広報担当者にとって理解しておきたいトピックスのひとつがメタバースではないでしょうか。そんな乗り遅れたくないメタバースの概要を理解し、広報活動で生かすためのポイントをまとめました。VRの体験をいち早く取り入れているメディア関係者にも、メタバースの可能性について意見を伺いました。
メタバースとNFTとは?
メタバースとは、オンラインにつくられた3DCGの仮想空間を指します。
ギリシャ語で「超える」を意味する「メタ(meta)」と、「universe(巨大空間・宇宙)」を掛け合わせたメタバースという概念は、1992年に発売されたSF小説『スノウ・クラッシュ』内で登場し、現在は仮想空間を指す言葉として用いられています。
2000年代前半からゲームを中心に利用者を増やしているメタバースでは、主にMeta Questなど専用ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用います。「同時アクセスできる人数に制限がない」「あたかも別世界にいるかのような没入感がある」「常にライブ状態である」といった特徴が人気につながっています。
メタバースを語るうえで欠かせない概念にNFT「Non-Fungible Token(非代替性トークン)」があります。NFTは所有者を明確にする印のようなものです。NFTを用いることで、今までオンライン上で著作や所有者が不明確だったコンテンツ(写真やテキストなど)も所有者がわかり、不正コピーが防げるようになります。情報や人物(記者・発表者)の同一性や真実性も担保できるため、メタバース上で信頼性の高い情報の入手が可能になるともいえます。
日本でのメタバースへの注目度と普及
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NFTの高額取引が目立ち始め、2021/10/28にFacebookが「Meta(メタ)」に社名を変更し、メタバースは大きな注目を集めました。
メタバースは、大手企業やブランドがアバターの着せ替えアイテムのプロデュースをしたり、アーティストがメタバース内でライブを行ったり、アバター同士でオンラインゲームを楽しんだりするなど、現状はエンターテインメント業界における活用が目立ちます。
また、メタバースで重要になる通信環境において、高速、大容量、多接続に対応できる環境が整い始めています。5Gの構築に加え、NTTドコモによると2030年をめどに6Gのサービスも実現される予定です。ヘッドマウントディスプレイなどメタバースにアクセスするツールの軽量化といった技術革新とともにさらなる普及が考えられます。
メディア関係者に聞いたメタバースの可能性
記者としてVR取材に携わり、個人的にVRSNSの「VRChat」やMeta(旧Facebook)のVR会議システム「Horizon Workrooms」といったメタバース世界の中で定期的に勉強会イベントを開催する、朝日新聞社ライツ事業部の永田篤史ディレクターにお話を伺いました。
永田さん「VR空間では、話し相手が左にいれば左から声が聞こえ、遠くに行くと声も小さくなり、Zoomなどのオンライン会議ツールと比べて圧倒的に実在を感じる状況で会話ができるので、ストレスが小さい状態でオンラインコミュニケーションがとれることが魅力といえます。
大人たちの中にはそうした新しい技術に対して抵抗がある方も少なくないようですが、今の小学生たちはゲーム上で友人らとコミュニケーションを楽しむ『フォートナイト』や『マインクラフト』を通じて既に一種のメタバース体験をしているので、彼ら彼女らが大人になった頃にはメタバースは当たり前のものとなっていると考えられます。
また、『東京クロノス』というVRノベルゲームは一種の群像劇ですが、さまざまな登場人物の中に入ってプレーすることで、それぞれが同じ事象をどう感じたか、それぞれの立場や気持ちになってする体験の濃密さが、映画などの2次元コンテンツ以上に真に迫ったものとなっています。これは、分断が進む現実社会における他者理解を考えるうえで、大きなヒントを提示していると受け止めています」
広報施策にメタバースを取り入れる4つの方法
多くの可能性を秘めたメタバースを取り入れるために、広報活動でどのような取り組みができるでしょうか。メタバースとNFTの特徴に注目しながら、具体的な4つの方法について考えます。
1.商品発表会
組織や関係者に3DCGクリエイターがいる場合や予算がある企業は、商品やサービスをメタバース上で再現して鮮明に印象付けることが可能です。一方、社内リソースや予算が限られている場合や、まずは試してみたいという方にはVR会議「Horizon Workrooms」の活用をおすすめします。
メタバース内にいる間は現実世界からの情報が遮断されるため、その瞬間に集中できる傾向にあります。メディア関係者向けに商品発表会を行う際、空間内で動画やプレゼン資料を共有しながら参加者との交流ができます。メタバース内は情報が伝わりやすい環境にあり、同じ体験の共有を通じて印象に残りやすい発表会にできるといえます。
2.メディア勉強会
メタバースとは何か、具体的にどのような技術でどう展開していくか、興味関心を持つメディア関係者は多くいます。現状では自社・業界においてメタバース活用事例がない場合でも、今後事業としてメタバースを取り入れる可能性がある場合は、先に情報提供を行いメディア関係者とつながりを持つことが可能です。第一人者を呼んだ勉強会はメディア関係者にとって有意義な情報提供になります。
3.イベント
メタバースを活用したイベントの企画でコミュニティーの強化が期待できます。コンテストやキャンペーン、ゲームを同じ空間で楽しみ、同じ体験を共有することで企業への印象を良くし、サービスへの愛着が湧くといった仕掛けづくりが検討できます。
メディア向け、ユーザー向けと対象を明確にし、ヘッドマウントディスプレイや通信環境といった空間にアクセスできる環境の確保を考慮して企画を進めることが求められます。
4.効果測定
著作や情報の推移が明確になるNFTにより、広報活動で難しいといわれている効果測定が可能になるかもしれません。配布されたクーポンなど何を見て行動したのかが把握できると、態度変容の測定が可能になるためです。個人情報の取り扱いは法律との兼ね合いで断言ができないものの、現在のWeb広告の在り方を鑑みても、個人の行動予測やデータの活用はメタバースを考える際に重要になりそうです。
ライブゲームサービスプラットフォームであるBeamableのCEO兼共同創設者ジョン・ラドフは自身のブログで「非同期の『ソーシャルネットワーキング』はリアルタイムの『ソーシャルアクティビティ』に移行する」と、個人のリアルタイムの言動や何をフォローしているかが明確になっており、マーケティングはよりスムーズになると説いています。
メタバースを取り入れた広報事例
メタバースを広報活動に取り入れている企業は主にエンターテインメント業界で多く見受けられます。話題づくりやニュースバリューを企画する事例として、自社で参考にできる点がないか考えてみましょう。
事例1.コラボレーションによる話題創出
企業コラボの事例として参考になるのが株式会社ビームスです。同社は、株式会社HIKKYが開催した「バーチャルマーケット2021」において、バーチャルショップを出店し、アニメキャラクターとのコラボレーション商品を展示・販売しました。
HIKKYが提供する「Vket Cloud」というプラットフォームでは専用VRキットなしでスマートフォンやPCからもアクセスできるためVR体験を気軽に体験できます。実店舗に立つスタッフもアバターとして接客を行い、ハードとソフト両面で安心感を提供した事例です。
参考:BEAMSバーチャルショップの2階はNetflix映画『浅草キッド』の世界観を再現 世界最大のVRイベント「バーチャルマーケット2021」
事例2.リアルとバーチャル、いいとこどりのイベント
バーチャルとリアルのいいとこどりをしたイベント事例が、oVice株式会社が提供する「oVice忘年会」(バーチャル空間での忘年会)です。事前に届いた食事を楽しみながら、バーチャル空間である「oVice」内で交流できるイベントを開催しました。
どこからでも参加ができ、同じ体験を楽しめるというオンラインのメリットと、オフラインでしか味わえない食事を同時に楽しめる取り組みは、メタバース黎明期の現在に取り入れやすいイベント形態です。
参考:バーチャル忘年会「oVice忘年会」用のお食事が1万食を突破!
事例3.ECサイトとの連動
沖縄県那覇国際通りで行われるエイサー祭りを再現した「一万人のエイサー踊り隊」では、メタバース上にECサイトとリンクした店舗(屋台)が出展されました。バーチャルステージではVTuberや地元ダンサーによるエイサーに、お祭り気分を味わいながらの買い物が楽しめます。
メタバースでの支払いは暗号資産(仮想通貨)が用いられますが、こうした通貨を持っていないユーザーも多く存在しているため、クレジットカードとの連携による購入手段がとられています。
参考:世界中から約1万人が来場!沖縄最大級のエイサーイベント“一万人のエイサー踊り隊”をバーチャルOKINAWAで開催!
事例4.サービスをバーチャル空間で再現
住宅展示場を仮想空間で再現したのが、株式会社クリーク・アンド・リバー社による「XR EXPO」です。本事例はVRの事例ですが、(メタバースは体験を共有できる空間を指すのに対し、VRは主にひとりで体験をする手段を指す)VR上で住宅空間を再現して建設コストを削減した点はイベントやサービス展開として参考になります。
3DCGクリエイターがいる場合は立体的に商品やサービスを説明するコンテンツを作成することでメッセージ性が高まります。オンライン会議ツールを経由して新商品やサービスを発表するケースが多くなってきた中で、現物のサイズ感や特徴をつかんでもらうためにメタバース空間の活用が可能です。
参考:ビジネスモデル変革!住宅はVRで“試住”して建築する時代へ VR建築展示場「XR EXPO」1st.stage 始動 ~出展コストはリアルの30分の1以下、データ分析で成約率を向上~
事例5.利用者の事例を紹介
ポート株式会社のように、BtoC事業者向けにメタバース関連のサービスを提供している場合、メディア関係者向けに利用者の事例を紹介すると報道につながる可能性が高くなります。
一部メディアでは最新技術に関する情報は慎重に扱う場合があります。ユーザーの活用事例があると、事実として裏付けがとれるため報道価値が高まります。
参考:業界初!メタバースを活用した就活相談サービスを正式リリース
広報戦略にメタバースを取り入れるときの4つのポイント
メタバースを広報戦略に取り入れる際に留意したいポイントをまとめました。
ポイント1.メタバース初心者の方にも安心感をあたえる
ユーザーの多くは「メタバースは難しそう」と不安を持ち、安全性や情報機密性の心配をするのではないでしょうか。十分な説明はもちろん、メタバースの利用に必要な環境整備やツールのレンタル、ゲーム感覚で参加できる機会の提供など、ハードルを下げる工夫が必要です。
メタバースを使うために必要なサービスや環境を提供する企業も日々増えているため、比較検討をして自社サービスに合うものを選択します。
ポイント2.目的や何を実現するかを明確にする
話題性のみを理由にメタバースを使った広報活動をするのではなく、活用する理由があるかどうかを確認しましょう。場合によってはこれまでの広報活動のほうが有効な場合もあります。
これまで対象ではなかった層とコミュニケーションがとれ、共通体験によりコミュニティー強化が期待でき、ものごとが伝わりやすいなど十分に試す価値がある一方、規模によってはコスト倒れする可能性もあるため、目的に立ち返り検討をします。
ポイント3.発言におけるレギュレーション作成
ライブ空間で交流ができるメリットを持つメタバース活用ですが、オンタイムだからこそ意図と違うメッセージが伝わる、口がすべって機密情報を伝えてしまうといったリスクがあります。
ブランド価値にそぐわない発信がないように日頃から情報の統一化を図り、必要に応じてマニュアル化するなどルールをつくっておくと便利です。
ポイント4.利用・参加時の体験をシームレスにする
現状メタバース上の通貨交換は暗号通貨がメインになっています。暗号通貨を保有していない方を対象にしたイベントではメタバース外での支払い手続きが行われる傾向にあるため、メタバースでの没入感を損なうことなく体験シナリオをスムーズにするためにUX(ユーザーエクスペリエンス)の設計を慎重に行う必要があります。
新たな広報手段として可能性を秘めているメタバースをまずは体験してみよう
広報活動においてメタバースを活用した取り組みを行う場合、提供側も参加側も通信環境や専用ツールが必要になります。メタバースはスマートフォンのように生活になじむまでには時間がかかる可能性もありますが、没入感や共通体験を伴うステークホルダーとのコミュニケーションツールとして可能性を秘めています。
VR会議など比較的すぐに体験できるものもあるため、目的を明確にしたうえで広報戦略に取り入れることが可能です。メタバースが生活に根差すレベルで浸透したとしても、基本的には今まで積み重ねた広報活動が変わるわけではなく、かえって効率的にステークホルダーとの関係構築ができるといえます。焦る必要はないので、まずは勉強会やウェビナーの参加から始めてみてはいかがでしょうか。
メタバースを取り入れた広報施策に関するQ&A
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