することもファクトチェックをしやすくするために有効かと思いました。

ChatGPT活用3:複数のネーミング候補の提案に活用

ほかにも、ネーミングなどを考える際に使えますね。ある類似語をインターネットで調べるということを広報PR担当者はよくやると思いますが、簡単に出してくれるんですよ。

「挑戦」というコンセプトであるキャッチコピーを考えるために、挑戦に関連する単語を調べる際に使用したのですが、Overcome(オーバーカム)など、自分ではなかなか出てこない単語を提案してくれました。比喩表現についても提案してくれます。

また「挑戦を示唆する単語」「挑戦の逆の単語を使って挑戦をイメージするコピー」など指示の仕方を工夫することで、自分で調べて、たどり着けない言葉を瞬時に出してくれるんですよね。僕もいろいろと試していますが、指示する側のクリエイティビティが求められますね。

実際に生成された「挑戦」をする英単語
実際に生成された「挑戦」をする英単語

キャッチコピー生成までのすべてを見る

ChatGPT活用4:Q&A作成を通じた高精度の企画レビューに活用

おもしろいと思ったのは、企画をレビューさせたときです。企画の内容を踏まえたうえで、問題となりそうなところを挙げてくれます。

さらに、問題点に対する解決策を出してもらうこともできます。一般的な解決策を提示してくれるため、その解決策を踏まえたうえで、より良い解決策を考えるためのたたき台として適しています。

問題定義をしてもらい、その問題に対する回答を考えてもらうことを繰り返すことで、問題点に気がつくことができ、自動的に解決していくイメージです。この作業を取り入れるだけで、企画内容で考慮できていなかった部分が見えてきて、抜けがない企画になっていくと思います。

以下は、架空のコミュニティ企画に対して問題点を指摘してもらった様子です。ちなみにこの架空の企画もGPTに作成してもらったんですよ。

実際に活用した企画レビュー事例
実際に活用した企画レビュー事例

──Q&Aを行い、ブラッシュアップするというのは少人数で行う企画にとても役立ちそうですね。先程教えていただいた数値部分以外に今はまだ使いづらい場面はどこかありますか。

正解のない問いというか、「芯を食った企画」「精度の高い編集」はまだ難しいと思います。おそらく、僕ら人間の中にはすごいコンテクスト(文脈)があります。ChatGPTに対して、会社の背景や僕自身が持っている情報をすべてをインプットできるわけではないですよね。ただ、今はできないだろうなと思いますが、インプットできるのであれば、人間よりも優れた企画ができるのではないか、と社内で話していました。

正解がない問いというのは、逆に言うと「無数に答えがある問い」だと思うんです。企画の制約条件にとって正解となる答えのストライクゾーンがものすごく狭いだけ。その狭いストライクゾーンに入る企画を立てるには、私たちと同様のコンテクストを持っていないと難しいと思います。

──「自社らしい」をかなえる、企画や編集は今段階では難しいということですね。

価値基準をどう教え込むのかがポイントだと思いますが、そこまではたどり着けていないですよね。

例えば、すべてをインプットできるようになるために、これまでの社内のNotionをすべて読み込ませる、参考にしたい書籍を読み込ませることができると、自社のことを理解したAIになり、精度の高い企画も出来るようになるのかなと思います。

現状、まだ読み込ませることもできないですし、書籍のリンクを張って参照するということもできませんが、そう遠くない未来に実現できるだろうと考えています。

時代は変わり、AIの共創が前提になる

──テキスト情報を入れて加工することは得意なわけですもんね。社内の皆さまの活用は活発ですか。

社内で勉強会も定期的に実施されていますし、さまざまな職種のメンバーが日々の業務に活用しています。

今後は、会社全体としてLLM(大規模言語モデル)に投資をしていく意思決定しています。職種問わず、AIを活用して業務改善を推進しようとしており、それぞれが自分の領域、各々が異なるテーマでAIをどんどん取り入れようとしているんです。プロダクトへの組み込みはもちろん、最終的に一部の業務のAI化ではなく、すべての業務のAI化する前提で取り組んでいます。

──ChatGPTの登場後の業務への影響、これからの活用について教えてください。

LLMやMidjourney(画像生成AI)など、AIの進化が凄まじく、世界はガラッと変わってしまった認識です。これまでも、情報収集力や実行力で格差が拡がっていましたが、これからはAIを使いこなせる人とそうでない人とで、これまで以上に差が開くと考えています。

ChatGPTは現時点で万能ではありませんし、できないこともあります。しかし、衝撃を受けた会話できるAI、ChatGPTからたった数ヵ月で登場したGPT-4の進化は想像を超えていました。そのことを考えると、今できないこともほんの数ヵ月でできるようになる可能性は高いです。3年後の未来はもう想像すらできません。

AIとの共創時代という前提に立ち、AIと仕事することに、AIを使いこなすことにとにかく慣れることが大切です。すべての業務でAIの活用を試していくことで、できること、できないことを見極めていき、可能な限り業務に組み込んでいく。

そうやって向き合っていれば、数ヵ月後にできることが増えたときも素早く対応できると考えています。

Gaudiy 牛山マーティンさんChatGPTの活用術Q&A

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この記事のライター

丸花 由加里

丸花 由加里

PR TIMES MAGAZINE編集長。2021年、PR TIMESに入社し、「PR TIMES MAGAZINE」、ご利用企業向けのコミュニティイベント「PR TIMESカレッジ」の企画・運営を行う。2009年に新卒入社した大手インターネットサービス運営会社では法人営業、営業マネージャーとして9年半、その後オウンドメディアの立ち上げに参画。Webコンテンツの企画や調査設計に携わる。メディアリレーションズを主とした広報を経て、現職。

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