「M&A(合併・買収)」は、企業の成長や市場の拡大、多角化によるリスク分散を目指す重要な戦略手段です。企業にとっては大きな転換期となるため、対外的な発信によって背景や自社の思いを丁寧に伝える必要があります。代表的な広報PR施策のひとつにプレスリリースがありますが、盛り込む内容をはじめどのような点に配慮すればよいのでしょうか。
本記事では、M&A(合併・買収)のプレスリリースを書くメリットから作成時のポイントまでを解説。参考になるプレスリリース事例やM&A(合併・買収)時に広報PR担当者が行いたい施策も含めて紹介します。
M&A(合併・買収)時にプレスリリースを配信するメリット
M&A(合併・買収)は、従業員や取引先をはじめとする多くのステークホルダーに影響を与えるため、プレスリリースを積極的に活用して自社の考えを社内外に発信していくことが大切です。特に、リスクや課題にどのように対処するのかを詳しく説明することは、ステークホルダーの不安を軽減することにもつながります。M&A(合併・買収)の背景やプロセスを丁寧に説明し、自社が慎重に計画を進めていることを伝えましょう。
また、企業にとっての大きな転換期となるM&A(合併・買収)実施時は、メディアの注目が集まりやすくなります。プレスリリースを配信することで、売り上げや市場規模の拡大、新たな市場への進出、新技術の導入、経営の安定化、事業間のシナジー効果の発揮など、M&A(合併・買収)がもたらすベネフィットの部分を広く伝えることができるでしょう。これまで接点がなかった顧客やビジネスパートナー、投資家などに対しても自社の魅力や強みを伝えることができるだけでなく、新たな地域や業界での認知を拡大できる可能性があります。
M&A(合併・買収)に関するプレスリリースに盛り込みたい6つの項目
M&A(合併・買収)のプレスリリースは、ステークホルダーの不安や懸念点を払拭し、ポジティブな印象を伝えることが大切です。では、実際にプレスリリースを作成する際には、どのような内容を記載すればよいのでしょうか。M&A(合併・買収)の実施を正しく発信するために盛り込むべき項目を、6つに分けて詳しく解説します。
項目1.背景と目的
M&A(合併・買収)のプレスリリースに必ず記載すべきなのが背景と目的の説明です。例えば、株主や従業員にとってなぜ新しい領域に進出するのか、なぜ見込みがあると判断したのか見えないと不安ですし、取引先にとっては今後の契約を継続していけるかの検討事項になり得ます。M&A(合併・買収)をなぜ実行するのか、その背景にある戦略的な意義を丁寧に説明することで、ステークホルダーやメディア関係者にM&A(合併・買収)の価値を正しく理解してもらうことができるでしょう。
どこまでの情報をオープンにするのかは自社の事情によっても異なりますが、M&A(合併・買収)先の企業を選定した理由を添えることも説得力のあるプレスリリースを作成するために効果的です。
項目2.取引の概要
M&A(合併・買収)の概要もプレスリリースに欠かせない要素のひとつです。買収か合併かという取引の性質に加え、相手側の企業名、取引条件、この取引に関する重要なマイルストーンの日付なども盛り込むとよいでしょう。
なお、取引の概要はM&A(合併・買収)先の企業にも関係するため、どこまでの情報をオープンにするのかは事前に両者で合意を得ていることも大切なポイントです。
項目3.ステークホルダーへの影響
M&A(合併・買収)は、従業員や取引先、顧客など多くのステークホルダーに影響を及ぼします。プレスリリースでは前述の背景と目的と合わせて正直に伝えることが大切。このM&A(合併・買収)によって雇用方針や組織構造に変更が生じるのか、サービスや製品の提供にどのような影響があるのか、どのようなメリットをもたらすのかといった内容を丁寧に説明し、ステークホルダーの不安を払拭することに務めましょう。
その際、M&A(合併・買収)を実施するにあたって、想定される懸念点について十分に検討を重ねたこと、万が一懸念点が起きた場合にどのような対応をするのかを併せて記載しておくことで、ステークホルダーの不安を軽減することができます。
項目4.企業トップ、事業責任者のコメント
M&A(合併・買収)のプレスリリースには、企業トップ、そしてその事業を担う責任者や関係者のコメントも欠かせない要素のひとつです。取引に対する思いや戦略的意義、将来の展望やビジョンなどをトップ自らの言葉でステークホルダーに語りかけることで、取引に対する自信やコミットメントを表明することができ、信頼性を高めることにつながるでしょう。
また、トップ自身がこのM&A(合併・買収)をどのように評価しているのかということに加え、ステークホルダーに対する感謝の意を伝えることも忘れてはいけないポイントです。
項目5.将来の展望
M&A(合併・買収)は、対象企業にとってはどうしてもネガティブな印象を持たれてしまいがちです。そのため、プレスリリースでは、このM&A(合併・買収)が長期ビジョンに基づいた前向きな取引きであること、M&A(合併・買収)による大きなシナジー効果が期待できることなどを伝えたうえで、どのように企業を成長させていきたいのか将来の展望を明確に発信しましょう。
項目6.思いや関係性が伝わる画像
M&A(合併・買収)のプレスリリースは無機質な印象になりがちです。伝えたい内容を最後まで読んでもらうためには、M&A(合併・買収)に対する自社の思いや、相手企業との関連性、取引がもたらすベネフィットを画像などを用いて説明するのも効果的です。テキストだけでは伝えきれない感情や表情を視覚的に伝えることができるだけでなく、自社が伝えたいメッセージをより明確かつ効果的に伝えることができるでしょう。
M&A(合併・買収)に関するプレスリリースが記事化される4つのポイント
M&A(合併・買収)はステークホルダーや社会にも影響を与える可能性があるため、メディアが注目しやすいトピックのひとつです。記事化されることで、M&A(合併・買収)の目的やメリットが正しく発信できるだけでなく、新たな層への認知拡大を図ることもできます。では、実際にプレスリリースを作成する際には、どのようなことに留意すればよいのでしょうか。記事化されるために押さえておくべき4つのポイントを詳しく見ていきましょう。
ポイント1.配信タイミングはM&A(合併・買収)の契約締結直後
M&A(合併・買収)のプレスリリースは、配信のタイミングが重要です。もっとも注目を集めるタイミングは、やはりM&A(合併・買収)の契約が締結された直後。タイムリーな情報はニュースとしての価値が高いためメディア関係者の関心を集めやすくなるでしょう。
プレスリリースは企業の公式文書であるため正確な情報であることは必須ですが、内容を慎重に検討しすぎるあまり配信のタイミングが遅くなってしまうと、記事化される確率も低くなってしまいます。契約締結後、スピード感を持った対応ができるように、あらかじめどのような構成でプレスリリースを作成するのかを検討し、準備を進めておくとよいでしょう。
ポイント2.M&A(合併・買収)の規模と今後の成長を強調する
M&A(合併・買収)は企業の戦略的な動きや市場の変化、経済への影響など多くの側面で注目されるため、メディアが記事化しやすいテーマのひとつです。取引額や売上高の変動、新たに統合された組織の規模などを明確に示し、インパクトのあるプレスリリースにすることによって、メディア関係者の関心を集めることができるでしょう。
また、M&A(合併・買収)にどのような戦略的意図があり、自社が今後どのように成長するのかを強調することでニュースとしての価値が一層高まります。成長予測や新規事業の展開については、できるだけ具体的にプレスリリースで説明するとよいでしょう。
ポイント3.前例や競合の有無、業界や社会への影響を説明する
M&A(合併・買収)のプレスリリースでは、その取引が競合他社や業界全体に対してどのような影響を与えるのかについて言及することが重要です。その際、業界内での前例やトレンドに基づいて、今回のM&A(合併・買収)がどのような位置付けにあるのかを明確に示すと、メディアにとっては記事化しやすい材料になるでしょう。
また、社会的な意義や雇用への影響、地域経済への貢献などにも触れることで、幅広い層に訴求できる情報をメディアに提供することができます。
ポイント4.取材対応の担当者を明確にする
最後に、今回のM&A(合併・買収)に関する問い合わせ先も忘れずに記載しましょう。電話番号、メールアドレスの両方を記載し、取材対応の可否や担当者の氏名も明記しておくことで、メディアがすぐに連絡を取ることができ、取材やメディア掲載につながりやすくなります。
また、M&A(合併・買収)に関しての問い合わせ以外にも、自社の製品やサービスに興味を持った方に向けて事業内容に関する問い合わせ先と担当者を記載しておくのもおすすめです。
M&A(合併・買収)に関するプレスリリース事例3選
M&A(合併・買収)のプレスリリースには重要な項目が複数ありますが、実際にどのように作っていけばよいかわからないという方もいるのではないでしょうか。ここからは、「PR TIMES」で実際に配信されたM&A(合併・買収)に関するプレスリリースの中から、参考にしたい事例を3つ紹介します。
事例1.キリンホールディングス株式会社:買収がもたらす新たな価値の創出を強調
- 完全子会社化を目的とした公開買付けであることを発表
- 対象企業の事業内容や業績、強みが具体的に明記されていて買収の価値が伝わりやすい
- 両社の強みを丁寧に解説し、買収によるメリットを強調
参考:株式会社ファンケルの完全子会社化を目的とした公開買付け開始を決定
事例2.アクシス株式会社:両社の連携による業界課題の解決をビジョンとして発信
- 期待されるシナジーや業務拡大の効果について言及があり、買収のメリットがわかりやすい
- 両社の代表が写った画像を掲載している
- 両社の代表のコメントを記載している
参考:アクシス株式会社、株式会社JAMが運営する「マネディク」買収に関するお知らせ
事例3.株式会社BuySell Technologies:買収による業界での競争優位性をアピール
- タイトルで事業内容とM&A(合併・買収)の概要が伝わる
- 両社のロゴでM&A(合併・買収)を表現している
- 買収後の企業の方向性や期待されるシナジーなど将来の展望を明確に伝えている
参考:総合リユースのバイセル、「買取 福ちゃん」運営企業を含むリユース企業計7社を有するレクストHDを子会社化
M&A(合併・買収)実施時に広報PR担当が行いたい3つの広報PR施策
M&A(合併・買収)を実施する際には、プレスリリースの配信だけでなくさまざまな広報PR施策を併せて行うことで、ステークホルダーへの情報発信をより効果的に進めることができます。プレスリリースの準備に加え、以下に紹介する3つの広報PR施策を参考に、自社に合った広報PR施策を並行して準備していきましょう。
1.顧客・パートナーに向けた説明会・イベントの実施
M&A(合併・買収)によって自社のサービスや製品、事業内容に変化が生じる場合、懸念点を解消することでステークホルダーの信頼を担保することができます。プレスリリースの配信に加えて、実際に対面での説明会やイベントを実施することによって、M&A(合併・買収)の目的や今後の計画、相手企業とのシナジー効果について丁寧に説明するとよいでしょう。
M&A(合併・買収)先の企業と顧客層が異なる場合はより裾野を広げたアプローチができ、顧客層が重なる場合は新体制下でのビジネスチャンスを正しく理解してもらい、関係性を強化していくことにもつながります。
2.STORYやオウンドメディアを活用した情報発信
STORYやオウンドメディアを活用した情報発信は、プレスリリースだけでは伝えきれないこれまでの歴史を含め自社のメッセージを的確に伝えることができます。
また、SNSなど双方向のコミュニケーションが可能なプラットフォームを合わせて活用することで、従業員や顧客などステークホルダーからのフィードバックを得ることも可能。積極的にコミュニケーションを図り、M&A(合併・買収)に関する不安を軽減していきましょう。
3.社内コミュニケーションの強化
M&A(合併・買収)は従業員にとっても大きな変化をもたらすため、コミュニケーションが不十分な場合、社内に思わぬ混乱や不安が生じてしまうこともあります。イントラネットや社内報を活用したり、タウンホールミーティングなどを実施したりして、従業員に対してM&A(合併・買収)の意図や影響、今後の方針を明確に伝えていきましょう。
また、従業員が抱える疑問や不安に対して経営層が直接対応することによって、社内の安心感を醸成し、期待を感じてもらって、モチベーションの低下を防ぐことにつなげます。従業員が新しい組織文化に速やかに順応できるよう、研修の機会を提供することも効果的でしょう。
まとめ:背景や目的を明確にしたプレスリリースで信頼を担保する
M&A(合併・買収)に関するプレスリリースは、最低限の情報のみで無機質なものになる傾向があります。しかし、M&A(合併・買収)はステークホルダーだけでなく、業界全体や経済社会にも影響を及ぼすこともあるため、注目を集めやすい話題です。企業にとっては新たなステークホルダーの獲得や認知拡大の好機ですので、積極的に情報発信するのがおすすめです。M&A(合併・買収)がもたらすベネフィットや将来の展望だけでなく、懸念点についても十分対策がなされていることを強調して伝えることで、ステークホルダーの信頼が担保されるでしょう。
また、プレスリリース配信後には、メディアからの問い合わせや取材依頼を受けることも想定されるため、本記事でご紹介したポイントを参考にしながら準備を進めてみてはいかがでしょうか。
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